仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第16話 摩天楼から響くファンファーレ

 

ニッコリ感謝祭会場…

地球上の人が全て集まったのではと思わせる程の人の流れがあった。その会場で、関係者以外立ち入り禁止の張り紙が貼られている場所に、男が1人、入った。

 

扉の先には、ステンレスでできた足場がある。そこを進んでいくと下に会場が見えてきた。

そこに紫苑は居た。鎖で手足を縛られ、声が出せないよう口も塞がれていた。

 

はらへ(離せ)!!」彼女はやって来た男、青木に言った。

 

「…そう言われて正直に解放するやつなんて居ませんよ。第一、貴女は人質だ。そう言う態度で良いのかな?」彼女は、いやらしく言葉を発する彼を睨みつけた。

 

「…あおい…なんれるらぎったの(青木…なんで裏切ったの)?」

 

「…あくまで、私は青木の姿に憑いているだけ。貴女の知る青木ではないのですよ」彼は、彼女に丁寧に説明すると後ろを向き扉のあった方へ歩き始めた。

 

「ヒネノのパフォーマンスまで後7時間…果たして君の王子様は助けに来るかな?」

 

「…くるわ…ぜったいに…いっせいなら」彼女は口を塞がれていたが答えた。

 

「そうですか…まぁ、楽しみにしておきましょう。彼がやって来ず、君が泣き叫ぶのを」青木は扉を開け外に出た。そして、扉を閉めて鍵をかけた。

 

「…(お願い…一犀。)」彼女は願った…彼が必ず来ることを。

 

 

 

 

 

 

その一犀は、昨日の襲撃による怪我で病院に搬送された櫻井と富士井のに会いに来ていた。

 

「昨日は、彼女を連れ去られてしまって申し訳ございません。」彼は会って早々、昨日の謝罪をした。しかし、2人は特に彼に文句を言う様子はない。

「僕達が青木さんの違和感にもっと早く気づいていれば良かったんです…むしろこっちが協力できなくてごめんなさい。」むしろ、富士井が謝罪をしてきて一犀は戸惑った。

 

「…とにかく、私達にあなた方を責めるつもりはない。それに、彼女に信用してくれと頼まれたんですから、最後まで信じ続けなければ。」櫻井の言葉は、一犀の心に優しく響いた。

 

「…それで、2人に一つ確認したいんですけど、今回彼女のパフォーマンスを一番良く見れる場所はどこか心当たりがありますか?」一瞬、2人は何のための質問なのか分からず顔を見合わせたが、それぞれ答え始めた。

 

「やっぱり、前列ですかね…彼女に一番近いですし。」富士井は最初に前列と答えた。

 

「それなら、舞台袖もいいんじゃない?スタッフだけの特権だけど。」続いて櫻井が答えた。

 

「後、撮影するのなら少し高い2階とか…」更に櫻井が意見する。しかし、一犀にはどれもピンと来ない。

 

「…そうですか…」

 

「逆なら、彼女は舞台の上がいいって言ってましたよね?」富士井が意味深なことを口にした。

 

「逆…?」思わず一犀は聞いた。

 

「ほら、彼女は昨日照明の所を見てた時、『会場を一望できる』って」

 

〜彼女にはとっておきのステージを用意してある〜

 

奴らは、大量のバグビーストを人間に憑かせようとしている。それを見ることができて尚且つ安全な場所…それが『舞台の上』…

 

「ありがとうございます。」一犀はそう言って部屋を出ようとした…しかしそれを櫻井達が止めた。

 

「紫苑は、私達に仕事を、生きる希望をくれた人だ。必ず助け出してください」

 

「僕達には、まだ彼女が必要なんです…お願いします」

 

2人は、必死の表情で彼に願った。その彼は2人に答えた。

 

「僕も彼女に救われた人間の1人だ。必ず救います…命懸けで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出てすぐ、彼は電話をした。相手は萊智だ。

 

彼は1コールもしない内に出た。

『貴峰さん…今までどこに…?』彼の心配する声にすまないとだけ返した。

 

「僕はこれから彼女が捕らえられている場所に向かう。君達は3人で電脳世界側に居るであろうバグビーストの大群の処理を…」

 

『…そっちは…』萊智は、不安げに聞いてきた。それもそうだろう。

 

「安心したまえ、僕は貴族だ。生きて帰ってくる、紫苑も救って…ステージに立たせる。」

 

しばらく黙ったのち、萊智は言葉を発した。恐らく電話の周りにいる2人の賛否を聞いたのだろう。

 

『分かりました…お願いします』そう言って萊智は電話を切った。

 

「…さぁ、行こうか。」一犀はバイクを召喚すると、フルスロットルで会場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

パフォーマンスまで残り3時間、電脳世界の会場ではまだ生まれたての魂だけの存在のバグビーストや、ノイズ達の姿があった。

 

「後3時間後には、我々の天下が訪れる!お前達の活躍を期待している!」それを扇動しているのはオクトパスだ。

 

「それはどうかな?」その大群に対して1人の男が言い放った。

 

「何…?」オクトパスは声の主を見た。そこには、サイヴァー、ペンシル、ピジョンの3人が居た。

 

「私たちがここでお前達を全員倒す…だから天下は一生来ない。」ペンシルが続けて言う。

 

「悪い事をする以上、私達が止める…」ピジョンが更に言う。

 

「ふっ…彼女の居場所が分からないから我々を倒してしまおうと言う魂胆か…だか、お前達に倒せるかな。」オクトパスは問う。

 

「…俺達は、仲間を助けるべく…その大切な人を守る為に戦う!」[Synchro UP!][Gaming Cyver!]

 

ゲーミングフォームに変身したサイヴァーはオクトパスの元へ、それ以外の2人はノイズ達の集団に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一犀は舞台上に上がる扉の前に居た。彼は扉を開けようとノブに手を掛けるが開かない。あらかじめ鍵を借りておいて正解だった…そう思って鍵を取り出そうとしたその時だった。

 

「立ち入り禁止…という文字が読めないのかしら?」

 

彼は後ろを振り返った。そこには、翠色の髪をした少女が居た。

 

「…これは失礼、しかし急用でね…それより、僕からしたら君の方が部外者のように感じるが。」一犀は、敵だと気づいた。しかし、それにしては他の誰よりも威圧感のある…この感じ、どこかで…

 

「…あらそう。ならこう言えば分かるかしら…ヒネノ…そして、シャーク。」やはり、シャークだったのか…一犀は、彼女を見たまま硬直していた。

 

「…まぁたどり着いた以上、仕方ないか。」ヒネノはそう言って一犀を軽く押し退けて扉を開けた。

 

そして中に入り、人質にされている紫苑を見せびらかした。

 

「紫苑!」一犀はついヒネノがいる事を忘れて助けようとした.しかしヒネノはそれを止めた。

 

「まだ、解放するだなんて言ってない…せっかくだから、歌う前の身体慣らしに付き合って貰おうかしら。」ヒネノはそう言うと身体をシャークに変えた。そして、鋸のような双剣を構えた。

 

「さあ、貴方も変身しなさい!」シャークは彼に促した。一犀は迷わずスマートライザーを取り出した。

 

「…紫苑は、僕が救う!変身!」[Server connection…][Rider Sense!]

 

センスは、槍を持ちシャークの攻撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オクトパスは、自身の持つ杖でサイヴァーの剣を押さえた。

 

「まだまだ、こんなものですか?」オクトパスはサイヴァーを煽る。

 

「うるさい!干物にしてやろうか!」サイヴァーはオクトパスを右足で蹴り飛ばした。

 

「それを言うならイカに言え!」オクトパスは大量の足を触手のように操りサイヴァーに向けて一斉に放った。

 

「全部切る!」サイヴァーはそう宣言すると触手に向かってエネルギーを纏った剣を振り下ろす。剣先から放たれたエネルギー弾は触手を全て切り裂き、相手の足を引っ込めさせた。

 

「…ここでお前は必ず倒す!」サイヴァーは後方に現れた4色の水晶玉を全て砕いた。そしてまずは白色の水晶玉から現れたパーツを右足に装着した。

 

そしてオクトパスの元に右足に雷を纏わせながら迫る。その右足をオクトパスの腹部に打ち付けた。

 

「な、身体が痺れて…!」オクトパスの身体に電撃が迸る中、サイヴァーは赤い水晶玉から現れた氷の剣を手にした。そして地面に突きつけオクトパスの身体を絶対零度まで凍らせる。

 

「こんなもの…再生されれば…」オクトパスはそう言うが、一向に触手が再生される様子はない。

 

「傷口を氷で塞いだのさ…後はお前を粉々になるまで叩くのみ!」サイヴァーは次に青い水晶玉から現れた紫色の矛と盾を右手左腕に装備してオクトパスに連続して突き刺さる。オクトパスは少しでも抵抗すべく墨を撒き散らすが、全て盾で抑えられ意味をなさなかった。

 

完膚なきまで叩かれたオクトパスに闘う意志はなかった。

 

「…これで最期だ、青木さんを返してもらう!」サイヴァーは最後に残しておいた緑色の水晶玉から現れた剣を手にした。その剣は手にした瞬間戦斧に変わりいかにも強力な武器へと変化した。

 

[Blake finish!][Cyver critical!]

 

サイヴァーは、身体を横に回転させオクトパスの身体に強い打撃を与えた。オクトパスは、悲鳴を上げながら爆散、憑いていた青木の身体が爆炎の中から倒れてきた。

 

「…後は雑魚だけか。」サイヴァーは彼の身体を抱え安全な物陰に運んだ。

 

「貴峰さん…」

 

 

 

 

 

 

初めに攻撃を仕掛けたのはシャークだ。センスの鎧に刺々しい右足で蹴り上げようと迫る。

センスはそれをジャンプして回避、シャークの後ろに回って紫苑の前に降りた。そして槍の刃を使って彼女を縛っていた鎖を切り裂き、口元を覆っていたテープを優しく剥がした。

 

「来てくれるって、信じてた」彼女は安堵の表情を見せた。

 

「分かってるじゃないか」センスは彼女の無事を確認し再びシャークに目線を移した。

 

「へぇ、つまらないね…人質優先なんて」シャークは残念そうに言った。

 

「当然だ。彼女は皆の希望だ…優先してでも助けるさ!」櫻井や富士井、彼女のファン、そして自分にとっての希望…だからこそ守る。そう彼は固く決意している。

 

「ふーん、じゃあさ、こうしてやるよ!」シャークは双剣を2人に向かって投げつけた。一直線に迫る剣をセンスは薙ぎ払おうとした。しかし、そうすると下手すれば下の会場に落ちる。そんな事したら祭りどころじゃない…

 

だが、それでも彼は諦めない…彼は彼女を後ろに押し倒して前に出た。

 

「僕は…必ず彼女と、このステージを守る!」その時、彼のスマートライザーが輝き始めた。白き光を放ち、センスを包み込んだ。

 

しかし、それと同時に双剣が彼の身体に激突…胸部を貫かれた彼は地面に倒れた。

 

「一犀!!」紫苑は叫んだ。しかし彼はピクリと動かない。

 

「ははは!!!!ざまあないな…!!!!」シャークは彼の死を滑稽に思い嘲笑った。しかし、その声はすぐに消えた。

 

「それは誰に対してだい?」どこからともなく、一犀の声が聞こえた。しかしその姿はない、ましてや倒れた彼でもない。

 

「なんだと…!」その時、紫苑の更に後ろの影から声の主が現れた。白に紫色の装飾が為された鎧、その中央に輝く白銀の再生ボタン、背中にたなびく黒いマント、そしてカメラのような形をした頭部に付けられた2本のアンテナ…紛れもなく、センス…だが新たな形態に超進化(シンクロアップデート)していた。

 

[Synchro UP!][Movie Sense!]

 

その名をムービーフォーム、動画アプリそのものを能力に変えた形態。

 

「そのセンスは、僕が作り出した分身だ」

 

突き刺さる直前、ムービーフォームに変身したセンスは即座に自分の分身を作り出した。そして自身はその場から一旦退避した。

 

「もう…死んだと思ったじゃない!」紫苑が半泣きでセンスに言った。

 

「冗談も貴族の嗜みさ。だが、これから先は控えるようにしよう」センスはそう言うと新たに解放された槍型武器、ムーブオンスピアを取り出した。センスデバイスのような細身の槍というより、先端がドリルのように鋭くなっている西洋騎士が使うような槍だ。その武器で剣を投げた事で無防備になったシャークの腹部に突き刺した。そしてそのまま扉の外まで押し出した。先程のように会場を危険に晒さない為に。

 

扉の外には都合よく人がいなかった。これなら気にせず戦える。

 

「貴様!!」シャークは鋭いパンチを繰り出した。が、既にムービーフォームの力を自分のものとしたセンスには無意味なものだった。再び分身を作り出し、シャークの後ろから攻撃させた。シャークは後ろから突かれた勢いで窓ガラスをぶち破り外に落下した。センスはそれを追いかけ窓の外に出る。その時、マントが再びたなびき、まるで青空を飛ぶ白鳥のように見えた。

 

外にいた人たちは突然、人型の何かが落下してきた事でパニックが起き始めていた。しかし、シャークはそれを気にせず更に力を解放させる。前に現れた時のように巨大サメへと変化し、突撃する。

 

「ならば!」センスは右腕をイラストに変えると空中に円を描き、最後に持ち手のような棒を外側に描き、シャークの軌道から外れた。

避けきれなかったシャークはその円の中に侵入、すると円は巨大な網へと変化しシャークを一瞬にして捕らえた。

センスは持ち手を握ると、まるで槍を振り回すかの如くその網を回し、最後に地面に叩きつけた。

 

シャークはその衝撃で弾き出され怪人態に戻ってしまった。

 

「私が…こんな奴らに!」

 

「…これで終わりにしよう」[Blake finish!][Sense moving!]センスはそう言うと必殺技を発動させた。

 

白いオーラを纏った槍を構え、そして地面を勢いよく駆ける。ドリルのようにその槍をシャークの身体に深く突き刺した。

 

「うぐっ…がぁあ!!!!」シャークは最期に言葉を上げる事なく、大爆発と共に消滅した。

 

 

 

しかし、その爆炎の中からシャークに憑かれていたであろう少女は一切現れなかった…それどころか、爆心地には何も残っていなかった。

 

 

「…一犀!」変身を解いた彼に追いかけてきた紫苑がやってきた。

 

「ありがとう、そしてお疲れ様。」彼女は彼にそう言った。しかし、一犀はまだ終わりじゃないと言った。

 

「…早く、君はステージに行くんだ。今なら間に合う。」

 

「…そうだね。私はみんなの希望なんだから!」そう言うと紫苑は走って会場に戻っていった。

 

 

 

 

その後、後処理をしながらだが、彼女の歌声が僕の元にも届いてきた。それだけじゃない、彼女の登場を喜ぶ観客の声も…。

 

 

 

 

「ヒネノが破れたか…やはり、奴のやり方はダメだった…か。」グリットはヒネノが居座っていた電脳世界にあるビルで呟いた。

 

 

 

その後、ヒネノの元になった人物についても調べられたが、彼女の特徴と一致する行方不明者は存在しなかった。恐らくだが、彼女はバグビーストの中でも上位の存在、人間に憑かなくても人間態があるのではと言う考察に至った。

 

 

 

 

 

感謝祭が終わって数日、僕と彼女は再び喫茶店に来ていた。

 

「…夢が叶ってよかったな」僕は真っ先に彼女を祝福した。しかし、彼女は満足そうな顔をしなかった。

 

「うん、でも私、もっと上を目指したい…例えば世界とか…」彼女の目は夢を見ていてとてもキラキラだった。

 

「…紫苑ならできるさ」

 

「…そういえばさ、青木、マネージャー辞めるって。自分のせいでもあるから責任をとって…」紫苑は一犀から目線を逸らして言った。

 

「そのせいでマネージャーが居ないんだよね…だからさ…」一犀は言葉の意図を感じた。自分をマネージャーにしよう、とか。

 

「流石に君の願いとはいえ、それは断らせてもらうよ」紫苑はまあそうだよね。と返した。

 

「世の中にはまだまだ僕の助けを必要としている人がたくさんいる。全て救うまで、僕はデジタルセイバーから離れるつもりはないさ」一犀は自信満々に答えた。

 

「うんうん、その方が一犀らしいしね。でも、何か困ったら私を頼ってね。なんなら本当にうちに来てもいいんだよ。仕事でも、プライベートでも」

 

「ああ、その時は是非世話になろう。逆に君がまた僕に助けを求めてくれてもいいんだよ」

 

 

「互いに、目標の為に頑張ろ!」「そうだな…応援してる」「私も」

 

一犀と紫苑はこうして、再びそれぞれ自分の進む道へと別れていった…また交わるかもしれないが、それはだいぶ先の話…

 

 

 

 

 

 




秋、それは誰かの真の姿が明かされる時、そしてバグビーストのグリットが動き出す

次回、第17話 鳩のオモテとウラ
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