千紗希アフター その1   作:とっぱん

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本編終了後の話です

24巻の結婚式で笑顔で写るまでに、千紗希にこういうことがあっったのかな? と
心の整理がてら書いています

不定期に何回かに分けて投稿します


2021/11/15
振られた後なので、コガラシ→冬空に呼び方を変更
千紗希→幽奈の呼び方は「幽奈さん」なので変更
柳沢芹と幽奈は面識があるのでそのように変更
山上高校→湯煙高校に修正
本編での千紗希の一人称は「あたし」だが、あえて「私」に、芹は「あたし」にしています
2021/11/17
最終話を見返すと芹も兵藤もあの場にいるため、修正予定



01

愛しの彼が、優しく私の手を取る。

その手に導かれるまま、私は彼にすべてを委ねた。

体温が一つになったような感覚。

溶け合う身体。

 

気だるい時間の中で、彼の腕が私を優しく抱きしめた。

楽器の音色のように心地よい響きでささやいてくる。

「愛してるよ、千紗希」

「私も」

 

ああ、この時間が永遠に続けばいいのに・・・

 

 

 

甘い甘いひとときに終幕を告げる鐘の中、私は目を覚ました。

ここは私の部屋。そこに居るのは私一人。当然だ。今のは夢なんだから。

鳴っているのはAIスピーカーのアラーム。

停止するよう呼びかけて、はあ、と大きくため息を付いてから、私はベッドを抜け出した。

今日も気が重い1日が始まる。

 

 

 

初春の朝の湯煙高校。クラスに入った柳沢芹は、先に教室に来ていた宮崎千紗希を見つけた。前を通りすがりがてら挨拶する。

「おはよう、千紗希」

「あっ、芹、おはよう」

千紗希に声をかけてから芹は自分の席についた。右後方の千紗希の席を見る。

「・・・・・・・」

千紗希は何をするでもなく虚空を見つめていた。

「・・・・・・・」

「千紗希」

「どうしたんだ、千紗希?」

芹が千紗希の前、まだ登校していない男子生徒の席に移動してきていた。椅子の背もたれに腕を乗せ、千紗希を見つめる。

「えっ、ああ、ううん。なんでもないの、大丈夫」

「大丈夫って・・・千紗希。このやりとり、昨日もしたぞ」

「えっ?」

「ちなみに一昨日もした。ずっと何か上の空で、こっちも気になっててさ。悩み事なら、もしよかったら話聞くぜ」

「ありがとう。ごめんね」

少し視線が泳いだあと、千紗希は芹を見た。

「そうだね、放課後、ファーストフード店に行こうよ。そこで話すから」

「そっか。わかった。じゃ、またあとでな」

「うん」

 

予鈴が鳴り、学校生活がはじまった。

 

 

 

放課後、2人は学校から一番近いファーストフード店に寄り道していた。

4人テーブル席に、バッグをお互いの脇の席に置き、テーブルには一番安いドリンクが2つ並んでいる。

「ふーん。夢に冬空コガラシが出てきてツラい? まあ失恋直後ならそういうこともあるんじゃないか」

「私の場合、ちょっと事情が違うっていうか・・・」

「どういうことだ? もうちょい話してみてくれ」

「あのね」

千紗希が事情を話す。

「ええと、ちょっと飲み込みづらいから、あたしの方で整理させてくれ。先週冬空コガラシに振られました。それは聞いたな。で、今なに? 冬空と付き合ってる夢を毎日見るようになったって?」

「うん。しかもすっごくリアルなやつ」

「その中でね、冬空くんしかできない素敵なデートをして、冬空くんと二人きりで素敵な時間を過ごして、最後にいつも、その、冬空くんしかできない形で愛し合って。それでね、終わった後に私のことをギュッと抱きしめて『愛してるよ』ってささやいてくれるの」

ほのかに顔を赤らめながら話す千紗希。

「千紗希、お前は振られたばっかりにそんなに妄想がたくましくなってしまうとは・・・」

「違うよ! 私の妄想ってだけじゃないの。多分、4年の夢を見たのが原因なんだと思う」

「なんだ、その4年の夢って」

千紗希は芹に説明した。冬空コガラシを復活させるために経験した、冬空コガラシと結ばれる4年間の夢について。決して叶うことのなかった、邯鄲の夢。

 

「こういうこと? 冬空は肉体を奪われて一度死んでしまったけど、千紗希たち6人の絆の力で復活したと。で、その時に4年間を夢の中で過ごす必要があったってことか」

「うん」

「正直よくわからん」

「あはは」

「でも、冬空が復活するために必要だったんだろう。それはわかった。今の症状はその副作用ってことだな」

「たぶんね」

「夢ねえ。強制的に毎日見るのはうっとうしいな」

 

「ちなみに、夢の中Hしてるって言ってたけど、どうなの、冬空って。アイツしかできないHってどんなのがちょっと気になる」

芹がちょっと意地悪な顔をして聞いてくる。

「えー、言わないとだめかな」

「まぁまぁ、どうせ夢の話なんだからぶっちゃけても大丈夫だろ」

「うーん。でも普通だよ。私の部屋で、とか、ホテルで、とか。あ、あと」

「えーとね、冬空くんの霊能力を使って、海底に大きな泡でできた部屋を作ってもらって、その中で、海の生き物に囲まれながら乙姫様気分で・・・とか」

「ぶはははははは! なんなんだその特殊なシチュエーションは。冬空って見た目タンパクそうな顔してる割には、やることマニアックで面白いなぁ。ちょっと見直したぜ。ん? どしたの千紗希。顔赤いけど」

「な、なんでもないよ」

(言えない。今のは夢の中で私が冬空くんにお願いして用意してもらってたなんて・・・冬空くんには申し訳ないけど黙っていよう)

「でも、そりゃ確かに冬空じゃないとできないな。さすが霊能力あると違うね」

「もー、Hの話はいいじゃない。そこじゃないの。夢の中では幸せだよ? でもね」

「あー、で、目が覚めると、振られた現実に戻ってくると」

「そう。毎日夢の中で幸せで、目が覚めるとその度に現実との落差に落ち込んで。心の振れ幅が大きすぎて、大変なの」

「その術をつかった人? 妖怪? は助けてくれたりしないのか」

「流禅さん? 確かに、相談してみようかな。でも、冬空くんが復活した日に夢の記憶を消したくないって流禅さんに言っちゃった」

「はあ? なんでそんなこと」

「だって、その時は結ばれることがなくたって、それが冬空くんとの大事な絆だって思ったんだもん。こんな副作用があるなんて思わなかったよ」

「副作用なくってもそんな夢を見るなんてあたしはごめんだけどね・・・ でもわかったよ」

「もう1回頼みに行こう。こんな副作用があるから、って言えば快くやってくれるんじゃねえかな。どこに行けば会えるんだ、その流禅って」

「幽奈さんなら知ってるはずだよ。ゆらぎ荘に行ってみよう」

「千紗希、幽奈に会うのは大丈夫か?」

「大丈夫って・・・幽奈さんは友達だよ。私が振られたからって、幽奈さんとの関係がおかしくなるなんてないよ」

「ふーん。まあ、それならいいけど。一応あたしもついていくよ」

「ありがとう」

 

 

 

 

「千紗希さん! お会いできて嬉しいです」

「幽奈さん。元気にしてた?」

ゆらぎ荘に到着した千紗希と芹。芹は誰もいない空間に話しかけている千紗希の傍らで興味深そうにやり取りを眺めていた。

「今見えないけど、幽奈がいるんだよな」

「そうだよ。ちょっと待って。こうすると見えるようになるかな」

千紗希は左手で幽奈の手を握り、右手で芹の手を握る。

「おおー、あたしにも幽奈が見える」

「こんにちは、芹さん」

「幽奈さん。細かい事は省くけど、流禅さんっていまどこにいるかな?」

「流禅さんですか? どこに居るかはわからないですが、言伝はできますよ」

「よかったら、今度私から相談があるって伝えてもらっていい?」

「はい、お安い御用です」

「よかった。幽奈さん。ありがとう」

 

それからしばらく雑談した後、千紗希たちは幽奈と別れた。

去り際、幽奈が千紗希の手を取った。ギュッと握りしめている。

「千紗希さん。私が現世に留まることを背中を押してくれて、本当にありがとうございました。誰より、千紗希さんにはげましてもらったのが一番勇気をもらえました。おかげでコガラシさんもよくしてくれて」

いいよ、気にしないでと笑う千紗希。

 

話を聞いた芹は顔をしかめていた。

なんだって?

はあ、千紗希のやつ、ライバルを応援するような真似してたのかよ。

それで振られてりゃ世話ねえよ。

本当に人がいいっていうか、お人好しっていうか。

 

ゆらぎ荘からの帰り道、芹は千紗希の頭をちょっと強めになでた。

髪型が崩れ、何するの、と千紗希は不平そうだったが芹はこたえなかった。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。幽奈さんからお話は聞いています」

先に約束の場所に来ていた千紗希と芹の元に流禅が現れた。

 

山上市の近くに滞在していた流禅とアポイントメントが取れた。

早い時間が良いということで、登校前に学校そばで会うことになった。

「4年の夢を記憶を消すことですが、残念ながらできません。夢を見てから時間が経ってしまったことから定着が進んでいます。無理に記憶を消そうとすると、千紗希さんの自身にどんな影響があるかわかりません」

「えっ、なんでだよ。幽奈の時は記憶を消したりしていたって聞いてるぞ?」

「幽奈さんは天狐幻流斎様でもあり、強い霊力をお持ちです。だからこそ可能になることなんです」

「そうですか・・・」千紗希は落胆していた。

「なんだよ、それ。きっついな」

「千紗希、記憶を消すのが難しいなら、別の方法を考えよう」

「流禅さん、邪魔したな」

「いいえ、お力になれず、申し訳ありません」

「いいよ。じゃあな」

 

 

 

学校に着いた二人は、お昼休みに屋上で話していた。

傍らに昼食を広げている。

「どうしよう。このままだと受験勉強も集中できなくって困る」

「記憶が消せないってのは参ったな。まあ、普通に考えればそうなんだけど、記憶が消せるって聞いて期待しちゃったからな」

「そうだね」

「でも、それならやることは簡単だ。普通に失恋した時と同じように振る舞えばいいんじゃないか。やがて時間も解決してくれるだろ」

「いろいろ楽しいこと体験して、愚痴も言って、失恋した記憶を過去にしていけばいい。あたしも協力するよ」

「ありがとう」

「そういや夢咲先生にも相談してみるか? あの人夢魔なんだろ? 夢の専門家だよな」

「夢咲先生、これのもっと前に夢を見ないようにって相談したことがあったんだけど、すごく変な影響が出ちゃって・・・」

「術が安定しないみたいだし、どういう影響があるのかわからなくって。できれば本当に困った時だけにしたい」

「そっか。それならやめておこう」

「あと、紫音にも頼んでみよう。雨野姉妹も声かけてみるか」

 

 

 

「あれ、柳沢と千紗希ちゃんじゃない。おっす」

「兵動か」

兵藤が屋上に来た。昼をここで食べるつもりだったのだろう、いくつかパンを手にしている。

芹はちらと千紗希を見た。目が合ったが、千紗希は目を逸らす。

「わるいな、兵藤。ガールズトークの最中だから、ちょっと席を外して・・・・・・いや、待て」

芹は教室での兵藤の様子を思い出していた。学校では一人で行動しがちだった冬空コガラシと数少ない友人が兵藤だった。

根は優しいやつなんじゃないか? 

兵藤にも協力してもらったほうが千紗希には良い影響が出るかもしれない。

正直確信はなかった。

芹は千紗希に耳打ちして言った。

「なあ、兵藤さ、こいつ、なんだかんだ言って、他の箸にも棒にもかからない男子よりかは信頼できる。無理にとは言わないけど、少しだけ手を貸してもらうのはできないか?」

「芹がそこまで言うなら、私も絶対イヤとは言えないけど」

「すまねえ。何かやらかしたら、あたしがぶっとばしてやるから」

コク、と千紗希は頷いた。

「兵藤。相談」

芹は経緯を話した。

「えっ、コガラシのやつ、千紗希ちゃん振ったの!?」

兵藤は本気で驚いていた。

「声がでかい」

「しかも幽奈ちゃんと付き合ってるの!? 幽霊と付き合うってどういうこと!?」

「霊媒体質らしいし、みんなが見えない霊でも普通に冬空なら見えるし触れ合える。幽奈にとっては、たった一人の味方だよ。そういうことだろ」

「理解が追いつかん・・・ 結婚しても子供とかどうすんだろ・・・?」

「本題はそこじゃない。コガラシを助けるために千紗希が毎晩変な夢を見るようになっちまって、それを解消させてやりたい。ただし」

「失恋して落ち込んでる千紗希につけこんで、何かやらかしたら、どうなるかわかってるな」

「えと、あの、どうなるんでしょう・・・?」

「安全ピンで爪の間をぶっ刺して貫通させる。手と足の指すべてだ。20本てめえの血で真っ赤に染まった爪で記念写真をとってやるよ」

「ヒィッ、そんな昭和のヤンキーみたいな拷問やめて! 絶対に変なことしないよ!」

「芹、ちょっと物騒」

聞いていた千紗希も少し引いていた。

芹はこうして時々元ヤンテイストが顔を出す。いや、今でもヤンキーなのかもしれないけど。

 

「あとこの活動に名前をつけよう」

「名前なんて別にいいんじゃないか?」

「いやいや、大事なんだってこういうの」

芹が妙にやる気を出している。

「千紗希が失恋から立ち直って、夢からも解放されて前向きに生きられるようにってのが目的だから・・・Chisaki Get OverでCGOとかどうだ? Get Overは乗り越えるって意味なんだ」

「それでもいいけど・・・それなら、千紗希アフターとかはどう?」

「それってどういう意味なんだ?」兵藤が聞く。

「意味は・・・ごめん、ないかも。語呂が良かったからかな」

「千紗希がそれでいいんならそうしよう。千紗希アフターってことで」

 

「じゃあ私が最初な。手始めに、2人でツーリングに行こうぜ」

 

 

 

(CA活動日誌1へ つづく)

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