プロローグ
「山猫って知ってる?」
ガンゲイル・オンライン
通称GGOは、アメリカにサーバーを置く《ザスカー》が運営しているMMORPG。
そして、GGOの《SBCグロッケン》の中央広場にある店で、銀灰色の長髪の男性プレイヤー“シュピーゲル”が目の前の席に座っているペールブルーのショートカットの女性“シノン”にそう尋ねる。
「山猫って動物の?」
高く澄んだ可愛らしい声で、シュピーゲルに尋ねる。
「違う違う。最近、この辺で噂になってるプレイヤーだよ」
シュピーゲルは手を横に振って言う。
「物凄い狙撃の名人らしくて、その銃の腕を買われて雇われスナイパーとして有名な人なんだ」
シュピーゲルの言葉に、シノンは「ふ~ん」と言い、アイスコーヒーを飲む。
「なんで山猫なの?」
「『山猫は眠らない』って映画知ってる?噂だと、そこから取ったんじゃないかって言われてるよ」
「山猫……ね。そんなに凄いの?」
「凄いも凄い、どんな距離からでも確実に狙った所を撃ち抜いて、しかも対人・対Mod、どちらも得意。狙撃じゃ負けなしって言われてるよ」
「へぇー……それって私よりも?」
シノンもGGOではスナイパーをしており、シノン自身それなりに腕に覚えがあるつもりでいる。
なので、凄腕スナイパーの話を聞いた時から、どうしてもそれを尋ねたくなり、尋ねた。
「スナイパーならシノンが一流だよ……って言いたいけど、噂を聞くとシノンより強いかもね」
「ふ~ん」
シュピーゲルの話を聞きながら、シノンはチラリと店内の壁掛け時計を見る。
時刻は午後5時前を指していた。
そろそろ時間だと思いながら、視線を前に戻す。
「ごめん、そろそろ時間だから行くわ。またね、シュピーゲル」
「またね、シノン……今日もリヒターと?」
シノンは頬を赤くしながら小さく頷く。
「そっか。本当に2人は仲いいね。それじゃあ、僕も落ちるよ」
そう言い残し、シュピーゲルはログアウトする。
それを見送り、シノンは店を出る。
足早に待ち合わせ場所の中央広場に向かう。
人で溢れている広場を見渡し、目的の人物を見つける。
「リヒター」
リヒターと言うプレイヤーを見つけ、声を掛けて近寄る。
黒髪の長身の男性プレイヤーが振り向く。
「やあ、シノン」
男性プレイヤーは爽やかな笑顔を浮かべる。
シノンは顔を真っ赤にして俯く。
「どうしたんだ?」
「……なんでもないわよ」
そう言い、シノンは顔を上げる。
その表情には不機嫌さが滲み出ていた。
それを見たリヒターは、首を傾げる。
「何かあったのか?」
「別に……。ただ……」
シノンはジト目になり、口を尖らせる。
「さっきシュピーゲルが山猫って呼ばれてるプレイヤーの名前を教えてくれたんだけど……」
「ああ、あの山猫か。なんでもGGOでも最強クラスのスナイパーらしいな」
「それよ。別に、最強だとかそんな称号に興味ないけど、面と向かってあっちが強いって言われただけ」
「要するに、ムカついてるんだね」
「違う!」
子供みたいな理由で、不機嫌になってると思われたくないので、シノンはムキになってリヒターに叫ぶ。
そんなシノンに、リヒターは苦笑いして宥めるように言う。
「まあまあ落ち着いてくれ」
シノンを制するように、手を上げリヒターは口を開く。
「周りがどう思って様と、俺にとって最強のスナイパーはシノンだけだよ」
その言葉に、シノンは不覚にも胸をときめかせる。
しかし、すぐに冷静を取り戻し、ジト目で睨む。
「……本当?」
「勿論。俺は嘘はつかないよ」
微笑んで答える。
その笑顔を見て、シノンは溜息を吐く。
「本当にアンタって男は………」
「ん?どうかしたかい?」
「何でもないわよ!それより、早く行きましょう」
「ああ、今日もひと稼ぎと行こうか」
そう言い、2人は仲良さげにフィールドへと向かった。
それから数日後、シノンは最近、リヒターと共にお世話になってるスコードロンの狩りに参加していた。
対Modがメインのスコードロンを狩る対人スコードロンで、シノンは不規則に動く獲物を撃つ練習に良いからと、参加してる。
リヒターは付き添いで参加してる。
だが、今日リヒターは
今日は、6日前に襲ったばかりのスコードロンを襲う作戦で、少々不安もあったがスコードロンリーダーのダインが問題ないと言うので、作戦は強行された。
そして、スコードロンは危うく壊滅し掛けた。
何故なら、対象スコードロンにはミニガンを持った来た大陸を根城としている集団戦最強の“ベヒモス”を護衛に雇っていた。
シノンは、「ミニガンはそろそろ残弾が怪しいはず。全員でアタックすれば派手な掃射は躊躇うかもしれない。そこを突いて排除するしかない」とダインに提案するも、ダインは光学兵器の威力を軽減する《対光弾防護フィールド》の効果が弱くなることを恐れ、弱気になる。
そんなダインに苛立ち、シノンは「ゲームの中でぐらい、銃口に向かって死んで見せろ!」と叫び、3秒時間を稼いだら、ベヒモスを黙らせると言い、作戦を開始。
シノンは宣言通り、ベヒモスを倒し、スコードロンは7人中4人もやられたかなんとか勝利した。
その時だった。
生き残ったスコードロンメンバーの頭が撃ち抜かれた。
そして、遅れて銃声も響く。
「な、なにが!」
仲間が撃たれ、動揺したプレイヤーは声を上げようとした。
その瞬間、またしても頭を撃ち抜かれ、倒される。
「くっ!?こっち!」
シノンは咄嗟に残り1人の仲間を引っ張り、遮蔽物に身を隠し、回復アンプルで失ったHPを回復させる。
(仲間が居た!?私と同じスナイパー!?でも、
何が起きたのか、シノンは必死に考える。
その隣で、スコードロンメンバーは震えていた。
「………山猫だ」
「え?」
「
そう叫び、男は遮蔽物から飛び出してしまう。
「馬鹿!今出たら、格好の的よ!」
シノンがそう叫んだ直後、その男も頭を撃ち抜かれ、倒れる。
「くっ!どうする………!」
シノンは自分の左脚を見つめ言う。
シノンの左脚は、先程の戦闘で吹き飛び、回復にはまだ時間が掛かる。
(山猫がどっから撃ってるかは知らないけど、私の居場所はもうバレてるはず。ここから移動しないと)
そう思い、なんとか体を動かし、移動しようとした。
遮蔽物を乗り越え、外套を羽織り、顔をフードで隠したプレイヤーが現れる。
そして、手にした銃剣でシノンを狙う。
(嘘っ!?もうこんなに接近された!)
シノンは驚きながらも、愛銃の《へカートⅡ》で防御する。
(こんな使い方してごめん!)
愛銃を防御に使ったことを心で謝り、プレイヤーを突き飛ばす。
《へカート》と言う重量級の狙撃銃を使うシノンは、《へカート》を扱う為にSTRをかなり上げている。
なので、人一人を突き飛ばすぐらいは可能だ。
山猫を突き飛ばすと、シノンは腰溜めで《へカート》を構える。
シノンのスキル熟練度とステータス補正、そして《へカート》のスペックが合わされば、10メートルもない距離はシステム的に必中距離となる。
(ここで死ね!)
そして、引き金を引こうとした。
「コイツがないと、撃てないんじゃないか?」
山猫はそう言って、ある物を見せる。
右手の人差し指と、中指の間に挟まれたソレは、《へカート》のボルトだった。
「嘘っ!?」
シノンは、手元の《へカート》を見ると、そこにはボルトの抜かれた《へカート》があった。
ボルトが無ければ、銃は使えない。
山猫は、自身の銃《三八式歩兵銃》をシノンへと向ける。
この至近距離では、サブアームの《MP7》を抜くのも間に合わない。
「終わりだな」
山猫はそう言いながら、引き金に指を掛ける。
シノンは銃口から目を逸らさなかった。
そして、叫ぶ。
「あんたこそね!」
その言葉と同時に、シノンは手にしたスタングレネードを起動する。
「なっ!?」
山猫が驚きの声を上げる。
スタングレネードは爆発し、強烈な音と光を放つ。
山猫は思わず、手で顔を覆う。
シノンはその隙を狙い、手にしたナイフで切りつける。
だが、それは簡単に避けられる。
山猫は《三八式歩兵銃》のストックで、シノンを殴りつけ、地面に倒す。
背中を踏みつけ、銃口をシノンの頭へと向ける。
「形勢逆転だな」
「……殺すなら、殺しなさい」
シノンは観念し、そう言う。
「………一つ答えろ。なんで、あの状況で立ち向かってきた?」
「………逃げて、怯えて死ぬぐらいなら、最後まで立ち向かって死にたかっただけよ。弱いまま死ぬなんで御免だから」
「……たかがゲームで、そこまで熱くなるか」
山猫はフードの下で笑い、シノンから銃口を退け、背中から足を下ろす。
「気に入った。ここで殺すのは止めてやる」
シノンは体を起こし、山猫を見る。
「お前は、もっとふさわしい舞台で殺してやる。次のBoB、楽しみにしてる」
山猫は《三八式歩兵銃》を担ぎ、去ろうとする。
「待ちなさい!」
その背中に向けて、シノンが叫ぶ。
「………貴方、名前は?」
「………リンクス。ただの山猫さ」
山猫改めリンクスは、そう言い残し、去って行った。
新キャラのリヒターとリンクス、この2人って誰なんでしょうね?