去っていくカイとキリトの背中を見つめ、ディアベルは俯き、悔しそうに顔を歪める。
「ディアベルさん!あんな奴、放っておきましょう!」
「そうですよ!あんな自分勝手な連中、どうせ何処かでくたばりますよ!」
周りは今のディアベルの様子を、騙された悔しさで顔を歪めていると思い込んでいた。
ディアベルは大声で叫びたかった。
二人は薄汚くなんかない。
それどころか、ここに居る誰よりも優しい人なのだと。
だが、二人がどんな思いで悪役を買って出たのかも理解できた。
「皆!言いたいことはあるかもしれないが、今はこの勝利を喜ぼう!これから第1層に戻り、フロアボス討伐成功の旨を、《はじまりの街》で待つ皆に伝えるんだ!そして、必ずこのデスゲームをクリアできることを!」
ディアベルの言葉により、他のプレイヤーたちは声を上げ、次々とボス部屋を出ていく。
残ったのは、ディアベルとエギル、キバオウにミトとアスナだった。
「なぁ……あいつ等のアレが本心じゃないってことは………」
「……分かってます」
「分かってるわ」
「そうか……なら、伝言頼めるか?」
「俺からもいいだろうか?こんな事、頼める立場じゃないのは分かっているが……」
エギルとディアベルの頼みを、ミトとアスナは笑って受ける。
「ちょい待ちぃ」
すると、キバオウも声を掛ける。
「………伝言、ワイからも頼むわ」
第2層へと続く階段を上る途中で、キリトはカイに声を掛けた。
「なんのつもりだったんだ、カイ」
「何がだよ?」
「お前まで、汚れ役を引き受ける必要はなかった。俺一人で十分だったのに………」
「馬鹿野郎」
カイはそこで立ち止まり、キリトを見る。
「それだと、お前が一人になっちまうだろ?これから先、ずっと一人で戦っていくつもりか?」
「俺は元々ソロでやってくつもりだったんだ。だから、何も問題はなかった」
「普段ならソロでもいいかもしれないけど、ボス戦はどうするんだよ?あんな事すれば、何処のパーティーにも入れてもらえないだろ?なら、最初から二人で嫌われ者になって、二人でやってく方がマシさ」
そう言い、カイはまた歩き出す。
「そう言うわけだから、これからもよろしく頼むぞ、相棒」
「………なんて言うか、お前には敵いそうにもないな」
キリトは困った様な笑みを浮かべ、頭を掻き、カイの後を追う。
階段を昇り終え、第2層へ続く扉が出現する。
それを手で押し、開くと第2層の風景が現れる。
様々な地形が複合していた第1層と異なり、テーブル上の岩山が連なり、山の上部は草に覆われ、大型の野牛系モンスターが闊歩する。
その光景に、カイは思わず溜息を吐いた。
「本当に第1層をクリアできたんだな」
「まだ信じられなかったのか?」
「実際に、第2層を見るまではな」
「なら、もう少し景色を堪能するか」
「そうだな。転移門の開放を待ち侘びてる連中には悪いけど、少しぐらいなら罰も当たらんだろう」
笑い合い、二人は岩肌から延びるテラスに腰を掛ける。
数分程、そうしてると再び扉が開き、そこからミトとアスナが顔を出した。
「来るなって言わなかったか?」
「死ぬ覚悟があるなら来いって言ったのはそっちでしょ」
「………それで、何の用だ?」
「うん。3人から伝言を頼まれたの」
「伝言?」
「エギルさんから『2層のボス攻略も一緒にやろう』って。それからディアベルさんからは、『嫌われ役を買って貰って本当にすまない。何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。全力で手を貸そう』だって」
「最後の一人はキバオウから『今回はジブンらに助けられたし、ディアベルはんも死なずに済んだ。だから礼は言う。でも、やっぱあないなやり方は認められん。ワイはワイのやり方でクリアを目指す』ってさ」
「……そうか」
キリトがそう呟き、四人はしばし無言になる。
次に口を開いたのはカイだった。
「そろそろ戻ったらどうだ?薄汚い最低屑野郎のビーターと、その腰巾着プレイヤーなんかと一緒に居たら、仲間と思われるぞ」
「戻りたくても戻れない理由があるのよ」
ミトはそう言うと、カイに近寄る。
「約束、忘れてないでしょうね?」
「約束?………あ!」
昨夜にした約束のことをすっかり忘れていた。
「全く……自分から忘れるなよって言っておきながら、自分が忘れてたらダメじゃない」
「すまない……で、話ってなんだ?」
「あ~……それは………」
ミトは頬を掻きながら困り顔をし、アスナをチラッと見る。
そんなミトの様子に気づいたアスナは、キリトに近付く。
「ねぇ、キリト君。転移門の
そう言い、キリトの腕を掴んで立ち上がらせる。
「え?ちょっなんで!?」
「じゃあ、ミト、カイ君。また後でね」
「ちょっアスナさん!自分で歩けるから手を放して!」
ずりずりと引き摺られていくキリトとキリトを引き摺るアスナを見送り、カイとミトだけが残った。
「もしかして、キリトやアスナには聞かれたくない話なのか?」
「えっと。まぁ、そうかも」
そう言い、ミトはカイの隣に座った。
「あのさ、カイのリアルに関する質問になっちゃうんだけど、カイってさ、昔、小学生ぐらいの頃に一年ぐらい女の子と毎日ゲームして遊んでなかった?」
ミトがそう尋ねると、カイは驚いたようにミトを見る。
「でさ、その女の子のプレイヤーネームってミトじゃない?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それってつまり………そういう事なのか……?」
カイは一人でぶつぶつと呟き、そして、ミトを見る。
「ミト………なのか?」
「やっぱりカイだったんだ」
「あ、ああ………なんて言うか、久しぶりだな」
「ええ、久しぶり」
そう言うと、お互い無言になった。
数分そうしてると、再びミトから話し出した。
「ねぇ、あの日……どうして公園に来なかったの?」
「そ、それは………」
「私と遊ぶのが嫌になったとか、楽しくなくなったとかでも全然いいの。ただ。居なくなった理由が知りたくて」
「そんなことない!」
カイは立ち上がって、大声で言う。
「ミトと遊ぶのが嫌になったとか、楽しくなくなったとか有り得ない!俺は今だって、ミトと一緒にゲームやってた時の事思い出すんだぞ!俺にとって、あの一年間は本当に楽しかったんだ!」
怒ったように言うカイに、ミトは驚きポカンとした表情を晒した。
「急に居なくなったのは……………!」
そこでカイは口を噤み、俯く。
「悪い、理由は言えない。俺個人の問題なんだ。今、それが言えるほど心の整理がついてない。すまない」
本当に申し訳なさそうに謝るカイに、ミトは優しく声を掛けた。
「気にしないで、その言葉だけで十分だから」
「ミト………」
「嫌われてなかったって分かっただけでも良かったよ」
そう言い、ミトは立ち上がる。
「アスナたちを追いましょう。折角なんだし、誰もいない主街区を拝むのも悪くないから」
「……ああ」
カイがミトの隣に並び、二人は歩き出す。
「ねぇ、カイ」
「なんだ?」
「………いつかは、話してくれる?居なくなった理由」
「…………そうだな。いつかは話すよ。絶対に」
「………そっか。待ってる」
(………ごめん、ありがとう、ミト)
ミトのその言葉にカイは、心の中で謝罪と感謝をし、キリトたちの後を追った。