仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第2章
第9話 新章・ライブ・スタート


 

 

 

 

 

御定萊智が仮面ライダーになってから、3ヶ月が経過し、初めての夏が訪れた。

今年は、例年より平均気温が高く、専門家は『地球温暖化が進行している』と今朝のニュースで伝えていた。

夏休みに入ったばかりの彼は今日もデジタルセイバーの拠点に入り浸っていた。机の上には大量の参考書やレポートが並んでおりそれらとずっと睨み合っている。

何故こんな状況になっているか、それは彼が大の『夏嫌い』だからだ。暑い!虫が多い!からと毎年自分の部屋の冷房をつけて外には一切出ない。

今年もそうしたかったが、一人暮らしをしている中、贅沢にエアコンを使うことができない、そう思い悩んだ結果、エアコンを無制限に使える『ここ』に行き着いた訳だ。

 

 

流石にその姿を毎日見せられている紅葉とメリアは最早居ない日があることの方に違和感を感じている。

 

「今日も勉強?お疲れー。」メリアは、彼の隣に座ってその様子を見ていた。

 

「このレポートを早く終わらせたいからね…」萊智は顔を彼女に見せることはなくずっとレポート用紙か本を眺めている。

 

「…その勉強中のところ悪いが、この後来客があるんだ。そこを使いたいから別の場所に移って貰えない?」紅葉の言葉に、萊智の身体は岩のように固まった。そして絶望の眼差しを彼女にゆっくりと向けた。

 

「…どんな顔をしても無駄だ。」紅葉は萊智に対して情けはかけなかった。萊智はゆっくりと机の上を片付け始めた。

 

 

「仕方ない。僕が良い場所を提供してあげよう。」

 

「貴峰さん…!」前の昼食の時といい、彼はタイミングよく手を差し伸べる…ある意味天使のように萊智は感じた。絶望の表情は一瞬にして笑顔に変わった。

 

 

「…別に、お客さん帰るまで自分の家でやれば良いのに…」

 

「…きっと、過度な倹約家なのだろう…。」その様子をメリアと紅葉は遠目に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萊智と一犀がここを去ってすぐ、入れ替わるように紬葵が後ろに2人ほど連れてやってきた。

 

「隊長、依頼人を連れてきました。」彼女は、そう言って後ろの2人を見た。1人は、シルクのように滑らかな髪をしている可憐な女性だ。その後ろには、黒いスーツに紫色のネクタイをしているガタイのいい男がいる。

 

「…ようこそ、依頼人の『皆川』さんですね。」紅葉は女性の方を向いて確認した。

 

「はい、初めまして…」皆川、と呼ばれた人物は軽く会釈した。後ろの男は、目の前にいる紬葵、メリア、紅葉を見回し、皆川の耳元に口を寄せ、敢えて周りに聞こえるような声で話す。

 

「…ここにいる女達が、本当に解決してくれるのか?」

 

その言葉を聞いたメリアは顔をムッとさせた。紬葵も心の中で不快感を感じたがここでは抑えた。

 

「…ですが、もう頼れる所はここしかないのです。青木、失礼のない様に。」

皆川の言葉に、青木という男は黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一犀は萊智を連れてとある喫茶店に来ていた。東京の郊外にあるその店は、平日の昼間という事もあり、午後のひと時をゆっくり過ごそうと暇を持て余した大人達が静かにコーヒーや食事を楽しんでいた。

 

「本当、貴峰さんはいろんなところを知っているのですね。」萊智は、ミルクと砂糖が少し多めに入っているコーヒーを飲んだ。

 

「…まぁ、僕にかかればこれぐらい…」一犀は、店長が常連客である彼のためだけに特別に作った紅茶を一口飲んだ。

 

「…それに君がこうして喜ぶ姿を見ると、昔の友人を思い浮かべるのだよ。」一犀はいつも見せる貴族風の笑いではなく、人としての優しい笑顔を薄らと浮かべた。

 

「…どんな人なんですか?」萊智はその話に興味を持った。

 

「…もう10年以上も前、高校生の時の話。その友人は女性でね。非常に積極的な人だった。」萊智は、一犀の年齢が想像以上に若かったことに驚いたが言葉にしなかった。

 

「…自分で言うのもなんだが、僕は高校時代モテていてね。周りの女性は皆、僕を高級料理のフルコースみたいに遠慮があった。仮に僕と話をしても、無理矢理高級料理に話を合わせようとする人ばかりで、本当の自分を話してくれる女性は居なかった。そんな中、彼女は…『紫苑』だけは私に対して普通に接してくれた。」

 

「それが、貴峰さんの初恋、なんですね。」萊智は、コーヒーに口をつけた。

 

「確かに、言われてみればそうかもしれないな。男にとって初恋は、忘れられないものだね。」

 

「そうですね…」同じように初恋が実らなかった萊智にその言葉はいつも以上に大きく胸に届いた。

 

 

「…君は今頃、どこで何をしているのだろうか?」

一犀は、窓の外をぼんやりと眺めた。

 

 

「そういえば、なんで貴峰さんはデジタルセイバーの戦士として戦っているんですか?」萊智は、ふと気になっていたことを聞いた。

 

「そうだね…僕が通っていた大学が、デジタルセイバーと協力して電脳科学について研究していたんだ。僕は元々興味なかったのだが、当時大学側の責任者にスカウトされてね。大学を出ても行き先が決まっていなかった僕はとりあえずその誘いに乗ったんだ。」一犀は、特に嫌がる様子を見せず、むしろ自慢げに話し始めた。

 

「…なんでスカウトされたんですか?」

 

「そりゃ、僕は大学でも優秀だったからね。当然だろう?」

自尊心の塊の様な受け答えに萊智は心の中で笑ってしまった。軽蔑よりも単純に変わった人だな、と言う意味で。でも、悪い人ではない。そう彼は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、どの様な依頼なのですか?」

紅葉は、2人と机を挟んで向かい合う様に座った。メリアは自室に戻り、紬葵は彼女の後ろに立った。

皆川は、口を開いた。

「…実は、最近私の周りで不可解な事件が起こるんです。」

 

「具体的に言うと、どの様な?」

 

「…最初は機材がトラブルを起こす程度だったんです。買ったばかりのマイクや録音装置、それらが立て続けに…」皆川は、ゆっくりと自分の中で整理しながら話す。そこに青木が割って入った。

 

「まだ、その頃は良かった。だけど、そしたら今度は彼女の動画を見た人達が次々と昏睡状態に陥り始めただのと変な話が流れ始めて…」

 

「あの、失礼ですが…ご職業は…?」

 

突然の紬葵の質問に対して、皆川は苛立ちもせず素直に答えた。

 

「…ネットアイドル、です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電脳世界、某地点…

 

「ヒネノ様、私をお呼びですか?」

 

翠髪の少女の後ろには、巨大な剣を提げている、ソードフィッシュ・バグビーストの姿があった。

 

「ソード、作戦を始めるわ。その先陣を貴方に任せる。」ヒネノは窓の外にある電脳世界の景色を見ながら指示を出した。

 

「承知…。」ソードはその場を後にした。その彼とすれ違う様に、グリットが入ってきた。

 

「…遂に貴方が動くのね。どんな作戦か、聞かせて貰おうかしら…ヒネノ(シャーク)。」

 

ヒネノは、グリットの方を向きしばらく見つめた。そして、「フッ」と鼻で笑った。

 

「見てれば分かるわよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…外が騒がしくないか?」一犀の言葉で萊智は外を向いた。

 

目の前の通りでは、市民達が一斉に同じ方向へ走っていた…恐怖の顔を浮かべて。異常事態である事を即座に感じた2人は店の外へ駆けた。

 

 

 

「…全員ここで串刺しにしてやろう…。」

 

そこには、ソードフィッシュ・バグビーストが、逃げ遅れた人達に次々と剣を振り下ろす姿があった。

 

「…随分と、悪趣味な魚だな…」一犀はスマートライザーをすぐさま取り出した。

 

「…俺が人々を救助します…貴峰さんは…」

 

「勿論、僕は貴族…それぐらいのこと、言われなくても分かるさ…変身!!」

 

[Rider Sense!][Rider Cyver!]

 

2人の戦士は、混沌の渦中へ走り出した。

 

 

 

 

 

その様子は来客のいる拠点で見られている…。

 

「…丁度いいですね。この戦いを見てもらえれば、我々の事も、多少なりとも信頼、してもらえますよね?」紅葉は青木の方を向いた。青木は特に受け答えはせず、映し出されている架空の様な現実を眺めていた。

 

 

「…あの紫の…」皆川は、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!!!」センスの空中からの突きをソードは剣で受けた。

 

「…その程度か!」ソードはセンスを剣で薙ぎ倒し、回し蹴りで吹き飛ばした。

 

センスは、地面に倒れた…しかし、すぐに立ち上がり背中のマントについた埃を払った。

 

「丁度いい…新しい力を試させてもらう!」センスはスマートライザーで新たなアプリを起動させた。

 

センスの右腕が濃紺に染まり始めた。右肩には、『I』の文字を模したアイコンが現れ、手首より先端は白色に変わった。

 

イラストメイクアプリの力を得たセンスに、ソードは水を纏ったエネルギー弾を放った。

 

それに対してセンスは空中に紫色の円を描き、そのエネルギー弾を全て吸収した。

 

そして、力を吸収した事で金色に輝く円を手にするとチャクラムの様にソードに向かって投げた。

 

「ぐっ!!」ソードは突然の反撃を真正面に喰らってしまい、剣を持っていた右腕に怪我を負った。

 

「…私の右腕をよくも…!」ソードは怒りに震えた。剣を左手に持ち替え、センスに向かって走り出した。

 

「まだやるのか…!」センスは槍を構えソードの攻撃を受け止めた。

そして、抑え込んでいる内に右腕を構え、今度は赤色の炎を描いた。そしてそれをソードの脇腹に撃ち込んだ。

 

ソードは苦手な炎の攻撃でより弱体化してしまった。

 

「…私が…こんなところで…!」ソードに立ち上がる力はなく、戦う気も無くなっていた。

 

「これで止めだ…!」センスが槍を構えた直後、ソードの身体が突然画面外から縛り付けられた。

 

「なんだ…!」まるでタコの足の様なそれはソードを撤退させるかの様に外へ引き摺り込んだ。そして、センスに一撃を与え追われないようにし、その足は消えた。

 

 

 

「…今のは…一体?」センスは変身を解いた。

 

「…こっちも終わりました。」萊智もサイヴァーの変身を解いていた。

 

「…そうか、アイツには逃げられてしまった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一犀と萊智は今回の件を報告すべくデジタルセイバーに帰ってきた。

 

そこには、いつもの3人に加え、彼らの戦いを見ていた来客の姿もあった。

 

「帰ってきたみたいね。」紬葵がそういうと、皆川は2人の方向を向いた。

 

「ただいま…?」萊智は、見知らぬ男女の姿に気がついた。声を掛けようと口を開くが、女性の方が明らかに自分の後ろにいる一犀の方を向いている事に気がついた。

 

「…!君は、まさか…!」一犀は、彼女が誰であるか気づくのに容易だった。

 

「…そうだよ…久しぶり、一犀。」彼女は、彼の名を呼んだ。

 

 

 

一犀は彼女の名を久々に呼んだ。

「…紫苑…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に初恋の相手、紫苑と再開した一犀。そして彼女のボディガードとなった彼の目の前に再びあのタコの影が迫る…!

次回、第10話 初恋・リピート
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