ミトは新しい武器《アニールサイズ》によって、コボルドロードは動きを止めた。
さらに、カイが投げた投げナイフで片目も負傷し、数秒は視界が封じられている。
「間に合ってよかった」
カイはようやく回復しきったHPを見つめ、三人と合流する。
「無茶にも程があるんじゃないのか?」
キリトはHP回復ポーションを飲み言う。
「と言うより、武器を投げ飛ばすとか何考えてるの?もう少しで私に当たるところだったし」
アスナは先程のカイの行動に少しご立腹だった。
「ちゃんと当たらないように考えて投げたよ」
「だとしても危険よ。一歩間違えれば、カイも危険なのに」
ミトは新しい鎌を手にカイに忠告する。
「悪かった。次からは気を付ける………。それで、こっからどうする?」
《アニールシミター》を抜き、カイはコボルドロードを見る。
コボルドロードは復活し、カイ達を睨みつけ、咆哮を上げる。
レイドパーティーメンバーのHPの回復は殆ど終わっているが、士気が絶望的だった。
前情報と違うボスの使用武器、更に新たに出現した
それにより、前線は崩壊寸前。
数十秒もたてば、完全に崩壊し、死亡者が出る。
「このままじゃまずい。なんとかして立て直さないと」
「でも、どうしたら………」
生半可な指示では、余計に混乱させることになる。
その為、何か短く、強烈な一言を言わなければならない。
その時だった。
「全員、ちゅうううううううううもおおおおおおおおおおおおおく!!」
ディアベルが、ボス部屋全体に響き渡る声を出した。
その声に全員が驚き、混乱する声が消える。
どう言うわけか、コボルドロードも驚き、動きが止まったように見える。
「これより、第1層フロアボス討伐作戦、最後の指示を伝える!」
そう言うと、ディアベルはゆっくりとした足取りで、キリトの隣に立ち、キリトの肩に手を置いた。
「現時刻をもって、前線指揮を俺から彼に移行する!彼の指示の下、ボスを倒せ!」
ディアベルが出した指示に、周りは一瞬困惑する。
ここまでボスと戦ってこれたのは、ディアベルの指示があったからだ。
その指揮権を急にキリトに任せられる。
不安が出ないのがおかしかった。
「俺は従うぞ!」
最初に賛成の声を上げたのは、エギルだった。
「それに、彼にはボスのスキルの知識がある!ディアベルがそう言うなら、それに従うまでだ!」
エギルが賛同した事で、他のプレイヤーたちの不安は一気に消え、消えかけていた士気は再び盛り返した。
「キリトさん、ここからは貴方に全てを任せる。指揮、頼めるか?」
「………この状態で断れると思ってるのか?」
キリトは乾いた声で笑い、立ち上がる。
「奴を包囲すると、範囲攻撃が来る!B隊は無理にスキルを迎え撃たないで、防御に徹しろ!」
「了解!」
指示をもらったエギルはB隊のメンバーを引き連れ、コボルドロードの攻撃を防ぐ。
「D隊はB隊に向かおうとする
「「「「「運営ザマァ!!」」」」」
キリトの指示に全員が従い、着実にコボルドロードにダメージを与えていく。
その時、コボルドロードのHPが赤くなった瞬間、一人のプレイヤーが足をもつれさせてコボルドロードを囲む形になってしまった。
「まずい!範囲攻撃が来るぞ!」
キリトが叫ぶも、既にコボルドロードが《旋車》を使おうと動作に入ろうとした。
「間に合え!」
キリトが飛び出し、《ソニックリープ》を使い、コボルドロードが《旋車》を出すのを妨害した。
そして、コボルドロードは、人型モンスター特有のバットステータスの《転倒》状態になった。
「今だ!C隊、全力攻撃!」
ディアベルの合図でC隊全員が、ほぼ同時に縦斬り系のソードスキルを放つ。
コボルドロードのHPががりがりと削られた。
後一回当てれば倒せるのにコボルドロードは立ち上がり、攻撃の動作に入った。
「くっ、削り切れなった!」
ディアベルは悔しそうに歯ぎしりする。
硬直により、C隊は動けなかった。
「アスナ、カイ、ミト!!一気に行くぞ!!」
キリトの掛け声で、4人は一気に駆け出した。
キリトとカイの二人が同時にソードスキル《スラント》と《リーパー》を発動し、コボルドロードの武器を跳ね上げる。
そこにミトとアスナが、渾身のソードスキルをコボルドロードの無防備な左脇腹に、突き刺した。
コボルドロードの残り僅かなHPはみるみるとなくなり、1ドット残った。
コボルドロードは口端から涎を垂らし、獰猛な笑みをミトとアスナに向ける。
ミトとアスナは戦慄した。
そして、二人に向け刀が振り下ろされる。
アスナは思わず目を瞑り、ミトはアスナを守ろうと防御態勢に入る。
だが、ミトが攻撃を受け止めるよりも早く、カイとキリトが互いの剣を重ね合わし、攻撃を防いだ。
「おい、獣、何処見てんだ?」
「うちのお嬢様方に!」
同時に剣を跳ね上げ、弾く。
「「色目使ってんじゃねぇ!!」」
カイの《フェル・クレセント》とキリトの《バーチカルアーク》が炸裂する。
ほぼ同時に当たられた攻撃は、コボルドロードの僅か1ドットのHPを削るには過剰過ぎた。
だが、ミトとアスナを狙ったコボルドロードをカイとキリトは許さず、渾身の一撃をもってコボルドロードを葬った。
HPが0になり、コボルドロードは顔を天井に向けて高く吠え、両手から刀を落とした。
そして、イルファング・ザ・コボルドロードは幾千のガラス片のように散った。
後方にいたセンチネルも儚く四散した。
こうしてデスゲーム開始から1ヵ月、アインクラッド第1層が攻略された。