仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第27話 爆誕、最後のシンクロアップデート

 

 

 

「センチピートがやられたようだが…」

 

男はスコーピオンに対して伝えた。スコーピオンはやはり、と答えた。

 

「元々、優秀な駒は全てスパイダーに使われていた…仕方ないといえばそうだな。やはり自ら赴くしかないようだ」

 

「その割には余裕そうだな、蠍」

 

「…鎧…」そこへ現れたのは軍服の男、ビートルだった。

 

「私の優秀な部下を貸してやってもいいが…」

 

「…その必要はない、私は腕でなく毒で勝負する…」スコーピオンはそう言ってその場を後にした。

 

「…蠍、奴もここで終わりか」

 

「…奴の事、信じてやらないのか」男は鎧に対して聞いた。

 

「…己の腕を信じれぬ者に勝利の道はない、そう言っているだけだ」

 

鎧の言葉は、冬の寒さのように冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、紅茶は人生に一瞬の安らぎをくれる…」

 

その日は雲一つない冬の青空が広がっていた。太陽の光が西に傾き始めた頃、デジタルライダーの4人は、初めて揃って遊びに出ていた。と言っても、郊外にある一犀の別荘で紅茶を飲んでいるだけだ。

 

「青空の下で飲む紅茶もまた格別だねー」メリアはため息をついた。

 

「…この茶菓子も美味しいですね」萊智は紅茶よりも茶菓子に夢中になっていた。

 

「…この平和が続けばいいのにね…」紬葵は願望をそっと口にした。しかし、その幸せがまだ始まってすらいない事は彼女が1番よくわかっていた。

黒いデジタルライダーの正体、そして飯山将平の真実…それらが明らかになるまで本当の幸せは訪れないと…

 

黒い戦士は何のために戦っているのか、もし仮にその正体が「長居管蔵」だとしたら、目的は何なのか…。

 

〜真実を知ろうとするな。ただひたすら電脳人と戦えばいい〜

 

真実の隠蔽…やはり、飯山将平には何か秘密があるはず。それが何なのかは分からないが…

 

 

 

「…太刀筆さん、大丈夫ですか?」

 

萊智の声が、彼女を現実に引き戻した。

 

「先日からぼーっとしている時が多いが、何か悩みでもあるのかい?」

 

「それとも、やっぱり風邪治ってないんじゃない?」

 

 

3人が、揃いも揃って彼女を心配していた。先日からの様子を見ていれば当然かもしれないが。

 

「本当、何でもないから…」彼女はそう言って席を外し別荘の中に入って行った。

 

 

 

彼女が居なくなった後、3人は顔を合わせた。

 

「最近の彼女を心配して連れて来たはいいが、やはり簡単に気分転換はできないか」一犀は深く腰掛けた。

 

「カキピーが居なくなった時も、1番引きずってたしねー、なんなら、今も時々そういう風に見えるし」

 

「…俺達の知らない間に、何かあったのでしょうか?」

 

 

 

3人は深くうなだれた…

 

 

 

 

 

しかし、それでも時間は進んでいく。陽が徐々に空を赤く染めていく。

 

3人は別荘内に撤退すると、夕食の準備を始めた。リビングルームにあるこたつにカセットコンロを用意し、その上に鍋を置いた。

 

食材は白菜、椎茸、焼き豆腐、豚肉、大根などなど…そこから察するに今夜は鍋だろうか。

 

「太刀筆さん、まだ上に居るんですかね…」

 

鍋の素を入れた萊智がふと口にした。

 

「そうだな…僕が呼んでこよう」一犀は2人にこの場を任せて彼女を呼びに向かった。

 

 

その頃、彼女はベランダで夜空を眺めていた。都心から離れている事もあってか冬の夜空がいつもの何倍も明るく見えた。これだけ広大な夜空を見ていると、自分の悩みなんてちっぽけで馬鹿らしいと感じてきた。

 

「…ここからの夜空は最高だろ?」

 

そこへ彼女を呼びに来た一犀が現れた。

 

「…そうね」そう言うと再び夜空を眺めた。

 

「逢引に来たのかしら?」

 

「…その通りさ、お嬢さん」彼は彼女の冗談にあえて乗った。乗ってくるとは思わなかった彼女は心の中で思わず驚いた。

 

「そんな事言うと紫苑さん泣いちゃうよ」

 

「それだけは気をつけなければね」

 

2人は笑顔を浮かべ空を見上げた。

 

「…私って、夜空と比べたらとてもちっぽけなものよね。私の人生なんて下らないと感じるくらい」彼女はふと弱音を呟いた。これがメリア、ましてや萊智だったら絶対言わないだろう。

 

「…人間は、自分の事なんて全然分からないさ。例えば地球(ここ)から見た星は綺麗だ、煌めいているなんて事はよく分かるが、この星の事はただの広い大地にしか見えない。だが、他の星から見れば地球もまた綺麗な星である。人間も同じさ。自分から見た人生なんて、醜い、酷いものばかりで良いものだとは思えないが、他人の人生は羨ましいと感じる。」

 

一犀は彼女の方を向いた。

 

「自分の人生が下らないだとか、そんな事は自分で言う事じゃないさ。もしそう思ってるだけなら、気がついていないだけさ」

 

真面目にロマンチックな事を言う彼に彼女はついニヤついてしまった。

 

「ひ、人の台詞を笑わないでくれ…」

 

「だって…昔だったら、ナルシストみたいな事言ってだろうなって…思うと…」

 

紬葵はしばらく半笑いの状態になっていた。何度か深呼吸をする事でようやく心を落ち着かせた。

 

「…でも、本当に珍しいね。貴方がそう言う事言うなんて」

 

「そうだな…昔に比べて他人に関心するようになった、人を愛するようになったからかな…」彼の脳裏には守るべき人、一緒に生きていきたい人が浮かび上がった。

 

「なにそれ…」その時、彼女の腹の虫が話を途切れさせた。

 

「…そういえばディナーの準備が整った事を伝えに来た事をすっかり忘れていた」

 

 

その後、2人は待ちくたびれた仲間の元に降りていき、楽しい夕食のひと時を過ごした。

 

 

 

 

 

 

翌日…4人がいる別荘のある山の麓、そこに蠍の男はいた。

 

街に不似合いな侍衣装に、物珍しさからか通行人達はカメラを向けていた。

 

「やはり、愚かなものだな…人間は…目の前の怪異に恐れを感じないとは」

 

蠍は、自身の姿をバグビーストに変えた。血のように赤黒い身体に通行人達は驚いたが、それでもなおテレビの撮影と勘違いをしてカメラを向けていた。

 

しかし、そのカメラのフラッシュも直ぐに収まった。通行人達は次々と肌の色が真っ青に染まり倒れた。

 

「…お前、見た目通り残酷な奴だな」背後からあの黒い男が現れた。既に変身しており、手にはサイヴァーと同じ銃を持っていた。

 

「ダーク、お前が出るまででもない」

 

「…蠍、相手は4人だ、油断はしない事だ。」ダークと呼ばれた男の先には、既に変身した4人のデジタルライダーの姿があった。

 

「あいつら…グリットとパロ君の…」ピジョンはそう言った。サイヴァーとセンスは彼女と共に睨みつける視線を送った。

 

一方、3人がダークと出会っていた事を知らなかったペンシルは驚いた…まさかその様なことが…と彼女は心の中で呟いた。

 

「ダークは私がやる…3人はスコーピオンを」ペンシルは3人の回答も聞かずに走り出した。

 

3人は最初戸惑ったが、スコーピオンの危険な能力を見ればどちらを先に対処すれば良いかは明確だった。

 

 

3人はスコーピオンに向かって走り出した。

 

「甘い!」スコーピオンは自身の尾を振り回し3人に攻撃を仕掛けた。

 

3人は回避に成功するが、その尾から放たれた紫色の液体が腕や脚に飛び散った。

 

「うっ…熱い!」紫の液体はジワリと煙を上げながら彼らの身体へ侵食していく。

 

「鎧を溶かす毒か…厄介な奴め!」センスはムービーフォームに変身、スピアを手にしてスコーピオンに迫った。

 

スコーピオンは再び毒を振り撒くが、強化されたセンスの鎧には毒が入りづらくなった。

 

 

後方では、サイヴァーとピジョンがキュアで傷を回復していた。

 

「なるほど…アレだけの鎧が有れば…」

 

 

 

 

 

 

その頃、ダークとペンシルは一歩も引かない勢いで戦っていた。

 

「お前…想像以上に強くなっているな…!」

 

「そうかしら…私、貴方とマトモにやり合うのは初めてな気がするのだけど!」ペンシルはダークに対して剣を振り下ろした。ダークはそれを弓の押付で防いだ。

 

そして弦を勢いよく引き、手を離した。至近距離で放たれた矢に彼女は押し倒され、地面を勢いよく転がった。

 

彼女が顔を上げると、ダークがまるで自分を殺しにやってきた悪魔のように見えた…。

 

裏でどのような表情を浮かべているか分からない、それとも何も思っていないのか…それすら分からなかった。

 

「貴方は、一体誰なの…長官なんですか?」

 

「その質問に答える必要はない…」ダークは淡々と話しながら近づいた。武器を剣に変え、今にも彼女の体を突き刺そうと迫る。

 

「…最悪!」ペンシルはそう吐き捨てた。ダークが剣を構えた頃にはペンシルは起き上がり右腕をクロックに変えていた。そして目の前から一瞬にして姿を消した。

 

「なんだと!」ダークの背後には左腕をトランスファに変え二刀流で斬りかかる彼女の姿があった。

 

ダークも咄嗟に左腕にゲーミングフォームと同じ青い剣を召喚して応戦した。

 

「その剣…!」ペンシルはこのまま押し切るべく力を強めた。

 

しかし、ダークはそれを簡単に薙ぎ払った。

 

「…俺はアンタを切りたくない、ここで終わりにしよう」ダークは突然剣を闇に収納し彼女に言い放った。

 

「は?どういう事よ…」ペンシルがその答えを聞く前にダークはその姿を消した。

 

 

 

 

その頃、ゲーミングフォーム、ソシアルフォーム、ムービーフォームの3人はスコーピオンに対して苦戦を強いられていた。

 

スコーピオンの毒は鎧で進行を遅くする事はできるが、持久戦となればほぼ無意味である。また、毒だけでなく接近戦も剣術でカバーする為、逆転できる隙が無くなってしまった。

 

スコーピオンは尾を伸ばし3人に刺突攻撃を仕掛ける。咄嗟に反応したピジョンが弓を構え空中を漂う尾を狙い次々と矢を放つ。

 

尾の動きが止まったところにサイヴァーとセンスが剣とスピアで近接攻撃を仕掛ける。スコーピオンはその攻撃を毒を纏った右足で一蹴した。咄嗟の回避で地面に倒れたサイヴァーを掴み上げると右拳で殴り飛ばした。

 

その攻撃はピジョンを巻き込み2人を地面に屈しさせた。

 

センスが後方が仕掛けるが、尾を巧みに動かして彼の胴体に巻き付いた。そして自分の元に手繰り寄せると刀で斬り裂き、そして追い討ちをかけるように尾を動かして地面に叩きつける。

 

「このまま…やられるのか…!」センスは上を見上げた。

 

「命乞いをしろ、もしくはそのスマホを置いて逃げるが良い…」

 

「そんな事、出来るわけない」サイヴァーは銃を取り出し反撃に出ようとしたが、全て刀で弾き飛ばされてしまった。

 

「…そうか、そんなに死にたいのか!」スコーピオンは刀を振り回しながら3人に近づいたその時だった。突然背中から火花を散らし地面に倒れた。

 

「なっ…気配を感じなかったぞ…!」

 

そこには、クロックとトランスファを装備したペンシルの姿があった。

 

「だって、「時間を止めて」「高速移動」ができるんだからね」

彼女はスコーピオンの立っていた場所に立ちはだかった。

 

「そうか…ならば!」スコーピオンはそう言うと尾を大きく唸らせ萊智の…ではなくセンス達のいる方向へ勢いよく突き刺した。

 

3人はその衝撃とばら撒かれた毒で倒れ、戦闘不能へ陥った。鎧が解け、基本形態の姿に戻っていた。

 

「…どうだ…貴様が余計な事をしたからそうなった訳だが…どうする?」スコーピオンは意地悪くいう。

 

「…簡単な話よ…私がアンタを倒せばいい」

 

彼女は覚悟を決めたかのように拳を力強く握りしめた。

 

「私は、世界の命運を握る決断なんてしてこなかったし、愛する人ももう居ない…だけど、今を生きる仲間だけは、守りたい!」

ペンシルがそう言い放った時、彼女のスマートライザーが光り輝いた。

 

[Synchro UP!][Comic Pencil!]

 

スマートライザーから沢山の板状の鎧が出現し、それらが次々と彼女の身体に貼り合わされていく。

 

胸部には大きく、「剣」「ペン」「剣で敵を斬り裂いた時の軌跡(ペンで描かれたエフェクト)」が描かれている。体色は黄緑色となり、頭部の髪の模様はより大きくなった。ベレー帽も緑色に変わり、まさに漫画家のような姿へと変わった。その名をペンシル、コミックフォーム。

 

 

「姿が変わろうと同じこと!」スコーピオンは尾を振り下ろし毒を注入しようとした。しかし、それは巨大な漫画のコマ割りを模した盾によって防がれた。

 

「さぁ、得意の毒は使えないみたいね!」ペンシルはそう言い放つと右手に剣を持ち左手に盾を持ってスコーピオンに迫った。

 

スコーピオンは得意の剣技で対応しようとするが、再び盾によって防がれ、反撃を喰らった。それも一度ではなく何度も。

 

 

遂に限界が来たスコーピオンは地面に膝をついた。

 

「これで終わりよ」

 

[Blake finish!][Pencil end!]

 

ペンシルは緑色のエフェクトを纏った剣でスコーピオンを一刀両断した。スコーピオンは身体を焼き切られ、自身の毒を蒸発させられながら爆発した。

 

 

スコーピオンが爆散した事で3人の鎧に巻き付いた毒も蒸発し、苦しみから3人は解放された。

 

 

 

 

 

 

 

「「遂に4人のシンクロアップデートが揃ったか…」」

 

 

 

 

 

 






次回、第28話 鉄血の軍隊
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