異世界科っ! ~異世界を教える学校~   作:柴田柴犬

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異世界召喚注意事項

この学校に入学して、はや一ヶ月。

 今日も異世界についての授業が行われる。今までは大まかな概要やステータスなんてのが授業として行われていたが、本日の授業はというと――

 

「えー。今日は召喚された際に気を付けておくべきことについて説明していきます」

 

 異世界についての授業は、冒頭から意味不明な事は多い。今日もその例にもれず、先生の言葉に疑問符を浮かべる生徒達が多数いた。

 だが、その疑問を解決する前に、先生の説明が始まる。

 

「あのう……? 前に神様? と会った時にどうすれば良いかはありましたけど、それとは違うんですか?」

 

 一人の生徒が手を挙げて質問をする。

 

「これについては、『神』という人間よりも上位の存在ではなく、異世界の人間があなた方を召喚した際に覚えておかなければならない事になります」

「……?」

 

 先生の言葉の意味がよく分からない。首を傾げる生徒多数。

 

「まぁ、そうですね。これは実際に経験しないとわからないかもしれませんね」

 

 そして、そんな事を言った後、先生は語り始めた。

 

「異世界に召喚された際、まず一番最初に行われることは何でしょうか?」

「ステータスオープン!」

「違います」

 

 元気よく答えた男子生徒に対して即座に否定する先生。

 

「スキル確認ですかー?」

「違います。それもステータスと変わりません」

 

 先生はまたしても否定する。

 

「極大魔法ぶっぱ!」

「最強奥義お披露目!」

 

 解答が混沌の様相を呈してきたところで先生が言う。

 

「本当に最初、いきなり召喚されたら、どういった状況ですか?」

 

 先生は更に問いを投げかける。

 

「あの……本当に一番最初なら……召喚した人と会う……ですか?」

 

 月奈が手を上げながら答える。

 

「はい。その通りです」

 

 先生がニッコリしながら肯定している。

 ……いや待て。それは当たり前すぎるだろ!?

 心の中でツッコみながら俺は話を聞いていた。

 

「でも、それって当然じゃないんですか?」

 

 俺と同じ考えに至ったのか、女子生徒が問う。

 

「はい。では皆さんに質問です。召喚者と会った場合、どの様な展開になると思いますか?」

 

 今度は皆で考えてみる時間となった。

 すると、一人が発言する。

 

「えっと……勇者認定されて褒め称えられるとか……」

「はい正解です! おめでとうございます」

 

 パチパチと拍手する先生。

 

「では、その他には?」

「……魔王討伐を依頼されたりとか?」

「はい。それも正解です」

 

 再び拍手する先生。しかし。

 

「さて、先程、皆さんが言った通り、召喚を行った国。例えばそこの王が礼を尽くして接する場合もあります。……ですが」

 

 そこで一旦言葉を切って続ける。

 

「異世界から帰って来た方からの情報では、『使える武器が気に食わないからと差別された』といった場合や、『スキルや職業が外れだから国外追放させられた』などの実例があります」

「「「……」」」

 

 教室の中は静まり返った。

 

「中には、我々が自分達の世界の人間ではないからと、鉄砲玉の様に扱い魔王へと挑ませようと画策する場合もあるとか」

「……マジすか」

 

 誰かが呟く。

 

「はい。ですので、異世界に召喚された際には、その世界の常識を疑う必要があるのです」

 

 先生の言葉を聞き終えてから、また数秒沈黙が流れる。

 

「いや……でも先生? そういうのって後で、ざまあってできるんじゃないんですか? よくあるじゃないですか。外れスキルが実は超便利だったとか……」

 

 生徒の一人が手を挙げて尋ねる。

 

「確かにそう言った話が無いわけでもありません」

 

 先生は肯定をしたが、その雰囲気は暗いままだ。

 

「ですが、仲間はおらず召喚者からの満足な支援もなしで、まともに戦えると思いますか? 極稀に、逆境をバネにできる人もいるでしょう。しかし、そこまで精神が強い人間ばかりではないのです」

 

 異世界に召喚された先人達からもたらされた情報にクラスが静まり返っていると。

 

「『神』の様な超常的な存在が転移や転生をさせる場合、自分の好きな、または戦いに有利なスキルを与えられる場合が多いようですが、異世界人が召喚を行う場合、スキル等はランダムに付与される場合が多いようです。同じ異世界転移ではありますが、これは大きな違いでしょう?」

 

 先生は説明を続ける。

 

「じゃあ……もし召喚者がヤバいと思ったらどうすれば良いんですか!?」

 

 一人の男子生徒が手を挙げて質問する。

 他の生徒もうんうんと相槌を打っている。

 すると先生はこう答えた。

 

「……逃げる算段を付けることでしょうか。その前にやるべきことはありますが」

「やるべきこと?」

 

 月奈が聞き返す。

 

「はい。情報収集も大事ですが、まずは自分の身の安全を確保する事でしょうね。あちらの意図とは違った召喚だったとしても、自分の有用性を示して何らかの職に就くとありです」

「……あの……先生。ちょっといいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

 

 クラスメイトの一人が質問を投げかけた。

 

「異世界人からしたら、外れクジを引いたみたいなものなのに、そんなにうまくいくものですか?」

「ふむ。良い質問です。その有用性というのは別に戦う力のみの話ではありません」

「どういうことです?」

「例えば戦う事が無理でも算術や科学知識があれば、重宝してくれる場合があるかもしれません。召喚者に気に入られないとしても、どこかの商店で雇ってもらえる可能性も高くなりますね」

「……なるほど」

 

 俺は感心した。

 

「ですので、皆さんも学校の勉強を頑張ってください。もしかしたら何かの役に立つかもしれませんよ」

 

 先生が締め括り、この授業は終了した。

 

 

 

 放課後になり、部室へと赴く。今日もあのヘンテコ訓練が始まるのかと思うと少々気が重い。

 とはいえ、一応先生も何らかのデータを取っているらしく、それに協力しているという体裁でもある。

 それよりも気になるのが……。

 

「先生って……異世界に召喚された時は、トラブルとか無かったんですか?」

 ふと、今日の授業の内容から山科先生が召喚された際の様子を聞いてしまった。

 すると先生は少し考えてから。

 

「まぁ……ありましたねえ……」

 

 遠い目をして言った。

 

「……詳しく聞いてもいいですか?」

「えぇ。構いませんよ」

 

 先生はゆっくりと語り始めた。

 

「あれは……今から二十年くらい前の事でしたかね」

 

 

 ◆

 ――その頃、僕はまだこの高校に通う高校生でした。

 ある日の昼休み、私は屋上に行って昼食を食べていました。

「んー……今日も良い天気だなあ~」

 雲一つ無い快晴。

 こんな日はお弁当を持って屋上に行くに限る。

「たまには、こういう時間があっても良い。ああ……、授業サボりたい……」

 

 などと呟いていると、いきなり目の前が真っ暗になった。

 

「……は?」

 

 突然の出来事に唖然としていると。

 

「おわあああああ!!? 落ちてる、落ちてるって!!」

 

 周囲は真っ暗だというのに、自由落下している感触を全身で感じていた。今度は、真下に光が見える。

 ちょっと待て!? あれが底なら……、僕って真っ赤なトマトになってしまう!?

 

「うわああ!! 誰か助けてくれーっ!」

 

 力の限り叫んだものの、そのまま光を発している場所を通り――

 

「きゃああああああ!?」

「いってええええええええ!?」

 

 何か……もとい、誰かと激突していた。

 慌てて起き上ると目の前には、13~14歳程度の少女がこちらを興味深く観察している。周りには、町民らしき人間が物珍しそうにこちらを見ながらヒソヒソ話をしているようだ。

 

「……ここは? どこなんだ?」

 

 辺りを見回すと、そこは見たこともない街並み、まるで物語に出てくるような中世のヨーロッパ風の建物が並ぶ場所だった。

 ぶつかった少女は、こちらの様子を確認し終えた様で。

 

「やっぱりわたしの召喚術に間違いは無かったようですね! やったぞ~!」

 

 と、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。

 召喚術? 僕の事を言っているのか?

 

「あの、君。もしかして僕を召喚したのかな?」

 

 あの高校の生徒だからって、本当に異世界に召喚されるとか……。マジか。

 

「そうです! あなたはわたしが召喚しました。さあ、一緒に来てもらいます……? あれ? 何か貧弱」

 

 おい。初対面で貧弱って失礼だな。確かにインドア派だけど。

 

 僕はムッとした顔をしながら反論する。

 

「そりゃどうも。僕は山科樹。君は誰?」

「……えっと、わたしは……ってそうじゃなくて。うん、ちゃんと召喚術式が働いているから、意志疎通は問題なしと」

 

 召喚されたであろう人物に対して、何かしらの確認をしている様子の少女。

 

「……あの、聞いてる?」

「はい! 聞いてますよ。ところで……あなたはニホン? から来たのよね? 何でそんなに弱そうなの?」

 

 ……こいつ、僕の事馬鹿にしてないか? 

 僕は怒髪天をつく勢いで怒鳴りつけた。

 

「何で日本から来ると強いのが前提なんだよ!!?」

「だって……前に召喚された人は、カタナってので敵も魔法もバンバン斬ってたって伝説になってるわよ。この国にもその剣術の名残があるわ」

「ちなみにどんなの?」

「こう……、両手を右耳の所まで上げて剣を持って、ちぇすとーーー!! って一気に振り下ろすの!」

 

 ああ……何か聞いた事がある。九州辺りで有名なやつだ。

 

「それと……その剣を使ってた人が来たのって何年くらい前?」

「えっと……大体、百三十年前だったかな?」

 

 日本だとモロ幕末だろ!? そんな時代ならそりゃあ強いわ!

 

「それと、その人はわたしのお婆様のお爺様のお父様になります!」

「いや、そこは聞いてないから!」

 

 ツッコミを入れると、彼女はコホンと咳払いをして話題を変えた。

 

「でも……ちょっと来てもらえないかな? 色々とお話したいから……ね?」

 

 そう言って、僕の手を引きお城へと招いたのであった。

 

 

 ◆

「……と、まあ、第一印象ははっきり言って最悪を通り越した様なものでしたが……」

 

 先生は苦笑いしながら、当時の事を振り返っていた。

 

「それから、僕は彼女に付き合わされました。勉強に戦闘訓練に魔法に、ありとあらゆる事を」

「そういえば……召喚って城じゃなくて街中でやってたんですか? お城に連れて行かれたって事は、そこの関係者ですよね?」

「はい。僕も聞いた時は驚きましたが、まさかお姫様が街中で召喚を行っていたとは思いませんでした。格好もそこまで派手ではありませんでしたしね。まあ、城下でもお転婆姫で通っていたらしいですが」

 

 何でまた、街中で召喚を行ったんだか。

 

「あの世界は当時、魔物による未曽有の危機に陥っていました。なので少しでも国の人々を安心させる様に街の中で召喚をしたと言っていましたよ。要は凄い人呼ぶから安心してねって事です」

 

 俺の心を読んだように、先生が回答をしてくれた。

 

「ついでに言うと、そこの国はお世辞にも大国と呼べるものではありませんでしたが、他国にはない切り札がありました」

「それが……、異世界人の召喚ですか?」

 

 俺と先生の会話に月奈も加わって来ていた。

 

「ええ。召喚術に関しては、神から与えられた遺産だとか言われていましたが、真相は分からず仕舞いでしたね」

 

 神様が与えた? 何か凄いな。

 

「召喚された後で、僕は魔力の運用が人並外れて優れている事が分かりましたが。僕の前……、現在から百五十年前に召喚された方は、召喚時、身体能力の強化がなされていたようです。おそらく僕の魔力運用の器用さも召喚時に付与されたのかもしれません」

「それも召喚術式の影響ですか?」

 

 月奈の問いに先生は首を縦に振った。

 

「それよりも、その城に招かれた後はどうなったんですか?」

 

 先生の昔話に興味が湧いてしまい、つい質問してしまった。

 

「はっきり言って、あまりやる気はありませんでしたので、与えられた部屋から出ずにベッドに寝転がって不貞腐れていました。まあ、僕の行った異世界は、その意味では優しい方ですね。いきなり役立たずのレッテルは張られませんでしたから」

 

 今日の授業を聞いている限りではその通りだ。

 

「ただ……」

 先生が、遠い目をして語り始める。

 

「僕がベッドで不貞寝していたら……、こう、ベッドから転がり落とすんですよ……。”さっさと起きろー!” って。人の部屋に勝手に入って、……まあ、城の中なので合鍵も普通に持っていますしね」

「……異世界版月奈だ」

「おや、神咲さんもそんな事をしているのですか?」

 

 先生が苦笑しながら俺達を相互に見ている。

 

「違います! 衛侍が朝ちゃんと起きないのがいけないんです! わたしは悪くありません!」

 

 月奈も顔を真っ赤にして反論をしている。

 

「毎朝、俺は部屋の床とキスをしています……」

「つまり、久能君は自室床愛好者ね! 大丈夫よ。趣味嗜好は他人に迷惑をかけない限り、私は許容するわ!」

「先輩!? その訳分からない二つ名を定着させないで下さい!」

 

 いつの間にか部室に来ていた武宮先輩が先輩が不名誉なあだ名を付けてきた。と、月奈が何かを思い出したようで。

 

「あっ! そういえば……、前に貰った異世界の歌のデータって……」

「ええ、彼女の歌声です。偶然持っていたMDレコーダーで録音しまして。それをデータ化して保存していました」

 

 あれって、異世界人の歌声だったのか。というか……。

 俺と月奈と武宮先輩は三人で顔を見合わせ。先生にこう訪ねた。

 

「先生……、MDって何ですか?」

 

 それを聞いた先生は一瞬固まり、それから。

 

「……これが……ジェネレーションギャップですか……」

 

 部活の間、とても寂しそうな顔をしていた。

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