Holy Kingdom Story   作:ゲソポタミア文明

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あけましておめでとうございます。
2022年もよろしくお願いします。


第8話 やっぱり忘れてた

 屯所での出来事から翌日の早朝、聖騎士団副団長が1人グスターボ・モンタニェスは今日も今日とて上司である聖騎士団団長のレメディオスから受けた無茶振り任務に勤しんでいた。謎の出頭をして来た2人の人攫いからの情報を頼りに夜半まで開いていた店へ聞き込みを続けているが、有力な情報は皆無だった。

 

 

「やっぱり此処にはいないのか……まぁそりゃそうだよなぁ。そんな都合のいい事が起きる筈がないんだよ」

 

 

 件の魔法詠唱者発見を諦めかけていたグスターボは、既にどうやってレメディオスを諦めさせるのかを思案していた。捜索を始めて数日経つが、一向に見つかる気配は無く、この城塞都市カリンシャの大体を調べ尽くしているが、もうお手上げ状態である。

 

 

(最悪、要塞線まで行くか? ……いや、あそこは今、アンデッドの大群に気が張ってる筈だ。余計な火種を持ち込ませるわけにいかないな)

 

 

 いよいよ困ったと、痛み出した胃痛に腹を摩りながら移動していた。何となしに街を見渡していると、フード付きマントと軽装革鎧を身に着けた数人が視界に入った。

 

 

(ん?……アレは)

 

 

 彼らの特徴的な服装からグスターボは『九色』の1人、パベル・バラハの部下達である事を瞬時に見抜くと、何やら慌てている様子の彼らの傍へ近付いた。

 

 

「失礼。お前達は『黒色』バラハ兵士長の部下とお見受けするが?」

 

「こ、これは、グスターボ副団長っ⁉︎」

 

 

 『九色』を与えられていないグスターボだが、軍としての役職では彼の方が上官にあたる。パベルの部下達は慌てて姿勢を直すが、楽にするようにとグスターボが軽く手を挙げてそれを制止する。

 

 

「随分と慌てているようだが、何かあったのか?」

 

 

 本来、街の巡回は彼らの役割では無く、私事なら態々正装でいる理由も分からない。そうなると、彼らが集団で行動をしているのには何かワケがある筈だ。

 何かしらの勅命を受けているなら余計な詮索はせず黙って引き下がるつもりだった。しかし、彼の部下達は互いに顔を見合わせると、「実は…」とそのうちの1人が話を始めた。

 

 

 

「……なんと、バラハ兵士長の御息女がッ⁉︎」

 

「は、ハイ……我らも昨日から捜索をしているのですが、中々足取りが掴めず」

 

「それはそれは…バラハ兵士長も気が気でないでしょうに」

 

 

 彼の娘への溺愛ぶりはグスターボも聞き及んでいる。何度か彼の延々と語られる娘自慢の話には正直参っているが、その気持ちはグスターボも理解出来る所はある。

 グスターボは未婚だがその代わりに愛ペットの栗鼠(リス)がいる。レメディオスの無茶振りとその後始末を受けている彼にとって、かけがえの無い存在だ。もし愛ペットのリスが居なくなってしまったら、ショックとストレスにより胃痛悪化に加え、頭部も禿げ散らかしてしまうだろう。

 

 故にパベルの心中を察する気持ちは、決して建前では無く本心なのだ。

 

 

「グスターボ副団長は何故カリンシャに?…例のアンデッドの大群に備えてでしょうか」

 

「あー、いや。()()()()()()だ」

 

「あっ…」

 

 

 その一言で全てを察したパベルの部下達は哀れみの視線を向けてくる。それがグスターボにとって何より辛い。

 だが同時に彼らの話はレメディオスの命令を回避するチャンスに思えた。幾ら彼女とて『九色』の1人にしてアベリオン丘陵での情報収集に大きく貢献したパベルの娘であるネイア・バラハの捜索に助力していたとあっては、渋々了承せざるを得ないだろう。あとは適当に難しい言葉や建前を言えばより確実になる。

 

 便乗する形で申し訳は無いが、此方とてやらなければならない事が山積みなのだ。きっと分かってくれるだろうし、捜索については本当に手伝うつもりでもいる。

 

 

「ま、まぁとにかく、バラハ兵士長の御息女が行方不明と知ったからには無視する訳にはいかんだろう。微力ながら我々も協力する」

 

「し、しかし、カストディオだ──」

 

「協力する。いや、させてくれ」

 

「は、ハイ。あ、いやッ! 非常に有難いです‼︎」

 

「ハハハ、お互い様さ」

 

 

 取り敢えずグスターボは彼らが手に入れた手掛かりを一通り聞いたが、生憎手掛かりとなる情報はグスターボも持っていなかった。

 

 

「むぅ…力になれず申し訳ない」

 

「い、いえ、どうか気になさらず。ですが、此処のところ、亜人部族との衝突で身寄りを失った浮浪孤児の行方不明事件が増えてますから…それも心配で」

 

「王国の犯罪組織『八本指』の枝組織が諸外国にまで影響力を伸ばして来ております。警戒はしているのですが……明確な実態すら掴めない状況です」

 

 

 グスターボは「浮浪孤児の行方不明事件」に引っ掛かった。

 

 

(そういえばあの2人組は「街の娘を誘拐して人買いに売ろうとした」とか言っていたな?)

 

 

 まさかと思ったグスターボは彼らに屯所へは寄ったかを聞いた。彼らの返答は「まだ寄っていない」であった。

 

 彼は屯所の出来事をそのまま教えた。

 

 

「もしかしたら、バラハ殿の御息女は人攫いに遭いかけたかも知れないな…」

 

「で、では御息女は何処に⁉︎」

 

「そこまでは分からん。その2人組もどう言うわけか記憶を失っているようだったからな。魔術師協会の力も借りて調べたから間違いない」

 

「で、では。もし、その娘がバラハ兵士長の御息女だとしたら?」

 

「うむ。まぁ楽観は出来ないが可能性はあるだろう。問題なのは肝心の行方が分からない事だ。恐らく、御息女を助けたという謎の人物がカギとなるだろう…」

 

 

 そして、その人物こそグスターボが探している謎の魔法詠唱者の可能性もある。とんでもない僥倖が舞い降りた事にグスターボは内心歓喜した。

 

 

「昨晩の出来事だ。まだこの都市内に居る可能性が高い。先ずは昨晩から今日までカリンシャを出た怪しい者がいないかの確認を取る必要がある。我々は東と南、君達は北と西の城門へ向かってくれ」

 

「「ハッ」」

 

 

 グスターボはこの一石二鳥の可能性を信じ、行動を開始した。

 

 丁度その頃、冒険者組合に国から発令された緊急依頼の貼り紙が掲示板に貼られた事でちょっとした賑わいになっていた。

 

 

 

 翌朝、安宿を後にした悟は早速、冒険者組合へ訪れていた。

 

 本当なら夜中のうちにマーカーを設置した首都ホバンスへ〈転移門(ゲート)〉を開いて、彼女を連れて行くつもりだったのだが、ネイアはまだ少し心の準備が必要らしい。

 

 

(……喧嘩した時の仲直りってかなり勇気がいるんだな。そう言えば、俺って喧嘩らしい喧嘩ってした事無かったなぁ)

 

 

 たっちとウルベルトの仲違いは当時のギルメンなら誰もが知る所ではあった。その度、仲介に入っていた悟は決まって「仲直りして下さいよ」と簡単に言っていたが、結局最後まで根本的な仲直りが叶うことは無かった。

 

 今朝、ネイアは言っていた。

 

 

──仲直りするって凄い勇気がいるんです…なのでもう少しだけ時間を下さい──

 

 

 最初はその意味がよく分からなかったが、冷静になって考えてみると確かにそうなのかも知れないと思えてきた。そして、その意味が分からなかったのは自分が誰かと喧嘩をした経験がないからであることも。

 

 

(思い返せば、不満とか意見を言ったら嫌われるかも知れない…仲直り出来ないのかもしれないって事ばかり考えてたなぁ)

 

 

 母子家庭だった悟は、母親を小さい頃に亡くしている。死因は過労死だ。当時の彼は子供ながらに母親が学費や生活の為、毎日忙しく働いている事に気付いていた。その為、子供らしい我儘を言ったり親子喧嘩をした事が無かったのだ。

 

 故に彼は恐れていた。自分のせいでまた大切なモノがいなくなってしまうことを。

 

 

(俺って臆病な人間だな…いや、今はアンデッドか)

 

 

 悟はふと彼女(ネイア)の事を考えた。

 感情や心を押し殺してきた自分と違い、彼女は怖い母親の逆鱗に触れるような事であっても行動することが出来た。

 

 自分なんかよりよっぽど強い人間だ。

 その芯の強さに少し憧れる所がある。

 

 

 (彼女を送り届けるのは、何かいい依頼を受注してからにするか……)

 

 

 組合の中へ入ると掲示板の前で何やら人だかりが出来ていた。オイシイ依頼でも入ったのか、それとも別の何かかは不明だが、悟も興味がある。

 人混みの中をかき分けて前へ出ると、掲示板の真ん中に一番新しい依頼書が貼られていた。しかも、他の依頼書と比べて結構上質の羊皮紙に見える。

 

 

「見ろよ…」

「おいおい、まただぜ」

 

 

 冒険者達がその新しい依頼書を見て何やら呟いている。「また」と言う辺り、別段珍しい依頼というわけではなさそうだ。

 

 

「此処も危険かも知れねぇな。近過ぎる」

「ホバンスに拠点移すか?」

「亜人の次はアンデッドか…」

「やっぱりあの噂は本当だったんだな」

 

 

 悟は周囲から聞こえる様々な単語の中で気になる言葉を聞いた。

 

 

(『アンデッド』…?)

 

 

 早急に確認する必要があると悟は懐から解読用のマジックアイテムの片眼鏡(モノクル)を取り出し、例の依頼書へ目を通した。

 

 

(アベリオン丘陵で大量発生したアンデッドの討伐協力の依頼か。へー、国が組合に依頼を出す事もあるんだなぁ〜。えーっと、基本報酬は1人あたり金貨10枚で討伐したアンデッドの数に比例して追加報酬あり…ほう、結構悪くないんじゃないか? アンデッドの数は2日前時点で6,000──)

 

「ふん、またかよ。随分とまぁ馬鹿にされたもんだな。俺たちを消耗品か何かと勘違いしてるらしい」

 

 

 悟はすぐ隣にいたベテランっぽい冒険者のオッサンの言葉に反応し顔を向けた。偉そうに腕を組み、ほくそ笑みながら国からの依頼書を眺めている。

 

 彼の首に提げられている冒険者プレートへ視線を動かした。どうやら鉄級(アイアン)らしい。    

 銅級(カッパー)の悟が言えた立場では無いが、正直その貫禄で下から2番目の階級ってどうなのだろうかと思ってしまう。しかし、冒険者稼業の経験は明らかにこのオッサンの方が上なので、ここは先輩の功を頼ろうと悟は考えた。

 

 

「すみません。それは一体どう言う…」

 

「あん? なんだおま……デカぁ」

 

 

 オッサン冒険者は啞然と悟を見上げるが、首にぶら下がっている銅級プレートを見て直ぐにいつもの偉そうな態度に変わった。

 

 

「ハッ! 誰かと思えばヒヨッコ冒険者かよ、ったく脅かしやがって……何だお前、()()()()()()は初めてか?」

 

「はい。つい先日、流れ着いた新入りなもので」

 

「ふーん…まぁいいか。偶に国から組合へ依頼が来るんだ。大体がアベリオン丘陵の亜人部族関連とか、そういうのだな。そのくらい今の聖王国は人手不足なんだ」

 

「ですが、一見すると結構オイシイ依頼じゃないですか? 数は多いですが、倒した分だけ報酬も上がるみたいですよ」

 

 

 悟の言葉にオッサンはチッチッと人差し指を左右に振った。正直鼻につく態度だが、ここは堪えどころだ。

 

 

「甘いな、最下級(銅級)

 

(お前だって鉄級じゃないか…)

 

「まぁ確かにお前さんの言い分にも一理ある。俺も初めて、国からの依頼を見た時はそう思ったさ。だが、気付いたんだよ。あの依頼内容には大きな落とし穴がある。それに気付かず欲に目が眩んだ同僚を俺は何人も見た」

 

「落とし穴?」

 

「いいか、他の依頼書と、よ〜〜く比べてみろ。何かが()()()()からよ」

 

 

 後輩にいい所を見せたいのかオッサンは段々上機嫌に盛り上がっていた。何だかちょっと可愛く思えてきた。悟はオッサンの言う通り、国からの依頼書と他の依頼書を比べて読んでみた。

 

 確かに何か違和感がある。何かが抜けているのだ。それに気付くのに時間は掛からなかった。

 

 

「…依頼の達成条件が()()?」

 

「その通り。国からの依頼は基本的に明確な()()()ってヤツが無いんだ。達成したかどうかの匙加減は国次第ってわけよ」

 

 

 依頼内容は〝大量発生したアンデッドの討伐協力〟〝基本報酬は1人金貨10枚で追加報酬あり〟その他、色々と記載はあるが他の依頼書にある達成条件が抜けている事に気付いた。

 他の依頼書にはきちんと〝ゴブリン小隊の殲滅〟や〝規定量の薬草採取〟と言った達成条件があるにもかかわらず、国からの依頼書にはその記載が無い。

 

 

「報酬に目が眩んだ欲深い冒険者達が参加しに行ったんだが、扱いはまるで前線に送り込まれる傭兵さ。完全に軍の指揮下に入ってるし、嫌気が差して抜け出したヤツらもいたが、国はそいつらを〝依頼未達成〟って事にして報酬を出さなかったんだ。仲間が死んで依頼遂行不可能でも抜け出したらそれで終いさ。酷ぇったらありゃしねぇ」

 

 

 かなり悪どい依頼の様だ。リアルのブラック企業と中身だけが異なるが後は全くと言っていいほど同じに感じる。仲間が死んで続けたくても続けられない冒険者に対しても何の補償も無いのだ。

 

 

(今後の事を考えるなら、依頼に応じた冒険者の待遇を良くするのが妥当なんだけど…国の考えは分からないなぁ)

 

 

 彼が最初に言った〝消耗品〟の意味も理解出来る。そんな散々な目に遭えば誰だって次に依頼が出ても受けようとしないに決まっている。

 まさに因果応報というやつだ。

 

 

「それにしてもなんだってアベリオン丘陵にそんだけのアンデッドが出てきたんだ?」

 

「え? 普段は違うんですか?」

 

「おうよ。さっきも言ったと思うが、亜人部族の討伐協力が今までだったんだ。まぁその変動もあって今回の国からの依頼は誰も受けねぇんじゃねぇか。お前さんは受けんのか?」

 

「うーん……どうしようか迷ってる所ですね」

 

「やめとけ、やめとけ。どうせ酷くこき使われて終いよ。オマケに何千って数のアンデッドが相手と来たもんだ。よっぽどヤベェアンデッドが現れたんだろうよ。アベリオン丘陵にアンデッドが昼夜問わずに現れるなんざ殆ど無かったしな」

 

「へー、そうな………」

 

 

 突然、悟は言葉を止めて固まってしまった。今の彼は静かに、だが必死に思考を回転させている。「まさかそんな筈は」と否定したい気持ちが脳内で結論が浮かび上がるまでに沸々と湧き上がる。しかし、現実が変わる事はない。

 

 

「あ、あぁああ……」

 

 

アベリオン丘陵──

アンデッドの出現──

死体から創造した死の騎士(デス・ナイト)達─

丘陵地帯から出ないよう命令─

負のエネルギーの蓄積─

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーー‼︎‼︎‼︎ や、やっちまったァァァァァァァァァァ‼︎」

 

 

 全てに気付いた悟は組合の建物全体が大きく揺らぐ程の絶叫を上げた。その姿はかのノルウェー出身の画家ムンクの作品『叫び』のソレである。   

 そのあまりに突然の大轟音に、鉄級オッサンは勿論、受付嬢や他の冒険者達も皆例外無くたまらず両耳を塞いだ。

 

 

「ぬぉおぁぁーー⁉︎ な、何だァァ⁉︎」

「ぐぉぉ耳がァァァァァ‼︎‼︎」

「うるせぇぇぇ何だァァァァァ⁉︎⁉︎」

「ウギャアァァァァァ‼︎‼︎」

 

 

 アベリオン丘陵のアンデッド大量発生。その原因は紛れもなく5体の死の騎士(デス・ナイト)を放置していたことで、それをすっかり忘れていたのだ。

〝自己防衛以外の戦闘はしないように〟と命令を与えた事で安心し切っていたのが大きな間違いだった。それは逆に言えば〝自己防衛目的なら戦闘をしても良い〟という事に繋がる為、あの丘陵地帯を彷徨ったこの数日間で死の騎士(デス・ナイト)達は亜人か何かと接敵、そして殺し尽くしたのだ。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)は殺した相手から従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)を生み出す特殊技術(スキル)を持っている‼︎ あぁ〜〜何でこの特性を考慮しなかったんだァァァァァ‼︎‼︎ )

 

 

 気が付けば数千体なんて馬鹿げた数になったのだ。オマケに国家の存亡に関わりかねない大事件にまで発展してしまっている。アンデッドの数が増え、一塊となって大移動を続けていたのであれば今の丘陵地帯の出来事は十分説明はつく。

 

 そうと分かれば冒険者デビューでルンルン気分に浸るワケには行かない。

 

 悟は大慌てで冒険者組合から出て行くと〈転移門(ゲート)〉を開く為にひとまず人気の無い場所を必死に探した。しかし、完全にテンパっている悟の思考は満足に働かず、瞬時に脳裏に思い付いたのはネイアが現在待機している安宿の一室だった。

 

 

「あぁーーーー‼︎‼︎ クソッ‼︎ 何で俺っていつもこうなんだ⁉︎」

 

 

 街中を漆黒の全身鎧を纏った大男が人間離れした速さで疾走する姿に、大勢の人々が驚愕と呆然の視線を向けていた。

 

 その中にはグスターボ達の姿もいた。

 

 

「うぉあ⁉︎ な、何だアレは⁉︎」

 

 

 漆黒の全身鎧を纏った大男がかなり慌てた様子で疾走する姿は、グスターボからすればかなり怪しい。昨晩の出来事と関係が無いとも言い切れない。

 彼へ疑心の視線を向けるグスターボはある可能性を導き出した。

 

 

「まさか……あの人攫い屋に関係する奴かもしれん。2人組が捕まり、俺達が嗅ぎ回っている事を聞きつけて慌てて……逃すか‼︎」

 

 

 グスターボは部下と共に怪しい男()を追いかけた。馬に乗っている自分達よりも圧倒的に速い脚力に愕然としながらも、決して見逃しはしないと必死に喰らい付く。

 無茶振り上司の命令からの解放がかかっているかも知れないのだ。彼がいつも以上に胃痛に耐えるのも当然というものである。

 

 

 陽光聖典の襲撃から既に数日が経過していた。気が付けば周りは負のエネルギーの蓄積により自然とアンデッド達が大量発生してしまい、何となく流れの中で死の騎士(デス・ナイト)達がこの10,000体規模のアンデッドを引き連れるリーダー(引率)的役割を担ってしまっていた。

 

 日を追うごとに勝手に増え続けてくるアンデッド達に死の騎士(デス・ナイト)達も正直、どうして良いか困り果てていたのだ。数が数である為、移動するのにかなり邪魔だし、勝手についてくるしでちょっとウンザリしている。

 

 陽光聖典の襲撃によって受けたダメージは蓄積された負のエネルギーにより既に完治済みであるが、彼らは〝丘陵地帯を彷徨う〟以外の命令を受けていない為、どうしようも無いのだ。主人に報告するにしても〝何かあったら知らせろ〟と言う命令は受けていない。

 

 寧ろ、下手に連絡をして主人の気分を害してしまう事の方が問題だ。想像しただけで死の騎士(デス・ナイト)達は身を震わせた。そんな恐ろしい事が出来るはずがない。

 

 

「オォォォ……!」

 

 

 そんな時だった。此処から少し離れた場所で何やら騒ぎが起きていた。その騒ぎが襲撃による騒動だと気付くのに時間は掛からなかった。

 

 とんでもないスピードでアンデッド達が消滅し続けているのが分かる。明らかに只者ではない何者かがアンデッドの大群を蹴散らしながら真っ直ぐ此方へ向かってくるのだ。

 

 死の騎士(デス・ナイト)達は未知の襲撃者に対しタワーシールドを動かして身構えた。

 大きな土煙と共にアンデッド達が吹き飛ばされる光景が段々と此方へ近付いて来た。だが、近付くにつれ本能的にアレが敵では無く、自分達を創造したこの世で最も敬愛する存在である事に気付いたのだ。

 

 襲撃者の正体…それは鈴木悟だった。

 

 

「オォォォォォォォォォー‼︎‼︎」

 

 

 死の騎士(デス・ナイト)達は雄叫びを上げ、未だ主人の行く手を阻むアンデッド達に対し「道を開けろ」と命令を下した。命令を受けたアンデッド達は大慌てで左右に分かれて道を開ける。その光景は海を割ったモーゼを彷彿とさせるほどであった。

 

 まだ大分遠いが主人が開けた一本道を全速力で駆けて近づいて来る姿が見える。もうすぐ主人と久しぶりに対面出来る歓喜の気持ちを必死に抑え、出迎えようとしていた。

 

 

「……ん……ざ…!」

 

 

 主人が何かを叫んだ。それが何かよく分からなかったがまだ叫んでいる為、今度こそ聞き漏らさぬよう耳を傾ける。

 

 そして、その言葉がハッキリと聞こえた。

 

 

「全・員・正・座ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

 明らかに怒気が込められている主人の大声を聞き、恐怖と絶望感に襲われた。しかし、先ずは主人の命令を聞く事こそが最優先である為、死の騎士(デス・ナイト)達は一斉に武器を置いて正座をし、他のアンデッド達も一斉に土下座を始めた。因みに骨 の 竜(スケリトル・ドラゴン)は『伏せ』の姿勢を取っていた。

 

 

 アベリオン丘陵のど真ん中で総勢10,000体のアンデッドによる大正座。そんな彼らの中心で「何やってんのマジでェェ⁉︎」と声を荒げる悟。

 

 異様にして異質な光景を遠巻きから眺める集団がいた。

 

 

「な、何をしておるのだ…あの黒騎士は?」

 

「カジット様…あの者は一体」

 

「そんな事、ワシが知るわけがあるまいッ!」

 

 

 カジットと呼ばれた赤黒いローブを纏う男が苛立ち紛れに答える。先日訪れた時には居なかった存在が少しその場を離れている間に現れ、何やらアンデッド達を平伏させているのだ。

 あのアンデッド集団の中にはかなり強力な個体も確認出来る為、何の理由もなく平伏すなど到底考えられなかった。

 

 

(まさかワシの知らぬ間に『ズーラーノーン』が……いや、それはあるまい。十二高弟の1人であるワシの目を盗みそこまでの事が出来るなど、あまり考えられぬ)

 

 

 カジットは自らが所属している秘密結社『ズーラーノーン』の手の者かと考えたが、今回の件に関しては組織も認知している筈である為、態々余計な手を入れるような真似はしないだろう。

 ならばと聖王国の隣国である『スレイン法国』の線も考えるが、彼の国は組織の者が目を光らせているから何か動きがあれば報告が上がるはずだが、それが無いと言う事は法国の線もあり得ない。

 

 

「……おい、クレマンティーヌ」

 

 

 彼がそう呼ぶと後ろからもう1人のフード付きローブを羽織った唯一の紅一点クレマンティーヌが出てきた。

 

 

「戦士の目から見て…あの者、どう見る?」

 

 

 普段、飄々で軽い態度の彼女が珍しく真剣な視線を例の黒騎士へ向けられる。

 

 

「んー、別にビビる事無いと思うよぉ。戦士としてはズブの素人だねぇ」

 

「…偽りでは無いな?」

 

「も〜う、信用ないなぁ」

 

「ふん、まぁ良い。お前でも十分対処し得る相手なら恐るるに足らんな」

 

 

 警戒すべき相手では無いと分かると、カジットとクレマンティーヌ、その取り巻き達が行動を開始した。

 

 

 




例のクレマンティーヌ主人公のゲーム…欲しいな
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