入隊試験に合格した枢は、まずボーダーで使う武器・『トリガー』の適正判定を受けた。
近距離の『
主に剣を使って戦うというポジション。これを聞いた枢は「まあそうだろうな」と納得の表情を浮かべた。
幼いころからゲームを通じて剣や槍といった武器に対して『一度は使ってみたい』『実際に戦ってみたい』という憧れを持っていたし、
その後、さらに攻撃手の武器の中でも人気度ナンバーワンであるという剣の『弧月』、変形可能な刃の『スコーピオン』、剣と盾のモードを使い分ける『レイガスト』が存在するという説明を受ける。
入隊したばかりは武器を一つしか使えない。どれか一つだけを選んで戦う事になる。各々の能力や戦闘スタイルを考慮してじっくり考えるべきと説明を受けたうえで、枢は自ら『レイガスト』を選択した。
「これは出来たばかりで使う人少ないんですよね? ならこれでお願いします。使用者少ないならこの武器になれている人も少ないだろうし、逆に同じ武器を使っている人の中でも有力者になれるでしょう?」
戦闘員同士の戦いで楽になれるように、同トリガー使用者の中でも上位になれるようにという思惑が含まれていた。
確かに彼の言う通りこの武器は元戦闘員であった技術者・寺島雷蔵が開発したばかりのトリガーであり、使っている隊員は片手で数えて足りる程度の普及率である。
そのためもし敵として戦う事になれば相手からすれば未知数なトリガーであり、使用者が少ない今使い始めておけばその分早くポイントがたまり、ランキングという面で優位に立てる可能性が高い。
彼曰く「リリースしたばかりのソシャゲは早いうちに始めた方が良いのと同じ」とのことだった。彼ならではの意見である。
そんなわけで枢のトリガーはレイガストと決まり、仮入隊の時期から訓練に積極的に参加する事で評価を得たのだった。
そしていよいよ迎える正式入隊日、入隊式当日。
「なるほど。結構評価されたんだな」
ボーダー本部の一部隊長であるという嵐山の説明を聞き、枢は自分の左手の甲へと視線を落とす。
そこには2800という数字が浮かび上がっていた。
嵐山の話によるとこれは個人ポイントと言って戦闘用トリガーをどれだけ使いこなしているかを示す数字であるという。(枢の場合はレイガスト)
基本的には1000ポイントスタートである中、仮入隊中にボーダー側から評価された者にはポイントがすでに加算しているそうだ。即戦力としての期待を表すという説明に胸が高鳴る。もしもこの場に幼馴染がいたら「浮かれるな」と小突かれてただろう。
「確か理佐は中央オペレーターとか言ったか? 勝手が違うからよくわからないな」
彼をボーダーに誘った真木はこの説明会場にはいない。
オペレーター志望の隊員は中央オペレーターという業務に割り振られ、そこで経験を積んでから防衛隊員たちと行動を共にするらしい。
詳しい話を真木も話していたような気がするが、正直話が長かったのでほとんど覚えていなかった。まあ何か変化があればあちらから教えてくれるだろう。すぐに意識を目の前の説明に切り替える。
やがて訓練の話へと話題が移った。場所もそれに応じ、大部屋からトレーニングルームへと移動する。そこにはトリガーを起動するための生体エネルギー・『トリオン』で作られた空間があった。
攻撃を受けても負傷しないという仮想戦闘モードで近界民との戦闘訓練。
手始めに戦闘員としての適正を見らせてもらうと嵐山が事もなげに言った。
「デカいな。ま、秀次との訓練よりはマシか」
突然の試験にひるむことなく、枢はレイガストを右手に掲げて大型近界民の前に立つ。
盾モードのレイガスト。起動すると、柄の上下左右に透明なシールドが形成された。
敵が臨戦態勢に入ったのを見て、近界民の巨体が動き出す。重厚な右足が地面から持ち上がると、枢を押しつぶすべく振り下ろされた。
「舐めんな」
だが巨体な分その動きは実に散漫だ。レイガストも重さがある武器であるために素早く動くことは苦手だが、筋力が大きく強化されている『トリオン体』となった今ならばすぐに対応できる。
レイガストを横に掲げて、突撃。
近界民の足を受け止めざまに盾を勢いよく跳ね上げ、敵をのけぞらせた。
怯んだ隙を逃さず、大きく跳躍。今度は近界民の頭部らしき突出した部位を叩くと、盾を持っていない左手で浮き上がった頭をつかんで。
「
レイガストの盾が消え、半透明な刃にトリオンが凝縮する。
枢は大きく右腕を引くと、その刃を近界民の弱点である目玉へと突き刺した。
「一号室終了。記録25秒」
近界民が音を立てて崩れ落ちる。完全に活動停止した事を見届け、訓練終了を告げるアナウンスが鳴り響いた。
こうして初日の訓練は終わった。
戦闘訓練以外にもいくつもの訓練はあったものの、どれも無難にこなし個人ポイントを稼いでいる。
一通り訓練を終えた枢は休憩室の椅子に腰かけて気を楽にし。
「だから、少しでも女の子に慣れておきたくて……」
「わかる」
恥ずかし気に頬を染めながら思いを打ち明ける同級生・辻の言葉に涙を流した。
通う中学校は違うのだが、聞くとポジションが同じ攻撃手(ただし辻のトリガーは弧月)であり、同い年であり、お互い優秀な成績を残したという事で意気投合し、二人は他愛ない会話に花を咲かせていた。
そして辻が女性恐怖症であり、どうにかしたいのだという話を聞くと、枢は場所も忘れて感情を露わにする。彼も同級生のあまりの厳しさに一度は「女って怖い」と認識に至ったものだ。当時の事を思い返し、今もたまに味わう有無を言わさぬ圧力に身を震わせる。
「俺もそうなんだ。幼馴染がいつも怖くて、厳しくて。俺の事絶対に見下してるし」
「そ、そんなに?」
幼馴染と言えば普通は優しく接しやすい印象を抱く事だろう。
辻も例外ではなく『さすがに過剰表現ではないのか』と首を傾げるが、枢は本気なのだ。己の気持ちを分かってもらえるようにと必死に訴え始めた。
「本当だよ。ぶっちゃけ絶対中学生じゃないって。昔は可愛かったのに今じゃ血も涙もないキャリアウーマンみたいになっちゃって」
「ふーん。——あっ」
「もうクールを飛び越えて冷徹な性格なんだよ。俺もよく耐えてるなって自分を褒めたいくらい」
「面白いね。その話、私にも聞かせてよ」
「ん? ああ、いいよ。別に構わ」
ない、と続けようとして。
枢は背後から話しかけてきた人物の顔を目撃して硬直する。
「……どこから聞いてた?」
「中学生じゃないのあたりからかな」
「なる、ほど」
最悪のタイミングである。幼馴染である真木理佐の返答を受け、枢の体から冷や汗があふれ出した。
「その、大変大人びていて素敵だなって。幼馴染として誇らしいなって言おうとしてて」
「へえ。そうなんだ」
「ひっ!」
必死に言葉を振り絞った枢の声に、真木はうっすらと笑みを浮かべるのだった。
絶対怒られる。枢と辻は手を合わせて怯えるのだった。
この後家に帰ってからやはり怒られた。