ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第27話 事件解決

「グリムロック……さん………まさか本当に………!」

 

グリムロックの登場に、ヨルコは驚きながらも問い詰めようとした。

 

だが、ヨルコよりも先にグリムロックが口を開く。

 

「違うよ、ヨルコ君。私はただ、誤解を解きたくてこの場に現れたんだ」

 

グリムロックは微笑を絶やさず、口を開く。

 

「私は武器を作った者として、《黄金林檎》の元サブリーダーとして、そして、グリセルダの夫として、事の顛末を見届ける責任と義務があると思ってこの場に来たんだ。後ろの怖い御嬢さん方の脅迫に素直に従ったのも、誤解を正したかったからさ」

 

「嘘言わないで!あなた、隠蔽(ハイディング)してたじゃない」

 

「私たちが看破(リビール)しなかったら、そのまま隠れてるつもりだったんでしょ」

 

アスナとミトに問い詰められるも、グリムロックは穏やかに言い返す。

 

「私はしがない鍛冶師だ。この通り丸腰なんだよ。その状態で、あの恐ろしい殺人者(レッド)たちの前に飛び出していけなかったからと言って責められるのかい?」

 

口調を崩さないその姿勢に、筋の通った言い分にヨルコとカインズ、シュミットはいまだに信じられないと言った表情で、グリムロックを見る。

 

そんな中、カイが前に出た。

 

「グリムロック、アンタとは初めてになるな。俺はカイ、そこにいるキリトとはコンビを組んでる《攻略組》プレイヤーだ。確かに、アンタが《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の連中に情報を流して、そこの三人の殺害を依頼した証拠はない。だが、少なくとも半年前の指輪事件。つまり、アンタの奥さんであるグリセルダさんの死に関して関与、いや、主導していたことは確実だ」

 

「アンタとグリセルダさんは結婚していてアイテムストレージは共有化されていた。彼女が死亡すると同時に、全てのアイテムはアンタの物となり、ストレージ内に入りきらない物は全てその場にドロップする。だから、ストレージ内にあるはずの指輪もアンタの物になった。アンタはその真実を誰にも話さず、その指輪を売却し、半分をシュミットに渡した。これは犯人にしかできない事だ。そして、アンタは指輪事件の犯人を捜そうとするカインズさんとヨルコさん、そして、片棒を担がせたシュミット。その三人を殺し、今度こそ事件を闇に葬ろうとした。違うか?」

 

キリトの推理を聞き、グリムロックは暫し沈黙する。

 

「ふむ、なるほど。確かに、推理として筋は通っている。でも、残念ながらその推理には一つ穴がある」

 

「何?」

 

グリムロックは反射的に問い返したキリトに、黒い笑みを見せ話す。

 

「確かに、私と彼女のストレージは共有されていたし、彼女が殺された時ストレージ内のアイテムは全て私の物となり、入りきらない物は足元にドロップした。だが、その中に例の指輪はなかったよ」

 

「なっ!?」

 

グリムロックのその返しに、キリトは声を漏らした。

 

「私の推理はこうだ。グリセルダは指輪を売却する前に、一度その指輪の力を試してみたかった。彼女は、スピード型の剣士だからね。敏捷値が20も上がるアイテムは魅力的だったはずさ。そして、彼女が殺された時、彼女はまだ指輪を付けていた。だから、私の元に指輪が来ることはなかった。どうかな、探偵君?」

 

勝ち誇った笑みを浮かべるグリムロックに対して、その主張を論破する材料を四人は持っていなかった。

 

もし、グリムロックの主張を論破できるとしたら、殺害を実行した《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のメンバーぐらい。

 

だが、連中に話をして素直に話してくれるとは到底あり得ない事だ。

 

「それでは、私は失礼するよ。グリセルダを殺した者は見つからなかったが、シュミット君の懺悔が聞けただけでも良しとしよう。きっとグリセルダの魂も、一時ではあるが安らぎを得られるだろう」

 

そう言い残し、グリムロックが去ろうとする。

 

「待て」

 

だが、そんなグリムロックをカイが止めた。

 

「まだ何か?」

 

「アンタのその主張、本当だって証拠はあるのか?」

 

「証拠と言われてもね、なんせもう半年前のことだし、何よりあの時、私は一人だった。証明しようがない」

 

「なら、アンタが嘘をついてる可能性もあるよな?」

 

「だが、私の主張に証拠がない様に、君たちの推理にも確たる証拠はない」

 

「アンタの身体に直接聞いてもいいんだぞ?」

 

カイは思わず、腰の刀の鯉口を切る。

 

グリムロックから真実を聞き出す為なら、自身が犯罪者(オレンジ)になっても構わない勢いだった。

 

「待ちなさい、グリムロック!」

 

だが、突然ヨルコが声を上げ、グリムロックはヨルコの方を向く。

 

「まだ何かあるのかな?無根拠かつ感情的な糾弾なら、遠慮してもらいたい。ここは、私にとっても神聖な場所なんだ」

 

「グリムロック、貴方こう言ったわね。リーダーが例の指輪を装備していて、装備したまま殺されたから指輪はストレージ内に無かったって。でも、それはあり得ないの」

 

ヨルコは確信を持った目でグリムロックを真っすぐに見つめる。

 

「指輪をどうするか話し合ったあの日、指輪売却反対派だった私、カインズ、シュミットは指輪はギルドの戦力に使うべきだと主張したわ。その時、カインズとシュミットは本当は自分が使いたかったけど、リーダーを立ててこう言ったわ。指輪はギルドで一番強いリーダーは使うべきだって」

 

ヨルコがそう言うと、カインズとシュミットは頷く。

 

「でも、グリセルダさんはこう言ったわ。指輪アイテムは片手に一つずつしか装備出来ない。右手にはギルドリーダーの証の印章(シギル)が、左手には結婚指輪がある。どちらも外せないから、私は使わないって。だから、グリセルダさんがどちらかを解除して、あの指輪を装備するのはあり得ないの!」

 

「あり得ない?それなら、私はこう言おう。………私が彼女を殺すなんてあり得ないとね。君のそれは、先ほど言った無根拠で感情的な糾弾だ。そんなもの、聞きたくない」

 

そう言い、グリムロックは今度こそ去ろうとする。

 

「根拠ならあるわ!」

 

層言ってヨルコはある物を取り出す。

 

「それって……《永久保存トリンケット》?」

 

取り出された小さな箱《永久保存トリンケット》とは、マスタークラスの細工師だけが製作できる《耐久値無限》の保存箱で、その中に容れた物は、耐久値の自然減少による消滅から守ってくれる。

 

「この中にはある物が入ってるわ。それは、グリセルダさんが死んだ場所で見つかった物。発見してくれた人は、偶然にもグリセルダさんの知り合いだったから、その人はギルドホームにその遺品を届けてくれたの」

 

そう言い、蓋を開け中の物を取り出す。

 

それは銀色の大型の指輪で、平らになってる天頂部にはリンゴのマークが彫られていた。

 

「1つはグリセルダさんがいつも右手の中指に嵌めていたギルドリーダーの証の印章(シギル)。彫られているのは《黄金林檎》のギルドマーク。調べればすぐ分かる。そして」

 

最後に取り出したのは、金色に輝く細身の指輪だった。

 

「グリセルダさんがいつも左手の薬指に嵌めていた結婚指輪。内側に、貴方の名前が彫ってあるわ、グリムロック。この2つが、グリセルダさんが殺された現場に落ちていたってことは、グリセルダさんは殺されたその瞬間まで両手にこれらを装備していた証拠よ!違うなら、反論してみなさい、グリムロック!」

 

ヨルコの涙交じりの絶叫に、グリムロックは何も答えなかった。

 

数秒、沈黙が続き、とうとうグリムロックが口を開いた。

 

「その指輪、確か彼女の葬式の時、君が私にどうするか聞いて来たね。あの時は、彼女の剣と共に自然に任せると答えたが…………こんなことなら、あの時欲しいと言うべきだったな」

 

そのセリフは、自身が黒幕であると明かしているも同然だった。

 

「………どうして………どうしてなの、グリムロック!どうして自分の奥さんを………そこまでして大金が欲しかったの!?」

 

「………金?金だって?」

 

ヨルコの叫びを嘲笑するように笑い、グリムロックはメニューウィンドウを操作し、ある物をオブジェクト化して取り出す。

 

それはやや大きめの皮袋だった。

 

それを地面に投げ捨てるように置き、中からチャリッと音が聞こえる。

 

それだけで、皮袋の中身が金貨だと分かった。

 

「それは。例の指輪を売却して得た代金の残り半分だ。金貨1枚分だって使ってはいない」

 

グリムロックの言葉に全員が驚く。

 

シュミットが皮袋を拾い、中身を確認する。

 

「………確かに、中身の金額は俺が渡された金額の半分程だ」

 

それにより、グリムロックが嘘をついてないことも分かり、カイ達はまずますグリムロックの動機が分からなくなった。

 

「私は………私はどうしても彼女を殺さなければいけなかった。彼女が、私の妻であるうちに」

 

グリムロックはゆっくりと語り始めた。

 

「《グリムロック》に《グリセルダ》。頭の音が同じなのは偶然ではない。その名は、SAO以前にプレイしていた様々なネットゲームで、私と彼女が使っていた名だ。そして、システム的に可能であれば私たちは夫婦になっていた。なぜなら………彼女は現実でも私の妻だったからだ」

 

現実でも夫婦。

 

その発言に、誰もが息を呑み、驚愕する。

 

「私にとって彼女は、一切の不満も無い理想的な妻だった。夫唱婦随とはまさしく彼女のためにある言葉とさえ思えた。可愛らしく、従順で一度の夫婦喧嘩すらしたことがなかった。だが、この世界に囚われて彼女は変わってしまった」

 

グリムロックは顔を左右に振り、短い溜息を吐く。

 

「強要されたデスゲームに怯え、恐れ、竦んだのは私だけだった。だが、彼女は現実世界に居た時より遥かに生き生きとし、充実した様子だった。あの彼女の何処にそんな才能が隠されていたのか、戦闘力も状況判断力も、全て私を上回っていた。そして、いつしか私の反対を押し切ってギルドを立ち上げ、仲間を募り、鍛え上げた。その様子を間近で見ていた、私はようやく認めた。私の愛した妻《ユウコ》は消えてしまった。もう永遠に戻っては来ないのだと」

 

グリムロックは体を小刻みに震わせ、囁く様に語り続ける。

 

「私の畏れが理解できるか?もし現実世界に戻った時、ユウコに離婚を切り出されたりでもしたら……その屈辱が!私には耐えることができない!ならば、この合法殺人が許されるこの世界にいる間に、ユウコが私の妻でいる間に、彼女を永遠の思い出として私の中に封じ込みたいと言う私の願いを………誰が責められると言うのだ?」

 

グリムロックの動機はあまりにも自分勝手で、歪んだ愛情の様なものだった。

 

もしかしたら、彼の考えが理解できる者もいるかもしれないが、少なくともこの場にいる誰もが理解はできなかった。

 

「ふざけるな!」

 

すると、カイが声を荒げグリムロックに詰め寄った。

 

そして、胸倉を掴み怒鳴る。

 

「そんなの、お前自身が奥さんの隠れていた一面を受け入れたくなかっただけの話だろ!何が合法殺人だ!殺人に合法も違法もねぇ!あるのは、殺人を犯す奴のエゴだけだ!」」

 

カイの叫びに、グリムロックは驚き固まっていた。

 

「自分の愛した妻は消えた?永遠に戻ってこない?その通りだよ!だがな、彼女を殺したのはSAOでも、殺人者(レッド)プレイヤーでもない!他ならないアンタ自身が、彼女を殺したんだ!」

 

カイの言葉に、僅かにグリムロックの瞳が揺れた。

 

叫び終え、静寂が辺りを覆い、カイの荒い呼吸音だけが響き渡る。

 

「カイ君」

 

その静寂を破ったのはアスナだった。

 

アスナは優しくカイの手を握り、グリムロックの胸倉から手を離させる。

 

そして、アスナはグリムロックの方を見る。

 

「グリムロックさん、私は結婚もしてないから貴方の気持ちは理解出来ません。でも、一つだけ分かることがあります」

 

アスナはグリムロックを強いまなざしで見つめ、言い放つ。

 

「貴方がグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ」

 

その言葉が決め手となり、グリムロックはその顔を絶望と喪失の感情に歪め膝をついた。

 

そんなグリムロックにカインズとシュミットが近寄る。

 

「キリト、カイ。この男の処遇、俺たちに任せてもらえないか?もちろん、私刑に掛けたりはしない。だが、必ず償いはする」

 

「ああ、任せた」

 

「……頼む」

 

カインズとシュミットはグリムロックの腕を掴み、立ち上がらせ歩かせる。

 

「アスナさん、キリトさん、それにカイさんにミトさん。本当にありがとうございました。皆さんが来て下さらなかったら、今頃私たちは殺されていました。それにグリムロックの犯罪も暴いて下さって………今回の一件で私たちは多くの人を不安にさせました。後日にはなりますが、改めて謝罪に行きます。本当に、ありがとうございます」

 

最後にヨルコがそう言って、後を追う。

 

ヨルコたちの姿が見えなくなるのと同時に、朝日が昇り始める。

 

その瞬間、カイの身体はぐらりと傾き、倒れそうになる。

 

「カイ!」

 

ミトが咄嗟に動き、カイを受け止めた。

 

「悪い……ミト、少し立ち眩みがした………」

 

「………無理もないわよ。今回の事、カイには大変だっただろうし」

 

そう言い、ミトはカイをしっかりと立たせると、肩を貸した

 

「アスナ、悪いけどカイを街の宿屋まで送って来るわ。こんな状態のままこの場所に居させるのもね」

 

「なら、俺が「そうね、それじゃあお願いね」

 

キリトが何かを言おうとするが、それをアスナが止める。

 

ミトはカイに肩を貸したままフィールドを歩き、宿屋へと向かった。

 

「悪いな、ミト。助かる」

 

「お礼はいいわよ。気にしないで」

 

カイはミトに身体を預けたまま歩く。

 

主街区に着き、近くの宿屋へ向かう。

 

「取り敢えず、今日一日は休んでなさい」

 

ミトはカイをベッドに下ろし、横にさせる。

 

「ああ、そうさせてもらうよ。少し楽になった」

 

「なにか飲み物買ってくるから、少し待ってて」

 

そう言い残し、ミトが部屋を出て行こうとした。

 

すると、カイは出て行こうとするミトの腕を掴んでいた。

 

「えっと……どうかした?」

 

「あ、いや………」

 

カイに止められたことに驚くミトだったが、カイ自身もミトを止めたことに驚いていた。

 

「(しまった、無意識に止めちまった)あのさ………今は何もいらないからさ、傍に居てくれないか?」

 

カイの口から出た言葉に、ミトは内心驚いた。

 

「眠るまでの間でいいからさ、傍に居て欲しい…………ダメか?」

 

「………いいわよ。それに、傍に居てって最初に言ったのは私なんだから」

 

ミトはカイが横になっているベッドに腰掛け、左手をカイの目を覆うように乗せる。

 

「ほら、目閉じて………おやすみ」

 

「ああ………ありがとう、おやすみ」

 

ミトにお礼を言い、カイはミトの手の下で瞼を閉じる。

 

その数秒後には、静かに寝息を立てていた。

 

そんなカイを、ミトは大切な宝物を眺める子供のような眼差しで見ていた。

 




次回はラフコフ討伐戦をやります。

仲間たちに過去を話、受け入れられるもまだ殺人に対して憎悪を持つカイがこの討伐戦でどうなるかお楽しみに
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