仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第7話 友の記憶

 

「スパイダー…ここで倒す…!」

 

声が聞こえる…自分ではない…

 

 

「…それはこちらの台詞だ…!」

 

 

相手が答える…スパイダーだ。目の前に見える。

 

 

自分の視点から察するに武器は剣だ…それも初めてみる…青く光る剣だ…

 

 

俺の視点の人物と、スパイダーは走り出し、すれ違い様に切り裂く…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…夢…?」

 

俺が瞬きしたその刹那、俺の前からスパイダーは消え、自室のクリーム色の天井があった。

 

随分とおかしな夢だ…色々混ざり合ったんだろう…

 

 

外を見ると、雨が降っていた。面倒だ…外に出掛ける時は傘を持って行かなければならないからだ。

 

 

 

 

「今日は講義がないから多少は楽だな…」これが半年前であれば、朝から晩まで休みの日は勉強机の前で勉強だ。それが今は一人暮らしで、誰の支えもなく家事をこなさなければならない。親の偉大さが分かる。

 

本当ならバイトに入る予定だったが、まさかのデジタルセイバーからのスカウトでお金の心配はないとはいえ、無駄遣いは出来ない。

 

朝食、洗濯、掃除全てを終えた萊智は、まだ僅かに物が足りないリビングのソファーに腰掛けた。そしてテレビを付けようとした…しかし、テレビの前に飾ってある写真立てに眼が行ってしまった。

 

そこには3人の人物が写っている。彼と、その友人である飯山将平、花道麗香だ。

 

萊智はその写真を見つめながら、高校時代を少し回想した。

 

3人で馬鹿みたいに遊び回った。畑しかない道で自転車を爆走させてレースしたり、駄菓子屋でくじが当たるまで食べようとして3人の貯金が底を尽きたり…あの頃は楽しかった。そして、最後…

 

「…なんで死んじまったんだよ…将平、麗香。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、太刀筆紬葵は自室で同じように写真立てに飾ってある写真を見つめていた。

 

自分と、その隣にいる柿崎智…どちらもいい笑顔だった。撮ったのは一昨年のクリスマス。

 

しかし、それを見つめている今の彼女は険しい表情だった。

 

それもそうだ…死んだと思っていた彼が、自分の目の前に姿を見せたからだ。会話はできなかったし、遠くからだったので幻かもしれない。だけど、だけども…生きている可能性に賭けたい。実際、彼の遺体はまだ見つかっていない…それならば…

 

そういえば、彼を見つけた後…ピーコックとスパイダーが現れた。ふと、おかしな事に気がついた。今までのバグビーストとの戦いは殆どが電脳世界で行われており、仮に起きたとしても短時間だった。しかし、今回のピーコックは、かなりの時間現実世界で戦った。そしてそれはスパイダーも同じ。

 

そのスパイダーは一年ほど前サイヴァーと戦った時は交戦を始めてからすぐに電脳世界に入った。

 

「もしかして…。そんな…だとしたら、スパイダーは…」当たってほしいような、当たってほしくないようなその直感に、彼女は賭けてみようと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、今日の昼飯買いに行かないとな…」ふと、萊智はそう思い立った。

 

上着を着て、傘を取り出し、財布とスマートライザーを持った彼は、外出した。

 

マンションの一階まで降りて、近くのコンビニに歩いて向かった。ここから近くのコンビニまで徒歩3分。目と鼻の先とまではいかないがかなり近いそのコンビニに向かった。基本田舎から都会に出たら、田舎で見てきた店は殆どない中、コンビニだけは全国共通でどこにでもある為、少し安心感のようなものを感じる。

 

そして、そのコンビニに差し掛かったその時だった。

 

「よお、今のサイヴァー。」彼を呼ぶ声が後ろから聞こえた。そして、自分の事をサイヴァーと呼ぶ…それはつまりバグビーストしか有り得ない。

「…なんでこんな面倒な日に面倒なタイミングで来るのかな…」萊智は後ろを振り返った。そこには、スパイダーの姿があった。その怪物の姿を見た周りの人々は一斉に逃げ出す中、萊智だけは奴を見つめた。

 

「…見逃してくれるわけ…ないんだよね。」スマートライザーを構え、変身準備をした。正直、今の戦闘力で勝てる相手ではないことは分かっている。だけど、自分を守らなければ…それに、変身すれば誰かが気付く。

 

「…当然だ。なんなら、わざわざ来てやったんだ。茶菓子の一つくらい用意してくれればいいのにな。」スパイダーは鉤爪を装備した。

 

「…逆に、紅茶でも菓子でも用意していれば帰ってくれるのか?変身!」[Rider Cyver!]

 

 

サイヴァーは、スパイダーに対してオレンジ色の眼光を見せつけた。

「…今のサイヴァーがどれだけ強いか、試させてもらう。」

 

 

スパイダーは、鉤爪をサイヴァーの装甲に向かって振り下ろした。それを身体をそらして回避すると銃を取り出し、一瞬隙が生まれたスパイダーに向かって連射する。玉は激突し火花を散らすが、致命傷にはなっていない。

再び、鉤爪による斬撃が迫る。今度は回避する余裕はない…左腕でその攻撃を受け止めようとする…が、抑えることは出来ず、アーマーが攻撃された事による衝撃で火花を散らした。

 

左腕には、鉤爪で削られた痕が残っている。少々痛みも感じる…。

 

「俺に防戦一方で勝てはしない…俺に致命傷も与えられない様じゃ、サイヴァーじゃない…。」

 

「…サイヴァーじゃ…ない。」覚悟を決め、サイヴァーとなった彼にその言葉はグサリと心に刺さった。自分の今までの頑張りを否定された様な…そんな感じがした。

 

「オラァ!!!!」考え事をしたその一瞬、サイヴァーに向かって猛烈なスパイダーの斬撃が振り下ろされた。その攻撃を防御すらせずに受けてしまったサイヴァーは胸から腹部まで切り裂かれ、身体中から火花が散っていく。

 

「ぐはっ!!」その勢いで、サイヴァーは地面に倒れ、過重負荷で変身も解けてしまった。

 

「…つまらなかったよ…最悪だ。」スパイダーは武器を剣に変え萊智の身体を斬り裂こうと迫る。

 

「…じゃあな。」

 

スパイダーは剣を萊智に向かって振り下ろした…が、剣先には攻撃を剣で受け止めているペンシルの姿があった。

 

「なんだと…?」「一旦引くわよ!」左腕をトランスファーモードにしたペンシルは新幹線型のエネルギーを召喚、スパイダーを倒れている萊智に近づけまいと敢えて目の前を走らせた。幻とはいえ最高速度の新幹線が迫る事に驚き、反射で回避したスパイダー。次に顔を上げたときには、萊智とペンシルの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

逃げた2人は、噴水のある大きな公園のベンチに腰掛けた。

 

「ありがとうございます…。」萊智は下を向いて答えた。異変に気づいた紬葵は、すぐさま「大丈夫か?」と聞いた。

 

「大丈夫…じゃないです。」萊智の左腕には、スパイダーによって切られた痕があり、そこから出血していた。

 

「ちょっと待ってて。」紬葵はそう言うとポケットから黄色い花が描かれたハンカチを取り出し、彼の傷口に巻きつけ、出血箇所を抑えた。

 

「とりあえず、これでいいかな。」紬葵も一安心しベンチに座った。

 

「…ありがとう…ございます。」萊智は、さっきと同じような暗い返事を返した。

 

「…スパイダーに、何か言われたの?」紬葵は明らかに考え込んでいる彼を気にして問いかけた。

 

彼女の聞いた通り…彼の心にはスパイダーの言葉が突き刺さったままだった。

 

「…弱い俺は…サイヴァーじゃないって…。」

 

彼は…弱い。戦いの経験は少なくて当然、戦う為の訓練を受けてきた訳ではないのだから弱くて当然だろう…だが、今まで「勝ち」しか経験したことがない彼は「強い」と勘違いしていた。だからこそ、弱いと言われた自分に…負けた自分にショックを受けているのだろう…そう紬葵は感じた。

 

「…誰だって、最初から強い訳じゃない。強い相手にいきなり勝てる訳無いのよ。」

 

そうまず声を掛けたが、無反応だった。

 

「…それは、私だって同じよ。私が初めて戦った時もそうだった。」

 

 

紬葵は、自分の初めての戦いを回想した。

 

初めて変身したその時、目の前にはスタッグ・バグビーストがいた。

 

剣を取り出した彼女は、無為無策で奴に突撃した。しかし、一瞬にして剣は弾かれ、身体は地面に倒れていた。

 

 

「その時は、智が助けてくれてどうにかなったんだけど…その後酷く怒られてね。…その時、こう言われたんだ。『負けた事実を否定せず努力すれば、次の勝ちに必ず繋がる』…ってね。」

 

萊智はその言葉を聞いて、顔を上げた。

 

「努力…」「うん、だからそれ以降、剣の腕を練習して今では二刀流まで行けちゃうくらいには。」紬葵は自慢げに答えた。

 

「…俺は…」萊智は頭の中で考えた…この後…どうすれば良いか…どうやったらスパイダーに勝てるのか…

 

ふと、頭の中に、今日見た夢が浮かんできた。スパイダーを倒すべく使ったあの剣…あれを引き出す事ができれば…勝てるかもしれない。

だけど、剣なんて持ったことすらない…使い方なんて分からない…。

 

答えは一つだ。それしか道はない。

 

「太刀筆さん…俺に、剣を教えてください!」萊智は立ち上がり頭を下げた。

 

突然の申し出に、彼女は驚いた。しかし、本気でお願いする彼のその姿に、いいえを出すつもりはなかった。

 

「…もちろん。その代わり、やるからには厳しめにいくわよ。」彼女はいい笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、電脳世界のとある場所では、スパイダーは『呼び出されていた』。

 

「何故…サイヴァーに接触した。」深紅の髪の毛の女性は聞いた。

 

「…どうしようが俺の勝手だ。それに、アンタはその件に言及していない。」スパイダーはそう言い放った。

 

「貴様、逆らう気か?」グリットが聞いた。

 

「…そう思うならそうだろう。」スパイダーの返しに、グリットは怒りを露わにした。

 

「…俺とお前達はあくまで傭兵と雇い主の関係だ。契約を破棄したいならすれば良いさ。」スパイダーは、2人を挑発した。

 

しばらく熟考した後、深紅の彼女は口を開いた。

 

「破棄しよう…指示に従えないのなら。」グリットはいいのですか?と聞いたが、それに応えるよりも先にスパイダーが口を開いた。

 

「これで俺は自由だ。」そう言ってその場から姿を消した。

 

 

 

スパイダーが出て行ってからしばらくした後、グリットは再び聞いた。

 

「いいのですか?奴を手放してしまって…奴は私達に一番近い存在…」

 

「確かにそうだが、手に負えない以上、退治してもらった方が楽だ。」

 

深紅の彼女はそう言い切った。

 

「…分かりました。」グリットは、納得いかなかったが、逆らえない以上無理矢理にでも納得するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




剣の特訓を開始した萊智、一方スパイダーは再び現実世界に現れ暴走を始める…

次回、第8話 ヒーロー〜剣の紋章〜
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