翌朝、トールバーナの噴水広場に集まったプレイヤーは46人だった。
レイドパーティーの上限を満たしていない。
それなのに、広場は活気に溢れている。
武器やアイテムのチェックをして時間を潰していると、ディアベルが現れ、声を上げた。
「みんな!!いきなりだけどありがとう!!誰一人欠けることなく46人が集まった。本当にありがとう!!」
広場にいるプレイヤー全員に、ディアベルはそう言った。
「俺から言うことはもう一つだけだ。皆………勝とうぜ!!」
午後12時半、迷宮区最上階到着。
ここまで来るのに死者が一人も出ずに済んだ。
何度か危ない場面に遭遇したりしたが、ディアベルの的確な指揮で何とか切り抜けれた。
そして今、プレイヤーたちは獣頭人身の型が彫られた扉の前にいる。
そこで、最終チェックが行われた。
「う~ん、やっぱり間に合わなかったか」
そんな中、カイは辺りを見渡し肩を竦める。
「どうしたの?」
そんなカイの様子を不思議に思い、ミトが声を掛ける。
「いや、大したことじゃないけどアルゴにおつかい頼んでたんだよ」
「おつかい?」
「ああ。できれば、ボス戦までにって頼んだんだけど、流石に無理だったか」
そう言い、カイは頭を掻く。
「ま、それよりも昨日の言葉、忘れるなよ」
「ええ、分かってる。ここを生き残れたら、ちゃんと話す」
「なら良し」
カイはその言葉に笑い、ミトも笑い返す。
そこで、ディアベルが自分の剣を抜き、空いてる左手を扉に添えた。
「さぁ、行こう……!」
短く叫び扉を押した。
最初にヒーターシールドを持った戦槌使いの人が率いるA隊が突入し、次にエギル率いるB隊が左斜め後方から突入。
右からディアベルが率いるC隊と両手剣使いがリーダーのD隊。
その後ろにキバオウの遊撃用E隊と長柄武器装備のF隊、G隊が3パーティーで並走する。
最後にカイたち4人パーティーが突入。
20mほど進むと巨大なシルエットが空中で一回転しながら地響きとともに着地した。
青灰色の毛皮に、2mは超える体躯、赤金色に輝く眼。
右手に骨斧、左手に革盾、腰に
獣人の王《イルファング・ザ・コボルドロード》が雄たけびを上げ、46人の挑戦者を出迎えた。
その雄たけびに、誰もが一瞬委縮し、体が強張った。
雄たけびに呼応し《ルインコボルド・センチネル》も3体召喚される。
「主武装は骨斧!副武装は
そんな中、ディアベルは声を張り上げ、前に出る。
「行けるぞ!俺に続け!」
走り出すディアベルに続き、コボルドロードを相手する本隊が突撃する。
コボルドロードとの戦いはキリトやミトの予想を遥かに上回る形で進行していた。
一本目のHPバーはディアベル率いるC隊が、二本目をD隊が、そして、長柄武装のF隊、G隊が現在は三本目のHPバーを半分まで削った。
危ない場面と言えば、
味方同士のHPの管理もできているし、キバオウのE隊とカイ、キリト、ミト、アスナの4人組も余裕をもってセンチネルの相手が出来ていた。
問題はなかった。
その時だった。
コボルドロードが一際けたたましい雄たけびを上げた。
そして、持っていた骨斧とバックラーを投げ捨て、腰の武器に手を伸ばした。
「副武装の
ディアベルが指示を出し、武器を構える。
「次で決めるぞ!C隊、前へ!」
C隊がラストアタックを仕掛ける。
その瞬間、コボルドロードは手にした武器を抜いた。
だが、コボルドロードが抜いた武器は、刃が曲がってはいなかった。
緩く反った刃、鍛えられ、砥ぎ上げられた鋼鉄の色合い。
β時代、多くのプレイヤーを苦しめたその武器の名は刀。
「ダメだ!」
そのことに気づいたキリトは声を上げ、コボルドロードに向かっていくC隊へと走り出す。
「そうはさせへんで!」
だが、そこにキバオウの邪魔が入った。
「何を!?」
「決まっとるやろ!
「
くだらないことを言うキバオウに、キリトはキレる。
「そんなこと言ってる場合か!どけ、武器がβの時と違うんだ!」
「な、なんやと!?」
事の重大さに気づき、キバオウがディアベルの方を振り向く。
その隙に、キリトはキバオウの横を走り抜ける。
だが、もう遅かった。
既に、C隊はコボルドロードの攻撃範囲に入っていた。
刀専用ソードスキル 重範囲技《
攻撃を食らったC隊のHPは、半分まで減った。
さらに加えて、バットステータス《
コボルドロードは、動けなくなったプレイヤーに向け、刀を振り上げる。
そして、その刃が振り下ろされた。
「うおおおおおおおおおっ!」
だが、そのプレイヤーを庇うように一人のプレイヤーが、攻撃を防いだ。
それはディアベルだった。
ディアベルは寸前で、コボルドロードの武器が違うことに気づき、防御態勢に入ったため、《
だが、HPは半分まで減っており、後数発攻撃を食らえば終わる状態だった。
コボルドロードは再び刀を構え、刀スキル《浮舟》を使う。
ディアベルは防ごうと、盾を構える。
「ダメだ!」
キリトが叫んだ。
何故なら、ディアベルの持つ盾はヒビが入り、耐久値が残りわずかしかないのが分かる。
そんな盾で攻撃を受け止めれば、ダメージを受け止めきれず残り半分しかないディアベルのHPは無くなる。
コボルドロードの一撃がディアベルを攻撃する。
「うおおおおおおおおおっ!!」
だが、それより早く一人のプレイヤーがコボルドロードに攻撃を仕掛けた。
それはカイだった。
カイはコボルドロードが刀を抜いた瞬間、
発動直前のソードスキルはソードスキルで打ち消せる。
亜人型Mobと戦う時、キリトに教えられた方法を使い、カイはディアベルたちを助けようとした。
最初の《旋車》には間に合わなかったが、二撃目の《浮舟》には間に合い、何とかソードスキルをコボルドロードの刀にぶつけるが、アシスト任せに放った技ではスキルキャンセルできなかった。
(やっぱり、ぶっつけ本番じゃ無理か!)
カイは心の中で悪態を吐く。
だが、次にカイが見たのは、自分に刀を向けるコボルドロードの姿だった。
《浮舟》はスキルコンボの開始技で、そこから上下からの連撃に、一拍置いて突きを放つ《緋扇》が放たれる。
そして、β時代はこのコンボによって倒れるβテスターは後を絶たなかった。
「まずっ!?」
スキル発動後の為、硬直で動けないカイは防御態勢もとれない。
そのまま《緋扇》の上下からの連撃を食らいHPが
次に来る突きを食らえば終わり。
(くそっ……!ここで終わりか………!)
覚悟を決め、カイは思わず目を閉じた。
次の瞬間、ガキィンッ!と金属音が鳴り響いた。
目を開けると、カイの目には、最後の突きを《アイアンサイズ》で受け止めるミトがいた。
「「はああああああああああ!!」」
そして、続く形でキリトとアスナもやってきて、ミトが受け止めてるコボルドロードの刀を弾く。
「ミト!それに、キリトとアスナ!」
「早く回復して!それまで私たちがタゲ取るから!」
「カイ、ディアベルと下がれ!」
「ここは私たちが!」
ミトは、キリトとアスナと共にコボルドロードへと向かう。
「すまない……!」
三人にそう言い、カイはディアベルを連れて下がる。
他のC隊のメンバーは既に、エギル達B隊によって避難しており、回復を始めていた。
カイは、前線より少し後ろに下がるとポーチからHP回復ポーションを二つ取り出し、一つをディアベルへと渡す。
「すまない……俺の所為で………!」
「気にすんなって。こういう時はお互い様だ」
「………違うんだ」
「え?」
「俺は………君たちを騙してたんだ………!」
ディアベルが絞り出すように言った言葉に、カイは驚く。
「騙したって……何をだ……?」
「俺は………元βテスターなんだ……第1層のフロアボスの
ディアベルにはある目的があって、
だが、その所為で多くの仲間を危険にさらし、更に自分を助けるためにカイが死にかけた。
ディアベルは申し訳なさで、言い訳もできなかった。
「俺は………アンタが悪い人間とは思えない」
「………え?」
「少なくとも、ここまでの指揮の取り方や戦い方、それに今俺に向けてるその感情からアンタが利己的な奴とは思えないんだよ」
ポーションを飲み干し、空の瓶を捨て、カイは言う。
「しっかりしろよ、
ディアベルに笑いかけ、カイは言う。
その時、背後でバリンッ!っとガラスが砕ける音がした。
それは、三人がコボルドロードと戦っている場所から聞こえた。
「今の音!?」
一瞬、嫌な予感がしたが、三人のHPは
なら、何が砕けた音なのか。
振り向くと、それはミトの武器《アイアンサイズ》が砕けた音だった。
「ミト!」
武器を失って、戦えないミトを見てカイは走り出そうとした。
「来ないで!」
そんなカイをミトは止めた。
「まだ回復しきってないでしょ!私は大丈夫だから。回復を優先して!」
武器を失いつつも、ミトは投げナイフを取り、応戦する。
実際、カイのHPは、漸く
「くそっ!」
肝心な時に動けない自分が腹立たしく、悪態を吐く。
「おい、カー坊」
その時、近くの柱の陰から、聞き覚えのある声が聞こえる。
「アルゴか!?」
「そうダ。悪いけど、俺っちはそこまで硬くないから、変にボスモンスターにタゲられるのはゴメンだから、《
そう言うと、アルゴはアイテムウィンドウからある物を取り出す。
「ホラ、おつかいの品だヨ」
「くそ………予想以上に耐久値削られてたか……!」
ミトはコボルドロードの攻撃を回避しつつ、タゲを切らさない様に投擲スキルで投げナイフを投げつつ応戦する。
カイを庇う為にコボルドロードの刀を受け止めたのが致命傷だった為、武器は数合打ち合っただけで壊れてしまった。
幸い、キリトやアスナが、コボルドロードの猛攻からミトを守りながら戦っている為、まだ武器なしでも戦えていた。
「しまっ!?」
その時、キリトが声を上げた。
コボルドロードが《幻月》を使ったのだ。
《幻月》は上下ランダムに発動する技で読みが外れることがある。
キリトは片手剣スキル《バーチカル》の発動をキャンセルして《アニールブレード》を引き戻し、防御した。
だが、それでもキリトのHPは3割以上減った。
「キリト君!くっ……このっ!」
キリトが膝をついたのを見て、アスナがコボルドロードの脇腹目掛け《リニア―》を放つ。
だが、同時にコボルドロードが《緋扇》の構えを取った。
「アスナ、ダメ!」
声を出すも、もう間に合わない。
既にスキルは発動し、《リニア―》が放たれる。
1週間前のリトルネペントに襲われた時のことが、ミトの頭に過ぎった。
(守るんだ……!今度こそ、アスナを!)
ミトはアスナを庇おうと走り出す。
自分の身体を盾にしてでも、アスナを守る。
そのつもりだった。
「ミト!」
その時、カイが自分の名前を呼ぶのを聞いた。
見ると、カイがこちらに向かって走ってきてるのが見えた。
だが、カイのHPはまだ
『来ないで!』
ミトはそう叫ぼうとした、だか、それより早く、カイは投げナイフを取り出し、コボルドロードの目に向け投げる。
投げナイフはコボルドロードの目に刺さり、コボルドロードの攻撃が止まる。
「ミト!受け取れ!」
その隙を逃さず、カイは手にした何かを全力でミトに向かって投げた。
回転しながら飛んでくるその何かをミトは反射的にキャッチし、そしてキャッチした時のスピードを殺さず一回転する。
「はああああああああ!!」
手にしたそれは光り輝き、コボルドロードを攻撃する。
両手鎌スキル《グレイブロード》。
目にも止まらぬ速さで四連撃するスキルが、コボルドロードの身体を切り刻む。
ミトの手には武器があった。
その武器の名は、《アニールサイズ》。
SAO正式版から《森の秘薬》クエストで追加された報酬の一つだ。
ディアベル生存しました