仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第12話 今宵も凶暴なシンガー

 

 

彼女(紫苑)の護衛を始めてから1週間が経過した。その間、僕の知らない所で萊智達はバグビーストに遭遇し撃破したそうだ。

 

その一方、僕の方は初日にオクトパスに襲われて以降、特に目立った異変は起きていない。

 

が、違和感はあった。

 

青木江…彼の様子が1週間前、もっと言えばオクトパスに彼女が襲われて以降…彼の口調が少し変わった…ような気がする。

 

出会った直後は、簡単に言えば短気で、人柄の悪い、物で例えるなら炎の様な、そんな雰囲気だった。だが、ここ最近の彼は少し変わっている。

 

突っかかり方が変わったと言ってもいい…例えば、イベントに彼女が出席する時…

 

「僕としては、今回の出演は控えるべきだ。まだ事件が解決出来たわけでもないのに…」と言った際、当然の様に彼は突っかかってくるのだが。

 

「本当は、自分がずっと見ていたいだけじゃないのか?」

 

そう返された時は驚いた。「本当は護衛できる自信がないからだろ?」と言われるとばかり思っていた為に反論の手が遅れた。

 

「…そんな事は…。」

 

「どちらにしろ、アンタの意見でイベント中止なんてできないんだから、何言ったって無駄ですよ。」

 

 

だが、僕は彼と何年も関係が続いている訳ではないから、確証がある訳ではない。だからこそ、僕より長い付き合いであろう櫻井と富士井にふと聞いてみたが、どちらとも、「気のせいだろう」「いつものこと」と言って相手にされなかった。

 

 

本当に、気のせいなのだろうか…そう思って色々探ったが、とうとう1週間経ってしまった。

 

 

「今日はニッコリ感謝祭の運営側と打ち合わせがあるんで。」青木はそう言ってスタジオを後にした。

 

「ニッコリ感謝祭?」初めて聞いた…そんな祭りどこでやっているのだろうか…?

 

「私が配信しているサイトの一つ、ニッコリ動画の運営が主催のイベントだよ。私はそこで初めて人前で歌うんだ。」紫苑は僕の心を読んだのかと言わんばかりにその祭りの解説をしてくれた。

 

「なるほど…つまり君の晴れ舞台という訳か。」

 

「そう言うことだね。」彼女は、僕から顔を逸らした。それに、その口調も不安げで、彼女らしくない。

 

「…どうかしたのか?」そう聞くも彼女は「なんでもない」と言って部屋を出た。

 

緊張…かもしれない。だが、僕からすれば怯えている様にも見えた。バグビーストが襲ってくる…そう思うと、気が気でないだろう。こう言う状況が1週間も続いているのだから、尚更。

 

ならば僕がやるべき事は一つ…この事件を早急に解決させる。ただ一つ。それが今、僕に課せられた『現代貴族』としての務めなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「私の準備はいつでもできています。ヒネノ様。」青木の姿で、オクトパスは目の前にある彼女に言った。

 

「…そう。後、人間界にいる時にその呼び方はやめて貰えるかしら。」彼女は、電脳世界にいる時と違い髪の色が翠色から茶色になっている。

 

「…すいません、つい癖で。」彼は軽く詫びた。

 

「…まぁいいわ。作戦の決行日は明後日…いいわね。」

 

「承知しました…。」オクトパス…青木は部屋を後にした。その彼に入れ替わる様に彼女のマネージャーと思われるメガネを掛けた女性が出てきた。

 

「村雨さん、今の方は…?」彼女は来客について知らなかった様だ。ヒネノは、一呼吸置いてから口を開いた。

 

青木江(スパイ)…オクトパスと言った方が分かりやすいかしら?」

 

「なるほど…」と彼女は納得した。どうやら彼女もまたバグビーストの一員の様だ。

 

「ホエール、この後の予定は?」ヒネノは彼女に聞いた。他人には自分の真名をここでは呼ばせない癖に、他人は真名で呼ぶ。

 

「この後は、13時からバラエティ番組の撮影があります。」

 

「じゃあ、しばらく暇ね…ちょっと買い物行ってくる。貴方はここで待ってて。」ヒネノはそう言って高級バッグを手にして部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、萊智と紬葵は昨日話を聞いた木梨から出た人物『ヒネノ』に会うべく彼女の所属する事務所がある高層ビルに来ていた。

 

「ヒネノ、4年前から活動を始めたネットアイドル…パープルリバーとは違い顔は全く出さず、自分の動きに合わせてキャラクターを動かして作る…いわゆるバーチャル配信者…その素顔は当然不明…果たして会えるかしら…。」

 

「どうですかね…ここまで割とデジタルセイバーの権限で会ってる人が何人か居ますけど、流石にアイドルは無理なんじゃないんですか?」萊智達は期待半分で中に入って行った。

 

その2人と入れ違う様に、高級バッグを持った女性が外へと出て行く…。

 

 

 

「あの、私達こう言う者なんですけど…」2人は、スマートライザーにデジタルセイバーの証明書の様なものを受付の女性に見せた。彼女は一瞬、まさかここに来るとは思ってなかったと驚いたが、すぐに平静に戻って「どの様な用件でしょうか?」とは聞いた。

 

「実は、ライン事務所に所属しているヒネノさんに会いに来たんですが…」

 

「分かりました。」そう言って彼女は電話を恐らく事務所にかけた。それからしばらく応対したのち、こちらを向いた。

 

「今、ヒネノは外出中でして…マネージャーなら面会できますが…」

 

「分かりました。ではそのマネージャーに合わせて貰えませんか?」萊智は彼女に言った。彼女は彼らの意志を電話越しの相手に伝えると何度か頷き、「分かりました」と最後に告げた。電話を切り、2人を見上げた。

 

「それでは、彼方のエレベーターで12階にお上がり下さい。」2人は受付嬢の案内通りエレベーターで、萊智達は12階にある事務所へ向かった。

 

 

 

 

 

「デジタルセイバーの連中が、ここを嗅ぎつけました。」その頃、マネージャーは電話でヒネノに萊智達の来訪を伝えていた。

 

『分かった…私は2人が帰るまで戻らないわ。怪しまれない様にしなさい。』ヒネノはそう指示して電話を切った。それと同じタイミング、部屋の扉がノックされた。

 

「夢野君、お客様だよ。」所長の彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 

「すぐ行きます。」彼女は、スマホをカバンにしまうと、部屋を出た。そして来客()がいる応対室へと入った。

 

「お忙しいところすいません、私はデジタルセイバーの太刀筆と…」「御定です。」2人は彼女の登場と同時に立ち上がった。

 

「ヒネノのマネージャーをやってます、夢野です。」夢野と名乗った彼女は2人に名刺を差し出した。

 

所長が部屋を出た後、調査は始まった。

 

「最近ヒネノさんと接する中、何か変わった事はありませんでしたか?」紬葵は聞く。

 

「特にないですね…」夢野は内心「貴方達は敵ですよね?」と聞かれるのではとビクビクしていたが、その様子はなさそうで良かった。

 

「じゃあ、周りで何か不審な事があったとか、ないですか?」

 

「そう言ったことも特に…」2人の顔を見ると、あまりいい表情ではない。どうやら収穫はない様だ。

 

「それでは最後に、ヒネノさんはパープルリバーという方をご存知ですか?」

夢野は一瞬、パープルリバーという言葉を聞きヒヤッとした…しかし、それを顔に出さず答えた。

 

「多分知らないと思います。彼女は他の歌い手の方には興味ないですし…」

 

紬葵はしばらく考え込んだ後、「ありがとうございます。」と言って部屋を後にした。

 

 

 

 

2人が去った後、夢野はヒネノに電話をかけようとスマホをカバンから出した。しかし、その必要はなかった。

次を見越したヒネノがメールを寄越していた。内容は…『来客に手土産を差し上げろ』…これは隠語だ。手土産…攻撃という名の…。

 

夢野はそれを確認すると、姿をホエール・バグビーストに変え自身の持っていたスマホから電脳世界に侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

事務所を後にした2人は、行きに乗ってきたエレベーターに乗り込んだ。

 

「…いい収穫はありませんでしたね。」萊智はそう呟いた。

 

「そんな事は無いわよ…」紬葵は、前にもこんな事あった様な…と思いながら話を始めようとしたその時だった。

 

「逃がさない!」その声と共にエレベーターの中が白銀の光に包まれた。

 

 

 

そしてそのエレベーターが一階に到着した時、誰も降りる人は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に包まれ、電脳世界に引き込まれた2人は、即座にサイヴァーとペンシルに変身した。そして、光の向こうで待ち構える敵に警戒した。

 

 

 

光が途切れたその瞬間、2人の目の前に巨体のバグビーストが現れた。ホエールだ。

 

「やっぱり、ビンゴみたいね。」ペンシルは敵が出現したことで、一人で何かを納得させた。

 

「…その『証拠』は存在しない…即ち、当たってないって事さ!」ホエールはそういうと右腕の手刀から放たれる青いエネルギー弾を放った。

2人は咄嗟にその攻撃の範囲から回避した。

 

「…なんかよく分からないけど、お前を倒す!」状況理解ができていないサイヴァーはとにかく攻撃することにした。銃を構えホエールの身体に向かって弾丸を連続で放つ。

 

それらは確かに着弾したが、巨体のホエールに効く様子はない。

 

「そんな豆鉄砲、話にならない。」

 

「だったら、包丁で切り身にしてあげるわ!」ホエールの見えない左後ろからペンシルが剣を構え攻撃を仕掛ける。

 

死角からの攻撃でホエールは、回避に遅れ右肩に切り傷が入った。

 

「…ぐっ、この程度!」ホエールは再び手刀を繰り出した。しかも今度は連続でペンシルはその攻撃に耐えきれず後ろに吹き飛ばされた。

 

「太刀筆さん!」サイヴァーは彼女を助けようと前へ出る。

 

 

「ホエール、遅いと思ったら劣勢になってるなんてね…。」その時、戦場に新たな声が聞こえた。

 

男の声だ…それも中年くらいの、少々年季のある…。

 

「シャーク…将軍…。」ホエールは、サイヴァーの後ろにいる声の方を向いた。それに合わせてサイヴァーも振り返った。

 

「…サメの…バグビースト?」

 

凶暴な牙と鋸の様な双剣を持った戦士は、サイヴァーに近づく。自分が攻撃されると気づいたサイヴァーはゲーミングフォースになろうとスマホに手を伸ばす。

 

しかし、それをシャークは一瞬で近づき左手で押さえた。

 

「スパイダーを倒したその力、使わせない!」そう言って剣で彼の身体を切り裂いた。

 

勢いよく吹っ飛んだサイヴァーは地面に倒れた。

 

「なんだこの攻撃…一撃が…強い…!」そのたった一撃で彼は痛みで起き上がれなくなった。

 

「新人君!」ペンシルは彼を庇おうとシャークに迫る。しかし、シャークはその彼女も簡単に切り飛ばした。

 

最後に、「お前達の負けだ。」と言い聞かせると、翠色のオーラを纏った巨大な剣で2人を遠くへ吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変身が解け、現実世界に追い出された萊智達は、とりあえず起き上がった。

 

「…何だったんだ…」萊智は言う。

 

「…でも、これで確証はついた。ヒネノは間違いなくこの事件の鍵…或いは犯人よ…。」

 

紬葵は、強く言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒネノに、今回の事件の鍵、もしくは犯人であると感じた紬葵は、再び彼女に会いに行くべく進む。その中、再びホエールと敵対する…その一方、紫苑に危機が迫る。

次回、第13話 絶望の歌は止まらない A-PART
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