「…随分と弱いな…つまらない最期だな…!」
飛蝗の怪物は、再び地面を蹴り上げ、右拳を構える。
超高速のストレートパンチが、サイヴァーの身体に迫る。
「はあっ!!」
サイヴァーの目の前には、剣を飛蝗の怪物に対して振り下ろす新たな戦士の姿があった。
黄色の身体に、ライトグリーンのラインを持つ姿。声の高さと背格好からして女性…?
「…誰?」
「…今は一旦逃げるわよ。」彼女は、サイヴァーに顔を見せた。明るい黄色のベレー帽の装飾と、ショートヘアを模したオレンジ色の模様に、ライトグリーンの眼…まるで漫画家のような見た目の戦士だ。
先端が付けペンのようになっている剣で、周りを掻き消すように彼女は剣を振るいインクが飛び散るように土埃を舞い上げ、サイヴァーを連れてその場から姿を消す。
目眩しを喰らった飛蝗の怪物はサイヴァーの追跡を中断した。
「…将軍に、サイヴァーの再臨を告げねば…。」
そう言って、電脳世界の最深へと姿を消した。
「どこに向かってるんですか?」
サイヴァーは、黄色の戦士に連れられ電脳世界を彷徨っていた。しかし、彼女はそれを答える気はなかった。
「だいたい、貴女は誰なんですか?」
「もうすぐで着くから…それまでは静かにしてて。」
サイヴァーはその言葉で口を閉じた。
こうして黙ってみると、この世界は、現実とは違い静寂が常に保たれていた。不気味なくらい静かなこの街に住民は存在しないのだろうか…
「ここよ。」辿り着いたのは、雑居ビルのような建物だった。彼女は腰に巻かれていたベルトから、サイヴァーが持っているものと同じスマホを取り出し[関係者以外立ち入り禁止]と貼られた扉にかざした。
すると、自身が世界を移動した時と同じような白銀の光が2人を包み込んだ。
そして、次に見えたのは、白を基調としたシンプルな部屋だった。部屋の真ん中には丸いテーブルに椅子が並べてあり、更に別の部屋に繋がるであろう扉が五つ並んでいた。
「…ようこそ、デジタルセイバーへ。」彼女は、ここで初めて変身を解いた。戦士だった時と同じようなショートヘアーで、身長も彼よりも小柄で可愛らしさのある女性だった。
「…?どうしたの?変身を解かないの?」
「その…解除ってどうやるんですか?」そうだ、彼は『たまたま』変身できただけだ。解除の仕方どころか、変身の仕方すら覚えていない。
「えっ…貴方知ってて戦おうとしたんじゃないの?」
「はい…」
「解除は、こうやるのよ。」彼女は、そう言うと彼の腰にいつのまにかつけられていたスマホを取り外し、電源ボタンらしき場所を押した。
すると、サイヴァーの鎧が解除され、御定萊智の姿に戻った。
「まさか、何にも知らなかったなんてね…。」彼女は呆れた顔をした。
「すいません…」萊智は、簡単に謝っておいた。しかし、彼からしたら勝手に期待されていい迷惑だ。
「…そうだ、名前言ってなかったね。私は
「初めまして…御定萊智です…。」
すると、自分達のいる側とは反対側の扉が開いた。
「隊長、サイヴァーの変身者を連れてきました。」紬葵は、扉から出てくる人物に伝えた。出てきた人物は、萊智よりも身長が高く、すらっとした体形と後ろで髪を束ねている姿が特徴的な女性だった。
彼女は、黙ったまま萊智に近づき、顔をまず見つめる。次に胸部に背中、手先などをみて、最後に再び顔を見た。彼は身構えたが、特に触るなどしてはこなかった。
「…初めまして、私はデジタルセイバー隊長の大橋紅葉だ。ちなみに、今のはちょっとしたテストだ。突然で済まないね。」彼はテストした事よりも内容の方が気になった。今ので何が分かったんだ。
「…今のは、貴方の第一印象を見たのよ。テストでもなんでもないわ。」紬葵は横から小声で耳打ちした。
「…あの、いきなり質問というのもなんですけど、『デジタルセイバー』とか、『サイヴァー』ってなんですか?」萊智は恐る恐る質問する。
「そうだな、サイヴァーの正式な装着者になってもらうためにも必要な事だな、とりあえず、そこに掛けてくれ。」紅葉は、萊智を座るよう促した。それと同時に、彼からスマホを一旦受け取り、机の下から取り出した充電ケーブルのようなものに取り付けた。
「…これは『アップデート』。だいたい1ヶ月に一度くらいあるんだ。性能向上の為にね。アップデートはこのコードを使わなきゃいけない。今回の場合、8ヶ月分溜まっているから大分時間がかかるだろうが、普段は30秒もあれば終わる。」
「はあ…そうなんですね。」萊智は生返事した。
「それで、まずは『デジタルセイバー』について話そう。デジタルセイバーとは、さっき君が出くわしたあの飛蝗の怪物、『バグビースト』というんだけど、それと戦う組織だ。バグビーストは、この現実世界の裏側に存在する、『電脳世界』と呼ばれる場所を拠点にしている。そして、人間に危害を加える危険な存在。目的は未だ不明だが。」
紅葉の話を萊智は一言一句逃さないよう聞いてはいたが、『理解』はできなかった。まるで算数までしか知らない中学生にいきなり微分積分を教える様な。これまでを要約するなら、デジタルセイバーは怪物と戦う組織だと、そしてその怪物はバグビーストと呼ばれ電脳世界という場所に住んでいる、そう思えばいいだろう。
「デジタルセイバーには4人のデジタルライダーが存在しており、その1人がペンシルに変身する紬葵だ。他にも2人いるが、その時に紹介すればいい。そして4人目がサイヴァー、君が持っていたスマホ、『スマートライザー』で変身する戦士だ。スマートライザーはライダーが全員所持しているが、能力は全部違う。例えば、ペンシルはメモ機能を持つアプリの力で戦う。」
なるほど、だからペンシルの剣はペンだったのか、と萊智は心の中で納得した。
「サイヴァーは、設定のアプリの力で戦う。他のライダーとは少し勝手が違う。まぁその辺は正式に迎え入れてから話そう。」
「…とりあえず、この組織の事、サイヴァーの事は大体分かったのですが、あの時、なんでスマートライザーが落ちていたんですか?」
萊智のその質問に、紅葉と紬葵は一瞬顔を顰めた。
「…何故落ちていたか…それは誰も見ていないから分からない。だが、使用者の登録が君に代わっているという事は、前の装着者が消えた事を意味する。」その言葉に紬葵は更に顔を暗くした。
「…サイヴァーに変身できる人間は限られているんですか?」
萊智は聞く。
「…別に、限られている訳ではない。言ってしまえば、誰でも『変身』はできると思う。だが、それを使いこなすのは非常に難しい。」
萊智は、その言葉を聞くと考え込んでしまった。誰でも変身できるなら、俺がこのままデジタルセイバーに入らなくてもいい、という事。面倒ごとに、また巻き込まれるのは嫌だ。そう思った。
「…君が嫌ならそれでもいい。ただ、一つ言っておきたいのは、バグビーストの侵蝕は他人事ではという事。バグビーストの出現は近年増加している。いずれ君の周りでも被害が出るだろう。それでもいいなら…の話だが。」
「…そんな言い方されたら、断るなんて言い辛いじゃないですか…。」紅葉の言い方に萊智は苦言を呈した。
「…隊長、本人に意志がないのなら、これ以上話す必要もないのでは?」そう言ったのは紬葵だ。
「…しかし、人手が足りないこの組織に、サイヴァーで臆する事なく戦えた彼は必要な人材だ。そう簡単に…」紅葉が言い返したその時、紬葵の持つスマホから通知オンが鳴った。
「…どうやら、ホッパー・バグビーストが出現した様です。私は先に向かってます。」紬葵はそう伝えた。
「分かった。気をつけて。」紅葉はそう言って向かった紬葵を送り出した。
「……前の装着者って、どんな人だったんですか?」萊智は聞いた。
「……妥協を許さない、正義感のある奴だったよ。」紅葉は立ち上がると、何もない天井と机の間に映像を投影した。どこかのスタジアムの様なそこに、ホッパー・バグビーストと呼ばれた敵、そして紬葵が変身したペンシル、そして逃げ惑う人々とそれらを脅かす黒い雑魚敵、ノイズがあった。
「…戦闘地点のリアルタイム映像だ。私はいつもこうして指示を出している。一応は隊長だからな。」紅葉は少し柔らかい表情で言った。
しかし、彼はその姿を見ていなかった。凄惨な現場を眺めていた。
確かに、面倒ごとは嫌だ。だけど、俺が放置すれば、誰かが傷つく…そんなのは嫌だ。
「……俺がサイヴァーに変身して戦えば、この人達を救えるんですか?」
「…それは、君次第だ。それ相応の『覚悟』があるなら、サイヴァーは必ず君と共に戦う。」
紅葉の答えに、萊智は覚悟を決めた。そして、スマートライザーを手にした。
「もうアップデートは終わっただろう。地図アプリを起動すれば直ぐに着く。そして、画面左上にある設定のアプリを起動すれば、君はサイヴァーに変身できる。」紅葉は、萊智に言った。
萊智はその言葉に、大きく頷くと、白銀の光に包まれ現場に向かって行った。
それから直ぐ、左から2番目の扉が半分ほど開いた。
「あれが新しいサイヴァー?」気怠そうな雰囲気を出している女性の声は紅葉に聞く。
「そうだ…」紅葉の答えに、彼女はふーんと返した。
「…君も行くだろう?」
「まぁね、ちょっと確認したかっただけだし。」そう言うと彼女は扉を閉めた。
その頃、街中のカフェでは別の人物がスマートライザーを見つめていた。
「…また敵か…。僕のティータイムの邪魔をするとは…。」彼は、紅茶を飲み干すと、席を立った。
白銀の光が薄れ、萊智は先程映像に映っていたスタジアムに来ていた。
「貴方…!」
遠くでホッパーバグビーストと戦っていたペンシルは、やって来た彼の姿を見つけていた。
「あの男か…今度こそ…!」同じように気づいたホッパーバグビーストは、照準を彼に変えた。
「…俺は、面倒事は嫌いだ…だけど、俺が戦わないせいで誰かが傷つくのも嫌だ。だから戦う、サイヴァーとして!」
萊智は、スマートライザー起動、そして画面にある設定アプリを片手で押した。
[Server connection…]その機械音声と共に、彼の周りに水色の電気の流れのようなラインが現れる。
彼は左手を天に掲げ、そして右側にもっていき右腕とクロスさせる。
「変身!!」彼の親指は、画面に映し出された『START』のボタンを押す。
[Rider Cyver!]水色のラインは、彼の身体に纏わりつく。そして、シルバーの装甲が装着される。胸部には、スマホの画面のようなパネルにサイヴァーのクレストが出現する。
彼は、隣の窓ガラスに写る自分を見た。自分の姿が変わった事を確認しホッパーバグビーストの方を向いた。
「…今日から、俺がサイヴァーだ。」
すると、彼の右腕に銃が召喚された。スマホスタンドの様な銃、サイヴァーデバイスの銃口を、民間人を襲うノイズに向け、そして弾丸を放つ。ノイズは撃ち抜かれ次々と倒れていく。
「俺が相手だ!!」ホッパーバグビーストは、サイヴァーに向かって攻撃を仕掛ける。右拳のストレートを放つが、覚悟を決めたサイヴァーの前にその攻撃は遅い。
無駄のない回避を見せ、右手の銃で背中を向けているホッパーバグビーストに向かって弾丸を放つ。激突したところから血潮が飛び散る様に火花が出た。
「貴様…これほどの力を…!」ホッパーバグビーストはノイズを10数体呼び寄せ、サイヴァーに向かって攻撃させる。
一瞬で距離を詰められたサイヴァーは、咄嗟の攻撃が出来ず、窮地に陥った。しかし、それもすぐに解消される。
彼の右手側からペンシルが剣でノイズを切り裂いた。
「…貴方が本気で戦うなら、私もサポートするわ。」
更に、彼の左手側に迫るノイズも、一瞬にして塵と化した。
ノイズの後ろには、自撮り棒の様な形をした槍を持った紫の仮面戦士がいた。
「…太刀筆君、サイヴァーが何故ここに?」
「…新しいサイヴァーよ。『アイツ』並みに才能はあるわよ。」ペンシルは仮面戦士に答えた。
そこへノイズの第三部体が迫る。しかし、それもサイヴァーの後方から放たれた矢が攻撃を防いだ。
「3人とも、よそ見してる場合?話は面倒だし後にしよ。」ヘッドホン型の弓を持つ鳩型のバイザー戦士が、話を続けようとする2人を止めた。
「…仲間…という事?」サイヴァーはペンシルに聞いた。
「相当クセが強いけどね。」ペンシルは笑って答えた。
「貴様ら、ここで全員倒す!!」ホッパーバグビーストが、息切れしながら叫ぶ。
「新人君、せっかくだから君が決めなよ。スマホの画面のアイコンをタッチして。」ペンシルはサイヴァーにそう促した。
サイヴァーはスマホを取り出し、画面を見た。そしてキックアイコンを押した。
[Blake finish!][Cyver strike!]
「はあっ…」サイヴァーの右脚に力が湧き上がる。そして、ホッパーバグビーストに向かって走り出す。
そしてジャンプし、フィギュアスケート選手みたいに空中で一回転し右脚を突き出す。
強大な力を纏ったキックが、ホッパーバグビーストの体を貫通、そして爆散させた。
着地したサイヴァーは、立ち上がり、爆炎が広がる後ろを振り返った。
運命の導きは、こうして萊智をサイヴァーに変身させた。
しかし、運命の悪戯はこれで終わりではない…
「グラスが敗れたか…。」
無事サイヴァーの変身者となった萊智、そんな中、人々が次々と行方不明になる。そしてその事件にはバグビーストも関わっており…
次回、第3話 死神の現実徘徊