紬葵が、黒い戦士に遭遇してから1週間が経とうとしていた。
彼女は、黒い戦士の事は誰にも話していなかった。そのような事を話してしまっては、自分が今まで何をやっていたかがバレてしまう。
飯山将平が、ただの人間ではないかもしれない…そんな事を調べていたなんて知られれば…萊智に知られれば大事になりかねない。
今は自分の胸の中で留めておくしか…
「大丈夫かい?紬葵君」
「…あ。大丈夫だけど」彼女を現実に引き戻したのは一犀だった。デジタルセイバーには2人の他萊智とメリアの姿もあった。
「やっぱり、まだ風邪が完治して居ないんじゃないのか?」
「…考え事してただけだから…ちょっと1人にさせて」彼女は心配する彼らの視線を受けながら部屋を後にした。
「…やはり、まだ体調が優れないのでは?」一犀は2人に聞いた。
「さぁ、アタシの事じゃないから知らないし」メリアはそう言って足早に自分の部屋に入っていった。
彼はそんな彼女の姿に疑問を浮かべた。確かに彼女は他人に対して興味をあまり示さないが、仲間にまで冷たい人間ではなかった…と彼は思っていた。
「2人、やっぱり仲直りしてないのかなぁ…」萊智は2人が完全に居なくなったのを見計らって口を開いた。
「仲直り…?」一犀はその意味が分からなかった。
「…メリアさんがパロットさんを庇って逃げる前、太刀筆さんは『使命』を優先する為にメリアさんを斬ったんです。」
「ほう…メリア君が逃亡する前にそんなことが…。確かに、彼女が剣を振り下ろさず保護すれば、パロットもグリットも助かったかもしれない…メリア君はそう考えているかも知れないな」
「2人はこのまま、仲違いしたままになるんですかね」萊智は先の見えない洞窟を覗くように言った。
「…君が気に病む事はない…こういった喧嘩は時間が解決してくれると相場が決まっている…」一犀は萊智に対してそう声をかけた。
しかし、萊智にはどうもそう上手く行くような気はしなかった。
一方、紅葉は長官の元に足を運んでいた。彼女は長官の現在確認されている新たな百足のバグビーストの話を聞いていた。
「…以上が、今報告されている被害件数だ…。」
長官は説明を終え顔を上げた。その時の彼女の顔は、まるで自分を睨みつけているかのようだった。
「…今でも私の行いを恨んでいるのかい?私が君と君の息子を引き剥がした事を」長官は恐る恐る聞いた。
「…否定はしません。ただ、私と共にいてもまともな生活を受けれるとは限りません、結果オーライと言ったところでしょうか」紅葉の言葉には心がこもっていなかった。
「…君には失礼かも知れないが、私は
「…そうですか」彼女は淡々と答えた。
「彼が作ったもの…全て壊してやりたい。スマートライザーも、バグビーストも、電脳世界も…」彼は力を込めて言葉を発した。
「バグビーストに電脳世界?在電がそれらを創り上げたのですか?」紅葉にとっては驚愕だった…そんな事実、初めて知った。
「そうだ…私が彼を追放した際、奴が逃げた場所が電脳世界だったのだよ…そこで奇妙な生物を作り出した…だが彼自体がその生物に反逆されるなんて思っても見なかったが」
「…」
「…とにかく、この組織は電脳世界を破壊し尽くすまで、バグビーストを残らず始末するまで…存続させる。それが私の願いだ」
長官は疲れたと言って部屋を後にした。
「…そう…そういう事だったのね」紅葉は唇を噛み締めた。
翌日、紬葵は住んでいるマンション近くの高台公園に足を運んでいた。
彼女は上京してから、何か悩みがあると必ずと言っていいほど立ち寄っている場所だった。そこから見る街の景色が好きだった。夏になるとよく子供が水遊びをしている川沿いの広場、いつも太陽の光を美しく反射させる河川、それを心地のいいリズムで横切る鉄道の橋梁、何処か遠くの街の山…それらをゆったりと眺められるここは彼女にとって癒しの場所だった。
「太刀筆さん」
「…御定君…どうしてここに?」彼女はここの事を彼に教えた事なんてなかった。
「…スマートライザーのGPSを辿って来たんです」
「…まるでストーカーね。それで、私に何か用事?」一瞬、飯山将平について調べていることがバレたのかと思った。
「メリアさんとは、仲直りしないんですか?」例の件ではなかっただけマシだが、それでも重箱の隅をつつくような質問に変わりはなかった。
「…今更、私が何をしても無駄よ。私の行動が、彼女の大切な人を死なせる運命に導いてしまったのだから…許されないに決まってる」紬葵は、何もかもがどうでも良いかのように答えた。
「…太刀筆さんが弱音なんて珍しいですね」萊智は意外そうに言った。
「…珍しくないわよ…私は弱い。ただ、それを誰かに見られないようにしているだけ…」そうだ。私は弱い…だからあの時も従うことしかできなかった…
「…貴女は、自分を卑下して立ち止まってる気ですか?」
「…何もそのつもりじゃ…」
「弱音を吐くくらいなら仕事しろ…とまでは言いませんけど、弱い事を理由に逃げるなんて良くないと思います。僕は弱さから逃げなかったからこそ、スパイダーに勝てた…今度はそれを貴女がする番です」
弱さを乗り越えて強くなった者の言葉の響きは何処か重く感じた。彼が強くなっている事を彼女は紛れもなくこの目で見続けてきた。彼にできたのに、私にはできない…そんな事、ある筈がない。
「…そうね、今度は私の番よね…ありがとう、少し勇気が湧いてきた」その彼女を見た萊智は、友人との約束があると言ってその場を後にした。
「スコーピオン様、お呼びでしょうか」その頃、スコーピオンはセンチピートバグビーストを呼び寄せていた。
「デジタルセイバーに一泡吹かせてやろうと思う。その第一段階としてお前に出撃を命じる」
「承知しました」センチピートはそう言うとその場を後にした。
「…奴1人だけでいいのか?」後ろの男がスコーピオンに聞いた。
「…構わない、今回は勝つ必要はない。あくまで奴らの力量を測るだけだ」スコーピオンの答えに男は特に反応を示さなかった。
「そうか」
センチピートバグビーストの襲来を察知した紬葵は、既に現場に到着していた。
「人間は残らず滅ぼす…!」センチピートは百足型の鋸を振り回し人々を次々と切り裂いていた。
「…流石に前のようには行かないか…変身!」
[Server connection…][Rider Pencil!]
「来たか…デジタルライダー…!」センチピートはノイズを大量に召喚、ペンシルに向かって攻撃させた。
「そういえば、新機能が追加されたとか言ってたわね…使ってみるか」
ペンシルは早速アプリを起動させた。すると右腕が黄土色に変化した。手首には腕時計型のバンドが装着されている。肩には時計台のように大きな時計が表示されており、現時刻を表示していた。
「なんだろこれ…」彼女は腕時計の画面をタップして敵を剣で切り裂いた。
すると、およそ5秒後に一斉にノイズ達が爆散した。
「…時間停止?そんな機能が…」時間に対して僅かではあるが操作できるクロックだ。
「しかし、思った以上に反動が大きいな…」ペンシルは右腕の装備を解除して、逆にトランスファモードを起動した。
「やっぱり私にはこっちの方が性に合ってる!」ペンシルはノイズに対して2本の剣で次々と切り裂いていく。
そんな彼女の後方からノイズが一体飛びかかろうとしていた。
そのノイズを、一本の矢が貫いた…メリアのピジョンだ。
「…メリア…」
「…何さ」ピジョンは彼女の元に駆け寄った。
「…私は、メリアみたいにバグビーストを守るなんて事、できない…」
「…そっか」ピジョンはペンシルの言葉に難色を示した。
「だけど、大切な人が守りたいと思った物は守りたい…それがバグビーストだったとしても」ペンシルは剣をピジョンの後ろにいる敵に向かって振り下ろした。
「…ツムツム、ありがとう。ごめん、下らない意地なんて張って」ピジョンはペンシルに向かって右手を差し出した。
「…メリア…ここは私が先に謝るところよ…ごめんなさい」ペンシルはその右手を掴んだ。
「行くわよ、最強コンビの力、見せてあげるわ」
「最強なのはツムツムだけだよ」ピジョンはそう言うとソシアルフォームに変身、ナイフを構えた。
「貴様ら…私を放って…!」センチピートはノイズを大量に召喚し自分諸共特攻を始めた。
「一気に倒すわよ!」
[Blake finish!][Pigeon twister!]まずはピジョンが必殺技を発動させた。翼を広げ高速移動しナイフですれ違いざまに切り裂いていく。
惑うセンチピートの元にペンシルが剣を連続して振り下ろし、ノイズの集団の中に倒し込んだ。
「これで決める!」「終わりだよ!」
空高く飛び上がった2人、ピジョンは弓を構え、桃色の矢を…ペンシルは黄色の剣のエネルギー波を放ち、センチピートをノイズ共々爆散させた。
変身を解いた2人は、互いに顔を見つめ合った後、腕を構え、交差させた。
次回、第27話 爆誕、最後のシンクロアップデート