ヨルコの身体が砕け散るのを見て、カイは怒りを露わにした表情で外を確認する。
開いていた窓、そしてヨルコの背中に刺さっていた
その事から、外から攻撃を仕掛けられたのは分かった。
そして、宿屋の向かい側にある建物の屋根にフーデッドローブを纏った襲撃者、プレイヤーが居た。
そのプレイヤーはカイに姿を見られると、屋根を伝って逃げ出す。
「逃がすか!」
「ちょ!カイ、待て!」
キリトが呼び止めるもカイには聞こえず、カイは一気に跳躍して向かいの屋根に飛び移る。
「くそっ!アスナ、ミト!シュミットを頼む!」
キリトは背後の二人にそう伝え、カイ同様向かいの屋根に飛び移る。
そして、襲撃者と、それを追うカイを追った。
「カイ!一旦落ち着くんだ!
「それがどうした!ようやく犯人を見つけたんだぞ!命を惜しんでる場合か!」
冷静さが欠けているカイは大声で怒鳴る。
それと同時に、襲撃者は懐からある物を出す。
それは転移結晶だった。
「転移する気か!させるかよ!」
カイは腰のベルトから投擲アイテムのピックを三本抜き、襲撃者に投げる。
しかし、カイのピックはすべてが紫色のシステムタグに阻まれ、襲撃者に当たらなかった。
キリトはせめて転移先を聞き逃さまいと聴覚を研ぎ澄ます。
だが、その瞬間、教会の鐘が鳴り、襲撃者が最低限の音量で発した声は搔き消された。
「逃がすか!」
カイは刀を抜刀し、襲撃者を背後から襲い掛かる。
が、カイの刀の刃が当たる瞬間、襲撃者は転移し、刀はそのまま襲撃者が立っていた場所に振りおろされる。
「っ…………くそっ!」
襲撃者を捕らえられなかったカイは、キリトと共に屋根を降り、宿屋まで歩いて戻った。
宿屋に着くと、キリトはヨルコの命を奪った
「キリト、そいつを俺によこせ」
「………断る」
「トバルの奴に鑑定してもらうだけだ」
「俺はまだ何も言ってないぞ」
そう言い、キリトは
「試す気なんだろ?このダガーが、本当に圏内で、それも一撃でHPを全損させるのかを」
キリトがそう言うと、カイは不機嫌そうに舌打ちをする。
「悪いが、今のカイに渡しておけない。俺が預かる」
そう言い、キリトは宿屋へと入っていく。
その後に続いて、カイも宿屋へと入る。
部屋のロックを解除し、中に入るとミトとアスナの二人は武器を構えていた。
「馬鹿っ!無茶して!」
「それで………どうだった?」
アスナから怒られ、ミトから襲撃者の事を聞かれる。
キリトは首を小さく振って答える。
「逃げられた。転移結晶で何処かの層に転移したんだ。転移場所を聞こうにも、教会の鐘の音に搔き消されて男か女かも分からない………グリムロックなら男かもしれないが………」
「違う」
シュミットが頭を抱え、顔を青ざめさせながら言う。
「グリムロックは、背が高かった………それに、あのフーデッドローブ……間違いない、アレはグリセルダの物だ。彼女は、街に行く時はいつもあんな地味な格好をしていた……指輪を売りに出たあの日も………!さっきのあれは彼女だ……はは、そうだよな、幽霊ならなんでもアリだよな。《圏内》で人を殺すのも、楽勝だよな」
乾いた笑いをし、シュミットがそう言う。
その瞬間、カイはシュミットの胸倉を掴み引き寄せる。
「おい、シュミット。今すぐ教えろ」
「な、なにを………!」
「グリムロックの行きつけの店、そう言う条件だろ」
カイの荒々しい態度にアスナは驚いた。
キリトはそんなカイを止めようとした瞬間、ミトがさきに動いた。
「ちょっとカイ!落ち着いて!」
カイの手を掴み、シュミットを解放させるとミトはカイに問い掛ける。
「ヨルコさんを殺されて、犯人も捕らえれなくて悔しい気持ちは分かるけど、今こそ冷静にならないと」
「……冷静?冷静なんかになれる訳ないだろ!」
とうとうカイはミトに向かっても怒鳴り出した。
「目の前でヨルコさんが殺されたんだぞ!カインズの時とは状況が違う!守れる位置に居たんだ!あの時、俺は誰よりもヨルコさんの近くに居た!なのに守れなかったんだ!俺は間に合わなかったんだ!」
そう言い、カイはシュミットを見る。
「早く教えろ。グリムロックの、行きつけの店を!」
怯えるシュミットは、言葉を震わせながらその店の名を言う。
店の名を聞いたカイが振り向くと、キリトが入り口の前で陣取って居た。
「何のつもりだ、キリト」
「それはこっちのセリフだ。何するつもりだ、カイ」
「店の前で張るんだよ、グリムロックが現れるまで」
「グリムロックの顔も知らないのに、どうやるんだ?」
「襲撃者を追ってる時に、それなりの距離で近付いた。背丈と体格で判断すればどうにかなる」
「その後は?プレイヤーに視線をフォーカスしても、初対面の相手じゃ名前まで分からないぞ」
「グリムロックらしき人物を見つけたら、デュエルを仕掛ける。そうすれば、名前の確認はできるだろ」
「ちょっと待って、カイ君!」
カイのやり方に、アスナが声を上げた。
「それは明らかなノーマナー行為よ!そんなことしたら君の立場が!」
「それ以外に方法なんてないだろ。いいからどけ、キリト」
「それを聞いて退くと思うのか?悪いけど、今のお前を行かせるわけにはいかない。相棒としても、友としても」
「そうか……どかないなら勝手にしろ。方法は、いくらでもあるからな」
そう言い、カイは転移結晶を取り出す。
「お前!?」
「俺は、この事件の犯人を絶対に許せないんだよ、キリト」
カイはそう言い、グリムロックの行きつけの店があると言う20層の主街区の名を言おうとした。
だが、カイは主街区の名を言わず固まった。
「………ミト、離れろ」
転移しなかったのは、ミトの所為だった。
ミトはカイに正面から、強く抱き付いていた。
転移結晶は一つに付き一人までしか転移が出来ない。
もし、転移結晶を使う時に他のプレイヤーに接触されているとエラー反応となり、使用が出来ない。
「嫌だ」
カイに離れろと言われても、ミトは離れようとしなかった。
「いいから離れろ。これじゃあ転移できない」
「嫌だ!」
今度は大きな声で拒否をした。
「ミト!いい加げ!?」
「いい加減にしろ」、そう言おうとしたカイだったが、言葉が出なかった。
何故ならカイを見上げるミトの両目からは涙が零れていた。
「ミト……どうして………」
何故ミトが泣いているのか分からないカイは、思わずそう尋ねる。
「だって………カイがまた何処かに行きそうで、私…………!」
カイに縋り付く様にして泣くミトは、話し出す。
「昨日からカイがずっと様子が変で…………そんなカイ見てたら不安が押し寄せて来て………カイがカイじゃなくなりそうだから…………!」
ミトの涙を見た時点でカイの頭の血は下がっていたが、ミトの話を聞きカイは自分が冷静でなかったことを悟り、そしてどれだけの不安をミトに与えていたのかを自覚した。
そんなカイの様子を見てキリトは「はぁ~」っと息を吐く。
「流石に泣いてる女の子相手を振り解く程、カイは悪い奴じゃないよな」
カイに近付きキリトは言う。
「なぁ、カイ。俺やアスナにはともかく、ミトには説明してやる必要があるんじゃないか?」
「……………そうだな。ミト、話すよ全部」
カイはそう言って、ミトを抱きしめる。
「俺がどうしてここまで殺人に対して冷静で居られないのか。その理由は……………あの日、お前の所に行かなかった理由にも繋がるんだ」
カイの言葉に、ミトは驚きカイを見上げる。
「キリト、アスナ。この際、お前たちにも聞いて欲しい。大切な友人として、俺の過去を」
次回、カイの過去について明かします。