ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第18話 罪のイバラ

「それで、こんな時間に《死線》の副団長様と何してるんだ?デートか?」

 

「デートでこんな場所に来る奴がいるかよ」

 

カイはアイテムストレージからロープとスピアを取り出す。

 

「コイツは?」

 

「とある事件の証拠品だ。コイツの鑑定をお前に頼みたいんだ」

 

「………詳しく聞かせろ」

 

トバルは鋭い目つきになり、カイに事情を尋ねる。

 

カイは、起きた事の全てを話した。

 

「圏内でHPが0に……本当にデュエルじゃなかったのか?」

 

「少なくとも俺たちはそう思ってる。ウィナー表示が見えなかったし、何より飯を食いに来ただけでデュエルを、それも《完全決着モード》を受諾するなんてありえないだろ」

 

「確かにな。いいだろう」

 

そう言い、トバルはロープを手に取る。

 

「………こりゃただの汎用品だな。そこらのNPCショップで普通に買える物だ。ランクも高くないし、耐久値は半分を切ってる」

 

「そりゃ、フルプレート・アーマーのプレイヤーを吊るしてたんだからそれぐらいは減るだろうさ。ま、そっちには期待はしてない。本命は………コッチだ」

 

カイはそう言い、カインズの胸に刺さっていたスピアを見る。

 

トバルは、暫しの沈黙の後スピアを手に取り、鑑定をする。

 

「こりゃ………プレイヤーメイドだ」

 

その言葉に、カイとミトは驚きの声を上げた。

 

「本当か!?」

 

「誰が作ったの!?」

 

「製作者は《グリムロック》綴りは《Grimlock》だ」

 

「トバル、知ってる奴か?」

 

「いや、それなりに売れてる奴なら記憶にあるが、コイツは知らない。一線級の鍛冶師じゃないのは確かだ。ま、自分の為や、身内の為にスキルを上げてるって奴もいるしこのグリムロックって奴もそう言った類の奴だろう」

 

そう言いトバルはスピアをカイに返す。

 

「でも、名前が分かっただけでも一歩前進ね。このクラスの武器を作るのに、ソロで鍛冶スキルを上げるのは限界がある。中層で聞き込みをすれば、パーティーを組んだことのある人はいるかもしれない」

 

「しかし、ソイツがどういう人物にしろ…………少なくとも、ソイツはその武器がどういう用途で使われるのかは知ってたはずだ。知らなきゃ、《貫通継続ダメージ》効果付きの武器なんて作りゃしねぇからな」

 

トバルの言う通り、普通の鍛冶師ならどれだけのコルを積まれて、頼まれても《貫通継続ダメージ》効果付きの武器は作らない。

 

何故なら、アインクラッド内のモンスターには意味がないからだ。

 

Mobはアルゴリズムによって動くので、恐怖を感じない。

 

《貫通継続ダメージ》効果付きの武器で刺しても、刺した次の瞬間には武器を引っこ抜き、そのままどこかに放り捨てる。

 

故に《貫通継続ダメージ》が意味あるのは、対人戦だ。

 

対人使用が目的で武器を作るとなれば、その理由は十中八九PKの可能性が高い。

 

「殺しに対する倫理観が薄いのか、それともグリムロック自身殺人(レッド)ギルドに所属する鍛冶師なのか………どちらにしろ、一筋縄でいかないのは確かだな」

 

「そうね。接触の際には、細心の注意を払わないと」

 

カイとミトは互いに頷き合い、再びトバルを見る。

 

「トバル、ついでに武器の固有名も教えてもらえるか?」

 

「槍の名前は《ギルティソーン》………意味的には罪のイバラってとこだな」

 

「罪のイバラ………か」

 

鑑定を終えた槍《ギルティソーン》を手にカイは暫く何かを考える。

 

そして、何を思ったのか《ギルティソーン》を逆手で持ち、そのまま自身の手の平に向け刺そうとした。

 

「何してるのよ!」

 

だが、手に刺さる直前にミトがカイの腕を掴んだおかげで、槍はカイに刺さらずに済んだ。

 

「この武器に圏内でもダメージを与える効果があるかもしれないだろ。それを試そうとしたんだ」

 

「それはねぇ。俺の《鑑定》スキルで調べたんだ。間違いねぇ」

 

「隠されてるかもしれないだろ」

 

「もし本当にそんな効果があったらどうするのよ!それに、《アンチクリミナルコード》の無力化だけならまだしも、《即死》とかの効果まであったら…………!」

 

ミトは今にも泣きだしそうな表情でカイにそう言う。

 

「…………分かったよ。すまなかった」

 

ミトの表情を見てカイは謝り、大人しくスピアをストレージに戻し立ち上がる。

 

「助かった、トバル。これは礼だ」

 

「ああ」

 

スピアの鑑定が終わり、カイはトバルにいくらかのコルを支払う。

 

「そうだ。副団長さんよ、ちょっと話いいか?」

 

トバルはミトを呼び止め、ミトは呼び止められたことを疑問に思うも、カイに外で待つように言った。

 

「それで、私に何か用?」

 

「いや、大したことじゃねぇさ。その………」

 

トバルは少し悩んだように頭を掻き、そして、溜息を吐く。

 

「…………今のカイの奴は危ない。普段のアイツは、咄嗟に今自分が何をすべきなのか、どんな行動が最善なのか瞬時に判断できる奴だ。だが、今日のアイツは、何処か焦ってる様に見える」

 

トバルはカイのことを、案じてそう言う。

 

「今のアイツは、一人にすると何処かに行っちまいそうだ。アイツの友人として、アイツの刀を打った者としてそれは見過ごせねぇ。かと言って、俺も自分の仕事がある。四六時中、アイツを見張るなんて真似もできねぇ。だから、これは俺からの依頼と思ってくれていい」

 

そう言い、トバルはミトに頭を下げた。

 

「頼む。アイツの傍に居てやってくれ」

 

トバルが真剣に友人であるカイの事を想っての頼みに、ミトは優しい笑みを浮かべた。

 

「依頼なんて必要ないわ。私はね、カイが大切なの。一度離れ離れになったからこそ、カイの傍から離れるつもりはない。頼まれなくたって、アイツの手を離したりしないわよ」

 

「そうか………それなら安心だな」

 

トバルも安堵の笑みを浮かべる。

 

「それにしても、カイの彼女が《血盟騎士団》の第二副団長様とは驚いたぜ。ま、アンタなら信頼できそうだ。カイの事、頼んだぜ」

 

「ええ、勿r………ん?」

 

「勿論」と返事しそうになったミトは、今のトバルの言葉に気になる場所があるのに気づいた。

 

(この人、今、私の事なんて言った?カイの彼女?誰が?ああ、私か)

 

そして、数秒の沈黙。

 

「はああああああああああああ!!?」

 

ミトはその日一番の大声を上げた。

 

「誰が彼女よ!」

 

「え?違うのか?」

 

「当たり前でしょ!」

 

ミトは思わず顔が赤くなり否定した。

 

「そうだったのか。カイがあの槍で自分を刺そうとした時、凄く心配してたから俺はてっきりそう言う関係だとばかり………」

 

「違うわよ!私とカイはまだそう言う関係じゃない!変に勘繰らないで!」

 

顔だけでなく耳まで真っ赤になったミトは、足音を立てながら扉に手を掛ける。

 

「とにかく!《鑑定》の件は助かったわ!協力ありがとう!」

 

そう言い、ミトは家を出る。

 

「やれやれ、凄いお嬢さんだったな。でも………まだ(・・)か。いずれはそう言う関係にってか」

 

トバルは去って言ったミトを先程の顔を思い浮かべ、ニヤッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミト、遅かったな。何の話だったんだって大丈夫か?顔が赤いぞ?」

 

「いいから、何も言わずにそっとして」

 

トバルの家から顔を真っ赤にして出てきたミトに、カイは不審に思いながらも「そっか」と言う。

 

「それより、キリトから連絡が来た。《黒鉄宮》での確認は終わったそうだ」

 

「……どうだった?」

 

ミトはその報告に、瞬時に気持ちを切り替え尋ねる。

 

「カインズは本当に死んでた。死亡日、死亡時間、死亡原因。すべてが一致だ」

 

「じゃあ、本当に………」

 

「ああ。あの時、カインズは俺たちの目の前で死んだ。誰が、どんな方法で、やったのかはまだだが絶対に許さない」

 

拳を握り、怒りを露わにするカイにミトは先程のトバルの言葉なんかも忘れ、カイを心配する。

 

「グリムロックの方の確認も取れた。グリムロックは生きてる。今日は遅いし探すのは明日にしよう」

 

「………そうね」

 

「キリトから明日は朝9時に57層の転移門前に集合って来た。そこで、互いの得た情報を整理して、ヨルコさんに調査の報告。それから、捜査の再開だ」

 

「分かったわ」

 

二人は転移門広場まで向かうと、突如二人は数人のプレイヤーに取り囲まれた。

 

カイとミトは咄嗟に武器に手を掛けるも、そのプレイヤーたちの服装を見て、すぐに手を離した。

 

「《聖竜連合》がこんな夜中に何の用だ?」

 

《聖竜連合》とは、《血盟騎士団》と肩を並べる攻略組の大ギルドで、元々は《ドラゴンナイツ・ブリゲード》と言う、ディアベルの元仲間のリンドが立ち上げたギルドが巨大化したギルドだ。

 

「聞きたいことがある」

 

リーダー格と思しきプレイヤーが一歩前に出て、カイに言う。

 

そのプレイヤーにカイは見覚えがあった。

 

そのプレイヤーの名前は《シュミット》。

 

《聖竜連合》の守備(ディフェンダー)隊のリーダーで、ボス攻略戦では何度か顔を合わせたことがある。

 

「話を聞きに来ただけにしては物々しいな。それで……何が聞きたい?」

 

「今日の夕方、57層で起きた事件の事だ。デュエルじゃなかったのは本当か?」

 

シュミットは、僅かに声を震わせ聞いてくる。

 

「ああ、少なくともあの場にいた人たちでウィナー表示を見た人はいなかった」

 

「殺されたプレイヤーの名前は………《カインズ》だと言うのは間違いないか?」

 

「ええ。事件の直前まで一緒にいた友人からの確認も取れてる。アスナとキリトの二人が《黒鉄宮》まで行って確認もした。日付も時間も、原因も一致してたわ」

 

シュミットは表情を強張らさせ、喉をゴクリと鳴らす。

 

その様子から、二人が知り合いだったのではとカイとミトは思った。

 

「カインズとは知り合いだったのか?」

 

「……アンタには関係ないだろ」

 

「おいおい、そっちの質問には答えたのに、こっちの質問に答えないのは流石にフェアじゃないだろ?知り合いがどうかぐらい教えてくれたって「アンタらには関係ないだろ!警察でもないのに、どうしてそんなこと話さないといけない!」

 

突如、大声を出したシュミットに周りのギルドメンバーも驚きの表情を浮かべる。

 

(なるほど……この行動は《聖竜連合》からの指示じゃなくて、シュミット個人の行動か。周りは、詳しい話もされず、連れてこられたって所か)

 

そう思っていると、シュミットはカイの前に立ち右手を差し出す。

 

「アンタがPKに使われたとされる武器を、現場から持ち出したことは分かってる。そいつを渡してもらおう」

 

「ちょっと何言ってるのよ!」

 

シュミットの横暴とも言えるマナー違反行為にミトが声を上げる。

 

「あの槍は人を殺したかもしれない武器なのよ!それをよこせって何を考えてるの!第一、システム上は、もう既にあの武器はカイの物!それをタダでよこせなんて、罷り通るとでも思ってるの!」

 

「いいよ、ミト」

 

怒鳴るミトの肩に触れ制すると、カイはシュミットの方を見る。

 

「どうせ、もう調べ終わった物だ。それに、俺は警察でも何でもないからな。事件の証拠品を持っておくのも筋違いだってのは思ってる。なら、アインクラッドきっての大ギルドの隊長格のあんたが持っておくのがいいだろうさ」

 

そう言い、アイテムストレージから《ギルティソーン》を取り出す。

 

禍々しいデザインの槍を取り出し、それを勢いよく地面に突き立てる様に出す。

 

ギャリィン!と勢いよく金属音が鳴り、火花が散る。

 

その光景にシュミットは半歩下がる。

 

カイはそのまま槍の持ち手をシュミットへと向ける。

 

「ついでに教えてやるよ。この槍の名前は《ギルティソーン》、罪のイバラだ。そして、作った鍛冶師の名は………《グリムロック》」

 

シュミットは、今度は明確に動揺した。

 

目を見開き、口を半開きにして嗄れた喘ぎ声を漏らす。

 

そして、震える手で槍を受け取ると、乱暴にアイテムストレージへと押し込んだ。

 

「あまりコソコソと嗅ぎまわらない事だな。行くぞ!」

 

シュミットは足早に転移門へと向かい、ギルド本部へと帰って行く。

 

周りの部下と思しきプレイヤーたちも転移門から帰って行く。

 

「カイ、今のシュミットの様子………」

 

「ああ。カインズとグリムロック、この二人をシュミットは知ってる。少なくとも、事件に何かしらの形で関与してるのは間違いないだろうな」

 




トバルの名前は、トバルカインと言う、旧約聖書や創世記に登場する、初めて鉄や銅の刃物を鍛えた鍛冶の始祖の名前からとったものです
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