仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第6話 蜘蛛男と電脳戦士

 

一年前、デジタルセイバーは設立以来最大の危機に瀕していた。

 

バグビーストの急速な侵略に対して対応するのが精一杯となり、危険に瀕していた。そんな中で活躍していたのが、先代サイヴァー変身者である『柿崎智』。彼は常に前線に立ち人々を守ってきた。サイヴァーの猛攻でバグビーストは一気に数を減らし逆転にした。

それに対してバグビーストも負けてばかりでは無かった。

 

スパイダー・バグビースト。バグビーストの中でも特に力のある彼が現れて以降、我々も再び圧倒され始めた。

 

 

「このまま、負け続ける訳にはいかない。」柿崎は特にスパイダーに対して警戒していた。

 

「でも、どうやってアイツに勝つの?」紬葵の問いに、彼は『妙』な事を口にした。

 

「…スマートライザーの限界を引き出す。未だ不明なスマートライザーの全てを出し切る…それが勝つ方法だ。」

 

スマートライザー、未だに詳細が分からない存在。だからこそ、その『未知』を引き出し、互角に渡り合おうと彼は画策した。

 

「だが、その未知を引き出す事には、危険もあるんじゃないのかい?」当時の僕も、彼のその提案には疑問と不安があった。その未知が必ずしも『好転』するとは限らない。

 

「…それでも、誰かがやらなければ、誰も変わらない…『進化』できない。」

 

 

 

 

そうして、サイヴァーはスパイダーに戦いを挑んだ。(萊智)が、初めてサイヴァーと出会いスマートライザーを手にしたあの場所で…。

 

「サイヴァー…!」

 

「…名前、覚えてたんだな。」

 

「…我々の同胞達を陥れた邪神…ここで俺が倒す!」

 

「…そこのお前、早く逃げろ!」

 

「…蜘蛛野郎(スパイダー)…ここで倒す!」

 

「なっ…!」

 

 

 

 

 

「その後、柿崎さんはどうなったんですか?」

 

萊智は、知りたかった。あの時、自分を守ってくれたあの人が、どうなったのか…知らなければならない…サイヴァーとして。

 

「…僕達はあの場にいた訳ではないから分からない…。だが、僕達が知っている限りでは、その『未知』の力を引き出すことはできなかった。そして、スパイダーと相打ち…手前まで追い込み、スパイダーを長期離脱させる程の傷を負わせた。そして、『消えた』。」一犀の最後に強調した言葉が、萊智の頭に引っかかった。

 

「消えた…?」

 

「…実は、あの戦いの後柿崎の身体は『見つかっていない』…まるで元から無かったかのように…。」

 

「必死に探したんだけど、どこにもなくてね…。」メリアは俯き、一犀も暗い顔を見せた。

 

「…そう、だったんですか…。」萊智も、自分を守ってくれた戦士の最期を聞き、なんとも言えない気持ちに陥った。

 

「…どうしても、思ってしまうよ…柿崎さんはまだ生きてるんじゃないかって。」一犀だけではない…メリアも…そして…

 

「特に、太刀筆君は重症だ…。何故なら…」

 

「…イッチ、その辺にした方がいいと思う。確証がある訳じゃないし。」一犀をメリアは止めた。彼女のプライベートを守る為…と萊智は捉えた。

 

「…だが、それ以上に問題なのは人間に『取り憑いた』バグビーストだ。前例がない、初めての事態だ。」一犀は話題をピーコックに変えた。

 

「クジャクにそれらしい特徴もないし、多分バグビースト側の特性だと思う。」メリアは、一犀の手当を終え、手元のタブレットを開いた。

 

「…バグビーストが人間に擬態している可能性も…」萊智はそう意見した。

 

「ううん、それはない。奴が一旦人間に戻った時、ピーコックの反応だけ消えていた。」メリアはそう言って、バグビースト探知の経歴リストを見せた。

確かに、ピーコックの反応が一瞬だけとはいえ途切れている。

 

「それに、2人が会ったって男の人も普通にいるし。」次にメリアが映し出したのは、ピーコックに憑かれていた男風魚和野のブログだ。

 

更新頻度は大体数日に一回、どれも料理解説ばかりだ。

 

「少し前まで、料理下手な人でも簡単に作れて楽しい料理を紹介してたんだけど、ここ数週間、内容が少しずつ高度になってる…それに、見た目に関しての記述も多くなっている。」過去のブログには「美味しいシャケ料理の作り方」や「パーティにおすすめ、餃子の作り方」という庶民派なものが多いが、ここ数回は「色鮮やかで美しい料理紹介」や「綺麗なサラダの作り方」など「綺麗」「美しい」など見た目を気にする記述が増えている。

 

「…なるほど…という事は、中にいるのは本物の人間…」一犀は資料を見た結果からそう要約した。

 

「そう…分析の結果、バグビーストは人間の身体を鎧のように覆って乗り移ってる。だからバグビーストの状態で攻撃しても中の人に危害はない…だけど途中で人間の姿に戻ったり、バグビーストが離れたらただの人間になる…だから、気を付けて攻撃しないと、中の人が…」メリアは、あえて続く言葉を止めた。

 

「…となると、どのタイミングで戻るかというのも見極めないと…ですね。」萊智はそう言った。

 

 

 

 

 

 

デジタルセイバーで対策会議が行われている頃、紬葵は街中でピーコックの中の人である風魚和野を捜索しに飲食店街に来ていた。しかし、周りには学校帰りに店に寄っている高校生ばかりで、和野どころか歩いている大人を見つけるのすら難しかった。

 

「しらみ潰しに探してもダメか…。」

 

紬葵が街中を探し始めてもう数時間、流石に戦士とはいえ、彼女の脚に疲れが溜まり始めた。

 

「…一旦…どこかで…。…!」

オアシスを探そうとした彼女の目の前には、今探している者ではなく、かつて探していたが見つからずに放っておいた者だった。

 

彼女の視界には、沢山の人が写っていたが、その瞳は『その人』だけを写していた。

 

「…智…!」

 

そう、その姿は紛れもなく『柿崎智』だった。

 

「追いかけなくちゃ…!」紬葵は『今の探し物』を忘れそれを追いかけた。

 

しかし、智は霧のような人混みに消えていく。その消えていく人陰を掴もうと紬葵は走った。

 

「嫌だ…待って!」そう心が叫んだ。もう一度、その顔を近くで見たい…!

 

 

 

彼女は、智が立っていた場所に追いついた…しかし、彼の姿は幻だったかのように消えて無くなっていた。

 

「…そうだよね、幻覚…よね。」諦めて元の道に戻ろうとしたその時、大勢の人の悲鳴が聞こえた。その方向を向くとピーコックとスパイダーの姿があった。

 

「今度も頼む…」「分かってるって」ピーコックはそうスパイダーに言うと、翼を広げ羽の弾幕を放った。それらが逃げ惑う人々を次々切り裂いていく。

 

「…ピーコックとスパイダーを発見、対処する。」スマートライザーでデジタルセイバーに連絡した。

 

「変身…!」

 

 

 

 

 

 

 

「りょーかい、私達もいく。」メリアはそう言ってスマートライザーを手にした。

 

「僕も…っ!」一犀は立ち上がろうとしたが、すぐに倒れてしまった。「大丈夫ですか!」萊智が身体を支え椅子に座り直させた。

 

「イッチ…ここは私達に任せて。」

 

「しかし…君は外の事…」「心配しないで、というか、引き篭もりはそこまで酷くないし。」メリアは止めようとしてきた一犀を宥めた。

 

「じゃあ行くよ、変身。」ピジョンに変身した彼女は、出現地点に一番近い扉を開けた。

 

「ほら、ライ君も行くよ。」「は、はい!」ピジョンに続いて萊智もその扉の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」ペンシルに変身した紬葵は剣をピーコックに対して振り下ろす。

 

ピーコックはその攻撃に勢いよく倒れた。

 

「私がトドメを…!」その時、剣を構えたスパイダーが前に立ちはだかった。そして、ペンシルに対して剣を振り下ろす。

 

咄嗟に反応した彼女は剣でその攻撃を受け止めた。

 

「アンタ…ペンシルか。」「スパイダー…お前は私が倒す!」ペンシルは左腕をトランスファモードに変え左手の剣でスパイダーの身体を切り、距離を取った。

 

「二刀流…一年前には見せなかった芸当だな…なら俺も遠慮はしない。」スパイダーはそう言って剣を左手に持ち変え、右手には鉤爪を出現させた。

 

そして、ペンシルに向かって鉤爪を振り下ろす。

 

 

 

その頃、敵がいなくなったピーコックは再び人々に向かって弾幕を放った。しかし、それらは全て空中で何かに激突して爆発した。

 

「なんだ…?」

 

「ツムツム、お待たせ。」翼を広げたピジョンは、ピーコックの前に降り立った。

 

「…遅い…!」ペンシルはスパイダーからの攻撃に集中していた。

 

「なんだお前は…!」ピーコックは顔を上げた。

 

「うーん、正義のヒーロー?なのかな。」ピジョンはそう言って弓を引いた。

 

その後ろから、サイヴァーに変身している萊智もやって来た。彼は初見で視界に入ってきた倒れている人々を見て絶句し、頭の中が真っ白になった。

 

「どうすれば…」そう考えようとしても、どうしてもこの光景に集中が向かってしまう…その時、頭の中に声が聞こえた。

 

「キュアーモードを使え!」声の主は、一犀だ…通信でそう呼びかけた。

 

「分かりました!」サイヴァーは直ぐ様行動に移った。左腕に、キュアーを装備した。左肩にはアイコンをイメージした白い立方体にハートが描かれている。そして腕には蛇が巻き付いている。

 

「うわっ!腕に蛇が…やるしかない!」腕の蛇が気になりながらも、左手を怪我を負った人々に向かって開いた。すると、腕の蛇が伸びて次々と患部に巻き付いていく。

左半身だけメデューサになったかの様だったが、人々の身体をものの数秒で全快とまでは行かないが、走って逃げれる程度にまで回復させた。

 

「早く!逃げて!」サイヴァーの呼びかけに人々は次々と逃げていった。

「逃すか!」ピーコックは再び弾幕を放つ。しかし、それらは全てサイヴァーの左腕の蛇が空を舞い防いだ。

 

「今度こそ倒して、その人から出てってもらう!」サイヴァーは銃を構えて走り出した。

 

ピーコックは弾幕を放つ。それらをサイヴァーは全て撃ち落とす。そして、ピーコックに向かって膝蹴りを喰らわせる。勢いよく吹っ飛んだピーコックは、ノイズを召喚して自分を守らせる様に動かした。

 

「もー、メンドクサイ!」ピジョンは弓を収納して、新たにアプリを起動させた。

右肩には、車両侵入禁止の様な赤い標識が現れた。そして、二の腕から腕が徐々に肥大化して、巨大な拳となった。ウイルスバスターアプリの力を持つバスターモードだ。その拳を、ピジョンは勢いよく地面に叩きつけた。その衝撃波でノイズは一瞬にして消滅、更にピーコックも地面から打ち上げられた。

 

ピジョンはバスターモードを解除して空へ飛んだ。ピーコックは、ピジョンが隣に並ぶと、自身の変身を解き、人間態になった。

 

「お前、倒すよ!」「何言ってる、人間に戻ったらやれないだろ!」その言葉を聞いたピジョンは大笑いした。確かに、コイツは大馬鹿だ。

 

「人間って、空飛べないんだよねー。」「へぇーそうなんだ…っておわぁ!!!!」翼を失ったピーコックは当然の如く墜落を始めた。それに気づき、ピーコックは再び怪人態に戻るが、その頃には、上空からピジョンの紅のキックが迫っていた。[Blake finish!][Pigeon strike!]

 

紅のキックは、ピーコックの身体を貫通、ピーコックと和野を分離させた。そしてピーコックは爆散した。墜落を続ける和野は、サイヴァーによって受け止められた。

 

 

 

 

その頃、スパイダーはペンシルを追い詰めていた。しかし、ピーコックが倒されたのを見た瞬間、「今日は終わりか…」と呟いて消えていった。

 

 

「…まさか…ね。」ペンシルはスパイダーから何かを感じたが、後で考えようと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリット…ダメだったわね…」

 

負けた事を悔しがっているグリットに対して、ヒネノは馬鹿にする様に言った。

 

「…作戦作戦と言って、未だ実行に移れない貴様に言われたくはない…!」グリットはそう言って彼女を押し倒した。

 

「いったーい。乙女を突き倒す?普通。」ヒネノはわざとらしく声を上げた。

 

「…気持ち悪い。」グリットはそう一蹴した。

 

 

 

 

 

「…悪いが、俺は独断でやらせてもらう…。」

 

 

 

 

 




紬葵の前に現れた柿崎智…それは幻か、それとも…。そんな事を考える中、一つの答えに辿り着く。一方、萊智の前に立ちはだかるのは…

次回、第7話 友の記憶
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