仮面電脳戦記   作:津上幻夢

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第8話 ヒーロー〜剣の紋章〜

 

 

「さて…どう暴れてやろうか…。」雨が降り続ける街を見下ろしている蜘蛛…彼の瞳の奥には、荒廃する現実世界(この世)を見据えていた。

 

「サイヴァーも居ないこの世界は俺のテリトリーだ。」奴は腕から糸を伸ばして高層ビルの隙間を縫う様に張り巡らせ始めた…自身の巣にする為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジタルセイバーの訓練施設…

 

俺は今、木刀を片手に立っていた。視線の先には、同じ様に木刀を構えているペンシルの姿がある。

 

〜太刀筆さん…俺に、剣を教えてください!〜

 

俺の言葉が発端となって始まった稽古。既に幾度となく攻撃を喰らい続けた。

 

俺が剣を突き出しても、彼女の姿は想像よりも右に、左に、後ろにズレており、反撃を喰らう。彼女が攻撃を仕掛けてきた際は、回避はできるが、その回避に集中し過ぎて次の攻撃を喰らってしまう…それらの繰り返しだ。

 

「…次、お願いします。」俺は剣を前に構えた。そして、攻撃の態勢に入る。しかし、彼女は逆に剣を下ろし変身を解いた。

 

「少し休もう。」

 

なんで…時間は無いはずなのに…。

 

「いや、やらせてください。」

 

「少し落ち着きなさい。焦ってもいいことは無いわよ。」俺はその言葉に仕方なく従い変身を解いた。

 

「…1日で全て出来る様になる人なんていない。ぶっ通しでやったって疲れるだけよ。」紬葵さんはそう言って俺にドリンクを投げ渡した。

 

 

 

俺は、その場に座り込んでドリンクを一気に半分くらい飲み干した。

正直、集中し過ぎて凄い疲れた。授業ですらもう少し気を抜いているのに…。

 

「左腕は大丈夫?」気がつくと紬葵さんが隣に座って俺の左腕の様子を気にしていた。

「…戦闘に支障がない程度には大丈夫です。」

 

「…そう。それにしても、君と行動しているとどうしても智…前のサイヴァーを思い出してしまう。」紬葵は天井を仰いだ。

 

「…柿崎さんって、どういう人か、もっと詳しく知りたいです。」

 

俺は、柿崎智という人間について、知らなくてはならない…それが、スパイダーを倒す鍵になるかもしれない…一番スパイダー撃破に近づいた人なのだから…。

 

きっと、昨日見た夢は、柿崎さんが俺に見せたヒントだろう。あの剣を使いこなす事…きっとそれが…。

 

「…分かった。って言っても、どこから話せばいいんだろうな…?」紬葵さんはしばらく考えた後、少しずつ思い出す様に回想を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

紬葵と智の出会いは、今から15年前に遡る。

 

当時10歳の彼女は、父親と母親と3人で暮らしていた。学校でも絵が上手い事からみんなに好かれ、常にクラスの輪の中にいた。恵まれた環境で育ってきた彼女だったが、その幸せは、たった一つの事件で全て崩れてしまった。

 

父親が、出張先の某国で起きたクーデターに巻き込まれて亡くなってしまったのだ。当然彼女は悲しみに暮れたが、母親は更に重症だった。重度の精神疾患を起こし、遂には自殺未遂まで起こしてしまう。

このままでは、彼女を育てることはできないと苦渋の決断を下した親戚は、紬葵を児童養護施設へと預ける事にした。

 

そこで彼女が出会ったのは、当時14歳の柿崎智だった。彼もまた養護施設で暮らす子どもの1人だった。

 

入ったばかりは周りに馴染めず、ひたすら花壇の花を描いていた彼女に、彼は声をかけた。

「絵、上手いね。」その時の優しい笑みが、彼女の心を強く刺激した。寂しい心に、明かりが灯ったかの様な感覚になった。

 

その後、彼が施設を出るまでの4年間、2人は親睦を深め、いつしかかけがえのない存在となっていた。

 

そして、遂に高校を卒業した智は独り立ちし、生活を始めた。そんな彼に、紬葵は約束した。「絶対、また会いに行く。」彼女はその約束を果たすべく猛勉強し、彼を追うべく上京した。

 

 

そして、それが果たされる事となるのは今から2年前、23歳になった年の事だった。

 

バグビーストに襲われそうになった彼女は、絶対絶命だった。そんな彼女を助けたのが、サイヴァーに変身した智だった。

 

「久しぶり…だね。」再会した彼の顔は、あの頃から変わっていない優しい笑みをしていた。

 

その彼の誘いを受け、紬葵はデジタルセイバーに入り、そしてペンシルとして戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

「…意外と、話してみると、なんか私の事ばっかりになっちゃったね。」回想が終わり、紬葵は俺の顔を伺う様に見た。俺は、ありのままの考えを口にした。

 

「…柿崎さんは、優しい人だったんですね。」

 

「そうだね…。」紬葵さんは、そう言ってしばらく空を眺めた。そして、再び俺の方を向いた。

 

「君は、思い出したい人とかいるの?」話したのだから、逆に話を聞きたいと思うのは当然だろうし、なんとなく予想はできていた。

 

正直…話したくないといえばそうだが……

 

「…俺の高校時代には、2人の親友が居たんです。」話さなければ、前には進めない…意を決した俺は、俺の回想へと入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時、右も左も分からない高校一年生の頃、初めてできた友達が飯山将平だった。席は近くなかったが、通学に使う電車が同じだったが為に必然的に話すようになった。

彼はかなり変わった奴だった。いわゆる「ヒーロー」という存在が好きだった。特撮ヒーローとか、アニメのそういうキャラが好きとかではなく、純粋に人助けができる人…憧れていたと言ってもいい。

「俺なんて、自分の事で精一杯だから…」なんて言ってたが、そんな奴が、電車がたまたま同じだった奴を気にかけて話しかけてくるかって。

 

そしてもう1人…花道麗香。彼女は、俺にとって初恋の人だった。容姿端麗で成績は中の上。

俺は、彼女と親しくなりたい…そう言う話を将平にしたら、「俺が仲立ちをしてやる」と言って、その翌日には俺のところに彼女を連れてきた。

こうして俺は晴れて彼女と恋仲に…とはならなかった。なんと彼女は、俺ではなく将平の方が好きだった。それを相談された時は、ショックを受けて気絶しそうになった。本来なら、奪い合うものかも知れないが、俺は、彼女が幸せになって欲しいと願い、将平に彼女を譲った。多少の後悔もあったが、相手が親友なら諦められるって。

 

そんな訳で俺は、2人の親友に囲まれて、幸せだった。もちろん、2人にとっては2人で恋人同士の関係になっている時の方が幸せだったかも知れない、だけど俺にとってはその時が一番楽しかった。

 

 

そして、俺達は無事に卒業して、それぞれの進路に向かって頑張ろうと、そう意気込んだ直後、その夢が引き裂かれる事となった。

 

 

 

 

翌日、2人は車に撥ねられた…即死だった。交差点で、気を失っていた運転手が運転している乗用車に…。

 

俺は泣いた…一生分の涙を流したと言ってもいいくらいに…。自分がどれだけ夢に進んだって、2人にはその進む道すらもうないと思うと…。

 

 

 

 

 

 

 

「…これが、俺の思い出したい、と言うよりももう一度会いたい人達…です。」

 

暗い話をしてしまったが為に、周りの空気がとても重く感じた。

「…2人は、今でも幸せだと良いわね。」

 

「そうですね…」俺は生返事を返した。

 

 

ここ最近、友人関係を「面倒くさく」と感じていたのは、「失った時の悲しみ」を感じたくない…からかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、いつの間にか雨が止んだ現実世界、東京のオフィス街では、人々が空に向かってスマホを向けていた。彼らの目線の先には、ビルの合間に蜘蛛の巣を広げるスパイダー・バグビーストの姿があった。偶々通りすがった人々は何かの撮影だと勘違いして、見つめている。

 

「…餌が、想像以上に集まっているな。」

 

ビルの3階あたりに張った蜘蛛の巣からスパイダーは見つめていた。

 

「…ん、あれは…センスとピジョンか。」

 

そこへ、スパイダーの出現を探知したセンスとピジョンがやって来た。

 

「皆さん危険ですから下がってください!」センスは下で市民達を陽動しようとするが、上に夢中で動こうとしない…。

 

「…潮時か…!」スパイダーは両腕を伸ばし次々と糸を放った。

 

それらは次々と市民達に巻きつき、そして上の蜘蛛の巣へと引き込む。その一瞬の作業に人々はようやく危機を感じたり、悲鳴を上げ、逃げていく。しかし、スパイダーは手を休めることはない。

 

最終的に十数人が宙吊りとなりそれらをスパイダーはご馳走を見る目で見ていた。

 

しかし、そこに一筋の光が邪魔をする。下を見下ろすとピジョンが弓を構えていた。

「腹ごなしに運動…か。」

 

スパイダーは、巣から飛び降りセンス達の前に着地した。

 

「捕らえた人達を解放しろ。」センスは槍を突きつけた。

 

「…そう言って素直に解放する悪役がいる訳ないだろ。」スパイダーは鉤爪を召喚し、槍を振り払った。

 

「ならば、実力行使するまで…!」センスは一瞬ピジョンに目配せした。僕が引きつけるから今のうちに救い出せ。という意味の…

 

センスはスパイダーに向かって攻撃を仕掛ける。槍を振り下ろし、スパイダーの胸部を貫こうとする。しかし、スパイダーはこれを剣で遮り、右腕から糸を放った。その糸はセンスの左横スレスレの所を通って、今飛び立とうとしているピジョンに巻き付いた。

 

「ちょ、なにこれ!」ピジョンは解こうと動くが、破ることができない。

 

「残念だが、そんなズルい手はさせないぜ…!」スパイダーは作戦がバレたことに動揺するセンスを切り裂いた。そして地面に倒れたセンスを剣を捨てた左腕で持ち上げ、右腕の鉤爪で二、三回切り裂く。

 

「ぐっあっ!!」最後の一撃を受けたセンスはピジョンの隣に倒れ込んでしまった。

 

「…やっぱり、あのサイヴァーが一番手応えのある敵だったな。」スパイダーは2人に敢えて聞こえるように言って、巣に戻ろうとした。

 

「待て!」

 

 

 

「ほう…お前か。」

 

スパイダーが声の方向に目を向けると、スマートライザーを手にした萊智と紬葵の姿があった。

 

「…今度こそ、お前を倒す!」

 

「戯言を…」スパイダーは剣を再び構えた。

 

「「変身!!」」萊智と紬葵は同時に変身シークエンスを始める。

 

[Rider Cyver!][Rider Pencil!]

 

サイヴァーとペンシル、2人のライダーはそれぞれ武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツとの出来事を話していく中で、俺はある事を思い出した…アイツが…将平が俺への想いを語った時の…

 

「俺は、お前みたいに優しい奴になりたい。」

 

あの時は、「俺はそんな事ない」と返した。

 

将平にとって、俺はヒーローだったのかも知れない…今なら、なんとなく分かる。

 

そして、お前の言っていた「ヒーロー」というものに俺はなりたい…。柿崎さんみたいに、強くて、優しくて、そして覚悟のある…。

 

 

 

 

スパイダーは、迫るペンシルに向かって剣を振り下ろして攻撃を受け止める。

その隙を俺は遠くから銃で狙い撃つ。スパイダーは、身体に勢いをつけてペンシルを盾にした。その攻撃を食らった彼女は地面に膝をついた。

 

「太刀筆さん!」「私は大丈夫!」その声を走りながら聞く。俺はスパイダーに右拳を向ける。

 

「…貴様如きの攻撃、痛くも痒くもない。」スパイダーは、防御もせずに受け止めた。

 

しかし、それが仇となった。俺の拳は前とは違う…将平と柿崎さんの想いが宿ったその拳は、スパイダーをノックバックさせた。

 

その状況に、スパイダーは動揺と混乱を初めて見せた。

 

「…俺は、サイヴァーとして戦う。将平の夢と、柿崎さんの想いと共に…ヒーローになる!」

 

その時、俺の目の前に、俺と全く同じ姿の戦士…サイヴァーが現れた。柿崎さん…なのだろうか。そのサイヴァーは夢で見たあの青い剣を持っていた。

 

「智!」「柿崎さん!」「カキピー!」「サイヴァー…?」他の3人も、そしてスパイダーもその存在は見えていた。

 

そのサイヴァーは俺に向かってゆっくりと歩いてきた。そして、俺の目の前で止まり、コクリと頷いた。そして、青い剣を俺に差し出した。

 

「…後悔は、させません。貴方を、超えて見せます。」俺はその幻影に向かって誓った。そして、剣を受け取った。俺は剣に目線を向ける。あの夢では分からなかった青い剣の全体像を今はっきりと見つめている。そして、その剣の全てが俺の脳に、感覚器官に、細胞一つ一つに流れ込む。

 

 

 

 

俺が再び顔を上げると、幻影は姿を消していた。

 

そして、それと同時に俺の体にも変化が起き始めた。俺の身体の一部が青色に変化していく。胸部はシアンのアーマーをベースに銀、赤、青、緑の星のような水晶玉がサイヴァーのシンボルを囲うように並ぶ。頭部の画面のカラーが青に変わり、アンテナは金色とシアンの2色となり、更に垂直方向にもシアンのアンテナが2本短く伸びる。

 

[Synchro UP!][Gaming Cyver!]

 

ゲームアプリをモチーフにした形態、サイヴァーゲーミングフォームは今ここに降臨した。

 

「…その剣…あの男とようやく同じ土俵に立ったか…!」興奮を抑えられないスパイダーは剣を握りしめサイヴァーに向かって剣を振り下ろす。サイヴァーは、剣を前に出しスパイダーの攻撃する隙を突いたカウンター攻撃を仕掛ける。その攻撃にスパイダーは膝を突き、切られた箇所を手で押さえる。

 

「…これで終わらせる!」[Blake finish!][Cyver critical!]

 

サイヴァーは青い剣を風のように振り回す。その斬撃がスパイダーの身体を切り裂き、そしてスパイダーを遂に地面に倒れさせた。

 

 

「…まだか…!」しかし、スパイダーの身体は爆散しない…『進化』だ。

 

スパイダーの身体はゆっくりと起き上がると、四肢が変化して巨大蜘蛛へとその身を変える。

「こうなったら…アイツらを殺してやる!!」そう言ってスパイダーは巣に向かって剣を次々と放つ。それらが糸を切り裂き、宙吊りになっていた市民達を一斉に地面に墜落させようと目論む。

 

「太刀筆さん!メリアさん!」

 

「分かってるわよ!」しかし、そこまでサイヴァーは読んでいた。新幹線型のエネルギー体を出現させたペンシルと空を飛んでペンシルが受け止めれなかった残りの数人をピジョンが助け出した。

 

「貴峰さん、俺が時間を稼ぐので、その間に急所を探してください!」剣を構えたサイヴァーがセンスに言った。センスはサーチモードを起動させ既に探索を始める。

 

「貴様…強くなったな!」スパイダーは巨大な脚をサイヴァーに振り下ろす。

 

「アンタのお陰で覚悟ができたさ…俺はサイヴァーとしてこれからも戦う!」その時、胸部の水晶玉が光り輝く。そして、サイヴァーの背後に、胸部と同じように4色の水晶玉がそれぞれ現れた。

 

「…なるほど、そういう事か!」サイヴァーはそのうちの赤の水晶玉を手にした。その水晶玉は光り輝くと、サイヴァーに『新たな武器』を渡した。翠色の鍔に銀色の刃が伸びた大剣だ。

 

「見えた、脳天だ!」センスはそう叫んだ。サイヴァーは、その声を聞き、剣を構えてジャンプした。

 

「はあっ!!」[Blake finish!][Cyver critical!]

 

翠色のオーラを纏った大剣を、サイヴァーは脳天向かって振り下ろした。

 

 

 

「…最期に、最高の戦いができた。負けたのは…惜しい、が……!!!!」

 

 

スパイダーは、その言葉を遺して爆散した。

 

 

その様子を、ペンシルは特に凝視していた。もし…自分の考えが正しければ…スパイダーの中に『柿崎智』が…

 

 

 

 

 

 

しかし、爆炎の中から姿を見せたのは、見知らぬ男だった。サイヴァーにとっては、強く記憶に残っていたが。

 

「あの人は…初めてスパイダーに会った時の…」

 

ペンシルの予想は、外れてしまった。中から現れたのは、萊智がサイヴァーに出会ったあの事件で、スパイダーが出現に使ったスマホの所有者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパイダー…貴方の死は無駄にはしない、とでも言っておきましょうか。」ヒネノは、その様子を全て見ていた。

 

「ようやく、作戦を実行できる…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…大学にて

 

 

「御定、今日も遊ぼう…って言っても、どうせ断るんだよな。」その日も紺野と黒崎は懲りずに萊智に対して遊びの誘いをした。半分諦め気味ではあるが。

 

「…そうだな。行ってやるよ。」

 

「だよなー行くってええ!!!!」黒崎は廊下中に響く声で驚いた。

 

「マジで?」紺野が聞いた。

 

「…いいから、行くんだろ?」萊智はそう言って2人の背中を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に動き出すヒネノ…そして、デジタルセイバーにとある人物が訪ねてくる…!

次回 第9話 新章・ライブ・スタート
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