現実の東京と似ている、その都市の上空を
ピジョンとパロットの2人だ。ピジョンは、静かな街の一角にパロットを引き連れながらゆっくりと降りた。そして廃墟となったビルの中で翼を休めることにした。
彼女は、一息つくとメリアの姿へと戻った。その人間の様な姿に彼は驚いた。
「人間…だったの?」
「違うよ、正真正銘のバグビースト…鳩のね」メリアはこの時、初めて自分をバグビーストだと名乗った。もちろん本当にバグビーストだが、今まで自分はあくまで人間である…人間でありたいと願っていた。その言葉に、彼女自身も驚いた。
「…そうなんだ…」パロットは壁にもたれかかり、力が抜けたかの様に座り込んだ。
「大丈夫?」倒れたかの様な勢いだったが為にメリアは彼の体を心配した。
「うん…ただ、こんなに動いたことないから、疲れちゃって」
メリアは、パロットの落ち着く姿を見れた事と他のバグビースト、そしてデジタルライダーから逃げれたことにホッと胸を撫で下ろした。
「そういえば、まだ名乗ってなかったね。ワタシはメリア。君の名前は?」
「…パロット、上司や仲間からそう呼ばれてた…」彼は、自分の名前と思われる言葉を口にした。メリアは、そっか、と言うと暫く黙り込んだ後、一つの言葉を発した。
「パロ君だね…」パロ君?と彼は聞き返した。唐突に何を言い出したんだろう…と。
「ごめん、私親しくなりたい人には愛称をつけるの。前に『友達は互いに愛称で呼び合う』って私の大切な人から聞いたことがあってね」
メリアは口を緩め、目を煌めかせ、手を伸ばした。
彼女は自分と友達になりたいと彼は感じ取った…今まで自分と他者の関係性なんて上司か同僚しか無かった彼にとってそれは喜び以外の何者でもなかった。
「よろしく…メリー」彼は彼女の伸ばした手を掴んだ。
「私をあだ名で呼んでくれる人、初めてでなんか照れる…」メリアは自分が愛称で呼ばれた事が嬉しくて、心が温かくなった。
萊智と紬葵は作戦を立て直す為にデジタルセイバーに帰還した。
いつもの部屋にはメリアがバグビーストと逃げたと言う知らせを聞いて紅茶同好会を抜け出して戻ってきていた。
いつもは見せない焦りの表情をしていた彼は2人が帰ってきたのを見ると即座に立ち上がった。
「メリア君が裏切ったのは本当か?」
紬葵は、黙ったままだった。その彼女の代わりに萊智は答えた。
「裏切った…と言うよりもバグビーストを守る為に逃げた、と言った方がいいと思います」
萊智は、これまでの経緯を話し始めた。
グリットは、王の居座る間に来ていた。
いつものように現状報告をしに来ていたが、そこに王の姿はなく代わりに蠍のバグビーストと甲虫のバグビーストの姿があった。
「これはこれはグリット様、我が女王は只今外出中であられますが」気を利かせた甲虫のバグビーストが答えた。
「ビートル…それにスコーピオン、なぜ貴方方がここに?」グリットは、2人を見つめた。
その問いに、スコーピオンは答えた。
「ヒネノの代わり…というより次の幹部候補ですよ。我々も、貴女達と同じ
スコーピオンは現代には到底合わない侍のような和装をしており、左腰には一本の刀を帯刀していた。
ビートルはそれに対して現代の軍隊の総統が来ているような軍服を纏っており、右腰には銃を携帯している。
2人とも顔は見えないが、スコーピオンはすらっとした背格好、ビートルはガタイのいい男に変わった。
「それに、もうすぐ私達も幹部だ。せめて名前で呼んで貰えませんか?」
ビートルはヒネノを上から睨むように言い放った。
「…いいだろう」グリットはそう答えるとその場をとっとと去って行った。
「…我々は、今日から敵…」スコーピオンはビートルにハッキリと伝えたが、ビートルはそれに一切動じない…奴に勝てる自信があるのだろう。
「…どちらが上がれるかはあのお方次第…或いは両方…かもしれないな」
メリアとパロットは追手が来ないことを確認して再び逃亡しようとしたその時だった。
「見つけた…第3ラウンドと行こうか」そこには、黒い翼を広げ2人に追いついたコンドルの姿があった。
狩猟者の目をした奴は、ノイズを大量に、彼女達を覆うように出現させた。
「やるしかないみたいね」メリアは自身の身体を真紅の翼に変え、立ち向かう意志を見せた。
ノイズ達は岩礁に迫る荒波の如くピジョン達に迫った。
ピジョンはそれらを翼で一瞬にして振り払った。
「パロ君は隠れてて」パロットは分かったと告げてこの場を去った。
「あんな泣き虫、アンタを殺せば簡単に捕まえられる…」コンドルはそう言い切った。
「アタシを倒せるのかしら、貴方に」ピジョンは翼を広げコンドルに迫った。
同じ頃、デジタルセイバーではメリア達の所在を発見していた。
「前にマンティスと戦った辺りか…助けに行こう」一犀は2人に促した。萊智は彼に続いて立ち上がった一方、紬葵は座ったまま考え込んでいた。
というよりも、迷っていた。先程自分のエゴで斬りつけた相手にどんな顔をして助けに行けばいいか分からなかった。
考えて考え抜くうちに、気分が悪くなって来た。
「ごめん、先に行ってて」彼女は2人にそう促した。
萊智は、彼女が行かない理由になんとなく察しがついた。
「…分かった。待ってる。」そう告げてメリア達のいる場所へ向かった。
その時、萊智はさっきまで読んでいた本を落としてしまった。それに気づかず彼は行ってしまった。その本を紬葵は拾い上げた。駅の近くにある本屋のブックカバーがされていた。
その時、上から何かヒラヒラした物が出ていた。何かと思って少し引き抜くと、高校の制服を着た萊智と男女が写った栞だった。彼女はこの2人が誰であるかすぐに分かった。前に彼が話していた友人、飯山将平と花道麗香の2人だろう。桜の木をバックにいい笑顔をしていた。
それとは裏腹に、彼女の顔には涙が今にも溢れそうになっていた。
私とメリアはこの写真の3人のように『友達』だったはず…それなのに、信じることをせず傷つけた…そんな自分が許せなかった。
「…馬鹿ね、私。」
彼女はそう呟くと部屋の電気を消した。
メリアとパロットの逃亡は、グリットにも伝わった。
コンドルに捜索を任せたアウルは、宮殿を歩いていたグリットの前に着地した。
「グリット様…」息を切らした様子の彼から只事ではないと彼女は察した。
「パロットが、デジタルセイバーの、戦士の1人と、逃亡しました…!」
「なんだと…!」グリットは珍しく表情を変え驚いた。
「しかも、その戦士が、我々と同じ電脳人…で…」
アウルの更なる報告に彼女は耳を疑った。
「…特徴は?」
「…具体的な名前は不明ですが、『真紅の翼』を持つ鳥類の電脳人でした。」
真紅の翼という言葉を聞いた瞬間、グリッドの頭の中に1人の人物が思い浮かんだ。
「まさか…スカーレット?」
彼女は…アウルに他の部下を集めるよう指示し、自身は走ってその場を後にした。
その頃、コンドルとピジョンの熾烈な戦いは続いていた。
「どうした?変身はしないのか!」コンドルは爪が伸びた右腕で殴りかかる。
確かに、戦士に変身しようと思えばいつでもできる…だけど、それは人を守る時の姿。今はバグビーストの為に戦っている…あの姿は不似合いと、彼女は考えていた。
ピジョンは、地面を勢いよく蹴り上げ、力強く身体を捻った。勢いの乗った右足をコンドル向かってぶつけた。
コンドルはその攻撃で一気に後ろに吹っ飛ばされ、倒れた。
「へぇ…変身しなくても強いのか…面白えぇ…だが、油断はしない事だな。」
ピジョンはその言葉を聞いてからすぐ後ろの気配を感じ取った。しかし、その時には既にクナイが迫っていた。
クナイによって彼女の右翼の一部が切り裂かれた。
「…コンドル、援軍を連れてきた」アウルの後ろには、ノイズの他新たに漆黒の翼を持つバグビースト、クロウとかつて彼女が倒したバグビースト、ピーコックの姿もあった。
「よし…これで形成逆転だ…!」
「1人に対してこれだけ徒党を組まないと勝てないって言ってるようなもんだよ、そういうの」ピジョンは四方を囲む彼らに言った。
「知るか、世の中勝てば良いんだよ!」コンドルの爪、アウルのクナイ、クロウの剣、ピーコックの羽が一斉に彼女を襲った。
「メリー!」パロットは叫んだ。彼女は一切攻撃によって爆炎に包まれた。
「何!」一番最初に気づいたのはアウルだった。クナイが彼女の体に刺さった感覚がしなかった。
次第に晴れていく煙から、その正体を知った。
「ライ君…イッチ…!」彼女を守るように金色の盾を装備したサイヴァーゲーミングフォームと描いたシールドを広げるセンスムービーフォームの姿がそこにはあった。
「君がスマートライザーの位置情報を切ってなくて助かったよ」「行ってください、メリアさん」
その言葉を受けた彼女は走り出した。そして、物陰にいたパロットの手を取り空へと飛んだ。
「逃すか!」コンドル達は追おうとする。しかし、その手は既に2人には筒抜けだった。
「それはこちらの台詞だ!」センスはそういうとスピアを召喚した。
サイヴァーも剣を取り出し、コンドルに切り掛かった。
その頃、脱走に成功した2人はまた遠くの何処かへ飛んでいた。
しかし、その2人を追う一体の影があった。それは金色の翼を広げ2人よりも圧倒的な速いスピードで迫っていた。
ピジョン達に迫る金色の翼の正体…そして明かされる、メリア達の真実…
次回、第20話 過去の空を舞う隼