異世界科っ! ~異世界を教える学校~   作:柴田柴犬

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学園での日常
帰還者(リターナー)


『異世界召喚』

 

最近、小説や漫画なんかでよくある展開。神様辺りにチートを貰って無双、または勇者として召喚されたら特別な力があったとか、そんなありふれたよくある物語。

それは古くから、気の遠くなる程昔から存在していたらしい。

日本においては神隠しなどとも呼ばれてもいる。

確かに自発的に姿を消した者や何者かに誘拐された者が大多数だが、極稀に本当に異世界へと召喚された例もあるのだそうだ。

そう、この学園においては――

 

「しっかし本当に俺達が異世界召喚させやすいのかねえ」

「さあな。まあ国のお墨付きでこの学校に入学できたんだから、そうなんだろ」

 

午前中の授業を終えて、古村君とそんな他愛のない会話をしていた。

 

「でもさ? 本当に行った人っているのかな?」

 

月奈が当然の疑問を口にしている。

 

「うーん……どうなんだろうな。もし行ってたらニュースになってると思うけど……」

「だよねぇ」

 

俺も月奈と同じ意見だ。

こんな話、誰も信じないだろうし、仮に信じるとしても眉唾物だと鼻で笑われるだけだろう。

だから信憑性なんてないに等しいのだが……。

この学校がある以上、100%無いとは言えないのが現状だ。

そんな中、クラスメイトの一人が俺達の話題に混ざって来た。

 

「あのな? 部活の先輩なんだけど……去年見たんだってよ」

「何を?」

「この学校の生徒が異世界に行ったところを!」

「えっ!?」

 

まさかの反応だった。

 

「本当なのかそれ?」

「ああ! マジだって。その先輩、去年の今頃、同級生がいきなりいなくなったって……」

「まじかよ……」

 

俺は思わず絶句してしまった。

本当に異世界へ行っていた奴がいたとは……。

 

「なんかな? 床にいきなり光る模様が出来たと思ったら、生徒が二人消えたって……」

「……」

 

なんだそりゃ? まるで魔法陣みたいじゃないか。

 

「それでその後どうなったんだよ?」

「いや、知らないって。その場にいたわけじゃないし……」

「じゃあどうやって知ったんだ?」

「噂を聞いただけだ。なんでも一年間行方不明になった生徒が帰って来た時には、かなりの騒ぎだったらしいぜ」

 

それはつまり。

 

「わたし達の先輩で実際に異世界に行って、日本に帰って来た人がいるって事?」

 

月奈が驚きながら訊く。

 

「なあなあ、どんな人なんだ? 男? 女?」

 

古村君が興味深々と言った様子で質問を返す。

 

「それがさぁ~よくわかんねーんだよ。何でもその人はすげぇ美人さんで、髪が長くて黒かったって聞いたんだけど……それだけしか知らん」

「それだけ? 何か特徴はなかったのか?」

「あったらしいぞ。なんでもとんでもない美少女だったとかなんとか」

 

実際に会ってみたいもんだ。この学校にいるんだから、何かの機会に顔を合わせることがあるかもしれない。

 

「はいはい、美少女って……男の子ってそんなのに弱いわよね、ほんと」

「月奈は毎朝俺の安眠を妨げる『妖怪ベッド落とし』だからな。比べるわけないだろ?」

「へえ~? そんな事言うなら、毎日ハリセンで叩き起こしてあげよっか♪」

「楽しそうに言ってんじゃねえ!」

 

俺達はいつも通りのやり取りをする。

ちなみに月奈が俺を起こしに来る理由は簡単だ。俺の家が月奈の家の隣なのだから仕方がない。

そんなこんなで放課後になり、部活動に向かう生徒や帰宅する為に教室を出て行く生徒たちの姿が目立つようになってきた。

俺と月奈も帰る準備をしているところである。

 

「さてと……今日は何しようかな~」

「明日、小テストって先生言ってたから勉強しないとダメだよ?」

「うぇ~」

 

そんな明日へと向かう勇気を無くす会話をしながら校門へと差し掛かったその時――

校門の外にいた人物と目が合った。いや、合っただけでなく一瞬見惚れてしまった。

そこに立っていたのはとても美しい少女。長い艶やかな黒い髪を風に靡かせていた。

 

「あれ? 何やってんのあの娘?」

「さあ?」

 

月奈もその娘に気付いたようだ。

俺たちの視線に気付き、こちらに向かって来る。

 

「あら? あなた達……新入生ね。今の時間は車が多いから気を付けなさい」

 

整った顔立ち、長くて綺麗な脚。そして声までもが美しく感じられた。

この学園の制服を着てる所を見ると、俺達と同じ新入生だろうか?

 

「あ、はい。ありがとうございます。あの……リボンの色が青ですから先輩ですよね?」

 

この学校、女子の制服はリボンの色で学年の違いを表す。一年は赤、二年は青、三年は緑だ。

 

月奈がお礼を言いつつ、確認を取るように尋ねた。

「ええ、私は二年生の武宮(たけみや) 結季(ゆき)よ。よろしくね」

 

「はい! わたしは神咲 月奈と言います。こっちの眠そうなのが久能 衛侍。よろしくお願いします!」

 

おい、誰が眠そうだ。事実だけど。

 

「ふふっ、元気な子ね。いいわよ、可愛い後輩が出来て嬉しいわ。そろそろ帰りなさい」

 

上品な微笑を浮かべながら先輩は俺達を見送っていた。

 

「しっかし……、すっげえ美人だった。あんな美少女って実在してたんだな」

 

俺が先輩について忌憚のない感想を述べていると、隣りに居る月奈が何故か不機嫌になっていた。

 

「……」

「どうした?」

「別にぃ~、何でもありませんよぉ~だ!」

「なんだその口調!? お前はどこぞのお姫様か! どう考えてもおかしいだろそれ!」

「ふんだ!」

 

そっぽを向いてしまった月奈を宥めながら、帰路へとついた。

 

翌日、授業も終わり、まっすぐ家に帰るか、それともどっかで遊んでいくか、そんな相談をしている最中、校庭が騒がしい事に気がついた。

 

「なあ、なんか喧嘩してるような声がしない?」

「うん?……ああ確かに聞こえるわね。しかも結構激しくない?」

「行ってみようぜ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ~」

 

俺達は慌てて校庭へと向かった。

そこで目にしたのは、おそらく一年生の男子三人と……昨日知り合った武宮先輩だった。

しかも男三人は体格も良く、いかにもヤンキーです。といった風貌だ。

この学校、入学試験が無いため、あんなのでもすんなり入学できてしまうらしい。奴らは先輩へと詰め寄り、

 

「なあなあ先輩? 先輩って異世界行って帰って来たんだろ? 魔法とか見せてくんね?」

 

挑発するように言い放っていた。

 

先輩が異世界帰りの生徒!?

その事実にも驚いたが、ヤンキーと対面している先輩は、

 

「ごめんなさい。どういう訳か分からないけど、こっちだと魔法って使えないのよ。それが用事ならもう終わりでいいわよね?」

 

別に怖がるわけでなく、どこ吹く風といった感じだ。

 

「つれねえこと言わないでさぁ。俺ら暇なんスよ~。少しくらい付き合ってくださいよ」

「先輩あれですか? 敵に捕まって、くっ殺とか言ってたんすよね? ぎゃはは!」

「どんな気持ちで帰ってきてたか教えてくださいよ、せーんぱい♪」

 

武宮先輩に対して完全に舐めた態度を取っている三人だった。だというのに、

 

「私もこれから用事があるの。そんな下らない話なら私抜きでしてね?」

まるで相手にしていなかった。

「ちっ! 調子に乗ってんじゃねえぞ女ァ!」

 

一人の男が殴りかかるが、

 

「えっ……?」

 

ガンッ!!

 

彼は空中で一回転して地面に叩きつけられていた。

 

「な、何が起こったの……?」

 

月奈には何が起きたのか分からなかったようだ。

 

「俺にも分からない。なんか、くるっと回ったのは見てたけど……」

 

投げられた生徒はまだ動けるらしく、顔を真っ赤にしながら蹴りを入れようと――

 

「この……くそアマがあああああ!!」

 

したが、それもまた宙を舞った。

 

「な、何なんだよ……あいつ……。めちゃ強いじゃねーか」

 

他の二人も驚いていた。

 

「さて……まだやる? 言っとくけど、私に喧嘩売ると痛い目見るわよ? あなた達が小馬鹿にしていた異世界で、ずっと戦ってきたんだもの。魔法なんて無くても、このくらいできるわよ?」

 

先輩は、特に凄んでいるというわけではなく、淡々と事実だけを述べていた。だというのに、

 

「何だよ!? 女なんて捕まってあんな事とかされたんじゃねーのかよ!?」

「はあ、まだそんな事を言う元気があるのね。ならそのプライド叩き折っておきましょうか」

 

ヤンキー達は自分が完全に敵わない相手だと認めたくないらしい。三人がかりで取り押さえようと試みるが、

 

「はっ!」

 

一瞬にして吹っ飛ばされた。

うわ、マジ強ぇ~

武宮先輩はあっと言う間にヤンキー達を叩き伏せてしまった。

 

「ぜってえ認めねえぞ! こんなのに敗けるはずねええ!!」

 

もう動けないにも関わらず、自分の負けを認めようとしない男達に先輩がゆっくり近づき、

 

「あなた達みたいな人が、私が行った異世界(グラスラグナ)に行ったら、どうなるか教えてあげましょうか?」

「どうなるってんだ! ああっ!!」

 

口だけでも負けていないと訴える男達。しかし先輩は彼らの心を容赦なく折る気でいるのは、遠目で見ていた俺でも理解できる。

 

「まず街の外壁に出た辺りで、肉食の魔物に狙われる。そこで、そいつを倒せなければ、あなた達はその魔物のうん……排泄物になっちゃうわね。もう生きたまま腹を裂かれて、これ以上ない悲鳴を上げても誰も助けてくれないわ」

 

先輩? 丁寧に説明しているようでいて汚い言葉を発しそうになってませんか?

 

ヤンキー達は顔を引きつらせながら、先輩の話を聞いている。

 

「よしんば魔物から逃げても、今度は盗賊に襲われる。彼らも腕っぷしは相当なものだから、素直にお金を渡したところで解放されるとは限らない。むしろ、そのまま奴隷商へと売られるか、一生使い潰されて終わりね。もちろん、抵抗しても無駄だわ。日本みたいな人権なんてないもの」

「あ、ああ……あ……」

 

座り込んでいる彼らの顔がみるみる青くなっている。先輩は止めの一言を放った。

 

「さっき、敵に捕まって、くっ殺……とかって言ってたけど、あの世界のゴブリンとかオークってね? 人間の男女の区別がつかないのよ。だから捕まったりしたら、あなた達の×××にオークやゴブリンの△△△が◇◇◇して、死ぬまでおもちゃにされるわ」

 

……健全な高校生が聞いてはいけない単語がいくつか聞こえた気がする。

 

「先輩……、えっと……あんな人だっけ?」

「きっと……異世界で苦労したんだ……」

 

俺と月奈は昨日の第一印象から斜め上遥か宇宙の果ての姿となった先輩の言動にドン引きしてしまっていた。

 

「それとも……、あなた達……、捕まってから、くっ殺って言う練習でもしてみる。私が知る限りの方法で再現してあげるから。ああ、服は全部ひん剥くけど心配しないで。オークとかの△△△を見慣れてしまっちゃって、あなた達くらいの見てもなんとも思わないわ。オークの△△△の代わりで×××に太っとい棒を突っ込んでみましょうか! それでくっ殺って頑張って言ってみよう! ……言えるものなら」

 

先輩は今まで見たことが無いような笑顔で言い放った。しかし眼は笑っていない。

ヤンキー達は、心が完全に折れているようだ。

 

「おい! お前達、何をしている!!」

 

騒ぎを聞きつけた先生らしき男が走ってきた。

そして、地面で倒れ伏す三人の生徒を見て、状況を察したのか、

 

「君たちはこっちへ来なさい」

「「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」」」

 

ひたすらナニカに謝ってる三人を職員室へと連れて行った。

 

そして、騒ぎが収まり先輩が校舎へ入ろうとしていた時、俺達と目が合った。

 

「そ……その……見てた?」

 

さっきまでとはまるで違う雰囲気だった。何というか、昨日の先輩に戻っていた。

 

「え、あ、はい」

 

俺は正直に答えてしまった。嘘をついて誤魔化すべきだったが、咄嵯の事で頭が回らなかった。

 

「もう、恥ずかしい! 忘れてね?」

「無理です」

「うん。わたしも無理!」

「即答!?」

 

俺達の返答に先輩はショックを受けている。少し可哀想だが、あれを忘れろというのは至難の業だろう。

 

「でも一つ上の先輩があんなに強いんだから、頼もしいよね!」

「そうだな。俺達といっこしか違わないのに、すげえな」

「そ……そんなことないわ……よ? ね?」

 

先輩、何故かバツが悪そうだ。

 

どうしたんだろうか?

 

「ああー! 結季ちゃん大丈夫だった!?」

「心配しないで。あんなの屁でも……こほん、軽く捻ってやったから」

 

先輩って気を抜くと言葉が荒くなってしまうのだろうか?

 

先輩の友人らしき女子が息を切らせながら、俺達の所に来ていた。

よく見ると制服のリボンが緑色なので三年生らしい。

 

「武宮先輩、三年生と知り合いなんですか? ……ああ、部活のメンバーか」

「えっ!? 違うよ。わたしは結季ちゃんと同い年なんだから」

 

その三年生の言葉に先輩は俺らの方を見て赤面していた。

 

「あの……もしかして……先輩って留年――」

月奈が禁句っぽい言葉を発してしまったのが悪かった。

 

「そうよ! 二年に上がってすぐ一年間も異世界にいたんだもの! 勉強なんて分かるわけないわ! 私をいきなり召喚したあの人達のせいよ! 絶対に留年したのは私のせいじゃないんだからあああああ!!!」

 

もう涙目になりながら、先輩は俺達に対して釈明会見を行っていた。

というか、汚い言葉を聞かれるより、留年生だというのがバレる方が遥かに恥ずかしいらしい。

女心というのはよく分からない。

俺と月奈は先輩に対し、『留年』の二文字を言ってはいけないと心に誓ったのだった。




武宮 (たけみや)結季(ゆき)
異世界帰りの高校二年生(二回目)
日本とはかけ離れた倫理観の異世界にいたせいで、言葉が汚くなってしまった。
現地では魔法も使っていたが、日本では使えない。ただし戦闘経験は残っているので、そこらの不良では相手にならないほどの強さを持っています。
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