仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第10話 初恋・リピート

 

 

 

 

 

僕のこの眼には、紛れもなく彼女が写っていた。

 

「…!君は、まさか…!」突然の出来事に、つい動揺してしまった…こんな事があるのだろうか…

 

「…そうだよ…久しぶり、一犀。」彼女は、確かに僕の名を呼んだ。

 

 

「…紫苑…。」僕は、整理の付かない脳から、口にその言葉を出すよう仕向けた。

 

 

 

 

「えっと…どういう関係?」この状況を理解していない紬葵は聞く。

 

「…もしかして、さっき言ってた人って…。」萊智が、数刻前の話題を思い出した。

 

「ああ、彼女の事だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソード…油断したわね。」

 

ヒネノは、センスにやられてボロボロになったソードを蹴り飛ばした。

 

「…申し訳、ありません…。」ソードは痛みに耐えながら声を発した。

 

「ヒネノ様、その辺にしておきましょう。」

 

「オクトパス…」そのヒネノの後ろには、ソードを救出したバグビースト、オクトパスの姿があった。

 

「…ソードはまだ戦える。ここで処分するのは勿体無い。」

オクトパスの言葉に、ヒネノは特に答える事はない。

 

そして、「外の空気を吸う」と言い残して部屋を出た。

 

 

 

「…命拾いしましたね…ソード。」オクトパスは、先ほどのヒネノに対する丁寧な口調を捨て、憎たらしい声をソードに投げた。

 

「オクトパス、何を企んでいる?」ソードは、オクトパスを見上げた。

 

「…別に、何も企んでませんよ…。」彼はソードに近寄り、ツノを掴んで顔を近づけた。

 

「仮に企んでいたとしても、お前みたいに戦う事しかできない奴(馬鹿な戦闘狂)には言わねぇよ…」そう吐き捨てると、彼は次の作戦の為に部屋から姿を消した。

 

 

「…反吐が出る奴だ…」誰もいない事を見計らったソードは、近くにあった椅子を勢いよく蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

3時ごろ、僕は再開した紫苑と共に先程まで萊智と来店していた喫茶店で過ごしていた。

 

「また、会えるとは思ってなかった…。」

 

戻ってきて早々注文した紅茶を一口飲んだ。

 

「そうだね…私、会えて嬉しい。」彼女は、遠慮のない笑顔を見せた。あの頃から変わらないその顔に、僕は惚れていたのかもしれない。

 

彼女は、僕の方を向いた。

 

「…私、決めた。一犀に…デジタルセイバーに、この事件の解決を依頼する…。」

 

彼女はそう言って僕の前に手を出した。『契約成立』を示す握手をしたいのだろう。僕も迷わず手を出し、握りしめた。

 

「賢明な判断だ。バグビーストの事件は普通の人間には解決できない怪異だ。それに、僕がいるのだからそんなもの一瞬にして解決して見せよう。」僕は胸を張って答えた。

もちろん、根拠の無い自信を述べているわけでは無い。デジタルセイバーは精鋭が揃っている。解けない謎などない…。

 

 

 

 

 

翌日、早速僕が招かれたのは彼女の家だった。クリーム色の壁と赤い屋根が特徴的なその家は、同時に彼女の仕事場の一つでもあった。インターホンを鳴らしてすぐ、玄関の扉が開かれ紫苑が出迎えた。

 

「おはよう。今日からよろしくね。」そう言って僕を中に招き入れた。

 

「お邪魔します…。」玄関から入るとまず、左手側に木製の綺麗な靴箱が目に入った。一足一足が綺麗に収納されており、彼女の綺麗好きを感じさせる。

 

玄関から上がりスリッパに履き替えたら、目の前の廊下を進む。そして階段を登り2階の奥の部屋に連れて行かれた。

 

撮影スタジオであるこの部屋には、映像合成の為のグリーンバック、歌を録音する為のマイクをはじめとした録音機器、動画編集の為のPCが並んでいた。恐らく、昨日本部で話した機器の故障はこれらの事だろう。

それにしても、ここで全て作業していると思うと、動画配信者も大変なんだろうとよく感じる。グリーンバックは要らないかもしれないが、それ以外は揃えなければ話にならない…動画を見ている人間からしてみれば、簡単そうに見えるが、実際は苦労して作っているのだろう。

 

 

「お待たせ、みんなを連れてきたよ。」

 

「みんな?」紫苑の後ろには、昨日来ていたマネージャーの他、2人の人物がいた。

 

「改めて紹介するけど、マネージャー兼企画担当の青木江。」ガタイのいい男は睨みつけるように僕を見た。紬葵達から聞いた通り、第一印象は最悪だ。

 

「続いて、こちら編集担当の富士井一輝さん。」

 

「初めまして!」

メガネをかけたザインテリ人間は、一礼した。どうやらここにいる補佐役が皆青木の様な訳ではないみたいで少し安心した。

 

「最後に、カメラマンの櫻井博雅さん。」

 

「こんにちは、カメラマンの櫻井博雅です。」

随分と若く見える割に、年季を感じさせる重厚感がある。彼もまた、青木とは違い礼儀はあるみたいだ。

 

「そして、今回私が依頼したデジタルセイバーの貴峰一犀。彼は私の幼馴染だから、安心して。」

 

「初めまして、デジタルセイバーの貴峰一犀です。よろしくお願いします。」僕は頭を下げた。それにしても…安心して…彼女の言葉から察するに、僕らは警戒されている様だ。

 

「はじめに言っておくが、どんな事があっても撮影の邪魔だけはするんじゃないよ。お前は特別に入れるんだからよ。」青木は強気な態度で僕に言った。

 

「それぐらいの節度は弁えているつもりなので、その心配はございません。」僕も負け時と強気な姿勢を示した。そう簡単には言いなりにはならないというのを見せつけたと言ってもいい。

 

「青木さんに強気に出られる人がいるなんて、珍しいですね。」櫻井は笑って僕を見た。

 

「それじゃあ、そろそろ撮影を始めましょうか。」彼はそう言ってカメラスタンドを用意し始めた。

 

「じゃあ、僕は配線関係を確認してきます。」富士井はそう言って機材の方へ向かった。

 

「…今日はこの後打ち合わせがあるから俺は抜けるぞ。」青木はそう言って部屋を出て行った。彼が居なくなった分、大分空気が軽くなった気がする。

 

 

 

 

 

それから数十分後、撮影が始まった。カメラの前には、紫色の長髪のカツラを身につけた紫苑の姿がある。櫻井は合図を出すと撮影を開始した。

 

「皆々様、こんにちは!パープルリバーが紫色の元気を送ります!」

 

紫苑のネットアイドルとしての活動は昨日少し調べた。彼女は5年ほど前からいわゆる『歌ってみた』系の動画を投稿していた。そんな彼女が陽の目を浴びたのは始めてから一年立つ頃に投稿した『[フレスベルグの少女]を歌ってみた』という動画で人気を獲得し、現在は歌うだけでなく、商品レビューやゲーム実況、更には有名配信者とのコラボまでこなす新世代のスターの様だ。

ちなみに、彼女が有名になった原因の動画で歌った曲、フレスベルグの少女とは2019年に出たゲームのテーマ曲らしい。確か『ファイヤーエンブレム花鳥風月』だったか…なんか微妙に違う気もする。

 

そんな事はどうでもいい。それより、今日はレースゲームの実況をやるみたいだ。カメラは彼女の反応を写すためにあるのだろう。

 

「ええ!!ここでサンダーはないでしょ!アイテム取れてたら絶対回避できた!!!!」

 

なんとなく、ゲームで負けそうになって声を上げる彼女の姿に一瞬驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、青木は打ち合わせを終え昼食を摂るべくファストフード店に向かって歩いていた。

 

「はぁ…調子狂うな…なんだよ、どいつもこいつも…!」どうやら気に入らない事があったらしい。今にも襲いかかって来そうだ。

 

「…そうですか…なら、私と手を組みませんか?」

 

その時、彼に向かって突然声が聞こえた。

 

「誰だ?ふざけるなよ…」

 

「ふざけてなど居ませんよ。私と手を組めば、デジタルセイバーの連中を追い払ってやりますよ。」

 

その声は、青木が質問するよりも早く話す。青木は、その言葉に、反応した。

 

「…分かった。で、俺はどうすればいい!」

 

「…私に黙って憑かれればいい…!」その時、彼の持つスマホから突然タコの足が生えた。それらは青木の身体を一瞬にして包み込み、タコの怪人、オクトパス・バグビーストに変えた。

 

「哀れな人間だな…簡単に口車に乗せられてしまうなんて…」オクトパスは青木の姿に変わった。というより、自身の力を隠し青木に化けたと言っても差し支えない。

 

「さて、始めるとしますか…。」

 

 

 

 

 

その頃、スタジオでは撮影も終盤に差し掛かっていた。

 

「それでは、次回の動画でも会いましょう!さらば!」

 

パープルリバーの締めの挨拶で、撮影は終了した。

 

「櫻井さん、今日もバッチリ撮れた?」紫苑はカメラを確認している櫻井の隣から覗き込んだ。

 

しかし、櫻井はすぐに答えなかった。むしろ、「何かおかしい」という顔をした。

 

「あれ、再生できないですねー。」そう櫻井が言ったその時だった。

 

カメラから突然「タコの足」が現れ部屋中に広がっていく。カメラを見ていた2人は驚いてカメラを手放し後ろに下がった。富士井はその瞬間を見ていなかったが、タコの足の一本が自分の目の前に現れ混乱していた。

 

「みんな下がるんだ!」僕は咄嗟にスマートライザーを構えた。

 

そして、紫苑に迫る足を槍で串刺しにした。

 

「…一犀!」

 

串刺しにされた事で墨を血飛沫の様に撒き散らし部屋中が黒く塗りつぶされそうになる中、僕はセンスに変身した。彼女にかかるはずだった墨を受け止め、すぐさま敵がいるであろうカメラの向こうへ侵攻した。

 

 

 

 

 

 

画面の向こうでは、オクトパスが触手のように伸ばしていた足を縮め体に収納していた。

 

「テスト完了…」

 

「人の家に侵入するなんて、いい点数は取れないんじゃないのか?」そこへ、墨をかけられた事でやや黒ずんでいるセンスの姿があった。

 

「テストを受けた奴が採点している途中に割り込むとはね…それこそカンニングじゃないのか?」オクトパスは、自身の触手を一本切り取り、杖に変えた。

 

「カンニングは、テスト中にするものなのだよ!」センスは、右腕をイラストに変えオクトパスに迫る。槍を突き出し、腹部を貫く。

 

確かに貫き、致命傷を与えたはず…しかし、オクトパスは痛む様子を一切見せない…。

 

センスは槍を引き抜く。すると、貫いた箇所が一瞬にして埋まった。

 

「タコには、再生能力があるんですよ。そんな知識も持ち合わせていないのなら、赤点ですよ。」

 

「生憎、大学では生物じゃなくて地学をやっていたから知らなくてね!」

 

センスは槍を地面に突き刺し、大波を空中に描いた。自身の身体の汚れを洗い流すのも含めて大波をオクトパスにぶつける。

 

「馬鹿め、タコが海に住んでることすら知らないのか。」オクトパスは大波を受け止め、反撃に転じた。杖をセンスがいるであろう場所目掛けて突き刺す。

 

しかし、波が晴れた後、そこにセンスの姿はない。

 

「どこへ行った…!」周りを見渡すが、姿は一切見えない…どこへ…

 

「下だよ!」センスは、炎を纏った槍を地面から飛び出すと同時にオクトパスを切り裂いた。

 

「知らないのか、これが『たこ焼き』というやつだよ!」センスはそう言って追撃する。

 

「自分の食べられ方なんて知りたくもないね!」オクトパスも杖を伸ばし、センスの槍と激突する。

 

しばらく均衡し合い、2人は攻撃の反発で後ろに押し返された。

 

オクトパスは、正面からでは勝てないと判断し墨を撒き散らしセンスの視界を覆った。

 

「その手で来るか…」センスは、左腕にサーチを発動させた。そしてオクトパスの位置を捜索する。

 

その間、闇の中から次々と攻撃が与えられるが、全て耐える。

 

数秒で位置を把握した。しかし、俊敏に動く敵に対して槍をすぐさま振るうのは不利だ。タイミングを見計らう事にした。

 

オクトパスが後方から迫る…今だと確信したセンスは振り返り槍を突き刺す。

「何…!」槍で貫かれたオクトパスは、自分で槍を引き抜き後ろに下がった。

 

「…さあ、これで調理は終わりだ!」センスは空中に二重丸を描いた。そこに左腕のレーダーをかざし、超音波に変えて攻撃する。

 

全身が震えて身動きが取れない。オクトパスは立っていることすらできない…。

 

[Blake finish!][Sense strike!]

 

その隙にセンスが飛び上がり、必殺のキックを放つ。紫色のオーラがオクトパスの胸部に激突、身体を抉り、そして貫く。

 

「…この借りは、必ず返す…!」オクトパスは、そう言って爆散せず姿を消した。

 

「…逃げられたか…!」

 

 

 

 

 

スタジオに戻ると、部屋中にかかった墨を皆で拭き取っていた。櫻井と富士井も墨がかかったはずだが、綺麗に拭き取られていたことから戦闘中に洗い流したのだろう。

 

「おかえり、どうだった?」僕が帰って来た事に気づいた紫苑が声をかける。

 

「…逃げられてしまった。すまない。」僕は彼女に謝罪した。いくら幼馴染とはいえ、今はボディガードと依頼人の関係だ。当然であろう。

 

「ただいま…ってなんだよこれ!」そこへ、この現状を作り出したオクトパスに憑かれた青木が鬼の形相で帰宅した。

 

「あなたがいない間にバグビーストが来たんですよ。」青木は、表情を変えず怒りに満ちている。

 

「ですが、心配なく。もちろん、撮影の邪魔はしませんでしたよ。」僕は先程言った『撮影の邪魔をするな』という事に対して言及をした。その時、一瞬青木の表情が解けた。

 

「…そうですか、ならいい。」そう言って彼は着替えてくると言って一旦部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 




ボディガードとして一犀が戦う一方、萊智達は彼女の動画を見て被害に遭った人達を調査する事にした…

次回、第11話 もう1人の歌い手
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