コボルドロードが消え、周りには静寂が漂った。
誰もが緊張に包まれた。
もしかしたら、βテストの時と違うところがあるかもしれない。
だが、何も起こらない。
そしたら、急に目の前に獲得経験値と分配されたコルが表示された。
それを見て確信した。
勝った。
まわりもそれを見たらしく歓声を上げた。
「お疲れ様」
カイの横にいたミトがそう言ってきた。
「ああ、ミトもな」
そう言い、二人は拳をぶつけ合う。
「ん?なんだこれ?」
その時、カイは自身のメッセージウィンドウに書かれたある物に目が言った。
「どうしたの?」
「いや、なんか変なものが………《アシストボーナス》?」
メッセージウィンドウには、カイが取得した経験値と、自動分配されたコル、獲得アイテムが記入されており、その一番下に《Assist Bonus》と書かれ、その下に《コート・オブ・スカーレット》と言う名のアイテムがあった。
「ああ、それは
「なるほど。つまり、俺はキリトが
メッセージウィンドウを消すと同時に、ディアベルがカイの下にやってきた。
「カイさん、お陰でボスを討伐できた。ありがとう」
「礼ならキリトに頼む。一番頑張ったのはアイツだ。それにディアベル、ナイス指揮だった。特に最後キリトに指揮権を渡したところとかな」
「
「攻略組?」
「ああ、今考えた。今後も全プレイヤーの先頭に立ち、率先してフロア攻略をする者たち、《攻略組》……いい名だろ?」
ディアベルは得意の騎士スマイルでそう言う。
「なるほど、いい名前だ。………でも、任せられるってどういう事だ?」
「………これから、俺の本当の作戦を行うんだ。カイさん、それに、ミトさん」
ディアベルはカイとミトの二人を見て、最後にエギルたちB隊にもみくちゃにされてるキリトとそれを見て笑ってるアスナを見て、まだ背後で勝利の余韻に浸る攻略組を見る。
「君たちと共に戦えたことは、俺の一生の誇りだ。ありがとう」
意味が分からず、カイもミトも首を傾げる。
その時だった。
「なんでだよ!」
誰かが叫んだ。
叫んだのはディアベルのパーティーメンバーのシミター使い《リンド》だった。
「なんで………なんでディアベルさんのことを見殺しにしようとしたんだ!」
そう叫ぶリンドの後ろには、他のパーティーメンバーがおり、その残りのパーティーメンバーもキリトに対し憎悪を向けていた。
「見殺しだって?」
何のことかわからず、キリトは尋ね返した。
「そうだろ!攻略本と情報が違ってたのに、アンタはボスが使うスキルのことを知ってた!それを、ディアベルさんに伝えてたら危険な目にあうこともなかった!」
その叫びに、周りのプレイヤーたちも次々と疑問の声を上げ始めた。
「
何処からかそんな言葉が聞こえた。
元βテスターの言葉に、周りがさらに騒ぎ出す。
「ちょっと待って!」
そんな中、アスナが声を上げた。
「β時代の情報は私達も攻略本で得ていたわ。あのボスの情報について大きな差はなかったはず。ただβ時代と同じだと思い込んだ私達が窮地に陥りそうになった時、彼はもっと先で得ていた知識を応用して教えてくれた。そう考えるのが自然じゃない?」
「俺もそう思う。それに、攻略本には情報はあくまでβ時代の物で、正式版とは差異があると注意もあった。俺たちはその注意を忘れ、偵察戦を怠った。彼に感謝こそすれ、批難するのは違うだろ」
エギルも声を上げ、エギルのパーティーメンバーも賛同する。
「いいや違うね、アルゴとかいう情報屋とそいつはグルだったんだ。元βテスター同士共謀して、善意のふりをして俺達を騙して、自分たちだけ美味しいところを掠め取っていこうとしたんだ」
話が悪い流れになっていく。
そんな中、ディアベルはカイに言葉を掛けた。
「これが俺の最後の作戦だ。カイさん、それじゃあ」
カイに別れを告げ、ディアベルが前に出た。
「皆、待ってくれ!」
ディアベルの登場に全員が静かになる。
「キリトさんは何も悪くないんだ!悪いのは、全部俺なんだ!」
「な、なに言ってるんだよディアベルさん!ディアベルさんは何も悪くないだろ!?悪いのは、情報を隠していたそこの元βテスターで!」
「違うんだ。悪いのは俺だ。俺は………!」
ディアベルの口から自身が元βテスターであると明かされそうになる。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
その時、笑い声が響きわたった。
「元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないで貰おうか。いいか。SAOの
キリトの言葉に皆が驚きを隠せなかった。
「俺はβテストの時、誰も到達できなかった層まで到達し、刀スキルのことを知った。
他にもいろんな情報を知っている。アルゴなんか話にならないぐらいにな」
そう言い、キリトはディアベルを見る。
「ディアベル、お前は良く働いてくれたよ。元βテスターである俺の言葉を全部鵜吞みにしてくれたことで俺は無事
キリトがこうまでして、自身への
このまま行けば、元βテスターの吊し上げが始まる。
そうなれば、攻略組は元βテスター達とビギナー達で二つに分かれ、攻略処では無くなる。
だからこそ、キリトは情報を独占する悪の元βテスターを演じることにした。
そして、キリトの作戦は、奇しくもディアベルが行おうとしたことだった。
「ふざけるな!やっぱりお前が悪いんじゃないか!」
「この最低野郎!」
「そんなのチートじゃねーかよ!!」
「そうだ!βテスターのチーターだからビーターだ!」
「……ビーターか。いいな、それ。使わしてもらおう。俺は《ビーター》だ。これからは、元βテスターと一緒にしないでもらおうか」
キリトは
「第2層の転移門は俺が
そう言ってキリトは踵を返して、第2層へ続く階段へと向かう。
「それじゃあ、行くとするか」
すると、カイは平然とキリトの隣へと向かい、一緒に第2層へと向かおうとする。
「なっ!?」
カイの行動に、キリトは思わず驚く。
「お、おい!お前、何してるんだよ!」
すると、リンドがまたしても叫ぶ。
「何って、自分の相棒が第2層に向かうんだから、一緒に行くのは当たり前だろ?」
「分かってるのか!そいつはビーターなんだぞ!最低の屑野郎だぞ!」
「………それがどうした?」
カイは獰猛な笑みを浮かべ、リンドを見る。
「こいつが薄汚い、最低の屑野郎だったとしても、強いことには変わりない。言っただろ?俺は強い奴は大歓迎なんだよ」
そう言い、カイは
「な……なんだよ……それ………!」
「《コート・オブ・スカーレット》…………今の戦闘で手に入れた……
「ア、 アシスト、ボーナス………?」
「
カイの言葉に、その場の全員が驚く。
「それじゃあ………お前も、ボスが刀スキルを使うこと知ってたのか!」
「自分が強くなりたいからって、俺たちに黙ってたのかよ!」
「悪いな……俺は、強くなりたいんだ。強くなるには、強い奴の傍にいるのが一番手っ取り早いからな」
キリトに向けられていた憎悪が、今度はカイにも向けられる。
「行こうぜ、ビーターさんよ」
「あ、ああ、そうだな」
キリトの肩を軽く叩いて、カイは先に歩き出し、キリトも隣に並ぶように歩き出す。
アシストボーナスは、完全にオリジナルで考えました。
プログレッシブのコミック版だと、ディアベルは「いざと言う時、自分の代役を任せられる人間が一人はいる。それはリーダーなんかじゃなく、生贄(スケープゴート)だ」と言ってたので、ここのディアベルは本来はLAを横取りする卑怯な元βテスターをして、元βテスターを守り、ビギナーとの不和を解消するつもりだったことにしてます。