「シノン、死銃は狙撃手だ。狙撃手ならどこに向かう?」
5人で、襲い来る敵を蹴散らしながら進んでいると、キリトがシノンにそう尋ねて来る。
「そうね。遮蔽物の少ないオープン・スペースは苦手だと思うから島の中央の都市廃墟を選ぶ可能性は高いわ」
「よし、俺たちも廃墟を目指そう」
廃墟に向かいつつ、カイ達は眼下の川に目をやる。
キリト曰く、装備重量を軽くすれば、川の中を泳いで移動することも可能らしく、おまけにスキャンにも映らない。
もしかしたら、死銃もその方法でスキャンから逃れているのでは思い、また川を潜って移動してるとしたら、HPが無くなる前にどこかで水上に出る。
だが、川には何も変化は無く、死銃と会うことは無かった。
「会わなかったわね。もしかして、追い越しちゃったとか」
「いや、走りながら川に注目してたから、それはない」
「なら、もうこの街のどこかに潜伏してるってことね」
廃墟都市を見上げ、ミトがそう言う。
「ああ、次のサテライトスキャンで、死銃を特定したら奴が誰かを攻撃する前に強襲。俺とカイ、ミトで突っ込んで、シノンが援護。リヒターはシノンの護衛。いいな?」
作戦を説明し、キリトが確認を取る。
「いいけど、死銃が本名じゃないって分かってる?キャラネームが分からないと位置を突き止められないわよ」
シノンに言われ、キリトは顎に手をやって、考える。
「確か、初参加は《ペイルライダー》に《銃士X》と《ステルベン》、それに《JB》と《スノウ》、《リンクス》か」
「なら、《ペイルライダー》は殺されたから、死銃の可能性があるのは《銃士X》と《ステルベン》と《JB》、《スノウ》、《リンクス》の5人で、スキャンで廃墟に居た方が死銃ってわけね」
「ああ、だがもし5人共、あるいは複数人が居た場合のことも考えよう」
「銃士Xの銃士を逆にして死銃。Xはクロスで十字…………っての安易すぎかしら」
「いや、その可能性も無くはない。名前なんて安易なものだろ。それより、俺はステルベンが気になる」
「リンクスって奴、ライフルで予選戦ってたよな?あれはフェイクで、本当はあっちのライフルを使ってるって線もあるんじゃ?」
「なら、第1候補を《ステルベン》、第2候補を《リンクス》、第3候補を《銃士X》にしましょう」
「《JB》と《スノウ》はどうする?」
「現時点では、何とも言えないな」
「せめて、接触することが出来ればある程度のあたりは付けれると思うんだが……」
結局、《JB》と《スノウ》は保留とし、第1~第3候補が廃墟都市に居たら、高い順に狙うことにした。
4回目のスキャンが行われ、5人hあはすぐにマップを操作し、探す。
「廃墟都市に居るのは、《銃士X》だけ!」
「そいつが死銃だ!」
「そして、狙われてるのはおそらく《リココ》」
「中央スタジアムからやや西に離れたビルか」
全員で、銃士Xの居る場所へと向かう。
朽ち果てたスタジアムにつくと、朽ちかけたコンクリートの縁、銃眼の様な三角のひび割れの奥にライフルの銃口が見えた。
「いた、あそこ」
「よし、今の内にアタックする。俺は正面から行く。カイとミトは別方向から。シノンは万が一に備えて援護を。リヒターはシノンを頼む」
全員が緊張した面持ちでキリトの言葉に首肯し、それぞれ行動を開始する。
まずカイが非常階段へと駆けていいき、ミトはビルの裏口へと向かう。
キリトは、そのまま正面から入り、銃士Xへと向かう。
正面から入ったキリトはそのまま屋上へと向かい、驚いた。
何故なら、銃士Xが女だったからだ。
死銃の性別は、男なのは間違いがない。
そこで、キリトは自分たちは推理を間違えたと理解した。
キリトの姿を見た銃士Xは臆することなく、堂々とキリトに名を名乗るが、キリトは申し訳なさを感じながら、名乗りの最中の銃士Xを斬った。
「早くカイ達にも知らせないと!」
そう思い、戻ろうとした時だった。
振り返ると、頭陀袋の様な覆面を被った男が現れ、キリトに向けてナイフを振る。
「なっ!?」
キリトは驚きながらも、《ファイブセブン》を抜き、ナイフを受け止める。
「ひゅー♪やるじゃん、《黒の剣士》!さすがだねー」
男は感心したように言うが、すぐにキリトに向かってナイフを振るう。
だが、キリトもすぐに冷静になり、男の攻撃を躱し、後ろに下がる。
「そのふざけた喋り………まさか、お前まで居るとはな……ジョニー・ブラック!」
目の前の男の名は、ジョニー・ブラック。
かつてSAOで多くのプレイヤーを殺した殺人ギルド《ラフィンコフィン》のメンバーであり、《赤眼のザザ》と共に幹部を務めていた男であると、キリトは確信した。
「おいおい!ここで、SAO時代の名前を呼ぶのはご法度だろ?ここじゃ、《JB》って名前なんだよ」
「なるほど……ジョニー・ブラックの頭文字で、《JB》か」
「そういうことだよ!!それじゃあ、死んでくれや!!」
「断る!!」
キリトはそう言いながら、《ファイブセブン》を構える。
裏に回ったミトは、銃を構えながらビル内を移動する。
(このまま屋上まで一気に向かおう!)
階段を駆け上がり、5階まで上がった時だった。
1発の銃声が響き、ミトに当たりそうになった。
幸いにも、
そこには、森でカイを襲った女性プレイヤーが、《モーゼルM712》を構えていた。
「ああ……ようやくお会い出来ましたね………」
女性プレイヤーは、ミトの姿を見ると興奮したように声を出し、歓喜に震えていた。
「貴女は……!」
ミトは、その女性プレイヤーの雰囲気に、何かを感じ取り、思わず一歩下がる。
「ふふ、どうしました?私ですよ?」
そう言うと、女性はフードを取る。
「あぁ……やっと会えました……私の愛しい人……」
女性はうっとりとした表情を浮かべる。
「貴女、まさか……!どうしてここに……!」」
「どうしてって……私は貴女のことが大好きですから……ずっと探していましたよ……貴女に会うために、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!」
狂ったように叫ぶ、女にミトは確信を持った。
「やっぱり、貴女、《コユキ》ね!」
「はい♡貴女の、貴女だけのコユキです♡ミト様♡ここでの名前は《スノウ》ですけど、《コユキ》と呼ばれる方が、私も嬉しいのでそっちで呼んでくださってもいいですよ♡」
コユキは満面の笑みを浮かべた。
「貴女までどうしてGGOに!?」
「ふふっ♡ミト様が居るなら、私は何処にでも行きますよ♡」
「なっ……!?」
ミトの質問に答える気がないのか、コユキは銃口を向けてくる。
「そんなことより……ミト様には大人しく捕まってもらいますよ♡安心してください、ミト様を殺したりしませんから♡殺すのは、あの
コユキの口から発せられた言葉を聞いた瞬間、ミトは身体を震わせた。
「カイを……殺すつもり?」
「はい♡あの男は、私とミト様を引き離した最低な男です。少々心苦しいですが、ミト様を人質にあの男を捕まえ、公衆の面々で処刑………あの男さえいなくなれば、ミト様も目が覚めるはずですよ♡」
「…………」
ミトは黙って聞いていた。
そして、銃を仕舞い、《フォトンサイズ》を構える。
「コユキ……そろそろいい加減にしなさい」
そう言い、《フォトンサイズ》を起動させ、紫色の光刃をコユキへと向ける。
「私の愛する人をこれ以上侮辱するなら、私は貴女を許さない!」
強い口調で言うミトに対し、コユキは不敵な笑みを浮かべる。
「可哀想なミト様………あの男に騙されて…………やっぱり私がミト様を助けて差し上げないと!」
コユキは《フォトンソード》を取り出し、2人は向かい合う。
「取り敢えず………手足を斬り落として動けないようにしてあげますね♡大丈夫ですよ?動けないミト様は、私がお守りしますから!」
「そんなの、お断りよ!」
「リヒター、私たちも行きましょう」
「……ああ」
シノンは、3人を援護できるスタジアムから南西にあるビルに向かおうとする。
「なぁ、シノン。さっきの、死銃が銃士Xかもって推理だけど。あれ、間違ってると思うんだ」
「え?どうして?」
歩きながら突然そんな事を言い出したリヒターに、シノンは疑問の声を上げる。
その直後、シノンの左腕に激しい衝撃を感じ、撃たれたと分かった。
だが、逃げる前に足が動かなくなり、路面に棒倒しになった。
両眼を投げ出された左腕を見下ろすと、腕に何やら銀色の針のようなものが刺さっていた。
そしてそこから青白く糸のようなスパークが起きていた。
電磁スタン弾だ。
シノンは瞬時に、自分が死銃に撃たれたと理解した。
だが、弾が飛んで来たのは南側。
銃士Xが居るのは北側。
明らかに、違かった。
そう思った時、南に約20m離れた空間に何者かが突然現れた。
それは、死銃だった。
まるで幽霊の様に突如姿を現した事にシノンは驚く。
だが、瞬時に理解した。
(メタマテリアル光歪曲迷彩!?)
メタマテリアル光歪曲迷彩とは、装甲表面で光をすべらせて、自身を不可視化する究極の迷彩能力で、一部の高レベルネームドMobだげが持つ技。
モンスターが導入されるとは説明に無かったので、シノンは、死銃の身に纏うボロマントが、レアアイテムだと察し、リヒターを見る。
「リ、リヒター……!逃げ……!」
シノンは、リヒターに逃げるように促そうとするが、リヒターはその場に立ったまま、動かなかった。
「ああ……やっとだ……やっと一緒に居られるよ………」
リヒターはそう呟き、額を押さえる。
そして、笑いながら髪を掻き上げ、シノンを見下ろす。
その目は、普段の優しいリヒターから想像できない程、狂った笑みをしており、シノンは恐怖を覚える。
「ふふっ……シノンには悪いけどね。もう、我慢の限界なんだ……」
「リ、リヒター!?何を言ってるの!?」
訳の分からない事を口走るリヒターに、シノンは困惑しながら問いかける。
「ようやくだ……ようやくだよ。これで、君を僕だけのものに出来る、