ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第30話 再会

汚い須郷の絶叫が尾を引き、虚空へと消える。

 

それを見届けて、カイは《焔群》を、まるで刀に付いた血を払う様に横に振り、鞘へと納める。

 

そこで息を吐き、振り向く。

 

そこにはミト達が立っていた。

 

「もう、終わったぞ」

 

カイは振り返って、優しい声でそう言った。

 

そんなカイを見て、ミトは本当に終わったのだと実感した。

 

そして、実感するよりも早くカイへと抱き付いていた。

 

カイは驚きの表情をするも、すぐに優しい笑みを浮かべ、ミトを抱きしめ返す。

 

「カイ……ミト……良かったな………」

 

「キリト君、もしかして泣いてる?」

 

「別にいいだろ……そう言うアスナだって、泣いてるじゃないか」

 

「ふふ、あんなの見たらしょうがないでしょ」

 

その光景に、キリトとアスナは感極まって涙を流して笑みを浮かべる。

 

「ノアはいいんですか?」

 

「そうだな……本音を言えば、俺も父上に抱き付きたいが、今回は母上に譲ることにしよう」

 

「なら、私が抱きしめてあげましょうか?」

 

「キリトさんの視線がヤバいから遠慮するさ」

 

ノアとユイも、安堵の表情を浮かべ、笑い合い、カイとミトを見つめる。

 

「ここまで随分と長い道のりだったな」

 

トバルは《スカルリーパー》との戦闘を終え、刀を肩で担いでいる。

 

「ま、贖罪も果たせたし、一件落着か」

 

そう言いながら、トバルはカイの持つ刀、《焔群》を見つめる。

 

「今度はカイを守ってくれたな」

 

トバルは満足そうに笑う。

 

「感動的な場面に水を差すようで悪いが、そろそろ当初の目的を果たすべきではないかね?」

 

そんな中、ヒースクリフがそう言い、全員が本来の目的を思い出す。

 

ヒースクリフは呆れたように溜息を吐き、管理者用メニューウィンドウを操作する。

 

一瞬で、カイ達は実験体格納室へと戻った。

 

戻るとすぐさま、ヒースクリフはコンソールを操作する。

 

「ふむ、なるほど。須郷君は、余程この実験が大切だったみたいだ。丁寧に何重にも保険を掛け、正規の方法以外でのログアウトが行われた時、ナーヴギアの出力を上げ、脳を破壊するように設定されている」

 

「万が一に備えての証拠隠滅手段か…………」

 

「だが、それも問題はない。すぐにでも終わらせれるよ。ノア君、ユイ君、君たちの力も貸してはくれないだろうか?」

 

「「はい、わかりました!」」

 

ヒースクリフに頼まれ、ノアとユイも作業を開始する。

 

「時間が少々掛かる。カイ君、今のうちにキリト君たちに説明をしておくべきではないかね?」

 

「ああ、そうだな」

 

ヒースクリフに言われ、カイはミト、キリト、アスナを見る。

 

「3人とも色々聞きたいことがあるだろうから、全部話すよ」

 

カイがまず話したのは、自分が生きてる理由だった。

 

「俺が生きてるのは、ヒースクリフ、もとい茅場のお陰だ」

 

「どういうことだ?」

 

「SAOのラスボスを倒した報酬だとさ。あの時点で、俺のHPは底を尽いていたが、茅場曰く自身のHPが底を尽いた時、俺はまだ生きていた。だから、正当な報酬としてゲームからログアウトさせたんだとさ」

 

「じゃあ、どうして生きてることをずっと黙ってたの?」

 

「茅場に頼まれたんだよ」

 

あの時、カイは光に包まれると同時に自身の意識も消滅し、死を迎えると思っていた。

 

だが、光に包まれた後、カイは暗闇の中に居た。

 

そして、目の前には少し困った表情をした茅場も居た。

 

カイは、「別れの挨拶しといて、すぐに再会とか締まらないぞ」っと言うと、茅場は信じられない事を言った。

 

それが、プレイヤーのログアウトの直前、予想外の横やりが入り、およそ300人のプレイヤーのログアウトに失敗し、解放されなかったと言う事と、その中にアスナが居ることだった。

 

茅場はそのハッキング元を調べると須郷へと辿り着いた。

 

茅場はGMとして何としても生き残ったプレイヤー全員を現実に返さないと行けなかった。

 

だが、とある事情でソレを行うことが出来なかった。

 

そこでカイにあることを依頼した。

 

それが、自身の代わりに300人を救ってもらう事だった。

 

無論カイはそれをすぐさま了承、茅場と綿密な話し合いを行い、その上で須郷に作戦を悟られない様に、恐らく接触することになるであろうミトとキリトにはカイが生きてることを明かさず作戦をを進めていた。

 

「これが、俺が生きてることを知らせなかった理由だ。本当なら、直ぐにでも教えたかったけど俺の身勝手で作戦を台無しにする訳にはいかなかった。本当にすまない」

 

事情を説明し、カイは頭を下げる。

 

「そんな、謝らないでくれ」

 

「そうよ。確かに、作戦を知られたら須郷だって何かしらの対策をしたはずだし、少しでも危険を減らすためには仕方ない事よ」

 

キリトとミトは、頭を下げて謝って来るカイをフォローする。

 

そんな中、アスナはあることを思い出す。

 

「ねぇ、トバル君」

 

「ん?なんだ?」

 

「そう言えば、カイ君が生きてたのにトバル君、あまり驚いてなかったけど………」

 

「当たり前だろ?カイが生きてるのは知ってたし」

 

「「「………は?」」」

 

トバルの言葉に、ミト達は思わず聞き返した。

 

「どういう事だよ!?」

 

「何で知ってるのよ!?」

 

ミトとキリトが声を上げる。

 

「作戦の為には、仲間集めから武器開発と手が必要だったんだ。そこで、トバルには攻略組全員分の武器と防具を、ディアベルにはその他の仲間集めを頼んだんだ」

 

「ちょ、ちょっと待って!トバル君、カイ君が死んで後悔してるって!」

 

「あ?何言ってんだ?俺が後悔してるのは、ヒースクリフの野郎の攻撃で折れる様な鈍らを打っちまったことだ」

 

「で、でも、カイ君の事死んだって言ってたよね?」

 

「結果的に生きてはいるが、カイ自身HPが無くなったのは事実だ。そん時のカイの気持ちを考えたら、カイにとっては1回死んだようなものだろ?」

 

「ちなみに、他だとエギルも知ってるな。キリトとミトをALOに行くように話を進めてもらったし」

 

トバルにディアベル、そして、エギルまでもカイの生存を知っていたことに、キリトとミトはショックを受ける。

 

確かに、情報漏洩の為には少しでも漏洩防止を施さなくてはならない。

 

実際、ミトとキリトは須郷に接触された。

 

2人が作戦の事を漏らす可能性は低いが0ではない。

 

だからこそ、生存を明かせられない事は仕方がない。

 

だが、それでも蚊帳の外の様な気分で悔しい気持ちになっていた。

 

そんな2人をアスナは慰めつつ、カイにあることを聞く。

 

「じゃあさ、カイ君。須郷が私に触れられなかったのは《業火刀》のお陰ってあったけど、あれはどういうこと?」

 

「ああ。《業火刀》の能力に、業火状態の付与ってのがあるんだ。最初は継続ダメージを与える炎傷状態だと思ったけど、業火状態を付与されたモンスターはカルマ値に応じた継続ダメージを与え、味方に付与すれば接触したモンスターのカルマ値に応じたダメージを与える。敵には状態異常で、味方にはバフになるんだよ。それと、武器にも付与出来て、継続時間中なら対(カルマ)特攻が付与できるんだ」

 

茅場は、須郷の行ったハッキングで監禁されたプレイヤーの中にアスナが居ることに気づいた時、須郷が結城彰三と懇意にしている事を知っており、アスナを監禁したのには何か理由があると思い、SAOのデータが完全に削除される前に《業火刀》のデータを引っ張り出し、本来は時間制限のある業火状態付与を半永久的にアスナへと付与し、更に、ペインアブソーバ機能を貫通するプログラムを組み込み、須郷がアスナに触れられないようにした。

 

その機能は、カイがトバルをアスナの護衛として付けた時に、トバルの武器にも付与した。

 

「ま、こんな所だな。茅場、そっちはどうだ?」

 

説明を終え、カイは茅場に進捗を尋ねる。

 

「ああ、問題ない。もう終わった。今、最後の処理を待ってる所だ。後、数分でアスナ君含めた300名のプレイヤーたちは解放される」

 

ヒースクリフの言葉に、全員が喜びの表情をする。

 

「アスナ、現実世界はもう夜だけど、すぐに君に会いに行く」

 

「うん、待ってる。私も最初に会うのはキリト君がいいもの…………とうとう、終わるんだね。帰れるんだね………あの世界に」

 

「そうだ……色々変わっててビックリするぞ」

 

「いっぱい、色んな所に行って、色んな事、しようね」

 

「ああ。きっと」

 

キリトとアスナは互いに抱きしめ合う。

 

「データ処理完了。ログアウトを開始する」

 

ヒースクリフの言葉通り、アスナがログアウトされた。

 

そして、周りの柱の中にある脳のホログラムも次々と消えて行く。

 

「じゃ、俺も帰るとするか」

 

トバルはそう言い、メニューウィンドウを操作する。

 

「トバル、お前には世話になった。ありがとうな」

 

「気にすんなよ。俺は、自分のミスに始末を付けに来ただけだ。またな、カイ」

 

「ああ」

 

そして、トバルもログアウトする。

 

それと同時に、プレイヤーモードになっていたノアとユイがピクシーモードへと戻る。

 

「パパ、ごめんなさい。どうやら限界みたいです」

 

「強制スリープモード……どうやらかなりサーバーに負荷が掛かったみたいです、父上、母上。すみませんが、俺とユイは眠りにつきます」

 

「ああ、わかった。ユイ、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」

 

「ノアもお疲れ。また来るから、その時は沢山話そうな」

 

「はい、父上、おやすみなさい」

 

ノアがそう言うのを最後にし、ノアとユイは眠りにつく。

 

そんな2人をカイとキリトは抱え、ポケットへと入れる。

 

「カイ、ミト。俺ももう落ちるよ。早くアスナに会いたいしな」

 

「ああ、行ってこい」

 

「アスナに宜しくね」

 

「分かった。カイ、次は向こうで会おうな」

 

「おう……またな、相棒」

 

キリトと拳をぶつけ合い、キリトもログアウトする。

 

「さて、私も行くとしよう」

 

今度はヒースクリフがそう言う。

 

だが、聖騎士《ヒースクリフ》の姿ではなく、研究者にして開発者の茅場明彦としての姿だった。

 

「ああ、茅場。アンタにもずいぶんと世話になったな、ありがとう」

 

「礼は不要だ。そもそも、今回の1件は私が君に頼んだ事でもある。むしろ、礼を言うのは私の方さ」

 

「それこそ要らない。仮に、アンタに頼まれなかったとしても、勝手にやったさ」

 

「そうか。では、最後ついでに、もう1つ頼みごとを良いかな?」

 

そう言うと、頭上から光る結晶の様なものが落ちて来て、カイの手に収まる。

 

「こいつは?」

 

「世界の種子、《ザ・シード》だ。芽吹けば、どういうものか解かる。その後の判断は君に託そう。それと」

 

そこで言葉を区切り、茅場は笑う。

 

「カイ君、君のアイテムストレージにある物がある」

 

「ある物?」

 

「言っただろ?ゲームクリアと、誕生日おめでとうとね」

 

アインクラッドで、茅場が最後にカイに言ったセリフを聞き、カイは思い出す。

 

「君の生存はゲームクリアの報酬だ。だが、誕生日プレゼントがまだだっただろ?見たまえ」

 

茅場に言われ、カイはアイテムストレージを確認する。

 

そこに入ってたものを見て、カイは驚愕し、茅場を見る。

 

茅場はただただ笑っていた。

 

「では、私は行くよ。いつかまた会おう」

 

そう言い残し、茅場の姿も消えた。

 

「カイ、何が入ってたの?」

 

茅場が消えると、ミトがカイに何が入っていたのか尋ねる。

 

カイは、頭を掻き、照れくさそうにする。

 

「………まぁ、いいか」

 

そう言うと、カイはソレを取り出した。

 

「ミト、左手を出してくれないか?」

 

「ん?こう?」

 

カイに言われ、ミトが左手を出す。

 

「ミト、あの時言えなかったこと今言うよ」

 

カイはミトの左手を手に取って言う。

 

「約束する。現実に帰っても、俺はミトと必ず会う。いつか、別れる時が来るとしてもその時まで、俺はミトを愛し続ける。これは、その覚悟の証だ」

 

そう言い、ミトの左手の薬指に指輪を嵌めた。

 

それは、カイがケイタに頼んで作ってもらい、ミトに送ろうとしていたあの指輪だった。

 

茅場からの誕生日プレゼント、それはあの日できなかった約束をするチャンスだった。

 

紫色の宝石、アメジストが嵌め込まれた指輪。

 

それはミト好みのデザインだった。

 

「あ………」

 

「受け取ってくれ、ミト」

 

カイは照れくさそうに笑い言う。

 

ミトは感極まってカイへと抱き付いた。

 

「うん、喜んで」

 

「ありがとう」

 

再度、お互いに抱きしめ合い離れる。

 

「ねぇ、カイ。今から会える?」

 

「もう遅いぞ?」

 

「構わないわ。今すぐ会いたいの」

 

「やれやれ……分かった。じゃあ、ミト。いつもの公園で待ってるよ」

 

「うん!」

 

ミトは笑顔で頷き、カイも釣られて笑顔になる。

 

そして、2人はログアウトした。

 

意識が戻った瞬間、ミトはナーヴギアを乱暴に脱ぎ捨て、置いてあったコートを手に、急いで家を飛び出た。

 

コートを着ながら走り、ミトはカイの言ってた場所に向かう。

 

いつもの公園。

 

カイとミトの2人の間で、いつもの公園と言えばあそこしかない。

 

2人が初めて出会った場所で、時間を忘れて共に遊んだ場所。

 

そして、ミトにとっては辛い思い出の場所でもあった。

 

雪が降る夜道を、ミトは必死に走る。

 

途中、雪に足を取られ滑りそうになったが、なんとか耐え、走る。

 

本来なら歩いて30分は掛かる公園に、ミトは15分という速さで着いた。

 

「…………遊具、こんなに小さかったんだ」

 

カイと会えなくなったと理解したあの日以来、ミトは久しぶりに公園を訪れた。

 

公園にいるとカイを思い出してしまい、それが辛かったミトは、公園に行くのを止めた。

 

あの頃と比べ、背も伸びた今となっては大きく感じてた遊具も、遊ぶには小さすぎるぐらいになってた。

 

公園の中を歩き、ミトはいつものベンチへと向かう。

 

カイと並んで座り、一緒にゲームをしたあのベンチ。

 

足元に積もった雪を踏みしめ、1歩1歩噛み締めながら進み、いつものベンチを見つける。

 

ベンチの傍にある街灯の灯が、ベンチを照らす。

 

そこに誰かが座っていた。

 

その瞬間、心臓が大きく跳ねた。

 

ゆっくり、ゆっくりと強く鼓動する心臓の音が聞こえて来る。

 

ミトは心臓の鼓動に合わせ、歩く。

 

そして、ベンチの傍に着く。

 

「あ……あ……」

 

声を掛けようとするも、口が上手く動かず喋れない。

 

緊張から、顔を見ることもできないでいると、そんな状況を察して、ベンチに座っていた人物は立ち上がり、ミトの前に立つ。

 

「なぁ、傍に居ていいか?」

 

「あ……!」

 

その言葉に、ミトはようやくその人物の顔を見れた。

 

SAOで自分に向けてくれたあの笑顔。

 

変わらない笑顔で、彼、カイは立っていた。

 

いつの間にか、ミトは涙を流し、カイへと抱き付いた。

 

「やっと……やっと会えた………!」

 

「ああ、俺もずっと会いたかったよ、ミト」

 

あの世界で何度も聞いてた声、何度も抱きしめてくれた腕、何度も感じていた鼓動。

 

その全てが、SAOに居た頃と比べて、比較にならない程ミトの心へと響く。

 

「そうだ、ミト。聞いてくれないか、俺の本当の名前」

 

カイがミトの肩を掴んで離し、目を見つめて言う。

 

ミトは涙を拭い、頷く。

 

「俺の名前は、神里伊緒。歳は18だ」

 

「年上だったんだね。………私は兎沢深澄って言うの。歳は17」

 

「なるほど、深澄と兎沢でミトか」

 

「そう言うカイも、神里と伊緒でカイか。随分と安直ね」

 

「ミトに言われたくないっての」

 

そう言って、互いに笑い合う。

 

そして、どちらともなく顔が近づき、唇が触れ合う。

 

SAOで4年ぶりの再会、現実では6年ぶりの再会。

 

2人は会えなかった時間を埋めるかのように、長いキスをする。

 

そして、唇が離れ、また互いに笑い合う。

 

「待たせたな、ミト。ただいま」

 

「おかえりなさい、カイ」

 

少年と少女が再会し、2人の止まっていた時間が再び進み始める。

 

そして、その時間はこの先、ずっと止まることはないだろう……………………




次回、エピローグにてALO編完結
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