《BoB》が始まって30分が経った。
カイは、ミトとキリトの2人と合流するために、フィールドを駆けていた。
「……おかしい」
カイは、2回目のスキャンで全プレイヤーの現在地を確認しながら、呟く。
「どうして、ステルベンがいないんだ?」
最初のサテライトスキャンと2回目のサテライトスキャン。
そのどちらでも、ステルベンの姿を認識できなかった。
存在する全ての光点をタップし、名前を捜したが、無かった。
「スキャンで見つからない場所に居るのか?取り敢えず、今は合流が先か」
マップを消し、動こうとした瞬間だった。
突然、カイの後頭部に何かが押し付けられた。
「動くな」
女の声で、そう告げられた。
銃口を押し付けられているのだ、と気付いた時にはもう遅かった。
「両手を頭に付けろ」
カイは言う通り、手を後ろに伸ばし、素早く振り返る。
相手の手を掴んでひねり、逆に銃を奪おうとする。
女襲撃者は奪われる前に、足をあげ、カイの手ごと銃を蹴る。
銃は高く舞い上がり、女襲撃者は銃を手にしようと手を上げる。
だが、その動きより先に、カイの右手が動いた。
腰に差したサーベルを抜き、一気に斬り掛かる。
しかし、刃が届く寸前、女襲撃者の左手が閃き、ナイフが飛んでくる。
咄嵯に身を屈め、ナイフを避ける。
同時に、右手で地面を掴み、体を回転させて回し蹴りを放つ。
女襲撃者もしゃがみ込んで避け、低い姿勢のままタックルを仕掛けてくる。
カイはそれを飛び越え、空中から女襲撃者に追撃する。
着地と同時に振り下ろした剣先は、僅かに届かない。
相手も体勢を整えており、バックステップで回避したからだ。
距離が離れた直後、女襲撃者は踏み込んできた。
カイは着地直後を狙われた為、そのまま地面に押し倒される。
女襲撃者はそのまま、手にした銃《モーゼルM712》をカイの額に押し付ける。
「死ねよ、
「お前……!」
かつて、キリトの《ビーター》同様、嫌われ者の証として呼ばれていた自身の2つ名にカイは反応する。
女襲撃者はフードの下で、カイに対し憤怒の感情を向けて、口元を歪める。
人差し指が動き、引き金が引かれる。
「カイ!」
突如、横からミトが現れた。
女襲撃者は驚き、ミトが現れた方を見る。
一瞬、カイはフードの下から見える女襲撃者の口元が、歓喜を帯びているのが見えた。
だが、カイはすぐにそれを振り払い、女襲撃者を顔を殴る。
怯み、後退りした隙を突き、カイは立ち上がる。
「ミト!」
「ええ!」
カイとミトは、それぞれの銃《コルト・パイソン》と《ベレッタM92F》を抜き、女襲撃者に向かって発砲する。
女襲撃者は、数発身体に食らいながらも後ろに下がる。
そこで、カイとミトは弾が切れ、《サーベル》と《フォトンサイズ》を構える。
女襲撃者は何か迷うようなそぶりを見せるも、不利と判断したのかその場を離れた。
「……退いたか」
カイは安堵の溜息を吐き、サーベルを収める。
「カイ、大丈夫だった?」
「ああ、ミトのお陰でなんとかな」
そう言いながら、カイは首に治療キットを押し当て、HPを回復させる。
「さっきの女、誰なんだろ……」
「分からない。ただ、1つだけ分かることがある。あの女は、SAO
カイの言葉を聞き、ミトは驚く。
「それ本当なの?」
「ああ。しかも、俺に恨みを持ってるのか
苦笑しながらカイは答えた。
「確かに、当時のカイなら恨まれても仕方ない状況だったけど……そんな今更」
「それより、今は死銃を追おう。さっきのスキャンで、ペイルライダーを見つけた。このまま行くと、鉄橋付近で戦いをするはずだ」
「分かったわ。行きましょう」
頷き合い、2人は走り出した。
鉄橋の様子が見える山岳側に着くと、そこには先客が居た。
「リヒター!」
名前を呼ぶと、リヒターは驚いたように《ベレッタM93R》を向けるも、相手がカイとミトと知ると、銃を下ろした。
「カイ、それにミトも。こんな所に何のようだい?まさか、2人で組んで俺を倒しに来た?」
「いや、違う。これから起きるだろう戦闘を見届けたいんだ」
「だから、それまで一時休戦と行かない?」
「………そうだね。俺としても、ここで戦って銃声を聞かれるのは嫌だし、その話に乗った」
リヒターは銃を仕舞い、カイとミトは隣に並ぶ。
「それで、誰の戦いを見に来たんだい?」
「ペイルライダーだ」
リヒターの質問に、カイが答える。
「もしかして、君たちの言ってた因縁に関する事かい?」
「そんな所よ」
「そうか………分かった」
リヒターは一先ず納得し、鉄橋を見る。
鉄橋では、ダインが伏射姿勢で銃を構えていた。
暫くすると森林側の鉄橋から青白い柄の迷彩スーツを着たプレイヤー《ペイルライダー》が現れた。
武器はショットガン。
本来なら弾が当たらないように、掩体から掩体へとダッシュして行くはずなのに、ペイルライダーはゆっくりとした足取りで、鉄橋に踏み入る。
ダインのアサルトライフルが火を噴くが、ペイルライダーは鉄橋を支えるワイヤーに左手のみでしがみつき、左手一本で昇り始めた。
ダインも後を追って撃つが、伏撃姿勢では狙いづらいのか、二度目の射撃が大きくズレた。
その隙にペイルライダーは、ワイヤーの反動を利用して、ロングジャンプをし、ダインとの距離をかなり詰めた。
「なるほど、STR型なのに装備を軽量にしたのは三次元機動力をブーストさせるためか。それに
リヒターはペイルライダーの戦いを見て、そう頷く。
ダインは三度銃を撃つがその攻撃もペイルライダーは、前転をするようにして躱す。
「なろっ!」
ダインの声が聞こえ、ダインは空のマガジンを交換しようとする。
だが、その前にペイルライダーの持つショットガンが発砲される。
撃たれたダインは大きく仰け反る。
だが、仰け反りながらもマガジンの交換を終わらせる。
そして、頬付けして撃とうする。
しかし、その前にペイルライダーは再び引き金を引く。
また、ダインは大きく仰け反り、体勢を崩した。
ペイルライダーは、もう目と鼻の先のダインに向かって、もう一度引き金を引き、残りのHPを全て奪った。
死体となったダインの体の上に、【Dead】の文字が浮かび上がる。
「ペイルライダー、強いな」
「ええ」
「死銃として考えるべき?」
「どうだろうな………俺的にはどうしてもステルベンが気になるんだが………」
そんなことを考えていると、ペイルライダーの右肩に着弾エフェクトが閃く。
それと同時に、ペイルライダーはその場に倒れた。
「アイツ、どうしたんだ?」
「分からない。急に倒れたみたいだけど………」
「カイ、ミト。発砲音は聞こえた?」
「いや、聞こえなかった」
「私もよ」
「……なら、作動音の小さい光学ライフルかサプレッサ―を付けたライフルのどちらかで狙撃したのかな」
「ねぇ、リヒター。ペイルライダーの体に妙なライトエフェクトが出てるんだけど」
「ん?……あれは電磁スタン弾だね」
「何だ、それ?」
「当たった瞬間、電流を生み出し、対象を麻痺させる弾だよ。もっとも大口径のライフルでしか使えないし、おまけに一発一発が高い。対人向けより、大型Mob狩りに使われる。ま、この分なら後、数十秒で効果は消えるかな」
「なら、なんのために撃ったの?」
「………そういえばどうしてだろう?」
疑問に思ってると、鉄橋の鉄柱の陰から別のプレイヤーが現れた。
全身を覆う、濃い灰色のフードマント、ギリーマントという奴だ。
「いつからあそこに居た?」
カイは思わず声を上げた。
ミトも覚えてる限り、いつからあそこにプレイヤーがいたのか覚えてない。
まるで行き成り現れた感じだ。
そのプレイヤーの手には、かなりの大きさのライフルがあった。
「あれは、《サイレント・アサシン》!」
ライフルを見て、リヒターが叫ぶ。
「知ってるのか?」
「ああ、正式名称は《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》。あれは人を狙撃するために作られたライフルだよ。最大射程距離2000m以上で、専用のサプレッサー付き。撃たれた奴は狙撃手の姿を見ることも無く、そして、音もなく殺される。故に《
リヒターの説明を聞く中、そのプレイヤーはなめらかな足取りで、ペイルライダーに近づく。
そして、マントの中から一丁の銃を取り出した。
見た目がしょぼく、攻撃力が低そうに見える銃だった。
そう思ってる間に、そのプレイヤーは十字を切り、左手を握りに添える。
そして、引き金を引こうとした瞬間、カイはとてつもなく嫌な予感がした。
引き金が引かれる。
その瞬間、プレイヤーは体を大きく後ろに仰け反らせた。
その後、1発の弾丸がプレイヤーの胸元を僅かに掠め、後ろの地面に大穴を作った。
「今のは!?」
「恐らくシノンだ。この大会で、遠距離狙撃出来て、あれだけの威力が出せるのはシノンの《へカートⅡ》だけだ。でも、姿を見られない限り狙撃手の最初の一射は分からないはずなのに………」
リヒターが疑問を口にしていると、男は手にした拳銃でペイルライダーを撃ち抜いた。
だが、HPはあまり減らずに、まだ9割残ってる。
麻痺が解けたペイルライダーはバネのように飛び上がり、ショットガンを構える。
だが引き金を引く前に、ペイルライダーは、両ひざが崩れ落ち、体を右に傾け倒れた。
弱々しい動作で左手で胸を掴む。
その姿は、まるで苦しんでいるように見えた。
そのままペイルライダーは倒れ、体がノイズを思わせる不規則な光に包まれ消滅し、《DISCONNECTION》と文字が浮かび上がり、消えた。
ペイルライダーを撃ったプレイヤーは、戦闘の様子を中継しているバーチャル・カメラに向かって口を開く。
「俺と、この銃の、真の名は、《死銃》……《デス・ガン》だ」
冷たい無機質な奥に生々しい感情の歪みを押し込んだ声が響く。
「俺はいつか、貴様らの前にも、現れる。この銃で、本物の死を、もたらす。俺には、その力がある」
手にした銃が黒い銃は、怪しく光輝く。
「忘れるな。
死銃はフードの下で、にやりと笑みの気配を盛らし、あのセリフを言う。
かつて、SAOを恐怖に陥れた、あのセリフを。
「イッツ・ショウ・タイム」