異世界科っ! ~異世界を教える学校~   作:柴田柴犬

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元賢者の魔法指導?

 異世界帰りの先生が顧問を務める部活、その名も『魔法研究部』。活動内容は、先生がいた異世界の魔法を扱う方法を実践すること。

 俺は昨日、色々と……先生の身体能力やら幼馴染の勧めやらで、この部の部員となってしまった。そして、今日の放課後は初の部活動となるわけだが――

 

「……先生……、これ……何ですか……?」

「驚いたでしょう? 僕が魔力を感じた時の感覚は、これが一番近いんです。まあ、物は試しという事で」

 

 俺の戸惑う声を全く意に介さない先生だった。むしろその表情はニコニコとして、とても楽しそうだ。

 

「……先生、やっぱりやるんですね、これ?」

「わたしもやらなきゃ駄目?」

 

 月奈と武宮先輩は、あまり乗り気ではなさそうに見える。

 

「これは魔法使いにとって、魔力を感じるという基礎中の基礎ですから、是非とも皆さんには覚えて欲しいですね!」

「いやぁ、でも……」

「なんでこんなことしないといけないのかしら? というか……私のいた世界の魔力運用と違う気がするので、あまりやりたくないです」

「お二人の疑問は尤もです! しかし、この世界に無い物を感じるには、こういった工夫が必要になるのです」

 

 俺も正直、この訓練方法はよく分からないのだが、先生曰く、このやり方が一番感覚が似通っているらしい。

 ……異世界で賢者だった先生の言う事だし、きっと間違いないんだろうけど……。だからって……。

 

「なんで全身に毛布巻かなきゃならないんですか!?」

「良い質問です。僕が初めて魔力を感じた時は、全身が温かい空気で包まれている様な感覚でした。つまり、今の久能君の状態が一番近いという訳です」

 

 俺は今、全身を覆えるように加工した毛布に身を包んだ状態だ。確かに温かい。だが、この格好でいる事は恥ずかしくて仕方がない。

そして、この場にいる女子二人はまだこの姿になっていない。できれば同じ姿になってくれれば、この恥ずかしさが少しは和らぐ。

 

「衛侍? どう? 何かが分かるようになった?」

「なるわけないだろ……」

 

 これで魔法が使えるようになるならまだ良いのだが、先生ははっきりと地球では使えないと言ってしまっている。

 

「……もう止めていいですか?」

「まあまあ、もう少しやってみましょう。はい、ではこの姿でしばらくいて下さい」

「えー……」

 

 もうこれは終わりにしたいので、武宮先輩の方を向き、

 

「先輩の世界の魔力ってどんな感じですか? この方法より分かりやすいとか……」

 

一縷の望みを託し、質問を投げかけた。すると先輩は少し考え込み、

 

「うーん……。私のいた世界だと……魔力は体の周りに留めるんじゃなくて、体の中に巡らせる感じね」

「はじめはどんな感じだったんですか?」

 

 月奈は先輩の話に興味があるらしく、先輩の方を向いて話を聞いている。

 

「そうね……。体の中に高圧電流が流れるとあんな風に感じるのかもしれないわ。それから徐々に慣れて行って平気になったけど……」

「こ、高圧電流!?」

 

 さらっとヤバいワードが出て来た。

 

「久能君? 高圧電流を自分に流してみたい? どうしてもと言うなら止めないけど……」

「絶対にやりません!!」

 

 そんな事をしたら死ぬ自信がある。というか先生の方法が絶対的に安全だ。

 

「同じ魔力なのに、使い方がその世界によって異なるんですね」

「まあそれも色々な説がありますけどね」

 

 俺達の話を聞いていた先生が口を開いた。

 

「例えば、魔力の運用については、その世界に適したものが選ばれていった。僕のいたイグレシアでは魔力は纏うように、武宮さんのいたグラスラグナでは魔力を取り込んで運用。そこはその世界の生態……、対魔物の戦闘方法なども関係していそうですね」

 

 そこまで話すと一度言葉を区切る。

 

「そしてもう一つの説は、僕の知る魔力と武宮さんの知る魔力は双方『魔力』と呼んでいても、全く違うエネルギーの可能性ですね」

「……どういう事ですか?」

 

 月奈が質問する。

 

「つまり、武宮さんがいた世界で僕が使っていた『魔力』と呼ばれているものは、武宮さんの世界では存在しない物。逆もまた然りという事ですね。なので、運用法も全く違う……となります」

 

 なるほど、そういう解釈もあるのか。

 それを聞いた月奈がふむと顎に手を当て考える仕草を見せる。

 

「うーん……。地球にはどちらの魔力もないから、二人共魔法を使えない……ですよね?」

「とはいえ、地球にもまだ見つかっていない未知のエネルギーがあるかもしれませんけどね。もしかしたら、それが地球の『魔力』かもしれません」

 

 先生は笑いながら答える。

 

「……。わたし、ちょっと気になる事があるんですけど」

 

 月奈が先生に真剣な顔で問いかけた。

 

「何でしょう?」

「もし、異世界から地球に、魔力が移動していたら、どうなりますか?」

「……」

 

 先生は無言になり、目を細めてじっと考え込んでいる。

 

「魔法を使える可能性はありますね。実際、僕や武宮さんは地球から異世界に召喚させられました。つまり地球でも異世界の魔力を働かせる方法は存在する……という事ですね」

 

 先生の言葉を聞き、月奈は目を見開き驚く。

 

「……先生、まだこの毛布着てなきゃダメですか~……」

 

 俺は絶賛毛布でおくるみ中。いい加減この格好から解放して欲しい。

 

「わたしの会話に割り込まないでよー!」

 

 月奈に怒られた。理不尽である。

 

「ははは。まあ今日はこの辺にしておきましょうか。これは」

「これは……って、まだ何かやるんですか!?」

 

 まだ何かあるらしい。勘弁してくれ……。

 

「そんな顔しないでください。毛布で包んだりはしませんから」

「それは良かったです」

「じゃあ、次はこれでいきましょう」

 

 そう言って、先生は音声を再生できる機器とイヤホンを取り出し、俺に渡してきた。

 

「えーっと、これは?」

「見ての通りの機器ですよ。ただし……これは実際に聞いてみてください。そして、ここに立ってください」

 

 そう言われ、イヤホンを装着してみる。すると。

 

『ΠΘΔωЫШξиЮ§¶ΞΨΔ――』

「はい。聞きましたね? では復唱してみましょう」

「いきなり宇宙語喋れって言うんですかああああああ!!?」

「あっ!? 違う言葉を喋ったりすると――」

 

 先生が注意を促している最中、俺の視界一面にボクシンググローブが写っていた。いや写っているだけならいい。どう考えても。

 

「ぎゃああああああああ!!!!!」

 

 何かから放たれたパンチによって顔面を殴られてしまう。

 

「ほら、こうやって罰を受けます」

「痛ってえええええ!?」

 

 絶対顔が赤くなってるはずだ。これは何だったんだ!?

 

「これはですね。間違った発音をすると、パンチが飛んでくる機械です。ちなみに同じ言葉でも95点以上でなければ同じ事になりますね」

「どうやって採点してるんですか!?」

「カラオケだって似たようなのがあるでしょう。あれの応用です」

 

 合格基準高くないですか!? 先生!?

 

「さあ……もう一度やってみましょう」

 

『ΠΘΔωЫШξиЮ§¶ΞΨΔ――』

「ふゔぇるみはぺるがで――」

 

 どうだ!? これで罰は受けないはず――

 

『ただいまの点数は36点です。ていうか全然ダメ~』

「えっ!?」

 

 パンチ射出マシンから機械的な音声が流れる。次の瞬間、俺の顔にまた衝撃が走った。

 

「ふぐぅ……!?」

 

 これは部活に入った目的の異世界言語を覚えるのも出来るだろうが……辛い!?

 

「せんせいー!? わたしもやるんですかあ……これ……」

 

 月奈は俺の様子を見て、涙目になってしまっていた。

 

「……刺激が強すぎましたかね?」

 

 先生が苦笑しながら月奈に尋ねる。確かに怪しい部活ではあるが、こんなことになるとは思っていなかったらしい。

 

「先生、私がやってみていいですか?」

「はい。どうぞ」

 

 武宮先輩が挙手しながら名乗りを上げる。そして俺の方を向き、

 

「お手本を見せてあげる。よく見ていて」

 

自信満々に言った。

 

『πριγανδηθεμφλωστοςκ――』

「πριγανチェθεμφλンフ――」

 

 一年の時に履修していただけあって、それなりに話せている。しかし、現実は甘くなかった。

 

『惜しい! 86点。次回は頑張ろうね~』

 

 確かに惜しい。だが、罰は免れない。先輩の顔面に向かってボクシンググローブがヤバいスピードで迫っている。しかし先輩はそれを意に介さず。

 

「はっ!!」

 

 顔面に飛んできたグローブを紙一重で躱し、しかもそのグローブに自分の拳を叩きつけていた。

 

「「おおー!」」

 

 俺と月奈は先輩に拍手を送る。ではなくて、これは。

 

「ふう……こんな感じよ。こうすれば、点数が足りなくても怪我をせずに済むでしょ?」

「……先輩。お手本……って?」

「返答で間違っても怪我をしないお手本よ!」

 

 ふんっ……っと先輩は胸を張ってドヤ顔で言い放った。

 

「できませんよ、そんなの」

「別にカウンターまでしろとは言わないわ。躱すだけで良いのよ?」

「だから無理ですって!」

 

 この見た目美少女の脳筋帰還者が!!

 俺は心の中で叫んだ。

 

「えっと……機材が壊れるので、こういった行為は遠慮して欲しいのですが?」

 

 先生が困った様子で言う。

 

「じゃあ、私はやりません」

「ええ!?」

 

 意外にもあっさりと武宮先輩が引き下がる。

 

「いや、なんでですか?」

「私には向いていないみたいだし」

 

 どことなく先輩は悲しげだ。これは確かにパンチを躱す練習ではないのだ。

 

「先生、かなりスパルタですよね……」

「いやあ……、ほら臨場感って必要でしょう?」

 

 月奈の感想に先生は少し照れながら言う。

 絶対趣味だろ……。

 

「まあ、とにかく今日はこの辺にしておきましょうか。ああ、あと家に帰ったらこれを聞いてください」

「分かりました。では帰ります……」

 

 俺はゲンナリしながら一旦部室から出ていくことにした。

 

「なあ月奈? あの部活大丈夫なのか?」

 

 放課後。下校している途中で俺は尋ねた。

 

「うーん……どうだろうね……」

「異世界からの帰還者って……、どこかしら……なんていうか」

 

 ちょっとおかしい部分があるのではないだろうか?

 俺達二人は心配になってしまった。

 

「でも、悪い人じゃないと思うよ。それに結構楽しいし」

「ならいいんだけどさ。俺は痛かったけど」

「あはは……」

 

 月奈は苦笑いする。

 

「でも、先輩もいるし、異世界言語の勉強が捗るかもしれないね」

「ああ、そうだな。二人だとどうしても限界があるもんな……」

 

 異世界言語を覚えられる部活。入って良かったのかどうかはまだ分からないが、退屈だけはしなさそうだ。

 

「あっ、もう着いちゃった。それじゃ、また明日ね。衛侍」

「おう。また明日。月奈」

 

 俺達はそれぞれの家路に着いた。部屋の中で帰り際に先生から渡された音声データを再生すると、

 

『♪♪♪♬~♪』

 

 部活で俺達が苦戦していた異世界の言葉での歌が流れていた。聞いた事のない女性の声。そして最後に。

 

『これは僕がいた異世界のオーソドックスな歌です。子守歌みたいなものですね。歌なら意味は分からなくても頭には残りやすいですから。歌詞と訳はおいおい教えるので、これで慣れてみてください』

 

 せ、先生……。最初からこれでやってください……。

 

『なお、このデータを最後まで再生すると自爆し――』

「ちょっとまてええええええ!!」

 

 思わず音楽を再生させていたスマホをぶん投げようとしてしまった。だが。

 

『たりはしませんので、ご安心を』……。

 

 あの先生……やっぱり性格悪いんじゃないか!?

 そんなことを思いつつ、俺はその日眠りについた。ちなみに隣の家の月奈の部屋からも悲鳴が聞こえていたので、同じ目に遭っていたらしい。

 明日の部活は先生を問い詰める事から始めなければと心に誓った俺であった。

 

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