キリトの推理通り、ギルド本部に送ってもらった後、シュミットは恐怖に怯えていた。
死にたくないがために構成したビルドと装備、そして数多の防御スキル。
その全てを無力化する死神に恐怖し、怯えていた。
もし、本当にグリセルダの幽霊が自分を殺しに来るのならシュミットが出来ることは一つ。
彼女の墓の前で赦しを請うことだけだった。
悩みに悩んだ結果、シュミットは時刻が22時を超える頃転移結晶を使い、19層へと転移した。
主街区を出て、20分程歩くと小さな丘へと辿り着いた。
そこには捻じれた低木があり、その下には石の墓標がある。
《黄金林檎》のリーダー、グリセルダの墓だ。
元々は樹も墓碑もデザイナーがさしたる意味もなく配置したオブジェクトだったが、グリセルダが亡くなった数日後、残った7人のメンバーで、そこをグリセルダの墓とし彼女の愛剣を埋めた。
すでに、剣の耐久値は全損し消滅しているだろうし、グリセルダの遺体がある訳でもない。
それでも、シュミットは謝罪をするならその場所しかないと思った。
墓碑を前にし、その場に跪く。
「すまない……悪かった、赦してくれグリセルダ!あんなことになるなんて思わなかったんだ!アンタが死ぬなんて………これっぽちも予想してなかったんだ!」
『ほんとうに?』
突如、奇妙なエコー掛かった女の声が聞こえる。
シュミットは恐る恐る顔を上げると、樹の陰からフーデッドローブを着た女性プレイヤーが立っているのに気づいた。
シュミットは恐怖に慄きながらも、頷く。
「本当だ!俺は何も聞かされてなかったんだ、グリセルダ!俺は……俺は言われるがままに従っただけなんだ!」
『なにをしたの?シュミット……あなたは、なにをしたの?』
「指輪の売却が決まったあの日、いつの間にか俺のベルトポートの中にメモと回廊結晶があって………アンタが泊る宿まで後をつけて、食事のために外にでも出たら部屋に入って、場所を回廊結晶に登録して、それをギルド共通ストレージに容れろとあった………俺がやったのはそれだけだったんだ!」
『誰の指示だ?』
今度は男の声が聞こえ、その男も女性プレイヤーと同じフーデッドローブを着ていた。
「ぐ、グリムロック……!お前も、死んでいたのか………!」
男をグリムロックだと思い、シュミットは更に体を震わせる。
『誰からの指示なんだ……シュミット……』
「だ、誰の指示かは知らない!俺は、グリセルダが寝てる間に、グリセルダの指を勝手に動かして、指輪をトレードするだけだと聞いてたんだ!本当に、本当だ!赦してくれ、グリセルダ、グリムロック!俺は殺しの手伝いをする気なんて、なかったんだ!」
甲高い悲鳴交じりの声を絞り出し、シュミットは額を地面に擦り付ける勢いで謝罪をする。
「全部録音したわよ、シュミット」
すると、先程のエコー掛かった声ではなく、はっきりとした女性の声が響いた。
その声に聞き覚えのあったシュミットは、顔を上げた。
そこには、フードを取ったヨルコが立ち、手には録音結晶があった。
「………ヨルコ?」
シュミットはそう呟き、ヨルコの隣にいる男性プレイヤーへと視線を移す。
男がローブを取ると、そこには見知った顔があった。
「カインズ?」
男はカインズだった。
「お前たちどうして………死んだはずじゃ………そうか、そういう事だったのか………」
二人の死が偽装されたもので、全ては指輪事件の犯人を捜すものだと理解したシュミットは、思わず安堵の息が漏れた。
騙された怒りはなく、只々二人のリーダーを想う気持ちと、犯人を捜そうとした執念に驚嘆だけ感じた。
「お前たち、そこまでリーダーの事を…………」
「シュミットだってそうだろ」
「え?」
「別にリーダーの事を憎んでた訳じゃなかった。指輪への執着はあっても、殺意まではなかった。だろ?」
カインズの言葉に、シュミットは何度も首肯する。
「本当だ、信じてくれ!」
シュミットはヨルコの持つ、録音結晶がまだ起動中なのを承知で話始める。
「俺がやったのは宿屋の、グリセルダが泊っている部屋に忍び込んで、その位置を回廊結晶に登録しただけなんだ。そりゃ、指輪の売却値段の半額を受け取って、買った武器とレア装備のお陰で《聖竜連合》の入団基準をクリアできたのは確かだけど………」
「本当に、メモの差出人に心当たりはないんだな?」
「ああ、俺とカインズ、ヨルコにグリムロック、そしてグリセルダを除いた3人の内誰かだとは思うが………あれ以来一度も連絡は取ってないし………お前たち、目星は付いてないのか?」
「他の3人も調べたけど、3人ともギルド解散後に同じ規模の中堅ギルドに入っていても、家を買ったり、装備を買った人はいなかった。いきなりステップアップしたのは貴方だけよ、シュミット」
「………なら、おかしくないか?コルを使わないなら、どうしてグリセルダを殺してまで指輪を奪ったんだ?」
シュミットは、グリセルダが殺された翌日、自身の部屋に置かれていた大量のコルが入った皮袋に罪悪感と恐怖を感じたが、コルの誘惑に勝てずオークションハウスに出品されてるレア装備を買った。
シュミットに払われた半額の残りもかなりの額なのは確かだ。
にも関わらず、それを使わずにいる。
並大抵の精神力じゃない。
「まさか……あのメモの差出人は………」
シュミットは頭を回転させ、ある一つの推測を口に出そうとした。
その所為で、背後の気配に気づかなった。
何かが肩に刺さり、刺さったと認識した直後、身体が倒れた。
「シュミット!?」
シュミットが倒れたことに、カインズとヨルコは駆け寄ろうとした。
だが、それを阻むものが居た。
「ワーン、ダーウン」
少年のような無邪気の声と共に、ナイフを持ち、頭陀袋を被った黒づくめのプレイヤーがシュミットの傍に立つ。
そして、ヨルコとカインズの傍にはボロ布を纏い、手には
そして、二人のプレイヤーカーソルはオレンジ。
その二人の事をシュミットは良く知っていた。
頭陀袋の男の名は《ジョニー・ブラック》、髑髏仮面の男は《赤目のザザ》。
殺人ギルド《
「Wow……こりゃ大物だな。《聖竜連合》の
そして最後に現れたのは、長躯を膝上までのポンチョで身を包み、フードを目深にかぶっている男、手に持つはモンスタードロップにして魔剣クラスのレア武器《
殺人ギルド《
《血盟騎士団》団長のヒースクリフと対極な魅力を秘めている、レッドプレイヤーのカリスマだ。
「さて、It`s show time……と行きたいが、どうやって遊んだもんかね」
「アレ!アレやろうよ、ヘッド!《殺し合って、生き残った奴だけ逃がしてやるぜゲーム》!」
ジョニー・ブラックが子供の様にはしゃぎながらそう言う。
「そう言って、お前この間生き残った奴も殺したじゃねぇか」
「あっー!それ言ったらゲームにならないっすよぉ、ヘッドォ!」
緊張感のない、恐ろしいやり取りにシュミットたちが戦慄する中、ザザは笑っている。
「くっ………おおおおおおお!!」
僅かな隙だった。
その隙をついて、シュミットは何とか立ち上がりザザへと突進した。
突進を食らったザザは武器を手ばさなかったものの、地面を転がる様に倒れた。
シュミットは麻痺毒でしびれる身体を何とか動かし、カインズとヨルコを庇う様に立つ。
「ほう、まさかジョニーの毒を食らって動けるとはな……」
「これでも………《聖竜連合》の
シュミットは痺れながらウィンドウを操作し、愛槍を取り出す。
「二人共………俺が時間を稼ぐ………その間に逃げろ………!」
「シュミット………!」
「お前、何言って………!」
「俺がここで死ぬのなら、それはグリセルダの殺しに加担した罰だ………!甘んじて受け入れる………だが、お前たちは違うだろ………グリセルダを殺した犯人を暴くため頑張ったお前たちを死なせたら、俺は本当にグリセルダに………リーダーに合わせる顔がない………!」
完全に麻痺毒から回復しきれてない状態に加え、《攻略組》にも劣らないステータスを持つ《
いくら《攻略組》内でも最堅固と言っても過言じゃないシュミットでも一溜りも無いのは明白だった。
シュミットは死ぬ覚悟で二人を守ろうとした。
「ヒュー、カッコいいじゃねぇか………なら、お望み通りカッコよく死なせてやるよ」
「俺が、やる」
シュミットに吹き飛ばされたザザが
「舐めた真似を、じわじわと、死ね」
言葉を区切って話す特徴的な話し方をしながら、ザザは手にした
その時だった。
シュミットに向けられた
そして、ザザの攻撃を弾いた何者かは、そのまま手にした刀でザザを斬る。
ザザは素早く
「まさか、お前が、来るとはな、《紅蓮の剣豪》」
「よぉ、《赤目のザザ》。その赤のカスタマイズ止めろって俺言わなかったっけ?」
カイは不敵な笑みを浮かべてザザに言い、殺人を平然と行うPoHたち3人に憎悪を抱きながら刀を強く握りしめて立つ。
カイとザザは仲が悪いです。
赤色同士、仲が悪いのです。