シリカの話は、ちゃんとやるのでお楽しみに。
2024年4月11日 第59層《ダナク》
現在、最前線となっているここでは日夜、多くの《攻略組》が迷宮区の攻略に勤しんでいる。
にも関わらず、カイとキリトのコンビは迷宮区には籠っていなかった。
かと言って、何かしらのクエストをやっているわけではない。
二人は、転移門広場に続く道の低い丘で、キリトは芝生に寝転がって昼寝をし、カイは近くの木陰でのんびりとSAO内で誰かが趣味で書いた小説を読んでいる。
「皆が頑張って攻略してる中、サボって何読んでるのよ、不良プレイヤー君」
頭上から声を掛けられ、上を見上げるとそこにはミトがいた。
「ミトか。アインクラッド内で売られてる小説だよ。誰が書いたか知らないけど結構面白くてな」
「ふーん、で、キリトは何してるの?」
今度は日向ぼっこしながら眠りこけているキリトを見る。
「キリト曰く、『今日の気象設定は一年の中で最高。こんな日に暗い迷宮区に潜ってたら勿体ない』だとさ」
「なるほどね」
空を見上げて、ミトはそう言う。
「カイは寝ないの?」
「睡眠PKとかの危険もある以上、俺まで寝たらダメだろ」
《アンチクリミナルコード有効圏内》、通称《圏内》において、プレイヤーは他のプレイヤーにダメージを与えることは基本的にできない。
どんなにプレイヤーにソードスキルを叩き込もうとしてもシステムによって阻まれて終わる。
だが、デュエル中はダメージが通る。
それを利用して寝ている相手の指を動かして、《完全決着モード》のデュエルを受けさせ、嬲り殺しにする。
それが睡眠PK。
カイはその危険性を考え、自身は眠らずキリトの護衛をしていた。
「でも、眠そうよ」
「……分かるか?」
「そりゃカイのことだからね」
恥ずかしいセリフを臆面もなく言うミトに、カイは少し照れる。
ミトはそのままカイの隣に座る。
「私が見ててあげるから、カイも寝たら?」
「何度も言うけど俺なんかと居るとお前の立場がな」
「《攻略組》で1、2を争うダメージディーラーを睡眠PKから護衛する。それならある程度、面目が立つんじゃない?」
「………はいはい、分かったよ」
とうとうカイは折れ、背後の木に凭れ掛かる。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうな」
「はい、おやすみ」
「おやすみ」
そう言い、瞼を閉じるカイ。
そして、数秒後には静かに寝息を立て始めた。
「本当に疲れてるのね」
そう呟き、ミトはカイを見つめる。
「いつ、話してくれるんだろ………」
ミトは少し悲しそうな表情をする。
第1層攻略後、カイはいつかミトに、居なくなった理由を話すと言った。
だが、今日までその話が出てきたのはあの時だけだった。
「言い辛いことなんだろうけど………やっぱ、私には言えない事なのかな……」
理由が何であれ、それを話してくれないという事実がミトは悲しかった。
「む~……なんで私がもやもやしないといけないのよ」
自分の気も知らず、静かに寝入るカイに段々と腹が立ってきたミトは、カイの頬を突っつく。
突っつく程度では、《アンチクリミナルコード》には引っ掛からないらしく、ミトの指はカイの頬に触れる。
「柔らかいわね……ただ単にデータ的にそう感じるだけ?それとも、実際の肌の質感までも再現してるのかしら?」
試しにミトは自分の頬を触り、カイの頬と比較してみる。
「ん~……よく分からない」
イマイチ違いか分からず、ミトは頬を触るのを止める。
その時、カイが少し動いた。
(ヤバッ!起こしちゃったかな……!)
起こしてしまったのではと思い、ミトは慌てる。
その時、カイの身体が横に倒れ、偶然にもミトに寄り掛かる形になった。
「ちょっカイ!?」
ミトは驚き、カイに呼び掛けるもカイは寝息を立てたままだった。
(って寝てるのか。流石にこの体勢は言い逃れ出来なさそうだけど………ま、いっか)
ミトは、カイは疲れてるんだと納得し、何も言わず肩を貸した。
十分程、ミトは肩にカイの重みを感じながら、道行く《攻略組》を眺める。
そんなところに、一人のプレイヤーがやって来た。
「ミト、何してるの?」
声色から、不機嫌なのが取って分かる。
「やっほ、アスナ。見ての通り、サボり」
「サボりって、ギルドの副団長がサボってどうするのよ!?」
「アスナだって副団長じゃない。それに、偶にはいいでしょ。根詰めて攻略したっていいことないんだし。それと、大きな声出さないで。カイが起きるから」
「カイ君?」
アスナは更に近くにより、ミトの隣を見る。
ミトに寄り掛かって眠るカイを見て、アスナは思わず溜息を吐く。
「ミトに続いてカイ君もサボりとか………《攻略組》のトッププレイヤーの一員としての自覚がないの?」
「そう言わないの。それに、サボってるのは私たちだけじゃないから」
そう言い、ミトは寝転がってるキリトを指差す。
「あの人まで!」
キリトの姿に、アスナはあからさまに不機嫌になりキリトに近寄る。
アスナが近づいてきた事に気づき、キリトは目を覚ます。
「なんだ、アンタか。こんな所で何してるんだ?」
「アナタこそ、こんな所で何してるのよ?こんな所でサボって、少しは真面目に攻略に取り掛かったらどうなの!」
「今日のアインクラッドは、最高の季節に最高の気象設定。そんな日に、迷宮区に潜るなんて勿体ない」
「アナタね!こんなことしてる間にも、現実での私たちの時間はどんどん失われていくのよ!」
「それでも、今はここが俺たちにとっての現実だ。俺たちが生きてるのは、ここ《アインクラッド》だ」
キリトのそのセリフに、アスナは思わず黙る。
その時、風が吹き、アスナの頬を撫でる。
「ほら、良い風に、良い日差し。……最高だ」
「………天気なんて、いつも一緒でしょ」
「アンタも寝て見ればわかるよ」
その言葉を最後に、キリトは再び寝息を立てる。
(アスナの負けだねぇ……)
木陰の隙間から差す日差しを眺めるアスナを見て、ミトはそう心の中で呟く。
そして、アスナはその場に横になり目を閉じた。
すると、ものの数分でアスナも眠った。
「お守りが増えた」
暢気に眠る三人を見て、ミトは笑った。
それから数時間後。
正午近くの時刻になったぐらいに、キリトは目を覚ました。
そして、近くで寝ているアスナに驚き、距離を取った。
「お目覚めね、キリト」
そんなキリトにミトは声を掛けた。
「目が覚めたら、隣に美少女がいるのはどんな気分?」
「ミト……何してるんだ?」
「敢えて言うなら、カイの枕中かしら?」
カイに寄り掛かられたまま、ミトは笑う。
そんなミトを横目に、キリトはアスナを見る。
「疲れてるん……だろうな」
「まぁね。自分のレベル上げだけじゃなくて、他の団員のレベル上げの面倒も見てる。自分の寝る間も惜しんで深夜までレベリングよ。こっちもそれに付き合ってるから、軽く寝不足ね。そう言う訳だから、私も寝る。護衛はよろしくね」
そう言うと、ミトは欠伸を一つして、カイに寄り掛かって眠り出す。
「やれやれ………まぁ、起きるまで護衛してくれてたし、アスナにも寝たらどうだって言ったのは俺だしな」
キリトは長時間の護衛になると覚悟を決め、アイテムストレージから飲み物を取り出し、芝生に座り直す。
「くしゅん!」
夕日が差し始めた頃、アスナは小さなくしゃみをして起きた。
「…うにゅ……」
そして、謎の言語を呟き、覚醒しきってない頭で辺りを見渡す。
最初に見たのは夕日だった。
次に見たのは、ミトとカイが互いに寄り掛かって眠る姿。
そして、低い石垣に座り、こちらを見てるキリトだった。
「よぉ、よく眠れたか?」
キリトは寝起きのアスナにそう声を掛ける。
暫しの沈黙の後、アスナは今の現状に気づき、顔を羞恥で真っ赤に染め、そして苦慮に青ざめ、最終的に激怒で真っ赤になった。
その瞬間、腰の細剣に手を伸ばし、柄を掴む。
「なっ!?」
その光景にキリトは驚き、石垣に隠れる。
だが、攻撃は飛んで来ず、キリトは石垣から顔を出す。
そこには、アスナがぎりぎりと歯を食いしばっていた。
「………一回」
「……え?」
「ご飯、一回だけなんでも好きな物いくらでも奢る。それでチャラ。どう?」
アスナは、キリトが自分の、自分たちの傍を離れなかったのは睡眠PKによる殺害を防ぐ為の護衛をしていたと分かった。
更には日ごろの精神疲労を回復させるために、好きなだけ寝させていたことも。
だからこそ、寝起きの顔を見られたという羞恥と激怒を抑え込み、そう提案した。
「57層の主街区に、いいレストランがある。NPCの店にしてはそこそこイケるんだ」
「なら、そこに行きましょう」
夕食を摂る店が決まり、キリトは寝ているカイを起こす。
「ほら、カイ。起きろ」
「ん?もう夕方か?」
目が覚めたカイは、目を擦り、周りを見る。
そして、隣で眠るミトに気づいた。
「寄り掛かってたか。悪いことしたな」
そう思い、カイはミトを起こす。
「ミト、起きろ」
「ん~……まだ眠い………」
寝足りないらしく、ミトは駄駄を捏ねる。
「今なら、アスナが夕飯奢ってくれるってさ」
「本当!?」
キリトの言葉に、ミトは勢いよく起きる。
「奢るのは彼だけ!」
アスナは大声でキリトを指差しそう言う。
そして、四人は57層へと向かった。
最初は、カイに寄り掛かられて顔を赤くしテンパるミトを書いてましたが、なんかミトっぽくない気がして無しにしました。