菊岡から依頼を受けた日から1週間後。
カイとミト、キリトの3人は千代田区お茶の水にある都立病院に来ている。
この病院はカイやミト、キリトがリハビリするのに何度かお世話になった病院で、菊岡がどうせなら顔見知りの居る所が良いだろとの配慮でここになった。
病院の玄関口で合流し、3人は入院病棟3階の指定された病室に行く。
「おっす!桐ヶ谷君に神里君、兎沢さん!久しぶり!」
3人を出迎えたのはナースの安岐だった。
「ど、どうも…」
「お久さしぶりです」
「ご無沙汰してます」
「うんうん!元気そうでなにより!」
すると安岐はキリトの身体をペタペタと触り始めた。
「おー、けっこう肉ついたねぇ。でもまだまだ足りないよ、ちゃんと食べてる?」
「食べてますよ!それより、どうして安岐さんがここに?」
話によるとリハビリの時、安岐が3人の担当をしていたので、是非モニタリングをしてほしいからとのことだった。
「そういえば伝言、預かってるよ」
安岐が茶封筒を渡してくる。
そこには菊岡さんからのメッセージがあった
『報告書はメールでいつものアドレスに頼む。諸経費は任務終了後、報酬と併せて支払うので請求すること。それと、GGO内に協力者を手配しておいた。彼との接触を忘れない様に。それでは、健闘を祈るよ追記……美人看護婦と個室で一緒だからといって若い衝動を暴走させないように』
「……あのやろう……」
最後の一文にキリトは怒りながらも、メッセージを握りつぶさずに、大人しく胸ポケットにしまった。
「それじゃあ、早速ネットに繋ごうか!」
病室内には3台のジェルベッドが並べられており、1つはカーテンで仕切られていた。
「電極貼るから、3人とも上脱いでね。あ、兎沢さんは、こっちのカーテンの仕切りがある方ね」
安岐はテキパキと準備を進め、数分も掛からずに終わった。
「それじゃあ、行ってきます」
「4,5時間は潜りっぱなしだと思うんで」
「私たちの身体、お願いします」
「はい、いってらっしゃ。3人の体は私がしっかり見張っておくから」
安岐の言葉を聞き、3人は目を閉じる。
そして
「「「リンク・スタート!」」」
同時に、魔法のキーワードを唱えた。
カイが瞼を開くとそこにはメタリックな高層建築群が空高くへ向けて聳え立ていた。
空はというと、薄く赤みを帯びた黄色をしている。
GGOの世界は最終戦争後という設定で、それを元にこういう空の色なのだろうと考える。
カイが降り立ったのは《SBCグロッケン》、GGOの中央都市だ。
世界樹の上に新設されたイグドラシル・シティやアインクラッドの大規模都市のようなファンタジーとは異なり、その異様な光景に目を奪われる。
「凄いな……」
「ええ、本当にね」
カイの隣から声が聞こえ、カイはそっちを見る。
そこには、ミトと思しき人が居た。
ただ外見は殆ど違っており、美しい金髪のロングヘアーに空色の瞳、身長も150㎝前後と言った感じだった。
「ミト、なのか?」
「当たり前でしょ」
「そうか。いつもと違う姿だから、分からなかったよ」
「それを言うなら、カイもよ。自分の姿見たら」
ミトに言われ、カイは近くのミラーガラスで姿を確認する。
身長が180は優に超えており、黒髪のロングヘアーと眉間に寄った皺が特徴的な容姿だった。
「兵士って言うよりは、お堅い大学教授って感じだな」
その姿をカイはそう評価した。
「でも、割とその姿のカイも好みかも」
ミトはカイの隣で、意地の悪そうな笑みを浮かべて笑う。
「誉め言葉として受け取っておくよ。それで、キリトは?」
「な、なんじゃこりゃ………」
その言葉に、カイとミトは隣を見る。
そこには、ミラーガラスで自身の姿を見て絶望しているプレイヤーが居た。
「キリトか?」
「え?」
名前を呼ぶと、そのプレイヤーはカイを見る。
スプリガン・キリトのアバターよりも低い身長で、肌は白く、唇は紅い。
髪は肩甲骨辺りまで伸びてる艶やかな黒髪、無垢な黒い瞳をした男の娘がいた。
「マジか……」
「あら、凄くかわいい顔ね」
「まさか……カイとミトか………」
キリトはミトに関してはともかく、カイがかなりいい感じの男性アバターなのにショックを隠し切れずにいた。
「まぁ、そのなんだ………ドンマイ」
「慰めなんているか……」
「落ち込んでるところ悪いけど、協力者と合流しましょう」
「そうだな。確か、《旧居住区》エリアの《D-10》だ」
とにかく、協力者に合流することにし、その場を動こうとするとすると、何かを食っていた男が急に走り出し、カイ達に近づく。
「おおっ、アンタ達、運がいいね!そのアバター、F1300番系、そしてM1500番系でしょ!め~~ったに出ないんだよ、そのタイプ。どう、今ならまだ始めたばっかだろうしさあ、アカウントごと売らない?2メガクレジット出すよ!」
男の子の言葉に、キリトは、もしかしたら自分が女性になってるのではと思い、慌てて胸部を触りだした。
だが、すぐに体つきは男だと気付いて、安心する。
「えっと、悪いんだけど俺、男でさ」
キリトは、やや低いが女の子として通用するトーンの声で、訂正する。
「ってことは、それ…M9000番系かい!?す、すごい、それなら4…いや、5メガクレジットで買うよ!」」
キリトのアバターが珍しい物らしく、男は興奮気味に値段を上げた。
「悪いんだが、実は俺達、他のゲームからコンバートなんで、ちょっと売るのはムリなんだ」
今度はカイが間に入って、断りを入れる、
「うーん、そうか……。ま、気が変わったら連絡してくれ」
そう言って透明なカード型のアイテムを押しつけてさって行った。
キャラ名、性別、所属ギルド名などが書かれたいわゆる名刺みたいなものだった。
隣ではまだキリトが落ち込んでいた。
「元気出せって、キリト。珍しいタイプのアバターなら逆に目立つ」
「そうね。それに、大会で実力を示せば《死銃》の目に留まる可能性もある。接触が目的なら、むしろ最高の状態よ」
「……そうだな。切り替えて行くか」
思考を切り替え、キリトは復活する。
「じゃあ、早速協力者に会いに行こう」
協力者の居る《旧居住区》エリアの《D-10》ポイントへ向かって、3人は動き出す。
そして、数分後。
「道に迷ったな……」
「ここ、どこだ?」
「多分、《旧居住区》に向かってはいると思うけど………」
GGOの世界、《SBCグロッケン》はかなり複雑な構造をしており、3人は迷っていた。
メニューからマップを出すも、立体マップの現在地と、目の前の構造物を照合するのも容易ではない。
「取り敢えず、誰かに聞きましょう。えっと……あの人でいいか。すみませ~ん!」
ミトは、眼前に居る人影の中からNPCタグのないプレイヤーに小走りで駆け寄って、声を掛ける。
ミトが声を掛けたのは、ペールブルーのショートヘアーの女性、シノンだった。
「もしかして、このゲーム初めて?」
シノンは、ミトが女性と言うこともあり、愛想よくそう尋ねる。
「ええ。それで、ちょっと道に迷ったから道を聞きたいのよ」
「それぐらいなら、全然いいわよ。何処に行きたいの?」
「えっと……あ、その前にツレが居るのよ。呼んでもいい?」
「ええ、構わないわ」
シノンから了承を得て、ミトはカイ達に手を振る。
それを見て、こっちに来いと言う事なのだろうとカイとキリトは近寄る。
「この人が道案内してくれるって」
「そうか、俺はカイだ。道案内、助かるよ」
「俺はキリト」
「私はミトよ」
「シノンよ。それで、何処に行きたいの?」
シノンは、ミトのツレに男が居ることに少し警戒の色を見せながらも、行き先を尋ねる。
「《旧居住区》エリアの《D-10》ポイントなんだけど、分かる?」
「《旧居住区》ね、そこなら分かるわ。案内するから、ついてきて」
「助かるわ。あ、それとついでになんだけど、《総督府》の場所も教えて貰えるかしら?」
「《総督府》?そんな所に何の用?」
「俺達、《BoB》に出場するつもりなんだ。《総督府》でエントリーしないといけないって聞いたから、行きたいんだ」
「《BoB》に?」
カイの口から、《BoB》に出ると聞き、シノンは目をパチクリと丸くする。
「う~ん。出ちゃダメって事は無いけど、流石に今日始めたばかりの初心者だと、ステータス的に無理があると思うわよ」
「それなら大丈夫だ。俺達、コンバートなんだよ」
今度はキリトがそう言い、シノンは納得したような表情をする。
「そうなんだ……どうしてこんなオイル臭くて埃っぽいゲームに来たのか聞いても良い?」
「いままでファンタジー系のゲームをやってたんだけど、偶にはこういうサイバー的なものもやってみたいと思ってさ…」
「後は、銃での戦闘にも興味があったからかな」
「私は、2人の付き添いよ。目を離すと、無茶しかねないからね」
三者三様の理由を聞き、シノンは笑う。
「そっか。それでいきなり、《BoB》に出ようとするなんて根性あるわね。それなら、《総督府》にも案内するわ。私も、エントリーするからね。あ、でもそうなると、装備を整えないと」
「それなら大丈夫だ。実は、知り合いがこのゲームやっていて、装備を一式譲って貰うことになってるんだ」
「なるほど。それじゃあ、《旧居住区》に向かいましょうか」
シノンを先頭に歩き、ついでにシノンからGGOに関する事を聞きながら、4人は《旧居住区》エリアに着く。
「私はこの辺で露店見てるから、終わったら声かけて頂戴」
「ええ、分かったわ。案内ありがとう」
「そんなに時間は掛からないと思うから」
「じゃあ、また後で」
シノンを見送り、3人は《旧居住区》エリアの《D-10》ポイントへ向かう。
「えっと、この部屋だな」
目的の部屋に着くと、カイが扉をノックする。
『……誰だ?』
部屋の中から、声が聞こえる。
「菊岡の使いだ」
『……入れ』
その言葉と同時に、扉のロックが解除され、3人は中に入る。
「キリトとカイ、それにミトだな」
「ああ。アンタが《ムーン》か?」
「そうだ。早速だが、装備を受け取ってくれ」
そう言い、協力者ことムーンは、3つのアタッシュケースを取り出す。
「基本的な防具類はここに入ってる。一応、お前らのイメージカラーで用意しておいた」
3人がアタッシュケースの中を確認すると、カイは赤、キリトは黒、ミトは紫と、それぞれのイメージカラーの防具一式が入ってた。
「次に武器だが、キリト。お前にはこれが良いだろ」
そう言い、ムーンはキリトに筒状の金属棒を渡す。
「これは?」
「《フォトンソード》だ。
「剣!?この世界には剣もあるのか!?なら、あともう1本頼めるか!」
キリトは、剣があることに驚きと喜びを隠せず、フォトンソードをもう1本要求する。
「そう言うと思って、2本用意している」
そう言い、ムーンは2本目のフォトンソードをキリトに渡す。
「それと、サブにこの銃を使え。《FN・ファイブセブン》だ。命中精度と貫通力にアドバンテージがある。牽制には持って来いだろう」
キリトへの装備を渡し終え、ムーンは次にミトを見る。
「ミト、お前にはこれだ」
そう言って、ミトにキリトの持つフォトンソードよりも長い、金属棒を渡す。
「なにこれ?」
「《フォトンサイズ)。簡単に言えば、ビーム鎌だ」
「へ~……私向きの武器ね」
ミトは、試しにフォトンサイズを起動する。
ブオンッ!と言う音と共に、紫色の光刃が先端から現れ、鎌の形にする。
「いいわね。気に入ったわ」
「サブは、これだな。《ベレッタM92F》、アンタのステータスなら片手でも撃てるだろう」
マッドシルバーのベレッタを受け取り、ミトは興味深そうに色んな角度から見る。
「カイ、アンタにはこれだ」
ムーンは、カイに布に包まれた何かを渡す。
カイはその布を取り、その中身に驚いた。
「こ、これって刀!?」
現れたのが刀だと言うことに、カイは驚き、キリトとミトも、銃の世界であからさまな剣の存在に驚く。
「正確にはサーベルだ。GGOにあるスキル《ナイフ作製》の派生スキル《銃剣作製》、そこからさらに派生したスキル《サーベル作製》で作れるGGO唯一の剣だ。もっとも、銃の世界のGGOではキリトのフォトンソード、ミトのフォトンサイズ同様、あまり意味のない武器だ。だが、剣士であるお前たちなら、それも関係ないだろう」
ムーンからの説明を聞き、カイはサーベルを振るう。
「かなり軽い……耐久値や攻撃力が不安だな………」
「耐久値に関しては心配するな。そのサーベルの素材には、このゲームで最高級の金属を使用している。攻撃力に関しては、自身の腕で補えとしか言えんがな」
「頼もしい言葉だな」
カイはそう言って、サーベルを有り難く、アイテムウィンドウに仕舞う。
「サブには、これでいいだろう。《コルト・パイソン》、非常に強力な銃だ。軍刀での足りない火力を補うには、丁度いいだろう」
ムーンは、最後に回復キットや弾丸、マガジンなど必要なアイテムを3人に渡す。
「俺たちに出来る協力はここまでだ。後の事は、お前たちに任せる」
そう言い、ムーンは部屋を出て行こうとする。
「お前たちを危険な役目に合わせているのは承知だが、あまり無茶はするな。まずいと思えば、逃げても構わないからな」
ムーンは最後にそう言い残し、ログアウトをした。
それを見送り、カイ達もシノンの元へと戻った。
GGOでサーベルと言う形で、カイの武器登場しました。
最初は、カイにも光剣を使わせようかと思いましたが、新鮮味がないのでサーベルにしました。
ちなみに、GGOの容姿についてですがカイはFateのロード・エルメロイⅡ世(ウェイバー・ベルベット)、ミトは声優つながりでライネス・エルメロイ・アーチボルトです。
ぶっちゃけ、ミトの容姿に合わせて、カイの容姿を決めました。