誰かに求められたわけでもなく、颯爽と現れ、敵を一撃で倒し、その場を去る。それが、ヒーロー。

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ワールドトリガー~ヒーロー~

 三門市の警戒区域内は異世界からの侵略者・近界民が出現する門の出現場所となっており、その襲撃の被害を被るために無人のエリアとなっている。

 もちろん誰も住んでいないとはいえ、ボーダーの許可さりれば一般人でも荷物を取りに入ったりすることは可能であるため水道や電気などのライフラインは残されたままゴーストタウンのような状態と化している。

 今日もその一帯に、また一体の近界民が降り立った。

 モールモッド。

 自動車ほどの大きさに3対の鋭いブレードが生えた腕が特徴的な戦闘用トリオン兵だ。たとえボーダー隊員であろうとまだ訓練生であるC級隊員では勝つことはまずできないと言われており、常人が遭遇すれば手も足も出ないままやられてしまいかねない危険な敵。

 

「いつもの奴が来たな。こっちの町でも出るのかよ。しかも最近なんか怪物の出現が増えてないか?」

 

 そのモールモッドへ歩み寄る影が一つ。

 青いジャージを着た禿げ頭の男性が愚痴をこぼしながらつぶやいた。

 モールモッドもすぐさま獲物の接近に気づき、大きな目玉をそちらの方角へと向ける。すぐさまトリオン能力を確認。分析を始めようとして、

 

 男の姿が、消えた。

 

 次の瞬間、モールモッドの体は男の拳に目玉を貫かれ、衝撃によって木っ端みじんに吹き飛ばされていた。

 

「また一発で終わっちまった」

 

 あまりにも呆けなく砕け散った敵を見下ろして、男は退屈そうにつぶやいた。

 モールモッドを破壊した彼は道端に置いておいた買い物袋を手に取って帰路につく。彼がつい最近住み始めた、警戒区域内の自宅へ。

 

 

 

「何? またどこの部隊が撃破したのかわからない近界民が出たと? どういう事だ?」

 

 オペレーターの報告に三輪が首を傾げた。

 ボーダー隊員の中でもA級という精鋭部隊に位置する部隊の隊長を担う彼だが、最近は頭を悩ませる事件が多く、『また厄介事か』と機嫌を損ねる。

 

「まさかまたあの近界民の仕業ではないだろうな?」

 

 あるいは今玉狛支部にいる近界民の仕業なのか。三輪は先日戦った白髪の少年を思い浮かべた。

 黒トリガーを所持するという少年・空閑である。

 空閑は前に独自のトリガーを行使して近界民を撃破したため、ボーダーに属さないトリガーによって撃破された近界民の残骸が発見・回収されていた。

 また勝手にボーダー隊員でもない相手がトリガーを使って暴れていたのかと三輪は苛立ちを募らせたのだが。

 

「それが、どうもおかしいのよ」

「何?」

「今回の残骸には、どうやらトリオン反応が見られなかったようなの」

「はっ?」

 

 続けられた報告は信じがたいものだった。

 近界民は戦車の大砲やミサイル程度の攻撃では傷一つつかない程度の強度を持つ。そのため近界民を撃破するには専用の武器であるトリガーで破壊するしかない。そしてそのトリガーで攻撃すれば、必ずそのエネルギーであるトリオン反応が残るはずなのだ。

 だが、今回発見した近界民からはトリオン反応がみられないという。信じがたい内容の話であった。

 

「……つまり痕跡を消せるような存在が現れたというのか?」

 

 もしもそうだとするのならば非常に厄介な存在だ。

 そのような特殊な能力だとするならば黒トリガーという可能性も捨てきれない。新たな道の存在の出現に、三輪は歯を食いしばった。

 

「また面白そうな敵が現れたってわけだな」

「遊びではないぞ、陽介」

「わかってるって」

 

 同じく報告を聞いていたチームメイト・米屋が軽い調子で笑い飛ばす。

 本当であるならば面倒な事態になりかねない為三輪が軽く釘を指すと、米屋は『問題ない』と三輪の肩を叩く。

 

「もうすぐ太刀川さんたちだって戻ってくるんだ。玉狛の方を片付けたらそっちも一気に仕留めちまえば良い」

 

 まもなく玉狛支部を襲撃し、黒トリガーを確保する手はずとなっている。

 最強と呼ばれる隊員たちが帰還すれば敵はない。

 だから安心しろと隊長の不安を消し飛ばすようにと笑うのだった。

 

「ああ。そうだな」

 

 それは三輪も同じ考えであり、米屋の意見に追従する。

 この時の彼らはまだその程度の認識でしかなかった。

 だからこそ、まさかこの時の未知の相手と思わぬ形で遭遇する事になろうとは想像もしていなかった。

 

 

 数日後。ついに決戦の時が訪れた。

 太刀川達遠征部隊が帰還すると城戸司令の命令に基づき、その日の夜に合同部隊は玉狛支部を襲撃すべくボーダー本部を出発した。

 しかし迅と嵐山隊、彼らの襲撃を事前に察知していた者達との戦いに進展していくと、別行動をしていた米屋や古寺も合流し、戦いは激しさを増していく。

 あちこちで激戦が繰り広げられる中、大きな動きが生じる。

 

「陽介」

「オッケー」

「木虎!」

「はい。私がカバーします」

 

 嵐山隊の狙撃手・佐鳥が敵に補足され、米屋が撃ちとるべく突出した。

 すかさず嵐山隊の木虎が彼を守るべく跳び上がる。

 空中で二人は激突した。

 米屋が槍を鋭く突き出すと、木虎がかろうじてスコーピオンで受け止める。しかし勢いは完全に殺しきれず、米屋の槍の勢いに負け、木虎はとあるアパートの一室の中へと叩きこまれた。

 窓が大きな音を立てて割れ、木虎が、次いで米屋が部屋の中へと侵入する。

 明かりのない暗闇の中で二人の隊員がにらみ合った。

 

「おいこら、優等生。勝手に人んちに入っていいのか?」

 

 米屋が不敵に笑う。

 自分が木虎をこの部屋へと突き飛ばしておきながら、安い挑発だ。

 だが一対一という形になったならば応えなければならない。

 木虎もまた彼に呼応して憎まれ口を叩こうと口を開く。

 

「いいわけないだろ」

 

 開こうとして、それを告げようとした先輩が忽然と姿を消した。

 もっと正確に言えば、いつの間にか背後に現れた謎の男の拳骨に沈み、階下のフロアへと殴り飛ばされたのである。

 

「……えっ?」

 

 木虎は理解が追いつかなかった。

 ここまで周囲にトリオン反応はなかったはずだ。それは今も同じ事。

 まさかバッグワームかと疑うも、そもそも相手はマントを纏っていない。

 では生身なのかと疑うが、トリオン体は普通の肉体の攻撃では無傷のはずだ。加えて一般人ならばこの危険区域内にはいないはずなのに。

 

(というか、誰?)

 

 前提としていつの間にかこの部屋にいた目の前の男に見覚えがなかった。

 白の寝巻に身を包んだ禿げ頭の男性。年齢は二十台中ばといったところだろうか。

 必死に記憶を呼び起こそうとするも、木虎には該当する人物がいなかった。

 

「こんな真夜中に一体何のようだよ?」

 

 木虎が考えに耽っていると、その男は木虎へ詰め寄る。

 

「誰なんだテメーは」

「えっと、ですね」

 

 どうしたものか、木虎は対応に困り言葉につまる。

 男は無表情だが謎の威圧感があり無視はできない。

 少なくとも自分一人ではどうしようもない内容だろうと木虎は一度味方へと通信をつないだ。

 

「だあああ! 何だ何だ!」

「ッ!」

「おっ。なんだ、もう一人の奴か。元気だな」

 

 木虎がオペレーターに話を通そうとしたその瞬間、米屋が突き破った穴から跳んで戻って来た。

 部屋に戻ると米屋は大きくバックステップを踏み、謎の男から距離を取る。

 

「不意打ちとはビックリしたぜ。しかも今のパンチの威力はレイジさんのレイガスト並か? 面白いじゃん。木虎、いつの間にこんな助っ人まで用意してたんだよ?」

「あっ。待ってください。米屋先輩。その人は!」

 

 好戦的な笑みを浮かべ、男を睨みつける米屋。

 どうやら相手がトリオン反応がないのが気づいていないのか、木虎は声を張り上げて訴えるが、敵対する米屋には届かない。

 米屋が瞬時に地面を蹴る。

 トリオン体の強化された脚力は一瞬で距離を詰め、必殺の一撃が男へと突き出された。

 

「攻撃してくるって事は」

 

 その鋭い一撃を、男は右腕一本でつかみ取った。

 

「……はっ?」

「お前も人型の敵だな?」

 

 あっけなく攻撃を防がれた米屋が驚愕に目を見開く。

 その動きが止まった隙を見逃すことなく、男は右腕を引き、槍ごと米屋の体を引き寄せた。

 

「必殺。マジパンチ」

 

 そして渾身の力を込めた左腕が米屋のトリオン体に打ち込まれる。

 ただの打撃のはずだがその威力はすさまじい。

直撃した瞬間、衝撃波が部屋中へと広がり、家中のありとあらゆるものが蹴散らされ、米屋の体も同様に跡形もなく吹き飛んでいた。

 

「…………はっ?」

「戦闘体活動限界。緊急脱出」

 

 米屋も木虎も理解が追いつかなかった。

 何一つ事情を読み込めないまま、米屋の体が崩壊し、本部へと飛び去っていく。

 部屋には謎の男と木虎の二人が取り残された。

 

「さて、後はお前だけだけどお前もあいつの仲間なのか?」

「あ、あなたは一体何者なんですか?」

 

 尋ねられた木虎は恐る恐る聞き返す。

 少なくともこちらの話を聞く素振りがあるというのならばまだ何か打開策はあるはずだ。

 本当に答えが返ってくるかは疑問だが、木虎は息を殺して返答を待った。

 

「俺か? 俺はサイタマ。趣味でヒーローをやっている者だ」

 

 すると以外にも男——サイタマは予想を裏切って呆気なく名乗りを上げる。

 この出会いが、のちにボーダーに大きな影響を生む事になる事を、木虎はまだ知る由もなかった。




三門市以外にも門がこっそり開いていて、人知れず人間がさらわれているという設定より。

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