前にグリットとパロットが倒れた研究施設にダークは来ていた。前の鮫の時と同じように、カメラを向け黄色のコードをスキャンした。
「…隼はこれでゲットした。次は兜虫か…」
「「メリークリスマス!」」施設にやって来たのは、サンタクロースに扮した紬葵とトナカイのコスチュームを着た萊智だった。
今日はクリスマスイブ、2人は先週購入したおもちゃを子ども達に届けに来たのだ。
「あっ!サンタちゃんだ!!」1人の子どもが、紬葵のコスプレを見て言った。その声に子ども達が一斉に駆け寄って来た。サンタちゃん、というのはサンタクロースが女性だからだろう。
「今年もいい子にしていたみんなにクリスマスプレゼントだよ!」
そう言うと、萊智が持っている白い袋からおもちゃを次々と取り出し子ども達に渡していった。おもちゃをもらった子ども達は皆大喜びで室内を駆け回った。
「今年は、新しい子を引っ掛けて来たのね」そう言ったのは施設の園長である貝割さんだった。
「冗談はやめてください…仕事の後輩ですよ」彼女は、園長に対して笑いながら言った。
「そう、残念ね…今年こそは貴女の結婚報告聞きたかったのにね」恋愛好きな彼女は、毎年紬葵の結婚報告を楽しみに待っていた…。
「智君とは上手くいってたのに、残念ねー」彼女も柿崎智の死を知っていた。勿論死因は伝えていないが。
その後、2人は子ども達の遊び相手をしてあげた後、施設を後にした。気がつけば空が夕焼け色に染まっていた。萊智は紬葵の運転する車に乗り込んだ。
「今日は疲れました…」彼はため息をついた。
「でも楽しかったでしょ?」
彼女の問いかけに彼は笑顔で「はい」と答えた。
エンジンをかけ、施設を後にした2人は最寄りのインターチェンジから高速道路に乗った。
「ねぇ、東京に戻ったらデートしない?と言っても私の部屋でだけど」
「…いいですね、行きます」彼は気軽に返事をしたが、実は女性の部屋には麗香を除いて一度も入ったことがない、少々緊張感が湧いて来た。
「それならケーキを買って帰りません?もう売り切れてるかもしれませんけど」
「いいね、行こう」そう言う彼女も、実は智以外の男を自分の家に入れるのは初めてで少々照れ臭かった。
互いにその感情を隠しながら、ケーキ屋で売り切れ寸前のショートケーキを二つ買い、紬葵の部屋のあるマンションに向かった。
ちなみに、この日のデジタルセイバーの連中はこのように過ごしていた。
メリア ネット仲間と共に有名ゲーム実況者の生配信を視聴
一犀 紫苑と高級レストランにてデート
紅葉 仕事に熱中しすぎてクリスマスの事を忘れていた
紬葵の部屋はとても綺麗に片付いていた。リビングには大きなテレビがあり、目の前にはテーブルがあった。彼女はそのテーブルの上に買ってきたオードブルを並べ、彼はキッチンにある冷蔵庫にケーキを入れた。
紬葵は食器棚から小皿と箸を取り出しテーブルに持ってきた。更に冷蔵庫であらかじめ冷やしておいた2Lのコーラを持ってきて、それぞれのコップに注いだ。
その間にも萊智はオードブルの蓋を外し、すぐに食べられるよう準備していた。
「それじゃ、食べようか」紬葵は、準備を終えて椅子に座った。
「はい、早く食べましょ」萊智も椅子に座った。
「「いただきます」」
2人はそう言うと小皿に自分が食べたいものを次々と取って、そして食べていく。しかし、2人は心の中でこう思っていた。
「「とてつもなく気まずい」」
いつも2人で食事をしている時はそのようなことは無い、しかしこういう日に2人だけで、というのは紛れもなく恋人同士でするものだ。
互いに意識しあっているが故にそのような事態に陥ってしまっている。
どうにか話題を作らなければ、しかし2人に今そのような事を考えられる余裕はなかった。
「太刀筆さん、こうしてみると意外と可愛いな…」だとか「萊智くんも意外とイケメンだな…」だとか考えているからだ。
なんだよお前ら…
流石にこれ以上無言のままだとどうにかなってしまいそうだ、そう考えた2人は互いにテレビのリモコンに手を伸ばした。
2人は互いの手が当たりそうになりつい引っ込めてしまった。
「ごめんなさい、」
「い、いいのよ」紬葵は改めてリモコンに手を伸ばしテレビを付けた。
テレビでは丁度クリスマスイブ特番がやっていた。2人は心の中でナイスと叫んだ。
その後はテレビの話をしながら楽しい夕食のひと時を過ごした。
翌日、それは一件の通報から始まった。
それは前のビートルと戦った廃工場にて起こった。
通報の内容は「黒い人が廃工場に侵入している」という通報だった。
それを聞きつけた真っ先にやってきたのはペンシルとサイヴァーだった。
「…お前ら…」黒い人、というのはやはりダークな事だった。
「ここで何をしている?」サイヴァーは聞いた。
「関係ない…それに、やる事なら既に済ませた」ダークのスマートライザーには既にオレンジ色のコードが読み込まれていた。
「…そのコード、もしかして今までのバグビーストの力を使えるのか?」サイヴァーは前のダーク戦を思い出しながら聞く。
「そうだ、お前達のモードチェンジと同じように」ダークはそう言うと黄色のコードを呼び出した。すると背中に隼のような翼が広がった。
「逃がさない!」飛び立とうとするダークに向かってペンシルは盾を投げつけた。その盾でバランスを崩したダークは地面に着地した。顔を上げると剣を振り下ろそうとするサイヴァーが見えた。
ダークは咄嗟に黒いコードを呼び出し右腕を変化させた。スパイダーが使っていた爪のように変化したクローで剣を防ぎ、弾き飛ばした。
「それはスパイダーの…本当になんでも使うな…それも俺達を苦しめた奴らばかり…」サイヴァーは再び襲い掛かるが、ダークはそれを装甲を固めた右脚で蹴り飛ばした。
サイヴァーはドラム缶に打ち付けられた。
「俺に用はないだろ…」ダークはそう言って今度こそ離脱を試みるが、そのダークの後方からピジョンとセンスが襲い掛かった。
突然の奇襲にダークは前に揺らめいた。
「今度こそ、その素顔を拝ませてもらう!」必殺技を発動させたペンシルの斬撃が、ダークのスマートライザーにヒットした。
破壊こそ出来なかったが、機器がバグを起こし変身が解けてしまった。ダークは元の人間の姿に戻ってしまったのだ。
ピジョンとセンスはその素顔を見るべく後ろを振り返り、サイヴァーも顔を上げた。
ダークはゆっくりと顔を見せた。
「嘘だろ…」最初に声を上げたのは一犀だった。
「なんでアンタがダークなんだ…柿崎さん…!」その顔は紛れもなく、柿崎智だった。
「カキピー、死んだはずじゃ…」メリアも驚きのあまり開いた口が塞がらない。
萊智は柿崎は写真でしか見た事ないとはいえ、十分驚いていた。
一方、紬葵だけはまだ冷静だった。
「…貴方の素顔を見せなさい?」
「どう言う意味だ?」智は聞いた。
「智はもう死んでいる」
「…だが現に生きている…」
「ええ、でもそれは無理矢理動かしているだけ」
智が黙った所で紬葵は更に言葉を発する。
「もし智本人なら、萊智の名前、知らない筈でしょ…」
「どういう…事?」萊智は呟いた。
「…飯山将平さん、貴方なんでしょ」
「そうだ…そこまで調べていたとは」智の顔は一瞬にして将平の顔へと変化した。
「何が起こっている」一犀とメリアは完全に困惑していた。
「飯山将平、ヒューマンバグビーストだ」
次回、第31話 死者の話