ALO 空中都市《イグドラル・シティ》の一画
アスナとキリトの2人が共同で借りてる部屋に、リズ、トバル、シリカ、レオ、クライン、リーファ、ジーク、ピクシーモードのノアとユイの10人がいる。
今日ここに集まったのは《MMOストリーム》が生中継してるGGOの最強者決定バトルロイヤル《第3回BoB》を見るためだ。
エギルは自身が経営する喫茶店兼酒場がちょうど賑わう時間だから来れていない。
ちなみにアスナは今、エギルの店の2階からダイブさせてもらっており、大会が終わったら即行でキリトを捕まえてあれこれ言うつもりでいる。
「それにしてもキリトとカイ、それにミトはなんでまた、ALOからコンバートしてまでこの大会に出ようって思ったのかしら?」
エメラルド色の液体で満たされたワイングラス片手にリズが首を傾げる。
「それがね、なんだがおかしなバイトを引き受けたみたいなの。VRMMOの、っていうか《ザ・シード連結体》の現状をリサーチする、みたいな。GGOは唯一《通貨還元システム》があるゲームだからって」
「ま、どんなゲームでもすぐにコツを掴めるアイツらならこのバイトは適任かもな」
湯飲みに入ったお茶を飲みながら、ソファーに座ってるトバルが言う。
「そう言えば、ミトさんはなんでGGOに?」
レオもジュースを飲みながら、聞く。
「カイ君が心配だから着いて行くって言ってたよ」
その答えに、全員が納得した。
「でも、それなら大会にでなくてもいいんじゃないのか?リサーチだから、プレイヤーに話を聞くとか」
ジークそう言い、全員が首を傾げる。
「もしかして、大会で優勝して、大金でも得ようとしてるのかもしれませんね。確か、還元できる最低金額が高いって聞いたことありますから」
シリカの発言で、ノアとユイが補足説明をする。
「公式サイトにレートの記載はありませんが、ネット上では還元最低金額はGGO内の通貨で10万クレジット、対JPYのレートは100分の1なので1000円からとなります」
「プレイヤーの登録メールアドレスから電子マネーのチャージ済みコードが送信される形で、優勝賞金は300万クレジットだから、還元すると3万円です」
わざわざ調べてくれた2人にアスナは感謝をし、再び考える。
「還元システムは複雑じゃないみたいね」
「電子マネーをコード化してメールで受け渡しとか、俺たちも良くするしな」
「なら、実地で確かめるまでもないのでは?」
リズ、トバル、ジークの順番に各々の考えを言う。
「賞金の3万にくらっときたっつうセンはあっけどな!」
カウンターで酒を飲んでるクラインのセリフにリズとトバルが「あんたじゃあるまいし」「お前とアイツらを一緒にするな」と突っ込まれる。
「それにしても、あのキリトとカイ、ミトがここまで動かないとはな」
「バトルロワイヤル形式のPvP対決なら普通、隠れたまま上位入賞って手が通用しませんからね」
「それに、お兄ちゃんの性格からして、戦闘サウンドを聞いてじっと我慢してられるとは思えません」
「それを言うなら、師匠も同じですよ。師匠もああ見えて、我慢するのが苦手ですし」
16分割されたスクリーンにはカイとキリト、ミトの名前は無い。
戦闘中以外の人を映しても面白くない為だが、30分経って、未だに3人の名前が出ない事に、全員が不思議に思う。
もしかしたらすでに死んでしまったのではと思うが、スクリーンの右端にある出場者一覧では3人とも、状態は《ALIV》で、生きてるのが分かる。
「もしかして、戦うこと以上に、大事な目的があるんですかね?」
シリカがそう言った瞬間、16分割された画面の中央の戦闘が佳境を迎えた。
ダインが銃を構え連射するが、対戦相手のペイルライダーは柔軟な動きで橋の上を縦横に跳び、一気に接近。
そして、ショットガンを立て続けに発砲した。
「あの人強いね。こうしてみるとGGOも面白そうよねぇ。銃って作れないのかな?」
「刀……は、無理だよな。でも、ナイフや銃剣……なんなら、サーベルとか軍刀とか作れねぇか?」
「お2人とも、まさかGGOにコンバートするなんて言いませんよね?」
「そうですよ。もうすぐ二十層開放のアップデートがあるんですから」
「わかってる、わかってる。どんなゲームにも強い人はいるんだなーって思っただけよ」
「あっちの世界で手に入る素材で刀が打てたらどんなのが作れるか気になるだけだっての」
レオとシリカに突っ込まれ、トバルとリズは手を上げて言う。
「それにしても、このショットガン持ってる人強いわね。きっと、この人が優勝候補……」
リズがそう言った瞬間、ペイルライダーはばったりと倒れた。
急に画面が変わり、その倒れた人の画面になった。
死んだわけではなく、右肩のダメージ痕を中心に細かいスパークが這い回っている。
「風魔法の《
その光景に、リーファがそう呟く。
「俺、あれ苦手なんだよなぁ。ホーミング性能良すぎるだろ」
対してクラインは、げんなりした表情で言う。
「お前は弱体化魔法全部が苦手だろ。少しは魔法抵抗スキル上げろ」
「へん、やなこった。侍たるもの魔の文字が付くスキルは取れねぇ、取っちゃならねぇ!」
「あのねぇ、大昔から、RPGの侍は戦士プラス黒魔法なクラスなの!」
クラインとトバル、リズの掛け合いに苦笑しながらアスナは問題の画面をフォーカスし、2本の指で開いた。
今だに倒れているペイルライダーが拡大され他の中継を隅に押しやる。
倒れてから十秒以上経つ。
すると、ばさっと言うサウンドが響き全員がぴくりと体を動かす。
画面の左側から黒い布が現れ、カメラが徐々に引き、その正体を映す。
「………ゴースト………?」
誰が呟いたが分からないが、その姿はアインクラッドで闘った幽霊系モンスターに似ていた。
ぼろぼろのマントを着たプレイヤーは肩に大きな黒いライフル銃を掛けてる。
誰もが、きっと遠距離狙撃で動きを封じてから、近距離でトドメを刺すのだと思った。
だが、ボロマントのプレイヤーは懐に手を入れ、1丁の黒い銃を取り出す。
「……しょぼくねぇ?」
クラインの言葉に全員が頷く。
「どうみても肩のでけぇライフルの方がATK上っぺよな。あっちで撃ちゃいいのに」
「弾代が高いとかじゃないですか?ALOでも大魔法は高い触媒を使いますし」
ジークのセリフに一同うむむと考える。
ボロマントは十字を切り、黒い銃でペイルライダーを撃とうとした瞬間、行き成り大きく仰け反り、先程まで心臓があった位置をオレンジ色の光弾が貫く。
それが、何者かからの遠距離狙撃だと、全員が思う。
そこで、ボロマントのプレイヤーが黒い銃でペイルライダーを撃つ。
放たれた弾丸は胸の中央に当たるがHPはまだ9割残ってる。
そこで、麻痺が解けペイルライダーはバネの様に起き上がる。
そして、持ってたショットガンをボロマントに突きつける形で引き金を引こうとする。
「うわ、大逆転」
リズがそう口走ったが、轟音も、閃光も起きなかった。
ペイルライダーは、両ひざが崩れ落ち、体を右に傾け倒れた。
弱々しい動作で左手で胸を掴む。
その時、ヘルメット越しに見えたかの表情は死に逝く者達が感じる死への恐怖そのものだった。
そして、体がノイズを思わせる不規則な光に包まれ消滅し、《DISCONNECTION》が浮かび上がり、消えた。
ボロマントのプレイヤーは、バーチャル・カメラに向かって口を開く。
『俺と、この銃の、真の名は、《死銃》……《デス・ガン》だ』
冷たい無機質な奥に生々しい感情の歪みを押し込んだ声が響く。
『俺はいつか、貴様らの前にも、現れる。この銃で、本物の死を、もたらす。俺には、その力がある』
手にした銃が黒い銃は、怪しく光輝く。
『忘れるな。
死銃はフードの下で、にやりと笑みの気配を盛らし、あのセリフを言う。
かつて、SAOを恐怖に陥れた、あのセリフを。
『イッツ・ショウ・タイム』
最後に言ったたどたどしい英語にジークとリーファ以外の全員が最大の衝撃を受けた。
「う……嘘だろ……あいつ……まさか……」
カウンターで酒を飲んでいたクラインは、酒の入ったコップを落とし、口を震わせる。
「クラインさん、知ってるの!?あいつが誰なのか!?」
クラインの嗄れ声にアスナが叫ぶ。
「いや、名前までは……。でも、これだけは断言できる」
「ああ。奴は《
トバルも、声を震わせ言う。
「あの、ラフコフって?」
「えっとね………」
《
「まさか、キリトとカイの奴、昔の因縁に決着を付けようとGGOに………」
「それなら、ミトの奴も一緒に着いて行った理由も分かる。あの話は、カイにとっちゃトラウマだ。傍に居たいって思うのも無理はねぇ」
「でも、それだとバイトの話はどうなるんですか?キリトさんと師匠は、誰かに依頼されてGGOに行ったんですよね」
全員が騒ぎ立てる中、アスナは立ち上がる。
「私、一度落ちて二人の依頼主と連絡取ってみる」
「え!?アスナ知ってるの!?」
「うん、本当はみんなも知ってる人なの。ここに呼び出して問い詰めるわ。ユイちゃん、ノア君、私がログアウトしてる間にGGO関係のことを調べといて。特に死銃について」
「「了解しました」」
ノアとユイが同時に声を上げ、ネットから情報を拾う作業を行う。
「じゃあ、みんなちょっとだけ待ってて!」
そう言ってアスナは水色のロングヘアを揺らしてメニューウィンドウを出し、ログアウトした。