とある学校から、1人の女生徒が出て来る。
生徒の名は、朝田詩乃。
GGOでは、《シノン》と言う名前でプレイをしている。
彼女の現実は高校生だ。
だが、シノンは好きで高校生をしているわけではない。
シノンの保護者は、祖父母だ。
父親は幼いころに事故で亡くなり、その影響で母親は心を病んでしまい、シノンを娘と認識できず歳の離れた妹の様に思ってしまっている。
その為、祖父母が保護者代わりとなり、その祖父母の願いもあって高校生になった。
シノンとしては、高校に進学せず就職するか、専門学校で就職のための訓練をするか望んだが、昔気質の祖父はそれを許さず、祖母もいい学校を卒業して、ちゃんとした家に嫁いで欲しい、そうでないと死んだ父親に申し訳が立たないと泣かれ、やむなく進学することにした。
「早く卒業したい………」
冷たい乾いた風が頬を撫で、マフラーを巻きなおしつつシノンはそう呟く。
そのまま現在1人暮らしをしているアパート近くの商店街へと向かい、本屋を覗き、文具店で消しゴムとノートを買い、残金から夕食の献立を考えていると、不意に細い路地から声を掛けられた。
「朝田ぁ」
そこには、シノンと同じ制服を着た女子生徒が三人居た。
その三人の顔を見るなり、シノンはうんざりとした表情をする。
「こっち来いよ」
「……何?」
横柄な仕草で、シノンを路地裏に来るように言う女子生徒に、シノンは従わずその場で用件を聞こうとする。
「いいからこっち来いよ」
すると、そのまま手首を掴まれ、路地裏に引きずり込まれる。
そのまま、商店街から見通せない路地の奥へと連れ込まれ、シノンは囲まれる。
「悪いんだけどさ、金貸してくんない?ちょっと遊び過ぎて、帰りの電車賃が無くなっちゃってさぁ。明日返すから、こんだけ貸して」
そう言い、リーダー格の女子生徒、遠藤は指を1本立てる。
100円でも1000円でもない、1万円だ。
明らかにおかしい金額に、シノンは溜息を吐きたくなった。
「そんなに持ってる訳ないじゃない」
「なら下ろしてきて」
遠藤とその仲間たちは、シノンの友達ではない。
一時期、シノンは彼女たちを友達と思ったこともあるが、実際はシノンが1人暮らしだと当たりを付けて接触してきただけだった。
最初こそは友達みたいに接してきてくれたが、次第に本性を現し始め、友達だろと迫り、家の合鍵を要求した。
シノンはおかしいと思いながらも、遠藤たちの言う通りにしていた。
そして、5月の末日。
夕方、自宅に帰宅したシノンが感じた、自分の部屋に誰かが居る気配だった。
耳を澄ませると、遠藤たちの声に交じって、数人の知らない男の声が聞こえた。
そこで、シノンは自分が良い様に利用されていたことに気づき、警察を呼んだ。
「知人だ」と言い張る遠藤と、「知らない人だ」と言い張るシノン。
話は平行線を辿ったが、警察は家主のシノンの言葉を受け入れ、遠藤たちは警察に連れて行かれた。
無論、合鍵も返却されたし、出費と思いながら鍵も付け替えた。
そして、すぐに遠藤たちはシノンに対して報復を行った。
どうしてシノンが1人暮らしをしているのかを調べ、シノンが暮らしていた田舎で5年前に起きた事件を調べ上げ、全校に暴露した。
そして、シノンは1人に戻った。
だが、シノンはそれでもいいと思った。
友達を欲しがるような弱い自分はいらない。
自分を救えるのは自分だけ。
1人でも強くないといけない。
そう思い、自分の周りの人間を敵だと思い、生きることにした。
「嫌よ。貴女達にお金を貸す気はない」
シノンは、ハッキリとそう告げた。
すると、遠藤は手をシノンへと向ける。
親指と人差し指を伸ばし、その形は銃に似ている。
それを向けられた瞬間、シノンの体は震え、両脚から力が失われ、動機が早くなり、耳鳴りが鳴り始める。
「ばぁん!」
遠藤が、そう叫んだ。
それにシノンは、一気に力が抜け、その場に座り込んでしまう。
吐き気がこみ上げて、思わず口を手で押さえる。
「気分悪いみたいだし、今持ってる分だけで勘弁してやるよ」
遠藤は笑いながら、シノンの鞄に手を伸ばした。
「ガキの分際で、恐喝なんてするもんじゃないぞ」
その時、1人の男の声が路地裏に響く。
遠藤たちは驚き、声がした方を見る。
そこには、買い物袋片手にスマホで、遠藤たちを撮影している男が立っていた。
「あ……尾田さん………」
シノンは顔面蒼白になりながらも、その男性を見て、その男性の名前を呟く。
「お前らの一部始終、このスマホに録画しといた。学校側にチクられたくなかったら、さっさと失せな。二度も、警察の厄介にはなりたくないだろ?」
尾田がそう言うと、遠藤たちは舌打ちをしてシノンには何もせずその場を去った。
それを見送り、尾田はシノンに近寄る。
「大丈夫か、朝田」
「はい……大丈夫です……ありがとうございます………」
男性の名は、尾田健之介。
シノンが住んでるアパートの隣に住んでる男性だ。
「無理すんな。顔色悪いぞ」
そう言い、尾田は買い物袋からコーラを取り出す。
「俺の持論だが、気分が悪い時は、冷たい炭酸飲むのが良いぞ?それとも、水の方が良かったか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
シノンはもう一度お礼を言い、差し出されたコーラを受け取る。
その場で一口飲むと、気持ち悪かった感じが一気に消え、一息付けた。
「あの、本当にありがとうございます。これ、コーラの代金」
シノンは財布から、コーラー代を払おうとするがそれを尾田は制する。
「良いよ。俺が勝手にやったことだ。それに、ガキは大人の好意に甘えるもんだぞ」
「大人って……尾田さんまだ19歳じゃないですか」
「俺からすれば、高校生なんてガキも同じだ」
尾田の言葉に、シノンは思わず笑みを浮かべる。
そんなシノンの様子を見て、尾田は満足げに笑う。
「朝田さん………大丈夫だった?」
すると、シノンと尾田の2人に近寄って声を掛ける人が居た。
「新川君」
男の名は、新川恭二。
シノンの元クラスメイトで、シノンをGGOに誘った張本人で、《シュピーゲル》の名前でプレイをしている。
「知り合いか?」
「はい、友達です……」
「……そうか。なら、後はお友達に任せるとするよ」
尾田はそう言い、歩き出す。
「あの、尾田さん!本当にありがとうございます!」
シノンはもう一度尾田にお礼を言い、尾田は振り返らず、片手を上げて応える。
「えっと、朝田さん。あの人は?」
新川が、シノンにそう尋ねる。
「尾田さんだよ。私の部屋の隣に住んでる人」
シノンは笑みを浮かべてそう言う。
シノンにとって、周りの人物は敵かもしれない。
それでも、目の前にいる新川と、隣人の尾田、そしてGGOでの相棒《リヒター》。
この3人だけは、信頼している。