第33話 最後のバグビースト
ここは…学校のグラウンドだ…1人で…いや、そんなことはなかった…
目の前には…萊智がいた。彼だけじゃない…麗香もいた。
萊智は俺を見て手招きした…
「今追いつく!」
そう言って走り出した.…すると彼も一緒に走り出した…競争するのか?
しかし、麗香は違った…その場に留まっていた。
「…麗香も走ろう?」
彼女はその問いに首を横に振った。
彼女は、徐々に離れていった。彼女の意志ではなく…俺が前に進んでいるから…
「ここは…?」気がつくと、知らない部屋に居た。
そうだ…思い出した。俺は確か、萊智達に負けて…だが、死んでは居ないようだ。
「目を覚ましたのね」
俺の横には、
何故…知っていると思った…初めて会う筈なのに…他人のように感じない…
気がつくと、俺の頬に何か温かいものが流れ落ちた。
次の瞬間、彼女は俺の事を抱きしめた。
「ようやく…会えたね…ごめん…ごめんね」
一体、何に謝っているのだろう…ただ間違いなく俺に対して謝っていると言うことだけは分かった。
俺にできることは、ただ抱き返す事だけだった。
しばらくすると、彼女は抱いていた手を離し元の椅子に座った。
「ごめんなさい…勝手にこんな事して。貴方は私のことを知らないのに…」
「…気にしてないです。むしろ、懐かしいと思いました…
なんなんだろう…この感情、麗香への恋人としての好きとも、萊智への親友としての好きともまた違う…好きだと感じる…何がなんだが分からない。
「…そうね…」彼女は黙ってしまった。やはり、何かしてしまったのだろうか。
尋ねる前に、彼女は席を外してしまった。彼女と入れ替わるようにやって来たのは、萊智だった。
「萊智…」
「久しぶりだな、将平。まさかこうしてまた話ができるなんて思わなかったよ」
「それはこっちの台詞だ」萊智は先程まで彼女が座っていた椅子に座った。
「なぁ、今さっき出ていった人って誰なんだ?」俺は何の躊躇いもなく聞いた。
「…紅葉隊長、俺達のデジタルセイバーの隊長…そして、将平の本当の母親だ」
母親…。そう言う事だったのか。
「…驚かないんだな」萊智は意外そうに聞いた。
「…俺の母親が、あの人じゃないことは…もう知っていた。精神だけの俺を拾ってくれた人がそう言っていた。だが、誰かまでは言ってなかったからか…」
「待った。拾ってくれた人って…誰のことだ」萊智は顔を顰めた。
「…正しくいえばバグビースト…なんだが、人間態の時の顔は見たことない。俺と会う時はいつも偽りの姿か、怪人態だったからな…生物はライオンだった」
「ライオンか…まさか、そいつがバグビーストの王様な訳無いよな?」
「少なくとも、俺が見てきた限りではあの世界の王様だったと思う」
ライオンの姿をしたバグビースト。彼は何か事情があるからか、本来の姿を見せない。俺も本来の姿は見たことはない。
「王様になっている、という事は相当な力を持っているのだろう。実際に戦った事はないから分からないがな」
「まさか、彼らがやり遂げるとはね…」紅葉は長居の所にやって来ていた。
「…私の負けだよ…今回ばかりは」意外だった…こうもアッサリと負けを認めるなんて。
正直、是が非でも自分の意見を押し通そうとする人物だと思っていた。
「…萊智の報告によれば、残す大きな敵はライオンのバグビーストのみ、だそうです」
「そうか…まさに百獣の王か…。そいつは我々と話し合う気がないのか?」
また驚いた。話し合い、それもバグビーストとの…目の前にいるのは本当に長居なのだろうか…
「どうした?何かおかしな事言ったか?」どうやら勘付かれたようだ。
「何でもないです…」彼女は咳払いをして話を始めた。「それで将平曰く、そもそも最近姿を見せない為、何を考えているか分からない…との事」
とある街角に、奴は現れた。赤色の体色と立髪が特徴的なその怪人の名は、ライオン・バグビースト。
「遂に、この世界を掌握する時が来た。皆、私の前に跪くのだ!」
そう言って奴はノイズを大量に召喚、周りの人々を次々と襲い始めた。
逃げ惑う人々、それらの波を掻い潜ってライダー達は現れた。ペンシル、センス、ピジョンの3人だ。
「萊智は?」ペンシルが聞いた。
「どうやらまだ飯山君と話をしているらしい」センスの答えに、なるほどねと言った。
「だったら、私達3人だけで頑張るしかないみたいね」
3人は手当たり次第ノイズを蹴散らし始めた。
「お前達がデジタルセイバーの戦士か…腕試しに丁度いい!」ライオンはそう言うと近くにいたペンシルを殴り飛ばした。彼女は地面を軽々と転がっていった。
「何このパワー…」ペンシルは立ち上がりトランスファを起動させた。盾を背中に背負い二刀流で相手に迫る。
ライオンは二本の剣をアッサリと掴み上げると、右脚で彼女の腹部を蹴り飛ばした。
剣を離して攻撃をなんとか回避した彼女、その目の前には既に掴んでいた剣を捨て目の前に向かって来ていた。
「どんだけ強いのよ!」ペンシルは盾を某マンガのヒーローの如く投げつけた。しかしそれも簡単に弾かれてしまう。
そして、距離を詰めると胸ぐらを掴み、簡単に放り投げてしまった。
「私こそ…最強だ…皆、王に平伏すがいい!愚かな人間は消えてしまうがいい!」
次回、最終回 光と闇