「くそがっ!!」
シグルドの敗北に須郷はキレ、持っていたワイングラスをスクリーンに投げつける。
ワイングラスはスクリーンを通り抜け、そのままどこかに飛んでいき割れる。
「使えない奴だな!この僕が折角、お膳立てしてやったって言うのに!」
キレ散らかす須郷に、キリトは思わず鼻で笑った。
「キリト君、今笑ったかい?今、自分がどんな状況に居るか分かってるのかな!」
須郷は、キリトの顔を殴る。
「キリト君!」「パパ!」
殴られたキリトを見て、アスナとユイが声を上げる。
「ねぇ、キリト君。一体何が面白かったんだい?僕にはちょっと分からないなぁ」
須郷はキリトの顎を掴んで、顔を無理矢理自分に向かせて尋ねる。
「お前が………ゲームの事を何も分かってないのが面白いんだよ………いくら強いステータスだろうが、良い武器だろうと、結局それを扱うのは人間、プレイヤーだ。使い熟せなければ意味がない………」
「ふ~ん、なるほどねぇ………でも、いくら使い熟せるからと言っても手も足も出ない状態じゃ使う以前の問題だよね」
須郷は勝ち誇る様に言い、キリトを放す。
「まぁ、いいさ。ハナからあんな奴に期待なんてしてない。アミュスフィアでの実験体は適当にその辺で捕まえればいいしね。さて、それじゃあこっちもお楽しみと行こうかな」
打って変わり、須郷は卑しい笑みを浮かべる。
「さて、神里君」
須郷はカイに近寄り、声を掛ける。
「アスナ君のあの謎のバグ、あれは君の仕業だろ?今すぐ取り除け」
カイに命令する須郷。
カイは、ゆっくりと顔を上げると、須郷を見る。
そして、鼻で笑った。
「お断りだ」
その瞬間、須郷はカイの顔を殴った。
「カイ!」「父上!」
ミトとノアが叫んだ。
「本当に立場が分かってないようだね。君は今、断れる立場じゃないんだよ。それに、これはお願いじゃなくて命令。素直に従い給え」
「………何度でも言ってやる。お断りだ」
「そうかい。なら、これはどうかな?」
そう言うと、須郷はカイの刀を抜き、そのまま刀でカイの腹部を突き刺す。
「うっ!」
異物が体を貫通する感覚が、ざらざらとした不快感となったカイを襲う。
「これだけじゃない。システムコマンド!ペインアブソーバ、レベル10から8に変更!」
須郷がそう唱えると、突如カイの身体を鋭い痛みが遅い、カイは口から苦痛の声を漏らす。
カイだけでなく、キリトも同様の反応をする。
「痛いかい?まだツマミ2つ分だよ?。段階的に強くしてやるから楽しみにしていたまえ。もっともレベル3以下にすると現実の肉体にも影響が出る様だが………」
須郷は、苦痛に歪むカイの顔を楽しそうに眺める。
「アスナ君の謎のバグを取り除けば、その苦痛から解放してあげるよ。さぁ、早くしろ」
命令を出し続ける須郷。
そんな須郷に、カイは苦痛を感じながらも笑った。
「……何がおかしい?」
「おかしいに決まってる。お前はこの世界の神なんだろ?それがなんだよ?ただのプレイヤー相手に、こんな厳重にまで拘束して、手が出せない様にする。神の席にいながら、お前は俺達を恐れてるんだ。神が聞いて呆れる。お前は神でもなければ、王でもない。ただの臆病者だ」
そこまで言うと、須郷はカイの身体の内側を抉る様に刀を動かす。
「くっ!……がはっ!」
「舐めるんじゃないよ。この僕が臆病者だって?違うね。これは神の余裕さ。なんで神たる僕が君たちと同じ土俵で戦わないといけないんだい?神には神の戦い方があるのさ。だから…………僕は臆病者なんかじゃない!」
「………はっ、既にその発言が臆病者のソレだろ」
「このガキッ……!」
須郷は額に怒筋を浮かべる。
「よし、分かったよ。それならこっちにも考えはあるぞ」
そう言って、須郷はミトを見る。
「この女が大事なんだろ?なら、お前の目の前で楽しませてもらうよ」
須郷がそう言うと、カイはあからさまに反応した。
「自分の目の前で、大事な彼女が屈辱と快楽に沈む様を眺めるがいいさ。この世界でミト君の心を折ったら、次は現実の方でもだ。アミュスフィアのログアウト機能にロックを施して、IPアドレスから住所を割り出してやる。心も体も、全部この僕が汚し尽くしてやるよ」
そう言って、須郷はミトを拘束したまま地面へと下ろす。
「止めなさい!」
「ミトに触れるな!」
「ミトさん!」
「母上!」
キリトたちが必死に叫ぶ。
「須郷!ミトに指一本でも触れてみろ!お前を絶対に許さないぞ!」
カイは、怒りをむき出しにして須郷に叫ぶ。
「はっ!何もできないのによく吠えるね。ま、そこで眺めてなよ。大事な彼女が、家族の仇に犯されるのを」
「須郷!!」
カイは鎖をガチャガチャと音を立てて、叫ぶ。
そんなことを意にも介さず須郷は、ミトを見る。
「悔しいかい?恨むなら、頑固な君の彼氏を恨むんだね。彼が僕の言う事さえ聞いてれば、こんな目に合わなかったんだから」
「…………カイの所為じゃない」
ミトは体の自由を奪われながらも、強気に須郷を睨む。
「カイは今までだって何一つ悪い事はしてない。恨むなら、アンタだけよ」
そう言い、ミトはカイを見る。
「カイ、私は大丈夫だからさ。こんな奴に負けたりしないよ」
「ミト………」
「………でも、出来れば見ないで欲しいかな」
そう言って、ミトは悲しそうに笑った。
「いいね、その態度。泣き叫ぶ所を想像したら、興奮するね」
須郷は、ミトの頬に触れ、ねっとりとした手つきで触り、そのまま首に触れ、鎖骨に触れる。
もう片方の手でミトの足に触れ、太ももを擦る様に撫でる。
そして、須郷の手がとうとう胸を触ろうとする。
ミトは目をキツく閉じ、唇を噛み締める。
「おい」
その時、須郷の背後に誰かが立ち、声を掛けた。
「え?」
須郷は思わず後ろを振り返った。
振り返った瞬間、裏拳が飛び、須郷の顔に当たり、須郷を吹き飛ばす。
「コイツに触れるな。コイツに触れていいのは、カイだけだ」
手の甲を擦りながら、トバルがそう言った。
「「トバル!?」」、
トバルの登場に、キリトとアスナが声を上げた。
「お前ら、動くなよ」
トバルは、腰の刀に手を掛け、居合を放ち、全員の鎖を断ち切る。
解放された瞬間、カイはミトの元へと駆け寄った。
「ミト!」
「カイ!」
駆け寄ると、2人はすぐさま抱き合った。
「な、何者だ!?」
トバルの登場に、須郷が叫ぶ。
「その鎖は、僕以外には解除も削除も出来ないはず………!いや、そもそも一体どうやってこの空間に……!ここは誰にも入れないはずだ!神たる僕の許可がない限り!」
「いや、いるさ。もう1人の神……いや、この世界の本当の神がな」
須郷の言葉を否定し、トバルが言う。
「トバル、お前が来たってことは………準備は整ったんだな」
「ああ、勿論だ」
すると、再び声が響いた。
カイでも、キリトでも、ノアでも、トバルでも、須郷でもない男の声。
奥の暗闇から、一歩一歩歩み寄ってくる音が聞こえる。
「この体の再構築と、仕込みに膨大な時間を要してしまったが準備は済んだ」
暗闇から、その声の主が現れる。
鉄灰色の髪を纏め、長身に痩せ気味の身体
「それにしても、随分と私の世界で好き勝手してくれたみたいだね」
その身体に真紅の鎧を纏い、白いマントが翻る。
「これには、私は少し怒りを沸いてるよ、須郷君」
「なんだ、お前は………!誰なんだ!?」
須郷は、その男に向かって叫ぶ。
その者は、手にした白銀の十字剣が収められている白銀の十字盾を地面に突き立てるように置き、完全に姿を現した。
「私の名は、《ヒースクリフ》。アインクラッド最高ギルド《血盟騎士団》団長にして、ソードアート・オンラインのラスボスさ。約束を果たすために、この一時ではあるが黄泉より蘇ってきた」
そう言って、聖騎士は自らの復活を宣言した。