仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第15話 絶望の歌は止まらない C-PART

「…許さん…待て!!」

 

彼女(紫苑)を追って電脳世界へと向かったセンス(一犀)…彼が入り込んだ時にはすでに、オクトパスは何百メートルも先を進んでいた。

 

「あの男、追いかけて来たか。」オクトパスは応撃はせずあくまで逃げようとする。

 

「一犀!!!!」「紫苑!!!!」紫苑は彼の名を叫び、一犀も彼女の名を呼んだ。

 

「もう遅い…!」オクトパスが足を伸ばしたその時、足の一本が狙撃された。

 

矢が突き刺さった足を見て「待ち伏せか…。」とオクトパスは上を見上げた。

そこには翼を広げ弓でこちらに向かって弓を引いているピジョンの姿があった。

 

「貴様…この女に当たってもいいのか!」オクトパスは彼女を盾にするようにピジョンに見せつけた。

卑劣な奴…ピジョンは心の中で呟き、弓を収納してオクトパスに向かって垂直に飛行する。

 

「馬鹿め!」オクトパスは迫るピジョンに脚を向け拘束しようと試みる。

 

「はあっ!!」ピジョンはそれを身体を回転させて交わそうとした。それによって脚の殆どを振り解いたが、最後の一本が左脚に絡みついた。

 

ピジョンはそれを振り解こうと左右上下に飛ぶ…。オクトパスはそれに必死に喰らい付いていた為に、後方から迫るセンスの槍の一撃に気が付かなかった。

 

その攻撃を無防備で背中に喰らったオクトパスはその衝撃でピジョンと紫苑を手放してしまった。

 

センスはすぐさま紫苑の落下地点に先回りし、落ちてくる彼女を受け止めた。ピジョンも自力で着地し、2人の安否を確認しホッとした。

 

「ぐっ…こうなれば…」オクトパスは、新たな手を放つとセンス達は想像し、構えた。

 

オクトパスは脚を鋭い角のようにして伸ばし、センス達…の後ろにあるコンクリート壁を破壊した。

 

「まずい…!」ピジョンは2人を抱えて即座に脱出しようと試みた。しかし瓦礫が邪魔をし助けにいけない…それにタイミングを逃せば自分まで生き埋めになる…そう考えた彼女はまずは自分だけ一旦離脱した。

 

一方、センスと紫苑は走って脱出を試みるが、こちらもまた瓦礫が邪魔をし、今にも上から迫る瓦礫に潰されそうになった。一犀は彼女だけでもと彼女の上に覆い被さった。

 

その時だった、一台のバイクが猛スピードで接近、生き埋めになる寸前の2人を抱えて脱出した。

 

「なんだと…!」オクトパスの見たそのバイクにはサイヴァーが乗っていた。

 

「よかった…間に合った。」2人を抱えた…と言うよりはセンスを跳ね飛ばし紫苑を抱えて脱出したと言った方がいいだろう。倒れているセンスに「大丈夫ですか!」とサイヴァーは声をかけた。自分のせいなのに。

 

「紫苑は…」突然の衝撃で頭がクラクラしていたセンスはなんとか身体を起こしながら紫苑の状況を聞いた。

 

「うん…私は大丈夫。」紫苑は、半分放心状態になっていたが答えた。

 

 

3人の会話している様子から無事であっただろうとピジョンも察してオクトパスの方に目線を向けた。

 

オクトパスは何もかも上手くいく敵に怒りの感情が沸々と湧いていた。

 

「何故…何故だ…!」その時だった。その彼の怒りに呼応するように突然地面が揺れ始めた。

 

そして、センス達のいる地面が突然『砕け散った』のだ…。

 

「きゃあ!!」「紫苑!」運良くセンスとサイヴァーは崖に捕まった。しかし紫苑はその崖下へと引き摺り込まれてしまった。

 

「今よ…オクトパス。」何が起きたか自分でも分からないオクトパスはふと聞こえたその声で今何をすべきか察しがついた。

 

 

 

 

「一犀!!!!」彼女は崖から落ちながらも彼の名を叫んだ。その彼女の目の前には、飛行能力を持つピジョンが手を伸ばしていた。

 

「私に捕まって!!!!」ピジョンの声に、紫苑は手を伸ばし握りしめた。

 

「よかった…」そう思って再び顔を上げた時、その手には彼女の手ではなくヌメヌメとしたオクトパスの足があった。

 

彼女はそれに勢いよく引き上げられた。ピジョンはその光景に呆気に取られておりしたから迫る巨大な怪魚に気が付かなかった。

 

その怪魚はよそ見していたピジョンを突き飛ばし一気に穴の外へ放り出した。

 

「イッタ…誰?」ピジョンが顔を上げると、そこには巨大なサメが天を泳いでいた。

 

「将軍…感謝します。」紫苑を抱えたままのオクトパスはこの場から退却した。

 

「待て!」サイヴァーとセンスはバイクを召喚しすぐ様追いかける。

 

「逃がさん…!」それを巨大サメが追いかける。海を泳いでいるかのように進む。そしてサイヴァーとセンスを照準に合わせるとまるでサメ映画のように大きく口を開き2人を飲み込もうとする。

 

「まずい、避けろ!」センスの声でサイヴァーも後方の状況に気づき寸前のところで左右にバラけ回避した。

 

「…ぐっ、逃げられた!」サイヴァーが再び視線を前に移した時、オクトパスの姿はすでになかった。

 

そのかわり、巨大サメが迫っていた。「ジョーズかよ!!」ゲーミングフォームに変身したサイヴァーは剣を構えてその突進を受け止める。しかし、しばらく均衡しあったのち、彼は負けてしまい吹き飛ばされてしまった。

 

「はあっ!!」センスは後方から槍を突き刺そうと迫る。しかし、サメは身体を捻らせそれを叩き落とした。

 

 

2人が戦闘不能に陥ったことを確認したサメは、自分の体を素の怪人態へと戻した。

 

「彼女にはとっておきのステージを用意してある。返して欲しければそこへ来い。まぁ、戦えればの話だかな。」シャークはそう2人に伝えると闇の中へ消えてしまった。

 

「人間の悲鳴が聞けるのを楽しみにしている」そう呟いて。

 

 

 

 

「2人とも!」後から追って来たピジョンが倒れている2人の元に駆け寄った。

 

「俺の方は…でも…。」サイヴァーは答えたが、センス(一犀)は彼女を助けられなかった、狙いに気づかなかった自分の未熟さへ怒り、拳を地面に打ち付けた。

 

 

 

 

 

3人は一旦体制を整えるべくデジタルセイバーに撤収した。

 

そこには夢野を送り届け帰還した紬葵の姿があった。

「おかえり。」彼女は戻ってきた3人にそう声をかけたが、紫苑を助けられなかった事に対して、特に一犀は気持ちが沈んでいた。

 

その様子に、紬葵はため息をついた。

「まだ、皆川さんは死んでいないんでしょ?だったら、まだ諦めるべきじゃないわ。」

確かに、あくまで彼女は拐われただけ、助けれる見込みだってあるのだから。

「…後悔するなら、何か行動してからにしよ。」大切な人(柿崎)を既に亡くしている彼女の一言には大きな説得力があった。

 

そうだ、俺達はこんなところで諦めない。萊智とメリアは、その言葉によって活力が復活、顔を上げた。

しかし、一犀は自身の犯してしまった事の重大さが重くのしかかって、立ち上がれない。

 

「…そういえば、シャークが言ってた『とっておきのステージ』ってなんなんですかね。」萊智は、先程の戦闘でシャークが放った言葉をふと思い出した。

 

「…そうね。彼女は明日のニッコリ感謝祭のステージに出る予定だけど、そのステージのことではないよね。」紬葵は自分の考察を口にする。

 

2人が頭を抱えていると、メリアが突然驚きの声を見せた。

 

「2人とも、このニュース見て」そう言ってネットニュースの記事を見せた。そこには『パープルリバー急遽出演中止、代役にヒネノ』と見出しがあった。

 

「…なんで…。」萊智は、しばらく記事を凝視した。

 

「もしかして、ヒネノは最初からこれを目論んでいたんじゃ?」紬葵が一つの結論らしきものにたどり着いた。

 

「今までパープルリバーに対してしてきた行い。機器の破損も視聴者の昏睡も、全ては私達がこの真の狙いに気付かせない為にやった…。」

 

「…でも、なんでこんな回りくどい方法を…。」メリアはそう聞いた。

 

「…もしかして、人間に憑いたバクビーストを量産する為…。」萊智はそう呟いた。

 

「…確かに、大量の人が集まる感謝祭はうってつけの場所ね。」紬葵が答えた。

 

 

「…なら、なんで…。」その時、今まで黙っていた一犀が口を開いた。

 

「なんでこんな事のために紫苑は巻き込まれたんだ!こんな…。」彼は泣いていた。彼の泣いている姿を初めて見た3人は、その問いに答えられなかった。

 

「…すまない。僕1人が、こんなに引きずってしまって。少し一人で考えさせてくれ。」一犀はそう言ってデジタルセイバーから姿を消した。

 

 

その一犀が向かったのは、誰もいない公園だった。

ベンチに座り頭をかき乱した。

 

 

──何故、助けられなかった。

 

──何故、狙いに気づかなかった。

 

そう自分で自分を責めた。ここまで、自分の自尊心が傷つけられたのは、初めてだった。

 

大切だって分かってたなら、なんで守れなかったんだ…守らなきゃいけないのに。

 

「…僕は、まだまだ弱いな…」悔しさから、ついそう言う負の言葉を放ってしまった。

 

 

 

『一犀は確かに身体的な強さはあまりないかもね。』

 

ふと、彼女の声が聞こえた。聞こえたような気がした。そういえば、前にも同じような事を話したことがあった。その時、紫苑はこう答えた。

 

『でも、心の強さは本物だよね。だって、『僕は現代貴族として責務を果たす!』なんて言ってすぐ立ち直っちゃうし』

 

 

そうだ、そうだった。この僕が、一番肝心な事を忘れていた。

 

僕は現代貴族だ。貴族には、課された責務がある…今は、紫苑を守るという大きな責務が。僕はそれを全うしなければならない。

 

「…彼女を…救う。」

 

 

ありがとう、大切なことを教えてくれて。

 

 

僕は、立ち上がり前へ進んだ。その先に見える物は一つ、彼女を助け出すという未来だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第16話 摩天楼から響くファンファーレ
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