仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第3話 死神の現実徘徊

ゴールデンウィーク前夜、明日の休みを祝い酒に呑まれているサラリーマン達の帰宅する姿があった。

 

「今日は朝まで飲むぞ!!」1人が大声でそう宣言し、周りの4人も囃し立てた。

 

「…随分と楽しそうじゃないか…。」そんな5人の後ろから声をかけた。

 

「酒は俺達の唯一の味方だ。一緒に居られるんだから楽しいに決まっているだろ?」

 

「…それだけで快楽を得られるとは、いい人生だっただろうな。」

それは、夜の道を照らす街灯の灯りの下に立った。死神の様な姿の化物は、逆手に持った剣をサラリーマンに見せつけた。

 

「…俺の楽しみは、こういうのさ!」

 

そう言うと、サラリーマン達をまとめて回転切りで斬り倒した。

 

「…そうは言ったが、やはり物足りない…サイヴァー、奴でないと話にならない。」

 

死神はそう言って再び夜の闇に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、萊智は紬葵にデジタルセイバーの拠点に来る様伝えられた。現実世界からの行き方は、マップアプリを開きデジタルセイバーの座標を選択するだけ。まるでゲームの様な移動方式だ。

 

 

白銀の光に包まれデジタルセイバーまで移動した。拠点には既に紬葵の他2人居座っていた。

1人は褐色肌で赤髪の少女だ。彼女は、スマートライザーをずっと見つめ、時折紅茶を口に運ぶ。

「やっぱイッチが作る紅茶は美味しいね。」

 

「当然だ。僕は何においても一流さ。」

そう答えたのは、長い手足が特徴的な男だった。彼は椅子に座って足を組んで座っていた。

 

「2人とも、新人君が来たから自己紹介、お願いね」紬葵は2人の方を向いて言った。

 

「やあ初めまして。」男の人が立ち上がり手を伸ばした。

 

「初めまして、御定萊智です。」萊智は伸ばした手を握り握手した。

 

「僕は貴峰(たかみね)一犀(いっせい)だ。よろしく。ところで君、紅茶は好むかい?良ければ一杯僕が入れた紅茶を飲んでいきたまえ。そう言うと彼は空のティーカップに紅茶を注ぎ始めた。

 

「私はメリア、鳩山(はとやま)メリア。よろしく〜。」彼女は一瞬萊智と目を合わせた後、再びスマホの画面を見た。

 

「メリア、初対面の人とはしっかり挨拶しなければならないとあれ程言っているではないか。」一犀は適当なメリアに向かってそう言った。

 

「初対面で過干渉するのもどうかと思うよ。そう言うのが、職場の意識低下…だとかに…まぁいいや。」メリアは反論しようとしたが、途中で放棄した。そして一犀は萊智に紅茶を差し出した。

萊智は、紅茶を市販のペットボトルでしか飲んだ事ない彼はこうして出されるのに緊張したが、それを飲んだ。

 

「どうだい?」

 

「…美味しいです。」先程書いた様に彼は市販のペットボトルでしか飲んだ事ない為、何がいいのか悪いのかは分からないがとりあえず美味しいと返した。

 

「まあね、貴族として当然さ。」一犀そう言うと部屋中に響き渡るほどの高笑いを始めた。

 

「彼は貴族って言っても自称だから。気にしないで。」紬葵は影から萊智にそう言った。本人は高笑いに夢中で聞こえていないようだが。

 

それにしても、異常な程特徴的なメンバーだなと萊智は率直に思った。簡単に覚えるならうるさい一犀、消極的なメリア、そしてそれを纏める紬葵と言ったところか。

 

「そういえば、大橋さんは?」

萊智は話題を切り替え紬葵に話しかけた。

 

「隊長は今、警視庁で会議に出てるのよ。」

 

「それは何故なんですか?」

 

「…また、バグビースト関連の事件が起きたからよ。」

 

紬葵の言葉に、萊智は驚いた…と言うよりも心当たりがないと言った方が正しいだろうか。テレビじゃ全くそんな話は聞いたことない。

 

「まぁ、知らなくて当然だろう…バグビーストやデジタルセイバーの存在は隠されている。そのせいで半分都市伝説の様になっているらしいが。」一犀は萊智の疑問の答えを言った。

 

「今回の事件は『死神事件』と言われててね、深夜の街で次々と人が死んでる事件あるでしょ。でね、犯人が全く証拠を残さないから『死神』がやってるんじゃないかって言われてるから死神事件って。」メリアはスマホを見ながらそう言った。彼女がずっとスマホを見ていたのはこの事件について調べていたからだろう。

 

「確かに、その事件なら知ってます、確か昨日も5人が…。」萊智は朝見たニュースを思い出しながら口を開いた。

 

「で、その殺人の仕方が、全て共通していて、みんな胸を斬られて即死しているの。これ程まで確実に斬り殺すことができるのは現代に存在しない…或いはしていても数は少ない、だからバグビーストの仕業なんじゃないかって…。」メリアは付け足して解説した。

 

「…今回の場合は警察から依頼されたって感じだね。大体、バグビースト絡みの事件はこうして警察から依頼されるか、個人で依頼されるかの2択なのよ。」紬葵が言う。

 

「僕達は、与えられた情報で捜査をしてバグビーストを追い詰める。言うならバグビースト専門の警察部隊、探偵だろうね。」一犀は自信に満ち溢れた口調で言う。

 

 

 

「…今帰った。」丁度話が途切れたタイミングで紅葉が帰還した。

 

「それで、事件については…?」紬葵が聞く。

 

「とりあえず、警察から資料を受け取った。重要なものだから管理は気をつけてくれよな。」紅葉はそう4人に、と言うよりも萊智に念押しした。

 

「…被害者や殺害現場はこのファイルにある。それで早速開始だ。紬葵と一犀は現場でバグビーストの痕跡などを調査、メリアはネットの目撃証言を調べて、そして萊智はそれぞれの情報を纏めてくれ…できるよな。」紅葉は萊智に真剣な表情をして聞く。

 

「はい、やれるだけやってみます。」萊智はそう答えた。

 

 

 

 

 

それから数時間の間、4人はそれぞれ情報を集め纏めていく。

 

・紬葵からは、被害者の直前の行動から、『居酒屋に行って尚且つ酔っ払っている人物』が狙われていること

 

・一犀からは、犯行現場がある一定の範囲内、それもある駅の周辺で起こっていること

 

が分かった。しかし、どちらの事実も警察が同じように掴んでいた。これだけでは、確実にバグビーストを撃破する手立てにはならない。

 

「何か、確実な情報が有れば…」そう萊智が呟いた直後、メリアは口元を緩めた。

 

「ビンゴ、バグビーストの出現地点見つけたよー。」そう言うと、萊智に画面を見せた。どうやらメリアのネット仲間の1人がバグビーストの出現地点となっている場所を見つけたらしい。

 

「ここは…?」映し出された写真は、狭い部屋が幾つも並びその一つから出てくるバグビーストらしき怪物の姿があった。

 

「ネットカフェっていう所で撮られたんだけど、隣の部屋で大きな物音がして覗いてみたら鉢合わせしそうになったって。それも昨日、時刻は23時前、事件が起きたのは24時だったから犯行もできるし、ここはさっきイッチが言ってた範囲内にあるし。」メリアはどうだ。という顔をしながら萊智に見せた。

 

「すごいです、鳩山さん!」萊智の言葉にメリアは頬を赤く染めた。

 

「メリアでいいよ、ライ君。」メリアの独特な呼び名は萊智にもついていた。それに彼は驚いた。

 

「えっと、メリアさん…?」彼はその仕返しと呼ぶ練習を兼ねて彼女を呼んだ。

 

「ん?なーに?」彼女は即座に反応したが、目線はいつの間にかスマホの画面を向いていた。

 

「…呼んでみただけです。」

 

「あっそー。」萊智は彼女の単純な返しに驚いた。

 

 

 

 

 

 

その後30分経った頃、聞き込みや現地調査を終えた紬葵達が帰ってきた。

 

「とりあえず、出現地点と条件は分かったけど、どうやって倒すかよね…。」紬葵は椅子に座ってすぐ言った。

 

「…妥当に、現れるまで出待ちするか?」一犀はそう提案した。

 

「でも、毎日出てくる訳じゃないし、暇じゃん。」メリアはそれを一蹴した。

 

「…俺達が電脳世界に行って倒す事は出来ないんですか?」萊智は、ダメ元で提案して見た。

 

「流石に、それは無謀じゃないかしら、必ずしもその周辺に居るとは限らないし…」

 

「いや、だが必ず同じパソコンから出てくるのなら、その出口の周辺を住処にしている可能性も高いだろう。案外、その作戦もありかもしれない。」紬葵は萊智の意見をあまり良く思わなかったが、それに対して一犀は賛成の意を示した。

 

「私もサンセーかな、その方が手っ取り早いし。」メリアも同様に賛成した。しかし、それでも紬葵はあまりいい表情をしなかった。

 

「…だけど、仮にバグビーストが根城にしていたとしても、一体とは限らない。仲間がいる危険もある。」紬葵は自身の意見を淡々と述べた。

 

「…だとしても、ここで動かなければ、また誰かが犠牲になる。それだけは嫌なんです…。」萊智はそれでも自分の意見を曲げなかった。

 

しばらく、沈黙の時間が続いた。

 

 

そして、紬葵は口を開いた。

 

「この判断は隊長に任せる。隊長がYESと言えば、私はそれに従う。それなら文句はないわよね。」

 

「分かりました、それでお願いします。」萊智は、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、外の世界では既に日が沈み、夜が訪れていた。

萊智達は、本部に戻ってきた紅葉に先程の作戦について話した。

 

「…確かに、可能性があるなら調べる価値はある。」紅葉は全容を聞き、そう答えた。

 

「と言う事は…」作戦が通ったと萊智達は感じ顔を緩めようとした。

 

「勿論、作戦に問題はない…だが、そこへ行くのは紬葵と一犀の2人だ。」そう紅葉は付け足した。

 

「何故ですか…?」萊智も同じ事を思ったが、それを口にしたのは紬葵の方が先だった。

 

「…萊智、君はまだサイヴァーに成り立てで危険だ。もし敵の罠だった場合危険だ。」紅葉がそう言うと、一犀は「確かに」と呟いた。

「それに、ここの守備を長い時間手薄にする訳にはいかない。」そう言ってメリアの方を向いた。

 

「…まぁそう言うわけならしょうがないじゃない?」メリアはそう言った。

 

「でも…」それでも行きたい…萊智はそう言おうとした。

 

「…机の上で考える事と、実際にそこへ行って戦う事は違うんだ。それに君の力が要らないと言うわけでない。2人が敵を見つけたら当然後を追って行ってもらう。」

 

「…わかりました。」萊智は、紅葉の言葉への反論を見つけられず黙った。

 

「…紬葵も、それでいいな。」「…異論はありません。」彼女も、そう言って黙った。

 

「…2人は、早速その出現地点に向かってくれ、萊智とメリアは待機。」紅葉のその指示で紬葵と一犀の2人はそこへ向かうべくここを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが例の…」そして、例のネットカフェのパソコン前に2人は着いた。

 

狭い店内に2人の男女が部屋の前に立ったままの様子を不審に思ったのか、隣の部屋を借りてる人物は扉を少し開けてそれを眺めていた。

 

「…どうやら、使用者は居ないみたいだな…それなら遠慮は要らない。」一犀はそう言うとスマートライザーを取り出し、自身の変身に使う『カメラ』のアプリを起動した。[Server connection…]

そして、スマートライザーを横向きに持ち、「変身!」と言い画面の『START』ボタンを押す。

すると紫色のカメラが空中に現れ、彼の身体を写真に収める。そのフラッシュが焚かれると同時に彼の身体は紫色の装甲に包まれていく。

胸部にはカメラアプリのアイコンが現れ、頭部にはカメラのような仮面が付けられる。

[Rider Sense!]

センス…それが彼の変身後の名前だ。

 

「…貴方は相変わらず気が早いわね…相変わらず。」紬葵もスマートライザーを手に持ち、変身に用いる『メモ』アプリを起動した。[Server connection…]

彼女は、スマートライザーを持つ右手を右腰に置き、左腕を曲げて正面に構えた。「変身!」その掛け声と共に『START』を押し込みシークエンスを始める。

構えていた腕を伸ばしたと同時に、彼女の背後に大きなメモ帳が現れる。それら1ページ1ページに装甲が描かれており、それが捲られていくたびに、彼女の体に装着される。

黄色のボディ中心、胸部にはメモアプリのアイコンが現れた。頭部は髪の毛が黄土色に着色され、その上から黄色のベレー帽を被った。

[Rider Pencil!]

ペンシルに彼女は変身を終え、部屋のパソコンに照準を合わせた。

 

「行くわよ…!」ペンシルはセンスに促してパソコンへ入っていた。センスもそれに合わせて入っていく。

 

 

それらの様子を全て見ていた隣人は、まるで大きな岩にされたかのように硬直していた。

 

 

 

 

 

 

白銀の光から解き放たれた2人が次に見たのは、廃墟になった工業団地のような場所だった。

 

「いかにも…と言う感じね。」ペンシルはそう呟くと、通信を始めた。

 

「こちらペンシル、センスと共に潜入に成功した。これより作戦を開始する。」

 

『了解、健闘を祈る。』無線越しに紅葉がそう答えた。

 

彼女の後ろには、静かに待機している萊智とメリアの姿もあった。

 

紅葉は、2人の潜伏場所を空間に映し出した地図に示した。

 

「…なる程、2人が居るのは南西の廃墟の地域か…ハズレかもしれないな。」紅葉はそう呟いた。

 

 

 

 

ペンシルとセンスは、廃墟を進んでいく。

 

「…何も…感じないな、気配も…。」センスはそう呟いた。

 

「…貴方の超感覚でも、測れないのね。」

 

「…いや、能力を強化する。」残念そうにするペンシルに対して、センスは、スマートライザーを取り出すと、新たにレーダーが描かれたアプリを起動した。スマホ捜索アプリを強化したアプリ『サーチ』の力だ。それを起動したと同時に、センスの左腕に小型アンテナ、左肩に情報を得る為の機関が収められているパーツへと変化した。

 

2人は、しばらく黙ってセンサーが反応するのを待った。

 

そして、センスは感じ取ると、ペンシルに目を合わせた。

 

「見つけた、下だ…。」「なるほど…ってどうやって行くのよ!」

 

センスが感じ取ったのは『地下』からの反応だ。しかし、それを確かめる手段はなかった。

 

「…どこか入口を探す?」ペンシルがそう聞いた時、センスのレーダーは急速な動きを察知した。

 

「…高度が上がっている…近づい…避けろ!」それと同時に地響きが鳴り響く。

 

 

2人は、咄嗟に空中にジャンプした。そして地面を見下ろすと、そこにはカマキリを模したバグビースト、マンティス・バグビーストの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 




遂に姿を現した犯人、マンティス・バグビースト。その刃がペンシルとセンスを襲う。

次回、第4話 真夜中の命狩り
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