仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第1章
第1話 仮面の電脳戦士


 

 

ある年の夏の日の昼間、この時は例年よりも酷い猛暑だとニュースで散々言われている。

実際、彼は慣れない都会で休める場所を探し歩いている。

 

「…暑いな…」疲れ気味の彼はそう呟いた。今日、朝一番の電車で東京にやってきていた。何故なら自身が進学したい大学のオープンスクールがあったからだ。午前中で一通りの事は終わってしまい、後は帰るだけだったが、来年住むだろう場所だから少し散歩しよう…そう思って炎天下の都心を歩いていた。

 

彼は近くの公園らしき場所のベンチに腰掛け一息ついた。

そして背負っていた青色のバッグからペットボトルのお茶を取り出して、3口ほど飲んだ。

 

「あー生き返る…。」彼は持ってきていた青色の扇子を取り出して仰ぎ始めた。日陰なのもあって涼しさが彼をより癒していく。

 

ふと、周りを見渡すと、同じようにベンチに座って涼んでいる人達は沢山いた。しかし彼とひとつだけ違うところがあった。それは「スマホを触っている」事だ。例えば友人とメッセージのやり取りをしたり、ゲームをやったり、仕事先の人と電話で話したり、イヤホンをして音楽を嗜んだり…使い方は様々だったが皆スマホの画面と睨めっこしている。

 

しかし、彼はスマホを持っていない。もちろん、知らない訳ではないし、家がスマホを買えないほど貧乏という訳でもない。ただ「欲しい」と思わなかっただけだ。便利だというのは人伝に聞いてはいたが、自分には必要ないと考えていた…が。実際都会に出てみると親に電話しようにも公衆電話が中々見つからず苦労したり、今こうして半分迷子のような状態になったりと、スマホが必要な場面が多くなっている。

 

「…今度親に買ってもらおうかな…。」そう心に誓った。

 

10分くらい経った頃、彼は駅に行こうと立ち上がり進もうとしたその時だった。

 

自分が座っていたところの2、3個右のベンチに座っていた男が突然ベンチから転げ落ちた。

 

「うぉぁぁあ!!」

 

そして、悲鳴を上げた。その声に、誰もがスマホから目を離し男の方を向いた。

 

そこには、身体中に蜘蛛の巣のような装飾を施し、両手に鉤爪を持っている『怪物』と呼ぶのに相応しいそれがいた。

 

蜘蛛の怪物…それは彼が持っていたスマホから飛び出して、男をじーっと見つめていた。

 

「…ひと暴れするか…。」

 

黒き蜘蛛の怪物は、腰の辺りから糸を放出すると、周りの木々やベンチ、更には好奇心に満ちた目でスマホで動画を撮っていた人々に巻きつけた。

 

 

先程まで、映画か何かの撮影だろうと高揚した雰囲気が漂っていたそこは一瞬にして恐怖に包み込まれた。

 

恐怖のあまり逃げ惑う人々。そこへ迫る蜘蛛の糸。それらに捕まった人々は次々と公園を覆い隠すほどの蜘蛛の巣に引き寄せられていく。そして蜘蛛の怪物の養分となっていく。

 

「なんだよこれ…!」彼もまた、恐怖のあまりその場から動けずにいた。

 

そして自分も逃げようと思い立ったその時、近くで泣いている少年の姿を見つけた。そしてそこへ蜘蛛の糸が迫っている…「守らないと!」

 

そう思った頃には既に身体が動いていた。全力疾走で少年の前に庇う様に立ち塞がった。

 

ここで俺も死ぬのか…そう彼は予期した…しかし、それはいい意味で外れることとなる。

 

 

 

 

蜘蛛の糸が彼に届く寸前、蒼き光を纏った弾丸の雨が彼らを守る様に降り注ぐ。

蜘蛛の怪物は後方へ下がり、その男に向かって言い放った。

 

「サイヴァー…!」

 

「…またお前か…。」彼の目の前に立った銀色の戦士はそう言い放った。

 

「…我々の同胞達を陥れた邪神…ここで俺が倒す!」

 

蜘蛛の怪物はそういうと鉤爪を立て戦士に迫る。

 

「…そこのお前、早く逃げろ!」戦士の一声を理解した彼は即座に少年を抱えて離脱する。

 

「…蜘蛛野郎(スパイダー)…ここで倒す!」戦士は銃口を迫る怪物に突きつける。

 

「なっ…!」そして、怪物が回避するよりも早く引き金を引く。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、少年を抱え逃げた彼は少し離れた所で少年の母親と再会し、無事に送り届けた。

 

「よかった…。」彼はふと先程の戦士のことを思い浮かべた。

 

「あの人は…大丈夫だろうか。」そう先程の公園へと戻っていく。

 

よく、危ない場所には戻るべきではないと誰しも考えるだろうが、彼は見えざる運命の導きによって戻った…戻ってしまった。

 

 

 

 

 

しかし、公園に戻ると不思議なことに蜘蛛の怪物も巣も…そして戦士の姿もない…。あったのは、不思議な形をした電子機器…スマホらしきものだけだった。

 

シルバーカラーの光る箱は、彼に拾ってもらうのを待っていたかの如く太陽の光を反射させていた。

 

「誰かの落とし物…かな?」彼はそう思った。そして、それを拾い交番に届けようとしたその時、そのスマホの黒い画面にはこう表示された。

 

[…御定(みさだめ)萊智(らいち)…新たな使用者として登録…]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌年…4月。

 

(萊智)は再び東京にいた…というよりは、暮らしていた。

 

大学に無事進学できた彼は、親元を離れ東京の郊外で一人暮らしを始めた。

あの一件以降、彼はあのスマホを手放すことなく常に持ち歩いていた。いつか過去の持ち主が自分の元に現れるのではと。それを使った事は一切ない…というよりも、初対面で自分の名前が登録されたことに恐怖を覚え触らなかった。

今日もそれをズボンの右ポケットに入れて持ち歩いていた。

 

 

そんな中、大学生活も始まって2週間が経とうとした頃、運命は再び悪戯した。

 

「御定、今日の放課後空いてるか?」

そう声をかけたのは紺野…大学生活を始めてからできた友人の1人だ。

ガリガリで痩せた体型が特徴的な彼はガリ勉みたいな見た目をしておいて意外とサボるやつだ。

御定は放課後当然空いてはいたが、気分が乗らなかった。

「悪い、今日は用事があるんだ。また今度な。」そう言って断った。そして、大学の門を出ていき、徒歩で東京の街を歩く。

 

上京する前はよくテレビに映る渋谷のスクランブル交差点みたいな道一杯に人が溢れかえっているほどの混雑を予想していた彼だが、実際はそんな事なく普通に歩く事ができる。

 

彼が電化製品を売っている店の前に差し掛かった頃だった。突然脳裏に声が響き渡る。

 

 

「ようやく見つけた。」

 

 

今まで聞いた声の中でも特に暗く、低い声だった。そしてそれに近いものを彼は聞いたことがあった。去年の夏、自分の目の前に現れた蜘蛛の怪物の声だ。少し違う様に感じたが、それでも不気味さは同じだった。

 

振り返って周りの様子を確認する。しかし、前みたいに怪物が出てきているわけではない。それに、ようやく見つけたとは一体何のことだ…。

 

「気のせいか。」そう言って再び足を進めた。

 

彼が通り過ぎた後、店のショーウィンドウに飾られているテレビモニターに一瞬ノイズが流れたが、誰も気には留めなかった。

 

 

 

そんな彼を見つめている女性の姿があった。彼女は彼が持っているものと同じスマホを持っていた。スマホに映し出されたマップは、彼の居場所を映し出しており、そして目の前の彼であると示していた。

 

「ようやく見つけた…彼が、『後任者』?」

 

彼女は、彼の追跡を始めた。

 

 

「…宿敵…サイヴァー…我が倒す…!」

 

 

 

 

テレビの裏…正しく言えば画面の裏側に広がる世界。

現実の街の様に高いビルが所狭しと並んでいるその場所に、人間の姿は一切なかった。そのかわり、この前の蜘蛛の怪物をはじめとした異形の生物が存在していた。その中の1人に、声の主はいた。

 

我々の同胞(電脳世界人)を次々と葬ったサイヴァー。スパイダーの一件以降姿を見せなかったが、ようやく見つけた。まさかあんな弱々しい人間だったとはな…」

声の主は、飛蝗の怪物だった。顔の半分はある巨大な複眼2つ、2本の細い触角、手足には筋肉の繊維が他の部位より張り巡らされており大きく隆起している。

 

「さぁ、狩の時間だ。」

 

飛蝗の怪物は、見つめていた窓ガラスの様なモニターに身体を入り込ませた。

 

 

 

 

 

その頃、萊智は信号待ちをしていた。前の時と同じように、周りの人たちは皆スマホを見つめていた。

 

「…あの時と、似てるな…。」ふとそう思った。先程聞こえてきた誰なのか分からない声の件も併せて、彼の心の恐怖を煽る。

 

「まさかね…。」自分で、これから先に同じことが起こるのではと言う不安をかき消したが、無意味であった。

 

隣で立っていたサラリーマンの男が、突然声を上げた。彼はスマホを手放し男は地面に倒れ目の前に現れた怪異に恐怖した。

 

飛蝗の怪物は、怯える男や周りの通行人を無視して、ある人物の方を即座に向いた。

 

「…見つけた…同胞の敵討ちだ。」飛蝗の怪物が指差した先には、御定萊智の姿があった。

 

 

「…俺?」そう反応した彼に、飛蝗の怪物はそうだと答えもせず襲い掛かる。

 

 

萊智は、自分でも驚くほどの瞬発力でその攻撃を交わす。その時、ポケットからスマホが滑り落ちた。

 

「なんだよ…!」そしてその場から逃げる。自分が襲われると分かっているなら当然だ。もちろん、落としたスマホを握りしめて。

 

「…逃げるな…!」飛蝗の怪物は萊智を追いかけるべく飛び上がる。

 

 

そして、右腕を突き出して逃げる萊智に振り下ろす。

 

「死ねぇぇ!!!!」

 

「うぁぁぁ!!!!」

 

萊智は、後ろを一瞬振り返って確認した時には、飛蝗の怪物は彼を捉えていた。

 

どれだけ逃げても、攻撃は回避できない…。

 

「まだ…死にたくない…!」そう叫んだその時だった。右手に持っていたスマホの画面が白銀に光輝いた。

 

それは、彼の身体を一瞬にしてその場からかき消した。

 

一瞬の消失に飛蝗の怪物は特に驚く事はなかった。

 

俺達のフィールド(電脳世界)に逃げたか…!」飛蝗の怪物は、そう言うと近くにいた女のスマホに身体を送り込んだ。

 

 

 

「…電脳世界に向かったと言う事は…アイツは戦えるのか…!」

 

萊智の後を追っていた彼女も、スマホをかざして、彼と同じように白銀の光に包まれ現実から姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[Server connection…][Rider Cyver!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が再び目を覚ました時、東京とは別の『都市』にいた。

 

「ここは…?」周りを見渡す限り、人の姿は一切ない。そして、自分を睨みつけている飛蝗の怪物の姿もあった。

 

「遂に正体を見せたな…サイヴァー…!」

 

「サイヴァー…?」

 

彼はふとあの時のことを思い出した。あの時、自分を守った戦士…彼は敵にそう呼ばれていた。まさか…!

 

「…身体の色が…変わってる。」自分の腕、胸周り、足を見渡すと、シルバーの強化装甲に覆われていた。胸部と肩には鎧が身に付けられている。

 

見覚えのある格好…あの時のサイヴァーと全く同じだ。

 

「今度こそ死ね!!!!」飛蝗の怪物は再び拳を突き出し攻撃を仕掛ける。

 

「今ならやれる…かも知れない!」サイヴァーは、身体を捻らせ攻撃を回避する。

そして着地した時に隙を見せた敵へキックを喰らわせる。

 

想像以上の威力に驚いたが、それも束の間、飛蝗の怪物は起き上がり次の攻撃を仕掛ける。

 

右脚で地面を強く蹴り上げ、左脚でサイヴァーの胸部に強いキックを喰らわせる。

 

強い衝撃を感じたサイヴァーは、地面に勢いよく倒れた。

 

「…随分と弱いな…つまらない最期だな…!」

 

飛蝗の怪物は、再び地面を蹴り上げ、右拳を構える。

 

超高速のストレートパンチが、サイヴァーの身体に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




死を覚悟したサイヴァー、御定萊智。彼の運命は…そして、彼をつけていた女の正体は!?

次回、第2話 電脳世界戦争
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