牙獣の守護者   作:星月

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仲介

「何!? ボーダーに入隊すれば給料がもらえるのではなかったのか!?」

「うん。給料をもらうにはまず正規隊員にならないと。……知らなかったんだね。入隊式でも説明していたんだけどな」

「話が長くて所々頭に入らなかったんだ」

 

 新たな事実は枢を驚かせるには十分であった。過剰な反応に説明をした辻も動揺している。

 ボーダーに入り、防衛任務に就けば給料をもらえると聞いていた枢だったが、そもそもその防衛任務に就く為には正規隊員になる必要があるという。ボーダーの戦闘員は上から精鋭のA級、主力のB級、訓練生のC級に分類される。B級以上が正規隊員と呼ばれ、防衛任務に励むことができるのだ。入隊したばかりの枢は当然C級であり、任務は受けられない。昇格するには定期的に行われる訓練に参加するあるいは個人ランク戦という対人戦で他人から個人ポイントを奪い、ボーダーラインである4000点まで上げるしかない。

 

「こうなったら仕方ない」

「どうするの?」

「決まっているだろ。ちょっと体調を崩してくる」

「えっ? えっ?」

 

 これを聞いた枢は三日ほど風邪を引いた事にすると、その間ひたすらボーダー本部に滞在、戦闘に打ち込んだ。訓練→ランク戦→イベント周回→ランク戦→イベント周回→ランク戦→訓練→ランク戦→イベント周回とローテーションを組み、ひたすら真面目にポイント上げに励んだ。結果、なんと入隊からわずか三日で瞬く間に個人ポイントをかき集めて正規隊員に昇格するという偉業を成し遂げる。

 なお、枢が学校を休んでいたにも関わらずボーダー本部にいたという話を聞いた真木はクラスメイトであり彼のリアフレでもある佐々木君に話を聞き、枢が保有するアカウントのログイン時間を見せてもらって全てを察し、両親へと報告した。枢はしばらくの間寝込んだ。

 

「人の心とかないんか?」

 

 これが必死に訓練に励んだ者に対する報酬だというのか。

 そして後に真相を知った枢はこの世の理不尽、信じていた友の裏切りに絶望し、憎悪する。

 

「佐々木君はすべて敵だ……!」

 

 するとその日のうちに枢はリアフレ全員のフレンド登録を解除。孤独の道を歩む事を決意し、全世界に存在する佐々木君の駆逐を誓うのだった。

 

 

 

 

「えーと。枢凛君だったかな?」

「はい! あなたが寺島雷蔵さんですか!」

「ああ。まあそうだけど」

 

 正隊員昇格を果たした枢。彼はある日、ボーダー本部開発室を訪れていた。

 元気の溢れる来客に、面会の予約を受けていたスタッフが物静かに対応する。けだるげな眼と線の細い身体が特徴的なこの男性はボーダー本部開発室所属のエンジニアであり、レイガストの産みの親である寺島だ。

 元々は戦闘員であり、トップクラスの弧月使いであったものの、弾丸トリガーの台頭する状況に腹を立ててエンジニアに転向。弾丸トリガーに対抗すべくレイガストを開発したという異色の経歴の持ち主である。

 

「一応少しは話を聞いているよ。優秀みたいだね。入ったばかりなのにもう正隊員になったとか」

「いえいえ。大したことではないです。やはりトリガーの存在が大きかったです。俺はレイガストを使っているのですが、やはり普通の隊員は慣れてないし、他のポジションと比べてシールドの有無が大きく影響し、特に射手との戦いでは大いに役立ちました」

「……ほう」

 

 出会ったばかりの相手からの社交辞令であるだろうが、自分の目論見が当たったという実体験を聞けば当然寺島も気をよくした。

 そうだ。これこそが寺島の望み。

 元々の主流であった近距離戦が少し廃れる傾向がみられ、代わって中距離戦に光が差し込み、このままでは完全に流れが持っていかれてしまう。

 これを改善すべく動いたのが寺島だ。攻守の両方で活躍できるレイガスト。

 彼の開発が功を制したという現場からの声は、何よりも嬉しい称賛であった。

 

「だからこそこのトリガーを開発してくれたという寺島さんには感謝してもしきれません! ありがとうございます!」

「うん。いや、こちらこそありがとう。そのように言ってくれるとこちらも嬉しい。もしも何か質問とか要望とかあれば言って欲しい。こちらも参考になる」

 

 惜しみのない賛辞に寺島が照れるように視線をそらして返答する。

 相手が気をよくし、そう続けると枢はつられるように笑って本題を打ち明けた。

 

「それならば、早速一つ意見を聞きたい事があるんですけど」

「うん? 何かな?」

「……レイガストをメイントリガーに据えるにあたって、トリガー構成をどうすべきか。それを少し迷っています」

「ああ、なるほど」

 

 そういう事か。寺島は両手を合わせ、納得の表情を浮かべる。

 正規隊員に昇格してまず最初にする事。それはトリガーセット構成の立案だ。

 訓練生の時は一つしか使えないトリガーだが、正規隊員になるとメイントリガーとサブトリガーにそれぞれ4つずつ合計8個のトリガーを使えるようになる。

 訓練生時代に使っていたトリガーに重きを置きつつ、盾となるシールドや身を隠すうバッグワームなど様々なトリガーを組み合わせていく事となる。

 通常は同じポジションである先輩などのデータを見たり、意見を交わす事で決めていく事なのだが。

 

「任務につこうにもランク戦に挑もうにもまずトリガーを決めないとと思ったんですけど。レイガストって正隊員でも本当に使っている人が見つからなくて。参考としようにもその相手がいないというか」

「だよねえ」

 

 ここで問題が生じた。

 レイガストは開発したばかりのトリガーであるため、その先輩となる相手が見つからなかったのである。

 『さすがに初見プレイはきつい!』と枢はこのままでは駄目だと考え、レイガストの考案者である寺島の意見を求めたのである。

 

「基本的にはレイガストとスラスターはセットだとして、あと二つ。サブもどうするか迷いどころだよね」

 

 スラスターとはレイガスト専用のオプショントリガーだ。こちらも寺島が開発・改良したもので、トリオンを噴出する事で推進力を産み出す事が出来る。重量のあるレイガストには欠かせないトリガーと言えた為、レイガストを使うならばこちらも当然組み込む事となる。

 

「はい。バッグワームを入れる事は確実なので自由枠はあと6個ですね。俺の場合トリオン量は結構余裕あるそうなので、全部入れても問題ないって嵐山隊の人には言われました」

「そんなに多いの?」

「少なくとも同期の中では一番多いみたいです」

「おー。それはすごい」

 

 トリオンは多ければ多いほど良い。武器の威力につながるだけではなく、そもそもトリガーを組み込むだけでもトリオンを必要となるのだ。その為トリオンが多いという事はそれだけで武器になる。

 

「ふむ。難しいな。俺は開発したとは言え実際に戦ったわけではないからな。あまり専門的な入れ知恵はできないかも」

「そうですか」

 

 開発者であるとは言え、やはり前線を離れた今では寺島も具体的なアドバイスを提示する事は難しかった。曖昧に言葉を濁すに留まると、枢も「仕方がない」と息を溢す。

 

「ただ」

「えっ?」

 

 しかしこのまま帰してしまうというのは野暮というもの。

 

「一人、レイガストを使う先輩を紹介する事ならできる。あいつなら教えもうまいし参考になるだろう」

「本当ですか!」

 

 同年代の友を脳裏に浮かべて寺島は語った。

 そんな人がいたとは思ってもいなかった枢は瞬時に表情が明るくなる。

 何度も頭を下げ、礼を告げるのだった。

 ……この時はまだ。教えもうまいという寺島の言葉もあって、一体どのような理想的な隊員が待っているのだろうかと期待に胸を膨らませていた。いたのだ。

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