シュミットの出した条件に、カイとミトはどうするか悩んだ。
少なくとも、シュミットは今回の事件の犯人ではない。
それがカイとミトの出した結論だ。
だが、これはあくまでカイとミトの二人が、シュミットと会ってその反応から出した結論に過ぎない。
「もしこれでシュミットが犯人だったら、大した演技力だな」
「ヨルコさんの確認は取れたわ。向こうは会っても良いそうよ」
ヨルコから送られてきた返事のメッセージを見て、ミトが言う。
「情報を得る為にも、シュミットの条件を呑むか」
「でも、もしそれで犯人だったら………」
「互いに武器を装備させず、一定の距離を保ってもらえば大丈夫だろう。武器を装備させなければ、例え《クイックチェンジ》のスキルを使ったとしても、装備して、ソードスキルを使うのに数秒は掛かる。俺たちで見張ってれば、変なことはしないだろうし、仮にしたとしても止めることができる」
「………そうね。それじゃあ、場所はヨルコさんのいる宿屋でいいわね。まだ外に出すのは危険そうだし」
キリトとアスナと合流し、四人はシュミットを連れて、ヨルコが泊っている宿屋へと向かう。
部屋に入ると、カイとキリトは椅子を二つ用意し、念の為に椅子同士の距離を取り、互いの手が届かないようにする
そのうちの一つの椅子にヨルコを座らせ、カイは言う。
「ヨルコさん、武器は装備してないな」
「はい、言われた通り武器は仕舞いました」
「よし。それじゃあ、話し合いには俺たちも同席するから心配はいらない。安心してくれ」
そう言って、カイはキリトに合図を出す。
キリトは頷き、部屋の扉を開ける。
そして、最初にアスナが入り、次にシュミット、最後にミトが入り、部屋の扉を閉める。
「念のためにもう一度言う。話し合いはこの椅子に座って行う。互いに武器は装備せず、ストレージ内に収納。少しでも不審な動きを見せたりしたら、話し合いはそこで終了。いいな?」
「はい」
「あ、ああ」
「それじゃあ、座れシュミット」
シュミットに座ることを促し、シュミットが椅子に座る。
シュミットは扉のある北側の椅子に座り、ヨルコ窓側のある南側の椅子に座っている。
「……久しぶり、シュミット」
「あ、ああ。もう二度と会わないだろうと思ってたけどな」
二人が話し始めたのを見て、カイ達はそれぞれの位置に着く。
ヨルコのストレスにならない様にと、一番高い部屋を借りたので、部屋にプレイヤーが6人居てもそれなりの広さを確保できている。
ドアをロックした以上、ギルドメンバーやパーティーメンバー以外にはロックを解除できないが、万が一と言うこともあるのでアスナとミトは入り口の傍に立ち、カイとキリトは東側と西側の壁に寄り掛かる様に立つ。
「シュミットは今《聖竜連合》にいるんだよね。凄いね、攻略組でもトップギルドに所属するなんて」
「どういう意味だ?不自然だとでも言うのか?」
「まさか。ギルドが解散した後、私もカインズも、レベル上げに挫けて、上に行くことを諦めちゃったのに、シュミットは頑張ったんだなって。偉いよ」
「まぁ、ディアベルさんの所で鍛えてもらったからな」
怯えているシュミットとは対照的に、ヨルコは平然を装っているが、ヨルコもシュミットも気が気でないのが分かった。
シュミットは武器こそ装備してないが、防具はしっかりと着込んでいるし、ヨルコも防具は着ていないが服を着込んで、肩にはショールを掛けている。
「それより、聞きたいのはカインズの事だ!」
シュミットはヨルコに会いたいと言ったわけをここで明かした。
「どうして今になってカインズが殺される!?まさか、半年前の指輪事件、リーダーを殺して指輪を奪ったのはカインズだったのか!?」
「そんなわけない。私もカインズも、グリセルダさんのことを尊敬していた。指輪の売却に反対したのは、コルに変えて無駄遣いするより、ギルドの戦力として有効利用すべきと思ったからよ」
「俺だってそうさ、俺も売却には反対だったからな。大体、俺たち以外にも指輪を奪おうとする動機はある!売却賛成派の奴らの中に、指輪の売り上げを独占したいと思った奴もいるはずだ!」
シュミットは鎧をガシャンと音を鳴らし言う。
「それなのに、どうしてグリムロックはカインズを………!売却に反対した俺たちを殺すつもりなのか!?グリムロックは、俺たちを狙っているのか!?」
「グリムロックさんの仕業とは限らないわ。グリムロックさんに頼んで槍を作ってもらった他の賛成派の誰かの仕業かもしれないし……………もしかしたら、グリセルダさん自身の復讐なのかも」
半狂乱になり始めてるシュミットとは対照的に、ヨルコは平然と言う。
だが、その瞳には狂気の色が見えていた。
「よ、ヨルコ?お前、何を言って………」
「私、昨日寝ないで考えたの。だってそうでしょ、圏内で人を殺すなんて、そんなこと普通のプレイヤーにはできないんだもの」
そう言い、ヨルコは椅子から立ち上がる。
咄嗟にキリトがシュミットの傍に移動し、ヨルコを牽制するように、背中の剣の柄に手を掛ける。
「ヨルコさん、話し合いは椅子に座って行うって言っただろ?大人しく椅子に座ってくれ」
カイが宥める様にヨルコに近付きながら言う。
だが、ヨルコはカイの制止も聞かず、話し続ける。
「結局のところ、グリセルダさんを殺したのは、ギルメンの誰かであるのと同時に、全員なのよ。指輪がドロップした時、判断をグリセルダさんに任せるべきだったんだわ!ううん、いっそグリセルダさんが使うべきだった!だって、ギルドで一番強いのはあの人だったんだもの!なのに、私たちは自分の欲が捨てられず、それを言い出せなかった!いつかは攻略組にと言いつつも、本心は自分が強くなりたいだけだったのよ!」
よたよたと後ろ向きで歩くヨルコは、開いていた窓の窓枠に寄り掛かる様に立つ。
「でも、唯一人、グリムロックさんだけは違かった。グリムロックさんは、判断をグリセルダさんに任せてた。あの人だけは、自分の欲を捨ててギルド全体の事を考えていた。もし、グリセルダさん以外に復讐を望む人がいるなら、それはグリムロックさんよ。あの人には、私たち全員を殺す資格がある…………」
「………冗談じゃない………冗談じゃないぞ!」
とうとうシュミットも椅子から立ち上がり、叫ぶ。
「おい、シュミット!落ち着け!座るんだ!」
キリトがシュミットの身体を抑え、座らせようとする。
「なんで半年経って今更………!お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生きてきたのに、こんな訳の分からない方法で殺されて!?」
シュミットが叫んだその瞬間だった。
ドッ!
鈍い何かの音が響いた。
全員はその音が聞こえた方を見る。
それはヨルコの方から聞こえた。
ヨルコは目を見開き、口を開けていた。
そして、窓枠に手を付いた。
その時、ヨルコの背中が見えた。
全員が言葉を失った。
ヨルコの背中には、《ギルティソーン》と同じデザインの
ヨルコの身体は左右に揺れ、そのまま窓の外へと傾いた。
カイは走り出し、ヨルコの腕を掴もうとする。
だが、カイの腕はヨルコを掴むことなく、ヨルコはそのまま落下した。
「ヨルコさん!」
カイは窓から乗り出す様に、下を覗き込む。
ヨルコの身体は、石畳の上に落ち、バウンド。
そして、無数のガラスが砕け散るような音とポリゴンの欠片たちとなってヨルコの身体は爆散した。
圏内事件編も後、2、3話で終わるかと思います