この度転職しまして、その関係で投稿が遅くなりました。
諸々が一段落したので、投稿再開です
突如、自身の本名を言うリヒターに、シノンは驚き、困惑した。
何故、リヒターは自分の本名を知っているのか。
「リヒター……なんで………!」
「不思議かい?どうして、シノンの本名を知っているのか?それはね………」
リヒターは愉快そうに笑い、シノンに真実を告げた。
「新川恭二………それが僕の名前だって言えば分かるよね?」
「う……嘘………」
「嘘じゃないさ。リヒターはサブ垢で作った、GGOでの新しいアバターさ。《シュピーゲル》と違い、STR特化の最強のプレイヤー。本当の僕さ」
「ずっと……騙してたの………?」
「騙すなんて、酷い言い方だなぁ。むしろ騙されてたのは、僕の方さ。ゼクシードのクソ野郎がAGI特化型最強とか大法螺拭いて、GGOで最強になれたはずの《シュピーゲル》はM16すら装備出来ない哀れな奴になってしまったんだからね。だけど、それももうおしまいだよ。新しい僕は無敵なんだ!《リヒター》は最強なんだよ!」
リヒターは両手を広げ、歓喜し、酔いしれる。
だが、すぐに笑みを引っ込め、暗い表情をする。
「ねぇ、シノン。どうして《リヒター》なんだい?なんで、《シュピーゲル》じゃないのさ?どうして君は………《リヒター》を愛して、《シュピーゲル》を愛してくれない?」
シノンを見つめる瞳の奥に、どろっとした薄気味悪い感情を見せて、リヒターは尋ねる。
「どうして僕の事をもっと見てくれないんだい?どうして《シュピーゲル》じゃなくて、《リヒター》なんだ!?どうして、僕を選んでくれないんだ!!」
リヒターは絶叫し、シノンに言う。
「おい……落ち着け……」
絶叫するリヒターに、ボロマントの男《
「さっさと……終わらせろ……」
「………分かってるよ、兄さん」
そう言い、リヒターは《
(今だ!)
リヒターの視線が外れた瞬間、シノンは痺れる右腕を何とか動かし、副武装の《MP7》を手にする。
リヒターは《
《
(この至近距離なら!)
そう思い、引き金を2人に向けて引こうとした。
それと同時に、リヒターは受け取った銃をシノンへと向ける。
その銃がシノンの視界に入った瞬間、《MP7》の引き金を引こうとした指が動かなくなった。
指だけでなく右腕が、全身が固まり、手にした《MP7》が震え、標準がブレる。
銃のクリップに円が刻まれ、その中にある黒い星。
リヒターが受け取った銃は《
《デザートイーグル》や《M500》よりも、小口径でダメージ量も低い、弱い銃。
だが、シノンにとってその銃はどの銃よりも恐ろしい物だった。
「あっ……ああ………!」
右手から《MP7》が落ちる。
「怖いかい、シノン?でも、大丈夫。僕もすぐにそっちに行くよ。あの世で、2人っきりで幸せになろう」
リヒターは狂った笑みを浮かべ、十字を切り、銃口をシノンへと向ける。
後は引き金を引くだけでシノンは終わる。
その瞬間、1発の銃声が響いた。
《
何が起きたのか、シノンは一瞬理解できなかった。
銃声が響いた後、リヒターの腕は大きく弾かれ、その衝撃で《
「ぐっ!?」
「隠れろ……!」
腕を押さえるリヒターを、《
《
しゅこっ、と減音された音が響く。
それと同時に、リヒターと《
煙幕がシノンを包むと、突如、何者かがシノンへと接触しシノンを肩に担ぐ。
右肩にシノンを乗せ、左手でシノンの《へカートⅡ》を持ち、更には《MP7》も回収し、その人物は全速力でその場を離脱した。
(え?誰………?)
シノンは自分を抱えるのが誰なのかを見る。
黒いロングヘア―で、腰にはサーベルを吊り、眉間には皺が寄ってる男性プレイヤー。
カイだった。
「カ……カイ………!」
「無事か、シノン!間に合って良かった!」
カイはシノンを抱え、走りながら言う。
だが、カイのSTR値を以てしてもシノンに加え、《へカートⅡ》の重量を抱えるには要求値が足りず、普段以上にスピードが出せないでいた。
「このままじゃ、追い付かれる………私は置いて行って………!」
「馬鹿言うな!置いて行くわけないだろ!それに、対策は取ってある!」
その言葉と同時に、2人の目の前にジープが現れる。
「カイ!乗れ!」
ジープを運転していた何者かは、カイに向かって叫ぶ。
カイは、跳躍してジープに乗り込む、
「出せ!」
カイがそう言うと、その何者かはアクセルを踏み、その場から走り出す。
「このままあの建物を迂回するように通ってくれ!」
運転している何者かに、カイはそう言うとシノンを後部座席に寝かせ、《コルト・パイソン》を抜き、上空に向けて発砲した。
3発連続で撃ち、その後、一拍置いて残りの残弾を撃つ。
ビル内で、コユキと戦っていたミトは攻めあぐねていた。
狭いビル内では、《フォトンサイズ》での戦闘は相性が悪く、ミトは決定打を打てなかった。
対して、コユキは《フォトンソード》の扱いに慣れているらしく、狭いビル内でも戦えていた。
「どうしたんですかミト様?さっきから防戦一方ですよ?」
コユキは愉快そうに笑い、赤い光刃を揺らし、ミトを攻撃する。
(くっ!やっぱ、鎌だと狭い室内での戦闘は無理があるわね!)
コユキの攻撃を躱しながら、ミトは焦る。
(一旦退却するべきだけど、廃ビルの中がどうなってるか分からない状態で闇雲に逃げるのは…………)
頭の中で策を練っていると、外から銃声が聞こえた。
「くそ!」
「よっと!危ねぇ危ねぇ!」
屋上で、キリトの《フォトンソード》の攻撃を躱し、ジョニー・ブラックは笑う。
「流石は《黒の剣士》!いい腕だ!ソードスキルの再現も様になってる!ここがSAOだったら、今頃俺の胴体は真っ二つだぜ!でもなぁ……」
ジョニー・ブラックはニヤリと笑い、ナイフを振るう。
「いくら似てても本物のソードスキルには遠く及ばねぇんだよ!!」
キリトは、ジョニー・ブラックを攻撃する際は、使い慣れた《片手剣》のソードスキルの技で攻撃していた。
最早、身体に染みついたと言っても過言ではない動きから放たれる攻撃は、ソードスキルと見間違うほどだ。
だが、システムアシスト無しでの攻撃では、本来のソードスキル並みの速さは出せず、更に、ジョニー・ブラック自身《片手剣》のスキルは見飽きてると言って良い物なのでキリトの再現ソードスキルを躱すのは容易かった。
「ぐっ!?」
ジョニー・ブラックのナイフを《ファイブセブン》で受け止めたキリトだったが、その威力に押されて後退する。
(だが、この距離なら躱すのは難しいだろ!)
距離を詰められたことで、キリトはジョニー・ブラックのナイフを銃で受け止めながら、右手の《フォトンソード》を振る。
「そしてぇ!」
ジョニー・ブラックは左腕を振るい、袖から新たなナイフを出し、空いてる左手に装備する。
「《二刀流》もテメェの専売特許じゃねぇ!」
左手のナイフを突き出し、刃がキリトに迫る。
「くそっ……!」
やむを得ずキリトは後ろに下がり、ナイフを回避する。
「ひゅ~!やるねぇ、《黒の剣士》!」
ジョニー・ブラックは余裕綽々と言った様子で、ナイフを構える。
(くっ!戦い辛い……!剣の重さを感じれないだけで、ここまで戦闘に影響があるなんて………!)
手にした《フォトンソード》を見つめ、キリトは歯噛みする。
(早く情報をカイ達に伝えないといけないのに!)
焦りばかりが募り、キリトの動きが鈍くなる。
「おいおいどうした?さっきまでの勢いはどこ行ったんだ?」
ジョニー・ブラックの言葉を無視し、キリトは必死に打開策を考える。
(一旦退くべきか?いや、あいつは絶対に逃してくれない筈だ……。何か方法はないか?)
キリトが再び考え始めたその時、銃声が聞こえた。
(今の銃声、カイのだ!)
銃声を耳にしたミトは、直ぐに動いた。
ミトは、ポーチから出したスモークグレネードを取り出し、コユキへと投げつける。
狭い廊下に白煙が焚かれるのを横目に、ミトは一目散にコユキとは反対方向に向かう。
(銃声が聞こえた方から考えると、恐らくカイが居るのは!)
ミトの目の先には、窓があった。
ミトは《ベレッタ》を抜き、窓に向けて発砲する。
銃弾は窓を破壊し、粉々になったガラスと共に、ミトは窓から飛び降りる。
そして、飛び出した先の真下には、ジープが止まっていた。
「ミト!」
ジープの後部座席にいたカイは、手を広げる。
ミトは躊躇なくその腕の中へ飛び込んだ。
ミトがビルから飛び出したのと同時にキリトは、ジョニー・ブラックに背を向け走り出し、そのまま屋上から飛び降りた。
そして、ジープの助手席へと落下する。
「出せ!」
ミトとキリトの2人がジープに乗ったのを確認すると、カイは運転しているプレイヤーに向かって命令する。
「分かってる!」
プレイヤーは、そう言いアクセルを全開にし、勢いよくジープを発進させた。
ジープは、勢いよく道路を走り抜けていく。
「カイ、何があったんだ!」
「カイの銃の発砲音が聞こえた時は驚いたけど、何があったの?」
銃を3回発砲した後、一拍置き、再度3回発砲したら、戦闘中であってもすぐに集まる緊急時の合図。
それが聞こえた為、ミトとキリトはコユキとジョニー・ブラックとの戦闘を中止し、こうして集まった。
「詳しい事は後だ!簡潔に言うと、シノンが死銃に襲われた!そして、リヒターは死銃の仲間だ!」
「……マジかよ」
「そんな……」
2人は信じられないといった表情を浮かべる。
「とにかく今は、この場から離れるぞ!」
カイはハンドルを握るプレイヤーに指示を出す。
ジープはそのまま猛スピードで街中を駆け抜ける。
しかし、
「……もう来たのか」
後方から死銃が、金属フレームとギア類をむき出しにしたロボットホースに乗り追って来た。
更に死銃だけでなく、ジョニーブラックとコユキ、そしてリヒターがサイドカー付きのバイクに3人乗りで、追いかけて来た。
「くそっ!ミト、キリト!応戦するぞ!」
「ええ!」
「ああ!」
カイとミト、キリトの3人は銃を抜き、後方に向けて撃つ。
だが、銃の扱いに不慣れな3人では、当たる筈もなく全て外れてしまう。
「このままだと追い付かれる!」
カイは《コルト・パイソン》をリロードしながら、焦った声で言う。
(カイ達が戦ってる……私も……戦わないと………!)
戦うカイ達を見て、シノンは震える身体を無理矢理起こして、《へカートⅡ》を構える。
距離はおよそ、200m。
不安定なジープの上からでも、普段のシノンの腕なら決して外す事は無い距離。
「え…なんで……」
だが、シノンはトリガーが引けなかった。
何度やっても、どれほど力を込めてもトリガーが引かれることは無かった。
「…引けないよ……なんでよ……トリガーが引けない………!」
その事に困惑し、動揺している内に、死銃たちとの距離は詰められる。
距離が100mまで縮まると、死銃は《
そして、銃口からオレンジ色の炎が吹き、死の弾丸がシノンへと放たれる。
だが、銃弾はシノンに当たらず、シノンの横を通り過ぎる。
「嫌ああぁ!」
シノンはとうとう悲鳴を上げた。
「やだよ……助けて……助けてよ」
赤ん坊のように体を縮めて弱々しい声を上げる。
「ちっ、しつこい連中だな」
すると、運転していたプレイヤーはハンドルから手を離した。
「おい、お前。運転代われ」
「はっ!?アンタ、急に何を!?」
そのプレイヤーはキリトに運転を強引に変わってもらい、ジープの上で立ち上がる。
そして、脇に置いてあって自身の銃《三八式歩兵銃》を構え、そのプレイヤー、リンクスはスコープを覗き込む。
「揺れが酷いが、まあいいか」
リンクスはニヤリと笑うと、銃口を死銃に向ける。
そして、怯えるシノンへと声を掛けた。
「なぜ撃たない?」
リンクスの言葉に、シノンはビクッと反応する。
「そのままじゃ殺されるぜ?なら、なぜ撃たない?」
「だって……だって……!怖いの……!あいつが怖くて……!」
「怖いか……なら尚更だ。なぜ撃たない?」
シノンに声を掛けながら、リンクスは狙いを定める。
「逃げて、怯えて死ぬぐらいなら、最後まで立ち向かうんだろ?なら撃て」
リンクスの言葉にシノンは覚悟を決めたのかのろのろとした動作でへカートを構え、スコープを覗く。
トリガーガードの中の指を動かし、トリガーを引こうとするがやはりトリガーは引けなかった。
「撃てない……撃てないの。指が動かない。私……もう戦えない」
「できる。その銃はお前自身だ。お前が撃つと決めたら、引き金は引ける。今のお前に、まだ狙撃手としてのプライドが少しでもあるなら………決めろ」
そして、リンクスは引き金を引いた。
放たれた弾丸は、死銃ではなく、ロボットホースへと向かう。
しかし、《三八式歩兵銃》程度の弾丸では、ロボットホースを破壊することはできない。
破壊するなら高威力の銃、それこそシノンの《へカートⅡ》並みの代物が要る。
だが、《三八式歩兵銃》の弾丸が当たった瞬間、ロボットホースはバランスを崩し、そのまま火花を散らして転倒した。
リンクスは、剥き出しになっている部分からギアを撃ち抜き、ギアを破壊してロボットホースを内部から破壊した。
騎乗していた死銃は驚きながらも、転倒の直前にロボットホースを飛び降り、無傷だった。
続けて、リンクスは発砲する。
今度は、サイドカー付きのバイクのタイヤに命中し、バイクが横転する。
「やれ、シノン!」
リンクスが叫んだ。
その瞬間、殆ど反射的にシノンは引き金を引いた。
そして、放たれた弾丸は夕闇に螺旋の渦を穿ち突進する。
弾丸は死銃にも、誰にも当たらない。
右側に逸れる。
外した。
マガジンに弾はまだ残ってるが、シノンにボルトハンドルを引く気力はもうない。
だが、《
弾丸はアスファルトに穴を開ける代わりに、横転してる大型トラックの腹を貫いた。
そして、そこから小さな炎が漏れ、トラックは爆発炎上した。
「お見事」
その光景を見て、リンクスはシノンに向けて優しく微笑み、言った。