仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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extra 紅き葉の未来

 

 

 

 

かつて、バグビーストの王がいた玉座の間の奥底に、それはあった。

 

黒い棺は、だいぶ埃を被って埋もれていた。その中には、バグビーストにとっての『悪魔』の死体があった。

 

その棺を開けるべく、黒い影が舞い降りてきた。

 

ダーク以上に真っ黒なその影は、棺をゆっくりと開け、中の身体に戻った。

 

「…アイト(ライオン)が死んだことによって、私の身体の封印は徐々に薄まり、そして遂に解放された。さぁ…私の最後の実験に赴くとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、メリアさん」

 

「おはよう」メリアは、電脳世界で新たに作り出した人工農場に来ていた。そこで電脳人達はメリアから教わった方法で農作物を育成していた。

 

かつては雑草が勝手に伸びていた大地も、今では整備されて、農場や住居となっていた。

 

彼女は、そんな彼らの手伝いにやって来ていた。同じ電脳人として、その代表として…

 

そんな時だった。突然、轟音が鳴り響いた。何事と思い作業を止め音がした方向を向いた。

 

 

 

「城が…崩れてる」

 

目線の先には、かつてグリット達がいた城が土煙と共に崩れる音だった。

 

「みんなは念の為避難してて」そう言って彼女はピジョンに変身、空から偵察することにした。

 

メリアが到着した頃には土煙は収まり、瓦礫だけが残っていた。幸いにも近くに他の電脳人は居なかった為怪我人は居なかった。

 

最初は、老朽化で崩れた…そう思った。しかし、あの城は壊れる前兆も何もなかった。

 

「…何者かの仕業…?」

 

彼女は、そう根拠のない話を怪しむ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、萊智と紬葵は引っ越しの真っ最中だった。

 

2人が何故引っ越し…それも何故同じ部屋に居るのか…その答えは簡単だ。2人は同棲するからだ。

 

あれから、2人は交際を始めた。互いに、昔の関係に決着を付けたことで心の余裕ができた。

 

 

「後は家電だね、テレビは私の部屋から持ってきたやつがあって、冷蔵庫とエアコンは備え付けてあって…」

 

「炊飯器と電子レンジは買わないとこの部屋には無いですよね…後で買いにいきましょうか」

 

2人はこれから、どんな困難が訪れようと互いに助け合い、生きていく事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

萊智も、紬葵も、メリアも、一犀も…デジタルセイバーの皆はいつの間にか生まれ変わり、新たな明日へと踏み出していた。

 

 

しかし、1人だけ違った。

 

 

紅葉だけは、違った。

 

 

数ヶ月前、彼女の息子が戦死したと伝えられた。勿論、ショックを受けた。だが、それ以上に『何もしてあげられなかった』という思いが込み上げてきた。

 

 

今でも覚えている。彼が自分の身体から生み出された時、産声を上げなかった。

 

赤子が生まれた時産声を上げないと、それ即ち生命の危機であると言うことだ。自分の手で抱くよりも先に将平はあらゆる治療を行った。しかし、その時彼が産声を上げることはなかった。

 

悲しみに暮れた彼女は、1人病室で泣くことしか出来なかった。涙を流し、嗚咽をし、時には食べ物が喉を通らない…

 

そんな時に、仕事の仲間も、そして夫も誰も来なかった。いつも代わる代わるやってくる看護師と医者しか自分の事を気にする人なんて居なかった。

 

それから一週間後、病室にやって来たのは、長居だった。彼は入ってくるや否や「君の夫は、遂に禁忌を犯した」と告げた。なんの話か分からなかった。

 

話を聞くと、博は死んだはずの赤子を蘇らせたと…しかも、至って健康な状態で。それを知った長居は赤子を彼から手放し、信頼できる人に託したと。

 

「何よ…それ、私の知らないところで、そんな事してたなんて」

 

彼女は、その後にやって来た博にそう言い放った。しかし、彼は狂った笑みを浮かべるだけだった。

 

「私は、君を喜ばせる為にもっと沢山の子どもを作るよ…」最後に彼女にそう告げ博はこの世から姿を消した。

 

 

将平を抱いたのは再会した時が初めてだった。あの時は、彼の心臓が『動いていない』事を感じた。死体に憑いているのだから当然かもしれない。

あの時、部屋を後にしてから誰も見ていない所で泣いた。私がしっかり産んでいれば良かった…こんな苦労を将平にかけさせなかった。

 

だからこそただ言葉を交わすだけじゃ、満足なんて出来なかった。今まで出来なかった母親らしい事を今こそしてあげたいと…

 

 

 

 

そんな無念を抱えて、彼女は将平の墓前に立っていた。この墓は、彼が身体を失った時…即ち、あの交通事故の時に立てられたものだ。

 

彼女は、花を添えて帰ろうとした…しかし、それを引き留める声があった。目線の先には、初めて会う女の人がいた。

 

「初めまして…将平の、お母さん」

 

彼女は、将平の育ての親だった。彼女は全てが終わった後、紬葵から将平の話を聞いていた。そしていつか紅葉に会いたいと思っていた。

 

「これを…」

 

彼女が差し出したのは、分厚いアルバムだった。中を開くと、赤子の頃からの将平の写真が沢山載っていた。幼稚園での遠足、小学校の入学式、運動会、林間学校、中学校の修学旅行、卒業式、高校の萊智と麗香と遊んでいる時の写真が大量にあった。

 

「これは…?」

 

「貴女にも、見せてあげたかったのです。あの子の成長を…。私には、貴女が将平の事でどれだけ傷ついたのか、想像出来ません。でも、それを少しでも癒してあげる事はできるかもしれません」

 

その言葉に、紅葉はつい涙を流してしまった。将平は、18年と言う短い人生をしっかり生きていたと、愛情を込めて育てられて生きていたと…

 

 

 

 

 

 

 

その日の帰りだった。

 

突然、長居から招集がかかった。

 

しかし、いつもなら電話で行うのだが、今日は珍しくショートメールで来た。

 

私はこの時に怪しむべきだった。今、本部には最悪の悪魔が居るとも知らず…

 

 

 

私が本部に着いた時、やけに静かだった。人が居ないような…。試しに中に入って行った。夕闇迫る建物内は暗かった。どこの部屋も電気が付いていない。

 

私は試しに廊下の電気を付けた…すると、白い壁に赤い何かがべっとりと付いていた。下には、既に息のない研究員が2、3人転がっていた。

 

「一体何が…」私は急いで長官室に向かった。

 

私が辿り着くまでに、5人くらい倒れていた。皆意識はなく無惨に殺されていた。

 

 

そして遂に辿り着いた。私は銃を取り出した。そして弾を込め、準備を整えると扉を蹴破り、中に入った。

 

「来るな!」そう長居が叫ぶ声が聞こえた。最初、私に言ったのかと思った。しかし、それはすぐに違うことがわかった。怯える長居の目の前には、茶色く爛れた体色の怪物がいた。バグビースト、とは少し違う…なんなのか分からなかった。

 

「動かないで!」私はそいつに銃口を向けた。

 

 

「その声…紅葉じゃないか」そいつは、聞き覚えのある声で言った。そして、茶色く爛れた肌を収縮させ元の姿へと変わって行った。その姿は、紛れもなく彼だった。

 

「…博?」

 

「そうだよ、会いたかった…紅葉」

 

一体、何が起こっているのかさっぱり分からない…

 

「何を…してたの」満足できる答えが得られるとは思えないが、念の為聞いた。

 

「何をって?君の事を悪く言う連中を片っ端から殺したのさ。後はこの男だけだ。そうすれば君はこの組織の中で敵は居なくなる…」

 

「…君が、そうさせたのか?」混乱している長居は、私に聞いた。

 

「そんなはず、ありません」私はキッパリと否定した。

 

「そうさ、これは私が勝手にやった事、勘違いしないでくれるかな?長居君」博は長居の方を向いてニヤリと笑った。とても不気味な笑顔で吐き気がした。

 

「ねぇ、今から最高の実験を始めるんだ。どんな事だと思う?」彼はまるで子供のように聞いた…私には皆目見当が付かない。

 

「正解は、この世界を私と君の楽園にする為に電脳世界と融合させて新しい世界を創るでした」

 

何を言っている…分からない…何故そんな事を

 

「さぁ、その前にクズは掃除しないとね…」そう言うと、彼は再び怪人の姿に変わった。

 

「この姿、アダムって言うんだ…覚えておいてよ。そしてイブになるのは君だ」

 

「やめろ…!長居に手を出すな」私は固く銃を構えた。

 

「なんで止めるのさ…だってコイツは、紅葉の事を何度も悪く言ってたじゃん。殺した方がスッキリするでしょ?」

 

「…さっきから、私は貴方の言っている意味が何も理解できない…ただ一つ言えることがあるとすれば、誰かを殺されて気分は良くならない」私は、もうダメだと思った。

 

 

博は、元から私に対する執着心が大きかった。付き合い、そして結婚するにつれて徐々に酷くなっていく気がした。そして、ついにそれが爆発したのだろう。

 

 

こうなったのは私の責任だ。それなら、私がケリをつけなければ…

 

私は、胸元のポケットから黒いスマホを取り出した。

 

「それは…将平に渡したダークスマートライザー?」

 

「ええ…そうよ」

 

それは、あの戦いが終わって後、萊智から渡されたものだ。『これは貴女が持っているべきだ』と。

 

私は、スマートライザーを起動した。

 

将平、私に力を貸して…

 

 

「…変身…!」

 

[Server connection…][Rider Dark!]

 

 

私の身体は、漆黒の戦士ダークへと変化した。初めて変身したが、意外と悪くない。

 

私は、アダムを蹴り飛ばし、窓ガラスの外へ突き飛ばした。

 

彼は窓ガラス下の建物の屋上に倒れた。私はその後を追い地面に降り立った。

 

「何故…私と戦う?」彼は私に聞いた…そんな事、一つしかない…

 

「私と、向き合ってもらう為よ」

 

彼は、どんな時も私の心と向き合うことなんて無かった。将平を産んだ時、会いにこなかったこと、勝手に蘇らせたこと、それから今こうして勝手な理由で人殺しをしたこと…それに対して私がどう思っているのか、知らしめなければならない。

 

私は、紬葵が使う剣を召喚した。そしてアダムに対して振り下ろす。それに対して彼は腕で受け止めた。

 

「むしろ、君こそ私と向き合って欲しいな…最強の私さえいれば、世界なんていくらでも作れると!」アダムは私の腹部に蹴りを入れた。私はその攻撃に吹き飛ばされた。

 

「私は、将平を蘇らせたいなんて思ったことない…悲しむ私に寄り添って欲しかった!」サイヴァーの銃を取り出し連続して放った。しかし、アダムには一切通用しない。

 

「君を悲しませない為に蘇生したんだ、どうして分かってくれない!」

 

アダムはそう言って私を殴り飛ばした。

 

私はその攻撃で地面に倒れた。

 

「こんなところで…」私と彼は、分かり合えないのだろうか…このまま終わってしまうのだろうか。

 

もしそうだとしても、今は彼を止めないと…!私はふらふらな足をなんとか立たせようと頑張った。しかし立った瞬間、眩暈に襲われた。倒れそうなった。

 

「私は、誰の役にも立たないのか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事、ないですよ…隊長」

 

その時、私の身体がふわりと浮いた。

 

「私達はタイチョーが居てくれたからここまで頑張れたんだよ」

 

「今度は、私達が隊長を助ける番です」

 

『後は、俺たちに任せてください…紅葉隊長』

 

 

4人の声が聞こえた気がした。だけど、そこにいるのは1人だ…そうか、幻覚を見ているのか…

 

 

 

 

 

 

 

サイヴァネティックはダークの身体をそっと地面に寝かせた。

 

「そのスマートライザー…お前たちは…」

 

「『ああ、俺たちが、この世界を守るデジタルライダーだ』」

 

[Super Blake finish!][Cyve-Net-X・Rider Kick!]

 

彼らは空高く上がると虹色に輝く両脚をアダムに打ち付けた。

 

「この力…私は作った覚えはない…!」

 

『これは、俺たちが創り出した力だからな…!』

 

「貴方は、もう眠りなさい!」

 

未知の力に困惑するアダムを彼らは撃破した。

 

アダムの死体は徐々に変化してゾンビのように緑色に変色した博の身体へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、紅葉は長居に辞表を提出した。

 

新たな自分を探す為、こんな老いぼれが今更かも知れない…だけど、それでも変わりたいと願う自分がいる…

 

 

「将平…私はまだそっちに行くつもりはないわよ…麗香さんと仲良くしてなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは、津上幻夢です。

仮面電脳戦記をここまで読んでいただきありがとうございます。
各章、それぞれのライダーをメインにしてストーリーを進めると言う事をして来ました。
私は何本もオリジナルライダー小説を書いてますが、まだまだ成長段階です。温かい目で見ていただけると幸いです。

それから次回作についてですが、pixivにて投稿予定です…その日までお待ちください…

これからも津上幻夢をよろしくお願いします。
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