第3回《BoB》開始まで、後2時間。
カイ達は、なるべく余裕をもってGGOにダイブするために、病院を訪れた。
「3人とも、いらっしゃい。早いわね」
前と同じ病室で、安岐が出迎えた。
「昨日みたいに時間に追われたくないんで」
「「同じく」」
キリトが理由を言い、カイとミトが同意する。
その姿に、安岐はくすくすと笑う。
「じゃあ、もうダイブする?」
「ええ、お願いします」
昨日と同じベッドに、カイとキリトが寝転がろうとすると、それをミトが止めた。
「和人、ちょっと待って」
「ん?どうした?」
「うん……その、ベッド代わって貰えない?」
「え?」
急にそう言いだすミトに、カイは驚く。
「少しでも、伊緒の傍に居たいの。お願い」
「ああ、いいぞ」
ミトの願いを、キリトは笑顔で了承し、カーテンで仕切られた方のベッドに移る。
「深澄、どうしたんだ?」
「伊緒が心配だから、少しでも近くに居たいの」
そう言うミトに、カイは照れ臭そうに笑う。
「なら、折角だしベッドくっ付けましょうか?」
すると、安岐はミトの気持ちを察し、カイとミトのベッドを近づける。
カイは上半身裸で、ミトはの方は上半身はブラのみとなり、くっつけられたベッドに横になる。
電極を張り付けられた後、ミトの体の上からシーツを掛けられる。
準備を終え居ると、カイは手を伸ばし、ミトの手を取る。
「伊緒?」
「少しでも近くに居たいんだろ?俺も同じ気持ちだし、折角だからこのまま手を繋いでダイブしよう」
「ええ、そうね」
2人は指を絡めるようにして、互いの手を握り合う。
それを見た安岐も微笑む。
「それじゃあ、3人とも。行ってらっしゃい」
「はい、また俺達の身体をお願いします」
3人はまた目を閉じる。
「「「リンク・スタート!」」」
そして、同時に、魔法のキーワードを唱えた。
昨日と違うのは、カイとミトは互いのぬくもりを感じながらダイブした事だった。
3人は《SBCグロッケン》の北端、総督府タワーにほど近い路傍の一角に降り立った。
大会へのエントリーを済ませようと少し離れた総督府を目指して歩く。
すると、両側から幾つもの視線が3人に向けられる。
それもそのはず、3人はGGOでは珍しいタイプのアバターで、更に、銃の世界であるGGOで《フォトンソード》、《フォトンサイズ》、《サーベル》と言う、通称お飾りアイテムを使って、予選を勝ち抜いた。
加えて、カイとキリトの予選決勝戦は、誰もが目を釘付けにして、観戦していた。
しばらく歩くと、シノンとリヒターの姿が見えたので、3人は声を掛けた。
「シノン、リヒター。今日はよろしくな」
「やぁ、こちらこそよろしく」
「ええ、こちらこそよろしく」
シノンとリヒターは微笑んで挨拶をしてくれた。
「よぉ、お二人さん。今日はよろしく」
「よろしくね」
キリトとミトも続いて挨拶をする。
「ねぇ、シノン。良かったらなんだけど、本大会のこと教えてくれない?メールは読んだけど、一応確認ってことで…」
「構わないよ。それじゃあ、エントリーが済んだら、地下の酒場に行きましょ」
そのまま5人で本戦へのエントリーを済ませ、地下1階の酒場に向かった。
ブース席に腰を下ろし、各々飲み物を注文する。
カイはサイダー、ミトはオレンジジュース、キリトはジンジャエール、シノンはアイスコーヒー、リヒターはアイスコーヒーにバニラアイスをトッピングしたのを選んだ。
「それじゃ、メールにも書いてあったと思うけど説明させてもらうわね」
本選はバトルロイヤル制で参加者30人による同一マップでの遭遇戦となり、開始位置はランダムで他のプレイヤー達とは最低でも1000m離れ、本選のマップは直径10kmの円形で山あり森あり砂漠ありなどの複合ステージ。
参加者全員には『サテライト・スキャン端末』というアイテムが自動配布され、15分に1回は上空を監視衛星が通過するという設定で、その時全員の端末にマップ内の全プレイヤーの存在位置が送信される。
その時、
「………こんな感じね。他に聞きたいことはある?」
「大丈夫よ。ありがとう、シノン」
「ああ、しっかりと理解できた。ありがとう」
「そう、なら良かったわ」
「で、なんだが、シノンとリヒター、2人に聞きたいことがもう1つあるんだ」
そう言うと、キリトは《BoB》本戦の参加者リストを取り出す。
「この中に、知らない名前は幾つある?」
シノンとリヒターは不思議そうな顔をしたか、了承して名簿を見る
「BoBは3回目だから、ほとんどは顔見知りね。初めてなのは、ここにいる貴方達を除くと、6人ね」
「名前は?」
「ん………《銃士X》と《ペイルライダー》、それと《J・B》に《スノウ》………これは《スティーブン》かな。綴りが間違ってるけど」
《Sterben》と書かれた名前を見て、シノンがそう言う。
「そして、最後は………この山猫野郎ね」
シノンは怒りを露わにして、リンクスの名を指差す。
「相当、苛ついてるんだね……」
シノンの隣に座るリヒターが、苦笑しながら言う。
「当たり前でしょ!この本戦で、今度こそリベンジしてやるんだから!」
シノンは鼻息荒く宣言する。
「う~ん………」
そんな中、カイは《Sterben》の名前を見て、唸っていた。
「カイ、どうしたの?」
「いや、俺の気にし過ぎかもしれないんだが、これドイツ語なんじゃないかって思ってさ」
「ドイツ語?」
「ドイツ語だと、何か意味でもあるのか?」
カイの隣に居たキリトも、尋ねて来る。
「……死って意味なんだよ」
カイがそう言うと、ミトとキリトは驚きの表情になって固まった。
「まさか、こいつなのか?」
「いや、分からない。もしかしたら、ただのスペルミスの可能性もあるし、偶然かも知れないからな……」
「一先ず、候補として頭の中に置いておきましょう」
ミトの言葉に、3人で頷き合う。
「ねぇ、何の話?」
「何かあったのかい?」
シノンとリヒターが、不思議そうに問いかけてくる。
「いや、なんでもない。ちょっとした俺達の因縁の話さ」
カイがそう言うとシノンさんはそれ以上何も聞いてこなかった。
「そろそろ行きましょう。装備の準備や点検の時間が無くなるわ」
シノンの言葉に従い、席を立ってエレベーターに乗り込む。
暫くするとシノンが口を開いた。
「貴方達にも、事情があるのは分かったわ。だけど、優勝するのは私よ。だから、本戦で貴方達と会ったら容赦はしない」
そして、今度はリヒターに向かって言う。
「リヒター、こっから先はパートナーじゃないわ。敵同士、手加減したら許さないわよ」
そう言うシノンに、カイ達は目を合わせて頷いた。
「ああ。その時が来たら容赦なく撃ってくれ。全力で、相手をする」
「俺らの事情に、シノンたちを巻き込むつもりはない。だから、全力で戦おう」
「それに、こっちも大会に参加する以上、優勝狙ってるから。そのつもりでね」
キリト、カイ、ミトの順に、好戦的な態度でシノンに言う。
「安心して。シノン相手に手加減はしないからさ」
最後にリヒターがそう言うと、シノンはわずかに笑い
「ありがとう」
そう言った。