「キリト、それはどういう意味だ?」
突如、《圏内事件》を実現する武器もスキルもロジックも存在しないと言い出したキリトにカイが尋ねた。
「全部説明する。とりあえず、まだるっこしいのは嫌いだから単刀直入に言う」
椅子に座り直したキリトが確信めいた目で口を開く。
「まず、カインズとヨルコさん。この二人は生きている」
キリトの口から語られた言葉に、三人は驚く。
「ちょ、ちょっと待って!」
すると、アスナが待ったを掛けた。
「でも、夕べ私たちは確かに見たわ!教会から吊るされたカインズさんが槍に貫かれて死ぬ所を!」
「それに、カインズの身体から赤いエフェクトが噴き出てた。《貫通継続ダメージ》が発生してたのは確実だろ」
「いいや、あの時、槍に貫かれていたカインズのHPは1ドットも減ってない。減っていたのは、着ていたフルプレート・アーマーの耐久値だ」
「た、耐久値ですって?」
「ああ。《圏内》ではプレイヤーのHPは減ることはない。でも、耐久値は減る。さっきのサンドイッチみたいにな」
キリトの言葉に三人はハッとする。
「そうか。フルプレート・アーマーの耐久値が無くなって爆散エフェクトと同時に転移結晶で転移する」
「そうすれば傍から見るとHPが無くなって死亡したように見える」
「転移コマンドも、教会の鐘の音と同時に言うことで誤魔化せる」
「でも待ってくれ。カインズの死はキリトとアスナで確認しただろ。《黒鉄宮》の《生命の碑》で、カインズの名前には横線が引かれていて、死亡時刻と死亡原因に間違いはないって」
「それはコイツを見てくれ」
先程の羊皮紙を取り出し、三人に見せる。
「これがどうした?」
「念のため、カインズ、ヨルコさん、グリムロック、グリセルダさんの名前も記入してもらった。俺たちがカインズの名前の綴りを教えてもらった時、綴りは《Kains》だとヨルコさんに教えられ、それを信じた。でも、カインズの本当の綴りは《Caynz》だ」
キリトが指さす名前の先には、《Caynz》とあった。
「ちょっと待って!それじゃあ、Cの方のカインズさんが偽装死亡をした時、同じタイミングでKの方のカインズさんも死んだって事!?」
「そんなの偶然にしては出来過ぎてる………まさか!」
ミトとアスナの二人が声を上げる。
「いや、それはない」
だが、それをカイが否定した。
「確かに、《生命の碑》には死亡時刻が刻まれる。でも、刻まれるのは月日だけで、何年かまでは刻まれない」
「そうだ。この世界で4月22日を迎えるのは昨日で2回目。つまり、Kの方のカインズが死んだのは昨日じゃなくて、1年前の4月22日だ」
キリトの推理によると、恐らくカインズとヨルコは《生命の碑》を訪れた時に、Kの方のカインズの死亡を知った。
最初は、偶然同じ名前の人が死んだ、話の種程度のつもりだったのかもしれないが、ある時、二人のどちらかがこの偶然を利用すれば偽装死亡を装えることに気づき、今回の事件もとい芝居を起こした。
理由は指輪事件の犯人を捜し出す為。
その結果、生み出されたのは《圏内》でもプレイヤーをPKすることのできる死神だった。
そして、恐怖に駆られて動いたのは、シュミットだった。
「多分、シュミットの事はある程度疑っていたんだろう。中堅ギルドから一気に《攻略組》最大ギルトに所属して、隊長格にまでなったんだからな。急激なレベルアップか、急激な装備の更新、それこそ最前線クラスの物が必要だ」
「そう言えばディアベルが、シュミットが最初に来た時、装備は当時の攻略組クラスの代物を持ってたって言ってたな」
「じゃあ、グリセルダさんを殺して指輪を奪ったのはシュミット?」
「それは判らない。そこまで判断するのには材料が足らなさすぎる。だけど、あの心底怯えて、ギルド本部までの護衛を頼んだ男がレッドプレイヤーとは思えない。少なくとも、何かしらの形で関与してるのは間違いないと思う」
キリトのその言葉に、3人も同感と言わんばかりに頷く。
「でも、こっからヨルコさんとカインズはどう動くのかしら?元々シュミットのことを疑っていて、今回の一軒で指輪事件に関与してるってのは二人も分かっただろうし」
「まさか………復讐したりとか………」
「いや、それはないだろう。アスナ、ミト、二人はヨルコさんとフレンド登録してただろ?フレンド登録解除のログを見てないなら、まだ登録されたままのはずだ」
キリトに言われ、二人はフレンドリストの確認をする。
「確かに登録されたままね」
「でも、どうして登録してくれたのかしら?今回は。私もミトも騙されたから気づかなかったけど、もしリストの確認でもされたりしたらすぐにでもバレるのに………」
「多分、俺たちを騙すことへの謝罪と、俺たちを信じてくれたからじゃないかな」
「俺たちが事件の真相に気づいたとしても、シュミットを誘き出す邪魔はしないって思ったのか」
「恐らくな。アスナ、今、ヨルコさんは何処にいる?」
「えっと………19層のフィールドね。主街区から少し離れた小さい丘の上」
「もし俺がシュミットの立場ならグリセルダさんの墓まで行って許しを請うと思う。恐らく、そこにグリセルダさんの墓があるんだろう。きっと今頃、カインズと二人で、シュミットが現れるのを待ってるはずだ」
「でも、もし逆のことが起きたら?シュミットが口封じのために、二人を殺そうとでもしたら………」
まだ不安の尽きないアスナがキリトにそう尋ねる。
「それも無いんじゃないかな?シュミットが事件に関与してると言っても、直接手を下すようなことはして無いと思う。それに、もし殺したりでもしたら俺たちにそのことはバレる。アイツは
結局のところ、良い様に踊らされてる4人だったが、その表情は明るかった。
「とにかく、誰も死んでないってことが分かって良かった。本当に、良かった」
カイは心底安心しきった笑みを浮かべ、胸を撫で下ろした。