仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第5話 貴族舌の鳥

「…ピーコック、あの男に『憑きなさい』。」

 

「承知しました…グリット様…」

 

 

「…俺は何をすればいい?」

 

「…ピーコックを守りなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールデンウィークから1週間程経った今日、御定萊智は大学の講義を終えて帰宅の用意をしていた。

この日は講義は午前のみで終わりだ。午後は拘束がなくなると思うと気が楽だった。午後は今日出されたレポートを早速やろう、そう決心した。

 

「さて…帰ると…」

 

「御定、この後ゲーセン行かないか?」帰宅前の彼を止めたのは、紺野と小太りの男黒崎だ。

 

「せっかく午前で講義終わったんだし、遊びに行こうぜ。」黒崎は、そう言って萊智を逃がさないと言わんばかりに肩を持とうとした。

 

「悪い、今日も用事があるんだ。またな!」その手を振り払った萊智はそこから逃げるように走っていった。

 

「…しょーがないな…紺野、行こうぜ。」

 

 

 

 

 

大学から少し離れた歩道橋前で、萊智はようやく走るのをやめた。息切れを起こし、しばらくその場から動けなかった。

 

「…面倒だな…あの2人は本当にレポートやんなくていいのかよ。」

 

ため息をついた彼は、ようやく息切れを治めた。そして平常心に戻る。

 

「さて、今度こそ…」と家に帰ろうとした時だった。彼の胃が昼食を求め腹の虫を鳴らした。

 

彼の状況を一言で表すと「急に…腹が、減った」。まるでとある漫画のような状況が彼に起きた。

 

彼は、外食か自炊か…どちらにしようか考えた。しかし、一度お腹が空いてしまったと感じた以上、耐えるのは難しい…外食しか有り得ないな。

 

決意した彼は、脚を進めようとした。

 

「おや、御定君じゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だな。」

 

「貴峰さん、こんにちわ。」目の前の歩道橋を降りてきたのは貴峰一犀だった。彼は、いつもの濃紺の高級そうなジャケットを着ていた。

 

「…丁度いい、一緒に昼食でもどうだい。僕のオススメの店がこの近くにあるんだ。」てっきり一犀からも遊びの誘いが来ると構えていた萊智は、昼食の誘いであることに胸を撫で下ろし、「是非!」と即答した。

 

「そうと決まれば、善は急げ。僕に着いてきたまえ!」そう言うと2人は飲食店街へ向かって歩き出した。

 

 

萊智は、その時、思い出してしまった。一犀は自称とはいえ『現代貴族』、貴族=高価なものを好む。まさか、一品一品何なのかさっぱり分からない高級フレンチの店に連れて行かれるのではと考えた。

今財布にはいくら入っているか一犀に見つからないように調べた。入っていたのは女性が描かれたお札が一枚とアルミ製の硬貨が2、3枚…。まずい…!彼は危機を感じ、額からは夏でもないのに大量の汗が流れている。

 

 

 

「もうすぐ着く。」一犀はそう言うと飲食店街を南方向に歩き始めた。

 

確かこの方向には、高級イタリアンレストランがあった筈…萊智は最早諦めムードに入っていた。そんな所に行かれたら、俺の財布は火の車だ…。それだけは絶対ごめんだと、断りの言葉を述べようとした。

 

「あの…貴峰さん…」

 

「着いたよ。」2人は、目的の店に着いてしまった。

萊智は意を決して上を向いた。そこには…

 

 

高級イタリアンレストランの看板が…右側にある。正面に映っているのは、素朴な雰囲気を漂わせている定食屋だ。

 

「…ここが僕のオススメの店だ。」

 

「高級…レストランじゃない?」萊智は緊張が解けそう呟いてしまった。

 

「…正直、最初はそうしようと思ったのだが、大学生である君の財布事情を考えた結果さ。」一犀は自慢げに言った。しかし、その彼も財布を家に忘れてきて持ち合わせがスマートライザーに入っている3千円程度しかなかった…

 

 

 

 

 

隠れた名店としてその名が上がるこの店、その店内に1人の男がいた。

彼はスマホで運ばれてきた定食を写真に収め、画面に何かを入力し始めた。その正体は様々な店を渡り歩く食の評論家で有り、料理の研究家の風魚(ふうう)和野(かずや)だ。彼はこれまでも数々の店を訪問しては評価をし、自身もまた満足のいく料理を作りブログに上げている。

 

「…はぁ…」「そんな大きなため息をついていると、美味しさは逃げていくぞ。」ため息をついた和野の隣に座ったのは一犀だった。

 

「…食欲が失せる見た目だなと思っただけだ。特にこのマヨネーズの付け方、雑すぎて美意識のかけらもない。こんなものを客に食わせよとしているのか。」そう言って頼んだ定食に載っている唐揚げにかかっているマヨネーズを指差した。

一犀の隣で見ていた萊智は、その発言に疑問を感じた。

 

「初対面だが遠慮なしに言わせてもらう。庶民の食事に対して、見た目を重視する必要性はない。それに食しても居ないのに、あたかもこの料理が不味いかのように振る舞うのも、料理とそれを作った料理人、そして食材を作った人達に対して失礼だ。」キッパリとその行動に対して叩き切った一犀に和野は怒りの瞳を向けた。

 

「貴様、私を怒らせた事を後悔させてやる。」そう言って料理には一切手を付けず店を出て行った。

 

「お客様!」そう言って店員の1人が追いかけようとしたが、一犀がそれを止めた。

 

「代金は僕が払おう。彼が出て行った原因は僕にもあるからね。それに、この料理を捨ててしまうのも勿体無い。良ければ僕達が食べよう。」

 

一犀の手際の良さと臨機応変に対応できるその姿は、萊智から見るとすごく大人に見えた。自分もあの人みたいになりたい、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた2人は、定食屋の外に出た。

 

「どうだ、美味しかっただろ?」一犀は萊智に聞いた。

 

「はい、とっても良かったです。またここに…!」萊智が答えている途中、2人の視界には、虹色の翼を広げた孔雀の怪物(ピーコック・バグビースト)の姿があった。

 

「貴様ら、私を侮辱した罪は重い!」

 

「なんの話だ?」一犀の手には既にスマートライザーが握られている。それは萊智も同じだ。

 

「行きましょう、貴峰さん…!」2人は、スマートライザーを操作し、そしてそれぞれスマートライザーを構えた。

 

「「変身!!」」

 

2人はそれぞれサイヴァーとセンスに変身、ピーコックに対して攻撃をするべく武器を持ち構えた。

 

ピーコックは、翼から虹色に輝く羽の弾幕を展開した。そして、サイヴァー達に向かって雨の様に降らせる。

 

「ぐっ…これじゃ、攻撃ができない…!」センスは、腕で顔を隠しながら言う。

 

「だったら俺が…」サイヴァーは、そう言って右手に持つ銃でピーコックに向かって弾丸を放つ。その攻撃はピーコックの左肩を掠った。そして、その一瞬、ピーコックの弾幕が止んだ。

 

「今だ…!」センスは槍を前に突き出しながら走り出す。その狙いはピーコック一直線だ。

 

「終わりだ…!」そう槍を突き刺した…とセンスは思った。しかし、槍の先端はピーコックの腹部ではなく、大量の『糸』だった。

 

「…センス、久しぶりだな…!」ピーコックの目の前には、サイヴァーもかつて出会ったバグビーストの姿があった。

 

「貴様は…スパイダー・バグビースト!」センスは後ろに飛び、スパイダーと距離を取る。

 

「…お前は変わってないみたいだな。」スパイダーは、自身が放った糸を回した。そして、曲刀の様な形に変えた。

 

「お前は、柿崎が倒した筈じゃ…!」

 

「悪いが、相討ち…いや、サイヴァーが死んだ時点で相討ちでもなんでもないか。」スパイダーは剣を構えた。

 

「御定君、スパイダーは僕に任せてくれ、君には危険すぎる。」センスは、サイヴァーを守る様に立った。

 

「…分かりました。」サイヴァーはそう言うとピーコックに向かって走り出した。

 

「行かせるか!」「こっちの台詞だ!」スパイダーはサイヴァーを追いかけようとするが、センスの槍が邪魔をした。

 

 

「…だったら、お前が楽しませてくれよな!」スパイダーはセンスに対して剣を勢いよく振り下ろす。

 

センスは華麗な身のこなしで回避すると、槍をスパイダーの脇腹に向かって突き出す。

 

その槍は、スパイダーの脇腹の鎧を掠った。寸前のところで避けられたのだ。

「遅い…!」「こんなものではない!」更にセンスは槍をスパイダーの胸部に向かって振る。

 

スパイダーは、槍の口金を握りセンスの動きを封じた。

「俺は槍が嫌いだ。無駄にリーチが長く、隙が生まれるからな!」そしてその槍を掴んだままセンスを蹴り飛ばした。

 

センスは、槍から手を離し地面に倒れた。奪い取られた槍は全然別な方向に投げ捨てられた。

 

 

 

 

 

その頃、サイヴァーはピーコックに向かって左拳のストレートパンチを放つ。

 

その攻撃にピーコックは、後ろにふらついた。

「これで終わりだ!」サイヴァーはピーコックの腹部に弾丸を連続して放った。その衝撃で、ピーコックは地面に倒れた。

 

「…さぁ、これで…!」サイヴァーはピーコックに向かって引き金を引こうとしたその時だった。ピーコックの身体は徐々に姿を変え始めた。そして、『人間』の姿に戻った。それも、先程の和野とそっくりだ。

 

「私を…殺せるのか?」声も、確かに彼と同じだ。

 

「なんで…一般人がバグビーストに!」「隙あり!」

 

ピーコックはそう言って翼を広げると弾幕を撒き散らしながら空へと飛んだ。

弾幕の雨がサイヴァーに向かって降り注ぐ。

 

「これじゃ…またさっきと同じだ…!」

 

サイヴァーは反撃しようと銃を構える。しかし…下手に攻撃すれば、中の人も…

 

「同じ手は食わない!」ピーコックは弾幕の照準をサイヴァーの右手に向け、持っていた銃を叩き落とした。

 

「ぐっ…ああ!」サイヴァーは弾幕の攻撃に耐えきれず、後方に下がった。

 

 

サイヴァーの後ろにはダメージを負って倒れているセンスの姿もある。

 

「…2対1…それも悪くない。」スパイダーはそう言って迫る。ピーコックもまた翼を閉じスパイダーの隣に降り立った。

 

「…ここは、撤退しよう。体勢を整える必要がある。」相手に聞こえない声で、センスは言った。

 

「…わかりました。」サイヴァーはその判断に賛成した。

 

センスは勢いよく立ち上がり、必殺技を発動させる。

 

[Blake finish!][Sense strike!]

 

すると、まるでカメラで撮影する時のようにフラッシュが焚かれた。

 

 

スパイダーとピーコックが次に目を開けた時には、サイヴァー達の姿は無かった。

 

「逃げたか…ピーコック、また活動に戻れ。」スパイダーはそう言って姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

デジタルセイバーにて…

 

 

「ちょっ、2人とも大丈夫?」怪我を負って戻ってきた2人にメリアは驚いた。

 

「…とりあえず、手当を。」特に一犀の方は酷かった。身体中に擦り傷があり、スパイダーに蹴られた箇所はアザになっている。

メリアは急いで救急箱を持ってきた。

 

「こんな怪我、誰にやられたのさ?」「スパイダー・バグビーストだ…」一犀の言葉にメリアは驚き、一瞬手が止まった。

 

「スパイダーって…カキピーが倒したんじゃ?」

 

「どうやら、ダメだったようだ。」

 

 

「あの、スパイダーって、どんな敵なんですか…?」萊智はここで口を開いた。

 

「…そうだな、話しても良いだろう。」一犀はメリアの顔を見た。

 

「確かに、こんな状況だしねー。」

 

「…今から、一年も前の話だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 




再び現れたスパイダー、そして人に取り憑くバグビースト、それら相手にデジタルライダー達はどう立ち向かうのか?

次回、第6話 蜘蛛男と電脳戦士
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