翌日の23日。
カイとキリトは朝9時に57層の転移門前に行くと、既にミトとアスナの二人が待っていた。
二人は私用の為か、《血盟騎士団》の制服ではなく私服を着ており、その姿にカイもキリトも思わず見惚れた。
アスナは、ピンクとグレーのストライプ柄のシャツに黒のレザーベストを着て、下はレースのフリルの付いた黒のミニスカート、脚にはグレータイツで、靴はピンクのエナメルに、同色のベレー帽を被っていた
そして、ミトは白のシャツに紺色のレザーベスト、下はベージュのショートパンツに濃い黒のタイツに、白のレースアップブーツを履いている。
そんな二人に見惚れていると、カイとキリトは互いの服を確認する。
キリトは紺色のジーンズに黒のシャツ、そして、お気に入りのダークグレーのレザーコート。
カイはキリトと同じ紺色のジーンズに白のシャツ、そしてお気に入りのファイアーレッドのレザーコート。
「なぁ、カイ。俺たち今から、あの美少女たちと一緒に行動するのか?」
「こんなことなら、日ごろからもうちょっと私服に気を使うべきだったな」
そんなことを話しながら、せめてものお洒落としてキリトは赤い宝石のブローチを、カイは黒い宝石のブローチをコートの胸元に付ける。
合流した後、近くのカフェテラスで朝食兼情報整理を行うことになった。
「《聖竜連合》が?」
カイとミトは、昨夜の《聖竜連合》との一件について、話をした。
「ああ、
「槍を受け取る時も、酷く怯えてたわね。いかにも、自分何か知ってますよアピールしてたわ」
カイとミトは注文したコーヒーを飲みつつ言う。
「そのシュミットさんが犯人ってセンはないの?」
アスナがカフェオレを飲みつつ聞いてくる。
「いや、それはないだろ」
キリトもコーヒーを啜って言う。
「もしシュミットが犯人なら、態々凶器を回収に来る理由はない。足が付くことを恐れてたとしても、それなら最初から現場に凶器を残すような真似はしない。むしろあの槍はメッセージだ」
「俺もそう思う。槍の名前が《ギルティソーン》、罪のイバラって辺り、犯人からのメッセージなんだろう」
「そうね。今思えば、カインズの殺し方も処刑染みてたわ」
「じゃあ、この事件はただのPKじゃなくて、何者かによるカインズさんへの復讐……ううん、制裁ってことだよね。過去に、カインズさんは何か罪を犯して、それに対する罰として何者かに殺された」
「そうなると、昨夜のシュミットの様子は犯人側と言うより狙われる側の反応ね。過去にカインズとシュミットは何かしらの犯罪を犯し、その制裁としてカインズが殺された」
「現場に残された槍も、残ったシュミットへのメッセージ。さしずめ、《次はお前だ》って所か」
一通りの情報整理を終え、四人はヨルコの元へ向かう。
宿屋から出てきたヨルコはあまり眠れなかったらしく、疲労しているのが目に見えて分かった。
「ごめんなさい、お友達が亡くなったばかりなのに……」
「いえ、大丈夫ですから…」
アスナが言葉と共に一礼し、ミトも一礼する。
それに倣ってカイとキリトも一礼した。
その時、アスナとミトの二人を見たヨルコの眼が外見の年齢に相応しい輝きを持った。
「うわぁ~、アスナさんとミトさんすごいですね。その服全部、アシュレイさんのオーダーメイド品じゃないですか」
「アシュレイ?」
「誰だ?」
お洒落に無頓着の二人は思わずそう尋ねた。
「知らないんですか!?アインクラッドで最初に《裁縫》スキルを
年相応のはしゃぎ方をするヨルコに、四人は少しだけは気が紛れてよかったと思った。
すると、今度はカイとキリトの服装、正確にはコートに注目した。
「カイさんとキリトさんのそのコートって、もしかして《黒猫ブランド》の奴じゃないですか?」
《黒猫ブランド》のワードに、カイとキリトは反応し思わず笑みが零れた。
「ああ、その通りだ」
「《黒猫ブランド》も有名になったな」
《黒猫ブランド》とは、中層ギルド《月夜の黒猫団》が立ち上げたブランドで、現在アインクラッドでは若い人を中心に人気を集めている。
制作係のサチは、《装飾》スキル以外に《裁縫》スキルも習得し、現在はメキメキと腕を上げている。
作られた服やコート、アクセサリーには黒猫のマークが施され《黒猫ブランド》と呼ばれている。
「実は《月夜の黒猫団》とは知り合いでさ」
「試作品の服とかアクセサリーとか格安で譲って貰ってるんだ」
「そうなんですね。あれ?そのコート、作りが他の物と違う様な………」
「実はこのコート、俺達のためにって作ってくれたオーダーメイドなんだ」
「ま、お気に入りの一品だな」
まるで我が事の様に誇るカイとキリトの姿に、ミトとアスナは優しい笑みを浮かべる。
ちなみに、カイとキリトにとって今着てるレザーコートはお気に入りだが、一番のお気に入りはサチの最初の作品のブローチだったりする。
ヨルコの気分が少し晴れた後、五人は昨夜のレストランまで移動し、調査の報告をした。
「まず報告だけど、カインズは死んでた。死亡日に死亡時間、それと死亡原因。全てが一致してた」
「………そうですか。すみません、あんな遠い場所まで確認しに行ってもらって。一人で確認するのが怖くて………」
ヨルコは悲しそうに下を俯いて、お礼を言う。
「それで、早速で悪いんだが、ヨルコさん。《シュミット》と《グリムロック》。この二人の名前に聞き覚えはないか?」
「《シュミット》は槍使いで、《グリムロック》は恐らく鍛冶師だと思うんだけど」
「………知ってます。二人共、私が前に所属してたギルドの仲間です」
ヨルコのその言葉に、四人はやはりそうかと思った。
「ヨルコさん、俺たちは今回の事件は《復讐》あるいは《制裁》によるものだと思ってる。そして、事件が起きたのはそのギルドで起きた何かしらの問題だとも思ってる。昨日も聞いたけど、よく思い出してほしい。何か、心当たりはないか?」
「…………一つあります。すみません、昨日お話出来なくて。あまり思い出したくない事だったし、無関係だと思いたかったので…………でも、お話しします」
そこからヨルコは、ギルドで起きた事件の話を始めた。
ヨルコとカインズ、そしてシュミット、グリムロックが所属していたギルドの名は《黄金林檎》。
ゲーム攻略を目的としたギルドではなく、この世界で生きることを目的とした小さなギルドだ。
人数も八人で、互いに協力しないながら一日一日を生きていた。
リーダーの名は《グリセルダ》。
とても強く、賢く、美人な女性だったとヨルコは語った。
半年前、《黄金林檎》は中層にあるサブダンジョンで見たことないモンスターと遭遇し、それを倒したらある指輪をドロップした。
その指輪は一見地味な物だが、装備したプレイヤーの敏捷値を20も上げるレアアイテムで、現在の最前線でもドロップすることはない代物だった。
その指輪がギルドの崩壊の原因となった。
最初、ギルド内でドロップしたそのレアアイテムの指輪をどうするかで揉めた。
ギルドの為に使うか、売却して得たコルを皆で分配するか。
喧嘩に近い話し合いの末、多数決を行い、結果は3対5で指輪は売却することになった。
そして、リーダーのグリセルダが、最前線の競売屋に委託するために最前線の主街区へと向かい一泊の予定で出掛けた。
だが、グリセルダは帰って来ず、嫌な予感がしたメンバーは黒鉄宮まで確認に行き、グリセルダの死亡を知った。
「死亡時刻はグリセルダさんが指輪をもって最前線の層に上がった日の夜中、1時過ぎでした。死亡原因は………《貫通継続ダメージ》」
「そんなレアアイテムをもって《圏外》に出るとは考えにく………《睡眠PK》か」
「半年前なら、手口も広まる前だし、街の
「偶然……じゃないな。グリセルダさんが狙われたのは、指輪を持っていたから。そして、その事を知っていたのは……………」
「はい、私たち7人のみです。でも、グリセルダさんが殺された時刻、誰が何をしていたのか調べませんでした。仲間を………疑いたくなかったから………でも、結局みんな疑心暗鬼になって。ギルドはそのまま崩壊しました」
ヨルコの話に、四人は何も言えずにいた。
だが、事件の真相を確かめるにはどうしても聞かねばならないので、キリトが思い切って尋ねた。
「ヨルコさん、辛いことを何度も話してもらう様で済まないんだが、教えてほしい。指輪の売却に反対した三人、それは誰だ?」
「カインズとシュミット、それから…………私です。反対した理由は二人とは違いましたけど」
「その理由、聞いてもいいか?」
「カインズとシュミットは前衛として自分で使いたいという気持ちがあったからです。私は当時、カインズと付き合っていて、彼の気持ちを優先したんです」
「そうか………それじゃあ、辛かっただろうな」
カイがふとそんな言葉を漏らした。
「いえ、カインズとはギルドが解散してから、関係は自然消滅したんです。一緒にいると、事件のことを思い出しちゃいますし。偶にあって、近況報告を少しするぐらいで、昨日も本当にご飯だけのつもりで………」
「例えそうだとしても、ギルドに居た頃、カインズとアンタが愛し合っていたのは事実だ。ショックなのは変わらないはずだ」
カイは悲しそうな表情を浮かべ、俯く。
その様子に、ミトだけでなくキリトとアスナも、そしてヨルコも不思議そうにする。
「続けて辛いことを聞くようだが、グリムロックはどういう人なんだ?」
「グリムロックさんは、ギルドのサブリーダーでグリセルダさんの旦那さんでした。いつもニコニコしていて、優しい鍛冶師だったんです。でも、グリセルダさんが殺されてから、荒んでしまって………ギルド解散後からは誰とも連絡を取ってないんです」
「そうか………何度も質問してすまない。でも、最後に一つ答えてくれ。カインズを殺したあの槍はグリムロックが作った物だった。まだ断定はできないが、グリムロックがカインズを殺す、その可能性はあると思うか?」
その質問は、カインズがグリセルダ殺しの犯人だと言ってるのも同じだった。
ヨルコは長い沈黙をし、そして頷いた。
「その可能性があるとしたら、グリムロックさんは指輪の売却に反対した私たち三人を殺すつもりなのかもしれません…………」
そこで、ヨルコへの事情聴取を終え、四人はヨルコを宿屋へと送り、カフェテリアに集まり、話し合いをすることにした。
「それにしても、ミトもお洒落とかするんだな」
カフェテリアへの移動中、カイは隣のミトにそう言った。
「なにそれ?私にお洒落は似合わないって言う遠回しな嫌味?」
「違うよ。なんて言うか。ミトってそう言うのにあまり興味なさそうな気がしてさ」
「まぁ、実際そうなんだけど。アスナが折角だから一緒に作ってもらおうって言うからさ」
そう言ってミトは困った様な笑みを浮かべる。
「なるほどね」
カイは納得し、ミトの服装をじっくりと見る。
「………ちょっと、見過ぎなんだけど」
「あ、悪い」
「…………その、どうかな?」
「え?」
「だから……この服、似合ってる?」
ミトは恥ずかしそうにカイにそう尋ねた。
「そうだな。本当なら、朝の時に言うべきだったな」
カイは申し訳なさそうに頭を掻きながら、ミトを見る。
「ああ、凄く似合ってるぞ」
「………そっか」
カイの言葉にミトは機嫌を良くし、思わず鼻歌を歌う。
「えっと………その、よく、似合ってますよ、それ」
「うー!そーゆーのはね!最初にあった時に言いなさい!」
なお、カイとミトのやり取りを見ていたキリトは、アスナの服装を褒めるも不機嫌となったアスナに怒鳴られていた。
「それで、これからどうする?」
カフェテリアに着くと、アスナがそう切り出し、キリトが考えを話した。
「取り敢えず、三つの選択肢があるな。一つはグリムロックを探してあの槍を作った理由、あるいは依頼したのは誰かを聞く。二つ目は残りの《黄金林檎》のメンバーに接触してヨルコさんの話の裏付けを取る。最後はカインズ殺害の手口の検証だ」
「なら、一つ目は無理だな。俺たち四人でグリムロックを探すのは効率が悪いし、もしグリムロックが犯人なら何処かに隠れてるだろう」
「二つ目も同じね。ヨルコさんやシュミットの反応からして、あの事件についてはできるだけ触れたくないみたいだし、仮にヨルコさんと矛盾する話を聞けたとしても、どっちが真実なのか私たちには断定できる材料がない」
「となると、三つ目の殺害の手口の検証か………知識がある奴の情報が欲しいな」
キリトがそう呟くも、それをアスナは止めた。
「でも、無暗に情報をバラ撒くのはヨルコさんに迷惑を掛けるわ」
「そうなると信頼出来て、かつSAOのシステムに詳しい人の助けがいるわね」
「そんな都合のいい奴いるわけ」
「あ」
その時、キリトが声を上げた。
「いるじゃん。信頼出来て、俺たち以上にSAOのシステムにも詳しそうで、尚且つ口の硬そうな奴が」
「誰?」
アスナに言われ、キリトがそのプレイヤーの名前を言う。
言った瞬間、アスナは眼を見開いて驚いた。
今回苦労した所は、ミトの私服をどんな感じにしようかで一番悩みました。