「キリト、そっちはどうだ?」
「いや、出ない。カイはどうだ?」
「同じくだ」
カイとキリトが《リトルネペント》金策なるものを初めて数時間が経つ。
朝から行っているにしては《胚珠》の集まりは中々に悪かった。
そもそも花付きの《リトルネペント》自体遭遇率が低いので、集まりが悪いのは必然だった。
「朝から始めて二個か」
「これで30000コル」
「なぁ、キリト。これ、地道にモンスター狩る方が効率いいんじゃ………」
「それ言ったら、ここまでの苦労が台無しだろ」
互いに溜息を吐き、武器を仕舞う。
「今日はもう帰るか」
「そうだな」
町へ帰ろうと森から出ようとしたその時だった。
グオオオォォォ!!!
何処からか巨大な叫び声が聞こえ、二人は驚く。
「キリト、今の声は!?」
「あっちからだ!」
二人で声がした方に向かうと、そこでは細剣を持つ女性プレイヤー、アスナが中型のモンスター相手に一人で戦ったいた。
「《ジャイアント・アンスロソー》だ!」
「なんだそのモンスター!?」
「1層の森で偶に現れる中型モンスターだ。獰猛で、好戦的なんだよ!」
「なら、助けるぞ!」
カイがそう言って飛び出し、キリトも続いて飛び出す。
「ふっ!」
キリトの《ソニックリープ》が《ジャイアント・アンスロソー》の右目を切り裂く。
《ジャイアント・アンスロソー》は悲鳴を上げ、暴れる。
そして、すかさずカイが《フェル・クレセント》を叩きこむ。
「そこの人、大丈夫か?」
カイは《ジャイアント・アンスロソー》から距離を取りつつ、アスナの近くに立つ。
「HPは大丈夫か?危ないならポーションで回復を」
キリトも近くに立ち、そう言う。
「HP……そうだ!ミトが!」
すると、アスナは思い出したように声を上げる。
「ど、どうした?」
「わ、私、友達と一緒で!でも、私の所為でその子が《リトルネペント》の集団に襲われていて!しかも崖から落ちて!HPも残り僅かで!」
「落ち着け!」
取り乱すアスナに、カイは大声で落ち着かせる。
「その友達は、何処から落ちたんだ?」
「そ、そこの崖から……」
アスナが指をさす方をカイは見て、頷く。
「キリト!俺はこの人の友達って人を助けてくる!そいつを任せても大丈夫か?」
「ああ、任せろ」
キリトはそう言い、《アニールブレード》を一回転させ、《ジャイアント・アンスロソー》に向かっていく。
カイはそのまま崖から飛び降り下へと向かう。
途中、岩壁に飾られている棺桶を足場にして降りたので、HPが減ることはなく無事、下まで降りる。
「上への道は………あっちか!」
走ってそこに向かうと、鎌を持った紫色の髪を結んだプレイヤー、ミトが《リトルネペント》の集団に苦戦しているのが見えた。
「はあああああああ!!」
カイは《アニールシミター》構え、《リーパー》で一直線上に攻撃する。
レベルの差も結構あり、4体の《リトルネペント》はあっさりと砕け散った。
「え?」
「アンタ、大丈夫か?」
カイは目の前の《リトルネペント》から視線を外さず、尋ねる。
「あ、貴方……どうして………」
「取り敢えず回復した方がいいだろ。ポーションはあるか?」
カイの問いにミトは首を横に振る。
「なら、これ使ってくれ」
そう言い、カイはポーチからHP回復ポーションを取り出し、ミトに投げ渡す。
「それじゃ、俺はこっちの相手しとくか」
ミトがHPを回復するのを確認し、カイは《リトルネペント》に向かっていく。
数が多いと言っても、その数は十数体しかおらず、カイのレベルは既に9はあり、《リトルネペント》は敵ですらなかった。
実付きの実を割らないように、的確に弱点だけを攻撃しカイはノーダメージで《リトルネペント》を撃破した。
全ての《リトルネペント》を倒し終えると、カイはミトに話しかける。
「一応この辺の《リトルネペント》は倒したと思うけど、大丈夫だったか?」
「ええ、助かったわ。でも、ごめん!急いでるの!」
ミトはそう言い鎌を手に走り出す。
「あ、ちょっと待てって!急いでるのはアンタの友達のことだろ!」
そう言うと、ミトは立ち止まって振り返る。
「俺はその子に頼まれてアンタを助けに来たんだ。多分、その子、俺の相棒と一緒にさっきの所で待ってるはずだから案内する。ついて来てくれ」
カイはそう言って先頭に立ち、ミトを案内する。
速足で先程の場所に向かうと、落ち着かない様子のアスナとポーションを飲んで一息入れてるキリトがいた。
「アスナ!」
ミトはアスナの姿を見ると、涙を流して駆け出す。
「ミト!」
アスナも駆け出し、二人は抱き合った。
「良かった!本当に良かった!ミトが無事で!」
「アスナ!ごめん!私、貴女を守るって言ったのに守れなくて!本当にごめん!」
泣きながら謝り合う二人に、カイとキリトは気まずさを感じながらその様子を見守った。
「とりあえず、今日は町まで帰った方がいい。送るよ」
「精神的にも疲れただろうしな」
二人がようやく落ち着くと、カイとキリトは、二人を連れて町まで向かった。
「ここまで来ればあとはもう大丈夫だろう」
「それじゃあ、俺たちはここで」
カイとキリトは町の入り口でミトとアスナの二人と別れようとした。
「あ、待って!」
そんな二人をミトが呼び止める。
「アスナを助けてくれてありがとう。貴方達が来なかったら、私たち……」
「私からも言わせて。ミトを助けてくれて本当にありがとう」
「いいよ、気にすんなって」
「別に大したことしたつもりはないよ」
「だとしても、私たちの命の恩人よ。こんなお礼しかできないけど」
そう言ってミトはコルを渡そうとするが、カイは手で制する。
「本当にいいって。この先、何が起きるかわからないんだ。コルは取っておけって」
「で、でも…………」
「俺たちは大丈夫だから」
そう言い、カイはキリトと宿屋に戻ろうとする。
「じゃあ、せめて名前を教えて!」
「え?」
「今じゃなくても、いつかお礼するから!」
そう言われ、カイとキリトも名前ぐらいならと思い、自身の名前を教えた。
「俺はキリトだ」
「俺はカイ。じゃあな」
そう告げて、二人は去って言った。
「俺はカイ」
「え?」
カイが自分の名前を名乗った瞬間、ミトは驚いた。
その名前はよく知ってる。
昔、1年間だけ毎日一緒に遊んだ少年が使っていたプレイヤーネーム。
それを使っていることにミトは驚いた。
「じゃあな」
「あ!ちょっ!」
ミトが呼び止める間もなく、カイはキリトと共に消えるように去っていた。
「ミト、どうかしたの?」
ミトの様子がおかしいことにアスナは気づき、声を掛ける。
「……………ううん、なんでもない。多分、気のせいだから」
そう言ってミトは伸ばしかけた手を下ろす。
(カイなんて名前、珍しくもないか…………)
そう言い聞かせ、ミトはアスナと共に宿屋へと戻った。
「ミト、か」
その日の夜、宿屋のベッドに寝転がりカイはぽつりと呟く。
「どうした?」
そんなカイに、隣のベッドでメニューウィンドウを操作しながらキリトが尋ねる。
「いや、あの鎌使いのプレイヤー、ミトって名前だったなって」
「知り合いだったのか?」
「いや、そうじゃないよ。ただ同じ名前だなって思ってさ」
「同じ名前?」
「ああ。昔、小学生ぐらいの時に一年ぐらい毎日一緒にゲームしてた友達が使ってたプレイヤーネームがミトだったんだよ。だから、ちょっと懐かしくてさ」
そう言いカイは、布団を被り眠りにつく。
(ま、ミトなんてよくある名前だよな。………今も元気にしてるのかな、アイツ………もしまた会えたなら、謝らないとな…………)
そんなことを思いながら、カイは眠りについた。
ミトとカイの二人は再会しましたが、この時点でまだお互いは昔の友達の使っていたプレイヤーネームと同じだな、としか思ってません。
次回は第1層ボス攻略会議の話になります。