「あれ、貴峰さんは?」
今日もデジタルセイバーにやってきた萊智は、いつもならいる彼の姿を探した。
「一犀なら、今日から彼女のボディガードでしばらくこっちには来ないから。この件は僕に任せてくれとか言ってたけど…。」紬葵はスマホを操作しながら答えた。
「2人とも来たね。」そこへ、紅葉が資料の束を持ってやって来た。
「早速で悪いけど2人に仕事だ。」
「俺達は何をすればいいんですか?」萊智は聞く。
「2人には、今回の事件で起こっているもう一つの事、「動画視聴による昏睡事件」だ。」
「確かに、皆川さんもそんな事言ってましたね…」紬葵は昨日の会話を思い出しながら答えた。
「被害者のうち何名かは既に意識を取り戻している。その人達の聞き込みに行ってほしい。」
早速デジタルセイバーを出た2人は、最初の被害者の元へ向かった。その最中、この事件の特徴について調べた。
・対象となる動画は彼女が初期に上げた動画
・パープルリバーの動画視聴中に倒れる
・昏睡は3日から1週間程度
・目が覚めた後、特に生活に異常がない
これらから考えるに、バグビーストの可能性はなくはないだろう。しかし、だからといって奴等であると断定もできない。それをハッキリさせる為の聞き込み調査だ。
2人は、最初の被害者と住宅街の中にある公園で待ち合わせた。平日の午前中だからか子どもの姿は少ない。
「こんにちは、太刀筆さんですか?」そこへ、二十歳手前の男の人が2人に声をかけた。最初の被害者である紀本という男だ。
「昏睡した時の事を教えて貰えませんか?」紬葵は早速質問をする。
「…その日は、いつものように動画を開きました。そして、再生を始めてすぐ、画面にノイズが出て来たんです。接続が悪いのかなって思って操作しようとキーボードに触れたら、突然『脳が感電』したかのように衝撃が走って…次に起きた時には4日位経ってました…」
その後も、他の人達に次々調べていく。紀本の様に若い人や、少々危険な香りがするおじさんや引きこもりの少年、更には女性と様々な人々話を聞いた。
その被害者達は全員口を揃えて「ノイズが起きた後、それを直そうとしたら気を失った」と答えた。
その工程だけで既に日が暮れようとしていた。
「今日は私が奢るから一緒に何処かで食べましょう?」紬葵の奢りで萊智が連れられたのは、和食レストランだった。丁度天ぷらが食べたい気分だったが為に、彼は真っ先に天丼定食を頼んだ。
「今日は、なんかあまりいい収穫はありませんでしたね…。」
萊智は定員が運んできたお冷を一気に飲み干した。
「…そうかしら?」紬葵は、萊智にそう聞き返した。
「今日聞き込みをしただけで全員ではないけど、殆どの人が「ノイズが起きた後気を失った」って答えた…」紬葵はあえて証言を強調した。萊智に気づいて貰うべく。
「そうですよね…俺も飽きるほど聞きましたし。」しかし彼は気づかない。
「ただ、1人だけ違う証言をした人がいる…」紬葵は彼に顔を近づけ小声で言った。
「…違う…?」まだ彼は分からない。
「ノイズが起きた後、『脳が感電』したかの様な衝撃で倒れた…」そこでようやく萊智は誰であるか気がついた。
「…最初の被害者の紀本…。」
「ええ、最初は彼がハッキリ覚えていて、それ以外が忘れている…そう考えましたけど、流石に数十人聞いていて、そのうちの2人は昨日目が覚めたばかり…その人達ですらその強い感覚を覚えたいないだなんて不自然よ。」紬葵は自分の思考を述べた。
「確かに、不自然極まりないですね…」
「まだ、明日も聞き込みをするから彼以外にもいるかもしれないけど、今日の結果から察するに、恐らく彼には何かある…」
同じ時刻、紀本は何も付いていない、真っ黒な画面のままのPCに向かって言葉を発した。
「今日、デジタルセイバーの連中が、調査にやって来ました。」すると、PCの画面に、サメのバグビーストの姿が現れた。
「…そう、で、言われた通り証言した?」
「はい、言われた通りに…。」
「…分かった。明日、奴らに攻撃を仕掛けなさい。タイミングは貴方に任せる。」
「了解しました…。」紀本は、ワニの幻影をちらつかせながらそう答えた。
翌日、2日目の捜査を開始した萊智と紬葵は、既に2人ほど調査を終えて3人目の被害者の家に向かっていた。
先程の2人も、紀本以外の人間と同じように「ノイズが起きた後気を失った。」と答えていた。
「やっぱり、紀本が怪しいですね…」萊智は歩きながら紬葵に話す。
「確かに、今日はこの人が最後だから、その後彼の所にも行ってみましょう。」2人が会話をしているうちに、最後の被害者が住むマンションの前に着いた。
「どうやらここみたいですね。」地図を見ながら萊智はいう。
2人がマンションの中に入ろうとしたその時、目の前から人が現れた。若い男…紀本だ。
2人は突然現れた紀本に驚き、そして警戒した。
「…今日も調査ですか…精が出ますね。」紀本は萊智に近づく。
紀本は2人が自分に対して警戒している所まで気がついた。しかし、それでも余裕の表情を見せつけている。
「アンタ…こんな所で何を?」紬葵は聞く。
「…散歩、って隠しても意味ないですよね。」彼はゆっくりと2人に近づいた。
「俺は、この人間に憑いて、いろんな奴の知識を習得した。その際、数日ほど昏睡状態に陥るみたいだが。」紀本は口調を変え、本来の強気な言葉で話す。
「お前が…他の人達を…。」
「そうさ、全ては…将軍の…我々の為に。」紀本はそう叫ぶと自身の姿をワニのバグビースト、クロコダイル・バグビーストに変えた。両腕にはそれぞれワニの顎を模したブレードが装備されており、頭部には全てを噛み砕く牙がある。
「…お二人の運命は、ここでジエンドだ。」
「…ですって、紬葵さん。」2人はスマートライザーを構えた。
「私は喰らいついてでも生き残るわよ。」
「「変身!!」」
[Synchro UP!][Gaming Cyver!]
[Server connection…][Rider Pencil!]
サイヴァーとペンシルはそれぞれ剣を構え、クロコダイルに向かって走り出す。クロコダイルは2人の斬撃を両腕で防ぐと、硬い装甲を纏った右脚で蹴り飛ばした。
「硬い…だったら、この前の大剣で叩き斬ってやる!」サイヴァーはそう言うと、左手を伸ばしあの剣が来るよう念じた…が。
「あれ…?なんで来ないんだ!」
「茶番だな!」剣が出現しない事に混乱しているサイヴァーにクロコダイルは斬りかかった。
「どうやら、一回変身を解くとリセットされるみたいね。」ペンシルは考察を述べ、左腕にトランスファを装備しクロコダイルに攻撃を仕掛ける。
背面を斬られたクロコダイルは標的をサイヴァーからペンシルに変え攻撃を仕掛ける。
「…仕方ない、だったら新しく召喚するか!」サイヴァーは前回と同様、空中に出現した赤い水晶玉を砕き武器を手にする。
今度は、青と金色の刀身が少し変わった形をした剣だ。
「前もそうだけど、赤を砕くと剣が出てくるのか…。」
サイヴァーは左手にそれを持ち、ペンシルに加勢する。
クロコダイルはいくら硬い装甲があるとはいえ、相手の2倍の斬撃を防ぎきれず後ろに後退する。
「…貴様らに大義名文なんて存在しないのだろうな。」不利になった所で、攻撃方法を言葉に変えた。クロコダイルは、2人を見てそう言った。
「人間に害をもたらすものを倒す。それが俺たちの大義だ。」サイヴァーはそう言い切ると、必殺技を発動させた。[Blake finish!][Cyver critical!]
そして、召喚した青の剣を組み替え銃にする。そして、クロコダイルに向かって撃ち込む。
「なっ!」クロコダイルは剣でその攻撃を防ぐが、それが仇となった。
「…割れて!」その隙に懐に入り込んだペンシルに剣を叩き斬られてしまった。
その攻撃に気を取られ、クロコダイルは次の攻撃を見失っていた。
「…喰われて!」サイヴァーの剣がクロコダイルの腹部を貫き、クロコダイルの戦力を削ぎ落とす。
最期に、2人はクロコダイル向かって飛び蹴りを放つ。
「「砕け散れ!!」」ダブルキックは、クロコダイルの身体をその言葉の通り砕き、爆炎を散らす。
変身を解いた2人は、最後の被害者の部屋を訪ねた。
「木梨さんですか?」
「はいそうです…」そう答えた人物は、まだ高校生だった。今日は登校日だったらしく、帰ってきてまだ1時間も経っていなかった。
2人はテンプレのようにいつもの質問をする。そして木梨も案の定、「ノイズが起きた後気を失った。」と答えた。
「そうですか、わざわざお時間いただきありがとうございます。」それから数分、聞く事を聞き終えた2人は部屋を後にしようとしたその時…
「あの、少し気になることがあって…。」木梨は2人を呼び止めた。
「実は、ネットの噂で聞いたんですけど、何者かが、パープルリバーを追い落とす為にこういう事をしているって…」
「追い落とす為…一体誰が?」萊智は聞いた。
「同じ歌を動画配信で扱ってる…『ヒネノ』と呼ばれる配信者です…。あくまで噂なんで、真実かどうか分かりませんが…。」
「クロコダイルは、死んだようね…。」
ヒネノは、後ろにいるオクトパスと、2mはある大きな身体が特徴的なバグビースト、ホエールに向かって圧力をかける為に言った。失敗は許されないぞ、と言う意味の。
「…そろそろ、我々も手をこまねいている場合ではないようですね。」オクトパスは助言した。
「…そうね。強気な姿勢を、奴らに見せてやりましょう。」ヒネノはそう言って口元をニヤリとさせた。
徐々に真相に近づく中、一犀はとある可能性を感じ始める。そして萊智達は真実に近いであろう人物、『ヒネノ』の周りを探る…
次回、第12話 今宵も凶暴なシンガー